近年、ビジネスにおけるデータ活用が進んでいます。「ビッグデータ」「人工知能(AI)」などのデータやテクノロジーを、ビジネスのなかで活用する企業が増えています。
データ分析のスペシャリストであるデータサイエンティストのニーズがIT企業や製造業、マーケティングエージェンシーなど、さまざまな企業で高まっていると耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。担当者の主観や経験に依存せず、統計学的な手法によるデータ分析の結果に基づく経営判断が求められる時代になってきているのです。
そこで今回は、特に人事(HR)分野におけるデータ分析についてご説明します。人事データ分析の基礎知識と人事データに含まれる項目、実施する際の注意点をみていきましょう。
人事データ分析の基礎知識
まずは基礎知識として、人事領域でデータ分析を行う目的やその方法、流れについて簡単にご説明します。
人事データ分析とは
人事データ分析は、その名の通り人事関連のデータを分析することです。英語で「ピープルアナリティクス(PA)」と呼ばれることもあります。勤怠状況や人事評価、業務内容など、社内に蓄積された「人に関する情報」である人事データを分析・活用することで、企業の成長につなげることを目的としています。
紙の書類など、アナログな形で保管された人事データは分析が困難です。しかし近年では、コンピューターでの分析に適した形で、人事データのデジタル化が進んでいます。人事の領域でもIT化が進み、企業規模を問わず、膨大なデータの収集と管理が実施しやすくなったことから、人事データの分析が可能になってきました。
採用や人材育成というと、どうしても面接官である人事担当者や管理職の経験則に基づいて行われがちでした。しかし、人事データ分析が浸透したことで、データ分析から導き出された客観的な根拠に基づく取り組みができるようになったのです。人事施策に透明性が生まれるとともに、組織として説明責任を果たしやすくなりました。
データの収集や分析、活用に関する技術革新、大手企業が導入し始めたことなどをきっかけに、人事データ分析は広く注目を集めています。
人事データ分析の主な手段
データ収集や分析に「Excel」を用いる企業は少なくありません。しかし、「Excel」によるデータ分析にはマクロやVBAなど高度な技術が求められ、特定の社員しか操作できないケースも考えられます。担当者のプログラミングスキルや業務理解度に左右されることが多く、データの活用へのハードルは低くありません。
そこで近年、直感的に操作できるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入が進みました。BIツールの多くは高度なスキルを要求するものではなく、誰でも操作を覚えればスピーディーに効率的なデータ分析ができます。
アナログなデータを地道にデジタル化し、データベースを整備して、分析しやすい形にし、BIツールを導入して分析する。これが人事データ分析の主な手法になりつつあります。
人事データ分析の流れ
人事データ分析の流れは、以下の通りです。
- 課題を設定する
- 解決に向けて仮説を立てる
- データを集める
- 仮説を検証する
- 結果に解釈を加えて議論する
ビジネス用語で言うところの「PDCAサイクル」に沿って分析を進めます。いきなりデータを見るのではなく、まずは社内外の情報を集めて課題を明確にし、その要因や対策について仮説を立てることが大切です。これによって、無駄な情報収集や分析の手間を省くことができます。
既に存在するデータだけでは仮説を検証できない場合は、社員にヒアリングしたりアンケート調査を実施したりすることで、新たなデータの収集に努めます。その後データを分析して仮説が正しいか否かを検証するとともに、その結果に人間の解釈を加え、関係者の間で解決策を検討します。
▼採用課題の見つけ方については、こちらの資料もご覧ください▼
2. 人事データ分析に必要となる項目の例
分析に必要な人事データは、どのような項目を備えているべきでしょうか。ここでは、業種や業界を超えて必要と思われる代表的な項目を例示します。
基本データ
採用時に本人から提出を受けた情報のほか、入社日や、役職なども、基本データとして整理しておきましょう。属性に応じた施策を考える際などに大変便利です。
職務内容
社員が現在従事している仕事の情報はもちろん、希望している職種やキャリアにおける志向、目標設定制度がある場合はそのデータなども合わせて集めましょう。こうした情報は社員の現状把握だけではなく、人材配置を検討する際にも利用できます。
人事評価
その社員自身を周囲はどのように評価しているのかを把握する必要があります。部門長評価や360度評価などの評価制度で管理されるデータ、職務経歴、所属歴、職務能力、成果などのデータも分析には有用です。
対象となる社員の評価や客観的な成果を基にすることで、採用や人材育成の戦略を立てやすくなります。
勤務状況
「働き方改革」のための対策立案を迫られる人事担当者も多いことでしょう。そのためにも、日々の勤務時間や出勤・退勤時間、月ごとの残業時間など勤務状況に関するデータは必須です。勤怠管理システムを利用しているのであれば、勤務状況データの入手はそれほど難しくないでしょう。勤怠管理の効率化だけではなく、勤務状況の把握という観点からもシステムの導入が望まれます。
仕事に対するマインド
社員が保持している資格やスキルなどをデータ化するのも一つです。誰がどのような強みを持っているのか、一方で、どのような部分をこれから伸ばしていくべきなのかを分析できれば、社内教育や研修内容の企画などにも役立ちます。
スキル、資格
適性テストの結果や本人の希望するキャリアパス、上司や人事との面談履歴やその内容、アンケート結果など、社員の価値観や考え方、エンゲージメント(愛着心)を示すデータはできる限りそろえたいところです。
もし社員のエンゲージメントが低く、現状の働き方に不満や不安があるようであれば、人事からもサポートする必要があります。人事から社員に対するコミュニケーション次第で、離職が防止できる場合もあるでしょう。データの収集や分析は離職防止にもつながるのです。
人事データ分析を行うときのポイント
1-3 で「人事データ分析の流れ」をご紹介した通り、データ分析には手順があります。また、ポイントを押さえることで有用な分析結果が得られるでしょう。ここでは人事データ分析を行うときのポイントについて、詳しく説明します。
データ分析によって解決したい課題を設定する
データを集めてから何を分析するか考えるのではなく、課題を設定、その解決策の仮説を立ててからデータを集めるようにしましょう。データ分析・活用の目的が決まらないと不要なデータを集めてしまい、余計な工数がかかって担当者の負担になってしまいます。
人事分野におけるデータ分析の目的にはさまざまなものがあります。例として以下のようなテーマが考えられます。
- 採用コストの削減
- 優秀な人材の採用
- 適切な人材配置
- 離職率の低減
- 社員教育の内容の見直し
- 働き方の改善 など
テーマを設定するだけでも、必要となるデータの違いが理解できるでしょう。たとえば「採用コストの削減」と「離職率の低減」では、分析すべきデータは全く異なります。
蓄積するデータの基準を合わせる
人事データ分析においては、社員から新たに情報をもらうべき場合もあるでしょう。情報を集める際は、評価する人の主観が入ったり、データの質にばらつきが出たりしないようにするため、なるべく定量的なデータを集められるのが望ましいです。自由度が高いアンケートではなく、なるべく厳密に回答を想定してアンケートを作成し、情報を集めた方が分析しやすいと考えられます。
データの取り扱いに関するルールを決める
収集したデータの管理と運用ルールも重要です。社員のプライバシーに関わるデータが多いため、セキュリティ対策は必須です。社内においては必要な社員以外に閲覧権限を与えず、特定の部署が一元管理すべきでしょう。データ分析を外部に委託する際には、委託先との秘密保持契約をはじめ、データのセキュリティに配慮するなど、運用ルールを定めるようにしてください。

社内に蓄積された人事データの活用で、人材マネジメントの質を向上
毎年人事施策を続けている以上、どのような企業でも人事データが蓄積されているはずです。今回ご紹介した人事データ分析は、眠っている人事データをさまざまな施策に活用しようというものです。
テクノロジーの発達によって膨大なデータの蓄積や分析が可能になった現在では、人事データは「資産」と言ってもよいでしょう。今後企業が人材マネジメントの質を向上させるには、人事データの分析と活用が欠かせないのです。
「求人票」を見直し、自社の魅力を十分に伝える

「応募が十分に集まらない」「求める人材から応募がこない」と悩んでいませんか。
企業と求職者の最初の接点である「求人票」を見直し、求職者に自社の魅力をしっかり伝えるポイントをお伝えします。