変化の激しい時代のなか、「時代を生き抜く選択肢」として「転職」を前向きにとらえ、積極的に選択している人も増えているようです。しかし、転職に対する目的や、仕事に対する価値観は人それぞれ異なるもの。採用活動時に擦り合わせが不十分だったがために「入社後にミスマッチに気付く」ケースもあるようです。
入社後に「この会社に転職してよかった」と思われるような採用成功を目指すため、企業側は採用活動時、候補者のどのような点に注目すべきか。本記事では、転職先企業に入社したことへの満足度別に「転職満足層」と「転職不満層」の2つのグループに分け、アンケート結果の特徴や違いを紹介します。
内定を承諾するまでに要する時間が長いのは、「転職満足層」「転職不満層」どっち?
ビズリーチ会員を対象に実施した、転職先企業に入社したことへの満足度アンケートの結果をもとに「満足・どちらかといえば満足」と「不満・どちらかといえば不満」にグループを分け、前者を「転職満足層」、後者を「転職不満層」と称し、各設問をみていきます。
図1. 転職先企業に入社したことへの満足度
Q13. 転職先として、その企業に入社したことについて満足されていますか。お気持ちにあてはまるものをお選びください。
採用に成功するかどうかは、内定を出す前に決まっている!?
「転職先企業」から得た内定に対し、承諾までに要する時間はどのくらいだったのでしょうか。
ポジティブな意味で「後悔のないよう慎重に考えたうえで返事をする」という点では、転職満足層のほうが「時間を要する」可能性も考えられます。一方、ネガティブ寄りな「迷っている」という即答ができないのであれば、転職不満層のほうが「時間を要する」可能性も考えられるでしょう。
図2. 内定承諾までの期間
Q11. 企業から内定を得た後、あなたが内定を承諾するまで、どのくらいの時間を要しましたか。
アンケートの結果から、「転職満足層のほうが、内定承諾までの期間が短い」ことが読み取れます。
当日中に返答をもらうためには、そもそも「内定を出す前」の情報交換やアトラクト(魅力付け)が重要になると考えられます。1次面接、2次面接…など、それぞれの段階に実施の目的がありますが、面接やコンタクトを重ねるたびに、候補者の入社意欲が高まるようなコミュニケーション設計をすることが大切でしょう。
時間は解決してくれない。候補者の「不安」に敏感になろう
候補者の状況や性格によって、すぐには返事をもらえないケースはあります。内定を通知した際に、候補者から「考える時間が必要」と言われることがあれば、その理由を聞き、自社で解決できるものなのかを判断する必要があるでしょう。
もし、迷っている理由が自身でもうやむやなまま「他社では内定をもらえなかったが、今の会社は辞めたい…」という消極的な気持ちから、候補者が内定を承諾したとしましょう。入社後、実際に業務にあたり、他の社員と会話することで、入社前には自分でもわからなかった「ためらいの理由」が何だったかに気付くというのは、しばしばあることです。部署や社内で解決できるものであればよいですが、最悪のケースとしては、誰にも相談できないまま早期離職してしまうこともあるかもしれません。
そのような事態を回避するためにも、企業は候補者の不安を見逃さないよう心掛け、自社で支援できることを丁寧に伝える努力が大切なのです。
入社を決めた理由で、「転職満足層」と「転職不満層」で最も大きな差が出た項目は?
1位はどちらも「自分がキャリアアップ・成長できそうな業務内容や事業内容だった」
転職先としてその企業への入社を決めた理由について尋ねたところ、転職満足層・転職不満層ともに、1位は「自分がキャリアアップ・成長できそうな業務内容や事業内容だった」となりました。
次ぐ2位は、転職満足層は「自分に期待することやスカウト理由が明確だった」、転職不満層は「提示された給与やポジション等の条件が良かった」と分かれました。
図3. 転職先企業として、その企業への入社を決めた理由(TOP5)
Q12. 転職先として、その企業への入社を決めた理由について、あてはまるものを全てお選びください。
マッチングのカギは、選考段階で「入社後の自分の姿」がイメージできているかどうか
グループごとの割合を比較すると、「提示された給与やポジション等の条件が良かった」と「その他」を除く全ての項目で、転職満足層のほうが転職不満層に比べて高く、その差が最も大きかったのは「会社や組織の現状などを本音で話してくれた」となりました。
図4. 転職先企業として、その企業への入社を決めた理由(割合比較)
Q12. 転職先として、その企業への入社を決めた理由について、あてはまるものを全てお選びください。
上記以外にも転職満足層のほうが10pt以上高かった項目として「組織の風土や雰囲気の良さが伝わった(自分に合いそうだった)」「入社後の自分の業務内容や役割が明確だった」「会社のあり方、将来・ビジョンが示された(共感できた)」「全体的に対応が丁寧・真摯で印象が良かった」があげられました。
これらの結果から、転職満足層は、選考活動の段階で情報交換が盛んにできており「入社後の自分の働く姿」が、転職不満層よりもリアルにイメージできていると考えられます。

転職満足層・転職不満層が、仕事を選ぶ際に最も重視することとは?
転職不満層の1位は「収入が多いこと」
次に、「仕事を選ぶ際に重視すること」の結果をみましょう。転職満足層の1位は「自分のやりたいことができること」だったのに対し、転職不満層は「収入が多いこと」となり、1位・2位が入れ替わる結果となりました。
図5. 仕事を選ぶ際に重視すること
Q15. あなたが仕事を選ぶ際に重視するのはどのようなことでしょうか。あてはまるものを全てお選びください。
先ほど紹介した「入社を決めた理由」の傾向からも、「収入・待遇面」以外のマッチングが薄弱もしくは不明瞭である場合、入社後の不満につながることが考えられます。
収入・待遇面の条件マッチも入社後の満足度を高めるうえで大切ですが、選考プロセスを通じて候補者自身が転職後に「何をしたいのか」を明確にとらえ「自社がそれを実現できる環境であるかどうか」を伝えることが、入社後のミスマッチを防ぐうえで重要でしょう。
転職不満層の半数以上が「安定して長く続けられること」を選択
さらに、転職満足層と転職不満層で最も差が表れたのは「安定して長く続けられること」となり、転職満足層では33.5%だったのに対し、転職不満層では50.4%と半数を超えました。
転職不満層で「安定して長く続けられること」の数値が高いのは、現状(勤務先企業)に不満があることの表れかもしれません。「どうしたら、安定して長く続けられるのか?」――候補者によって異なるそのモチベーションや条件を、企業側も理解し、自社で提供できるか、フィットしそうかを見極める必要があるでしょう。
4つの転職軸の結果から読み取る、「転職先企業への期待」の違い
転職を希望する理由や、転職先企業を選ぶ際の判断基準となる「転職軸」。転職満足層と転職不満層ではこの転職軸にも異なる傾向があるのでしょうか。
図6. 4つの転職軸
Q16 あなたが転職先企業を決める際に重視するのはどの要素でしょうか。以下のなかから、最も重視する要素を1つお選びください。※アンケート内では【 】の転職軸名は非表示で提示
それぞれ1位は、転職満足層は「仕事軸」、転職不満層は「待遇軸」となりました。先ほど紹介した「仕事を選ぶ際に重視すること」同様、転職不満層は、転職先に対して待遇面の就労条件や人間関係などへの期待が高いことがうかがえます。
候補者の「やりたいこと」を引き出し、選考時から絆を深めよう
選考プロセスを通じ、候補者の「やりたいこと」を明確に引き出し、自社で実現できるか、今すぐその希望をかなえられない場合でも、どのような価値提供ならできそうかを、包み隠さず正直に伝えることがマッチング精度を高めるカギといえるでしょう。
「待遇面を重視する」こと自体は、ミスマッチを生む要因ではありません。しかし、待遇面の条件のみでは、企業とその人の関係性を構築する要素が少ないためもろく、ささいなことで不満を感じたり、やりがいを見失ったりするなど、モチベーションの低下につながる可能性が高いことが考えられます。
スキルや経験が豊富であっても自分のやりたいことが定まっていないビジネスパーソンは少なくありません。面談・面接などの選考プロセスを通じ、キャリアカウンセリングをしながら、候補者のインサイトを引き出し、自社へのフィットを見極めるスキルが、採用担当者には求められるでしょう。
アンケート概要
■調査方法:インターネットによるアンケート(会員向けメールマガジンで回答を依頼)
■調査期間:2021年1月15日~2021年1月21日
■調査対象:「ビズリーチ」(https://www.bizreach.jp/)の会員
■有効回答数:5,896名
※小数点以下第2位を四捨五入して処理しています。そのため、各数値を足した際に、合計が100%にならない場合や、小計が合致しない場合があります。
執筆・編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)
入社を決めた理由の1位は? 年代、年収帯、居住エリア別に紹介

ビズリーチでは会員向け調査を半年に1回実施し、ビジネスパーソンの転職活動の実態や価値観などの変化をまとめて、企業の皆様にお届けしています。中途採用活動の改善・計画にご活用ください。