2020年のコミック市場は推計6,126億円(出典:公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所)と過去最高の数値をたたき出しました。
さらに、ここにアニメ市場や海外市場を加えると、その規模は1兆円を超えます。
日本が世界に誇るマンガ! 今回は特に人事・採用担当者向けに厳選したマンガ5選をビジネスに役立つ目線と共にご紹介します。
※本記事で紹介している情報は、2021年8月時点のものです。

著者プロフィール齋藤 春馬氏
株式会社トレンド・プロ クリエイティブプロデューサー
マンガの楽しみ方はさまざまですが、人事・採用担当者であれば「人材育成・成長」という観点で、ビジネスにも生かすことができます。
多くのマンガで中心に据えられるのは「主人公の成長」。だからこそ、会社組織における人材育成や採用においても大いに学べることが描写されています。
大東京トイボックス ~「人材採用の課題と解決」が学べる~
作品名:大東京トイボックス(だいとうきょうといぼっくす) 【全10巻完結】
あらすじ
東京・秋葉原の弱小ゲーム制作会社「スタジオG3」で理想のゲームづくりに奮闘する姿を描く『東京トイボックス』の続編。前作では、ゲーム業界の裏話などの要素が強かったが、本作続編では、仕事そのものや人・組織へのフォーカスが強くなる。
ストーリーは、社長交代を経て、新たな体制となった「スタジオG3」に、スキルはないが情熱はある新入社員の百田モモが入社するところから始まる。百田の成長、社員同士の衝突、競合他社の画策などが繰り広げられていく。

(株式会社トレンド・プロ)
「想い」や「共感」は、スキル以上のバリューを発揮する。
新入社員の百田モモは、会社にとって「求める人材」のスキル要件を満たしていませんでした。なぜなら、当初、「即戦力のグラフィッカー」を求めていたはずの採用活動が、手違いによって、未経験のプランナー志望の百田を採用してしまったといういわば「採用ミス」だったのです。
ただし、ここで重要なのは、必ずしも「求めるスキルを持つ人材」だけが、会社にとって「必要な人材である」とは限らない点でしょう。
スキルの有無に関係なく、百田の持つ「想い」によって社内には大きな動きが生み出されます。ぜひその点に注目して読んでいただくと、採用における課題や、求める人物像・ペルソナづくりのヒントが見つかるかもしれません。
重版出来! ~「人材成長に必要なこと」が学べる~
作品名:重版出来!(じゅうはんしゅったい) 【既刊16巻】
あらすじ
けがで柔道を諦めざるを得なかった主人公の黒沢心が大手出版社「興都館(こうとかん)」に就職し、一人前の編集者を目指し、日々成長していくストーリー。
先輩編集者、漫画家、営業、書店員など、漫画家以外のいわゆる「裏方」にもフォーカスし、それぞれの仕事に対する思いや生きざまを描いている。

(株式会社トレンド・プロ)
自分の仕事の影響力を知ることが、成長のカギとなる。
作品として注目いただきたいのは、主人公の黒沢の成長が「先輩や上司からの教育・指導」をベースに描かれているわけではない点です。未経験の新入社員・黒沢だからこそのピュアな視点で、「出版社」というビジネスにおける各部署や取引先の関係性が緻密に描かれており、さまざまな人とのコミュニケーションを通じて「自分の存在価値を自問自答」しながら成長していくところが見どころです。
黒沢が配属されたマンガの編集部は、マンガが世に出るまでの「一部」にすぎません。しかし、一冊の本を出版し売るために、誰がどんな関わり方をしているのか、細部にフォーカスして描写されていることで、黒沢に感情移入しながら自分の仕事のことを振り返ることができるかもしれません。
出版や編集の仕事に限らず、どんな仕事にも言えることですが、「自分の仕事が、全体ひいては社会にどんな影響を与えているのか」――そのことに自らが気付き、プライドを持って仕事に向かうことが、人材が成長するカギであると本作は伝えているのではないでしょうか。

キングダム ~「目標設定と自己実現」が学べる~
作品名:キングダム(きんぐだむ) 【既刊62巻 】
あらすじ
紀元前3世紀、中国の春秋戦国時代を舞台に描いた中国史マンガ。戦争孤児である信(しん)という少年が、のちに秦(しん)の王となる嬴政(えいせい)と出会い、中華統一を目指すというストーリー。

(株式会社トレンド・プロ)
成長戦略における「目標」と「手段」の大切さ。
後の始皇帝となる嬴政(えいせい)や、大将軍である王騎(おうき)のリーダーシップが取りざたされることが多いのですが、今回オススメしたいのは主人公である信の成長です。信は、奴隷の身分から始まり、中華に名をとどろかす「大将軍になる」という大きな目標を持って動いていきます。
「大将軍になる」という大きな目標に進んでいくことを強く自らの心に誓う信。注目いただきたいのは、彼が「強くなるために、自分の弱さを知ろうとする」点です。今の自分に足りない部分や弱さを受け入れ、周りを頼ることを知り、ゴールへまい進していきます。
よくビジネスにおいても「手段、目標、目的を混同してはいけない」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。成長戦略においては「目的」や「目標」があり、それを達成させるために「手段」を選ぶものですが、これらがいつの間にか入れ替わってしまうことは往々にしてあることです。
目標を実現するための手段をいかに的確に選択していくか。「強さ」だけを武器にするのではなく、時に「弱さ」をも受け入れながら、目標に向けてブレることのない信は、現代においても出世街道まっしぐらではないでしょうか。

鋼の錬金術師 ~「チームづくりに大切な要素」が学べる~
作品名:鋼の錬金術師(はがねのれんきんじゅつし) 【全27巻 完結】
あらすじ
舞台は19世紀産業革命期のヨーロッパ。科学の代わりに錬金術が発達した架空の世界。禁忌(きんき)である人体錬成に手を出してしまった主人公エドワード(エド)と、弟アルフォンス(アル)のエルリック兄弟。自身らが犯した禁忌の錬成によって失ったエドの右腕と左足、アルの全身を取り戻すための方法を求め、賢者の石を手に入れるべく旅をする。

(株式会社トレンド・プロ)
リーダー不在でも個々が動く! バラバラのようでベクトルの合ったチーム。
オススメは物語の終盤。絶対に倒さなくてはならない強大な敵を目前にして、それまで敵として戦っていた強欲のグリードとエルリック兄弟はチームアップ(※)します。
※チームアップ(Team up):メンバーが加わり、チームを形成して、チームとして何かをやりとげようとすること
このチーム戦略が当たります。特に注目いただきたいのは、チームがバラバラに行動しているようにみえて、実は巧妙に連携が取れている点。利害関係と目的意識が一致すれば、立場や性格の相性を飛び越えてパフォーマンスを発揮できる様子を描いています。
社内に、敵視しあっているような人間関係や、対立している部署はないでしょうか。「部分最適」では敵対するような関係でも、「全体最適」の観点で考えてみると、実は手を組むべきパートナーであることはしばしばあること。
目標を大きく持ち、視野を広げてみると、自分の「味方」は増えていくかもしれません。

左ききのエレン ~「人員配置の重要性」が学べる~
作品名:左ききのエレン(ひだりききのえれん) 【既刊17巻】
あらすじ
類いまれなる絵の才能を持った少女・山岸エレンと、自らの才能の限界に苦しみながらもがむしゃらに働く広告代理店勤務の若手デザイナー・朝倉光一。天才と凡才。かつて高校時代に出会っていた2人の敗北や挫折を通して、本当の「自分」を探すストーリー。
※『左ききのエレン』には、原作者・かっぴーがコンテンツ配信サイト「cakes」で連載していた「原作版」と、集英社が配信するマンガアプリ「少年ジャンプ+」で連載されている「リメイク版」の2種類があります。

(株式会社トレンド・プロ)
上司が変われば、磨かれる・見いだされる部下の能力も変わっていく。
3巻では、光一が信頼を寄せていた上司・神谷が独立したため、上司が変わります。実際の職場でも、人事異動や退職による「不本意な別れ・出会い」はよくあることですよね。
神谷は兄貴肌で周囲の信頼も厚い上司。一方、新しい上司・柳は、デザインの腕は社内一であるものの、そのこだわりが強すぎるあまり、社内では風当たりが厳しい存在です。
ここで注目したいのは神谷の下で成長していた光一と、柳の下で成長していく光一に著しい違いが現れる点です。光一の適応能力の高さももちろんありますが、それだけではありません。上司によって、見いだされる個性や強みは変わるのです。言い換えれば、ある人からは「短所」と思われていた個性も、仕事で組む相手や異なる職場では「長所」にもなり得るということ。柳のもとで成長する光一の姿から、人員配置の面白さや重要性が伝わるでしょう。

さまざまな登場人物の視点で、1つの作品を読み返してみるのもオススメ
今回は私の独断と偏見を交えつつ「人材育成に役立つマンガ5選!」と題し紹介させていただきました。
主人公だけでなく、彼ら・彼女らを取り巻くサブキャラクターたちも、個性があり、魅力的なのがマンガの面白さの一つです。さまざまなキャラクターがいて、人間関係があるからこそ共感を呼び、主人公の成長やストーリーに、深みや感動を与えてくれるのでしょう。
今回ご紹介したマンガ以外にもビジネスに役立つ名作は数多くあります。
気分転換に「ただただ楽しむだけもよし!」なマンガですが、ぜひ時には、キャラクターの視点を行ったり来たりしながら、セリフや表情、シーンに込められたメッセージを読み解いてみてください。同じマンガでも、自分の立場や状況が変われば、以前は気付かなかった学びに出会えるかもしれません。

(株式会社トレンド・プロ)
「ビジネスに役立つマンガ」を見つけて、チームや部下に紹介してみるのもいいでしょう。ぜひ、この夏、あなたのお気に入りのマンガを探してみませんか。
なぜ、桃太郎はきびだんご1つでお供を増やせたのか?

人々が出会い、関わり合う社会のなかで「どのように仲間を集めるか」を、桃太郎が本資料で解説。
いつもと視点を変えて、昔話「桃太郎」から、採用力強化につながる「仲間集めの極意」を学んでみましょう。