「働くこと」に対して期待することとは?「自己の成長」から「周囲への還元」へ

「働くこと」に対して期待することとは?「自己の成長」から「周囲への還元」へ

「この会社・組織で働きたい」と感じた企業の対応の1位は? 動機付けのポイントを解説の記事では、スカウト時の「なぜ、あなたをスカウトしたのか」という理由・背景の重要性をお伝えしました。

今回の記事では、「転職」というテーマから少し視野を広げ、そもそもビズリーチ会員にとって「働くこと」に期待することは何なのか、また年代や年収帯による傾向の変化について、アンケートの結果を読み解きます。

さらに、候補者・社員に選ばれる「働きがいのある職場」を考える際に参考としていただきたい「ワーク・エンゲイジメント」という概念について、解説および調査結果を紹介します。

この記事のポイント
  • 「働くこと」に対して期待することの1位は、20代~40代は「収入を増やすこと」、50~60代は「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」
  • 転職軸別では、【人軸】【仕事軸】【待遇軸】の3つの軸は「収入を増やすこと」が1位になった。【会社軸】の1位は「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」となり、他の軸に比べて周囲への還元・貢献を重視する傾向が強い
  • 「ワーク・エンゲイジメントが高い人」とは、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしているといえる。厚生労働省の労働経済白書によると、30代以下の正社員では、年収の増加に伴い、「ワーク・エンゲイジメント・スコア」が上昇する傾向がみられたが、40代・50代以上の正社員ではこうした傾向がみられなかった
  • さまざまな「働きがい」「転職目的」があるように、ワーク・エンゲイジメントが低い企業・組織に「変革をもたらしたい」という志を持っている即戦力人材もいる。つまり、ワーク・エンゲイジメントが高いか低いかよりも、まず「ワーク・エンゲイジメントの実態をできるだけ客観的・具体的に把握すること」が重要である
  • 年代・年収帯が上がるほど、高まる「周囲への還元」

    「働くこと」に対して期待すること(全体)

    ビズリーチ会員を対象に、「働くこと」に対して期待することについて、あてはまるものを2つまで選んでもらったところ、最も多かったのは「収入を増やすこと(44.7%)」となりました。2位には「自分のスキルや経験を周囲に還元すること(29.0%)」、そして僅差で「達成感や生きがいを得ること(28.9%)」が続きました。

    図1. 「働くこと」に対して期待すること(全体)

    「働くこと」に対して期待すること(全体)

    Q20 あなたが「働くこと」に対して期待することは何でしょうか。あてはまるものを2つまでお選びください。(複数選択)

    「働くこと」に対して期待すること(年代別)

    年代別に1位をみると、20代~40代は「収入を増やすこと」、50代~60代は「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」となりました。

    高齢層ほど「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」「社会へ貢献すること」「人の役に立つこと」など「周囲へ与える」意向が高くなる傾向がみられます。一方、若年になるほど「新たな知識や技術を得ること」「キャリアアップや昇進すること」など「自分が得る」ことへの期待が高いようです。

    図2. 「働くこと」に対して期待すること(年代別)

    図2. 「働くこと」に対して期待すること(年代別)

    Q20 あなたが「働くこと」に対して期待することは何でしょうか。あてはまるものを2つまでお選びください。(複数選択)

    データでわかる即戦力人材の転職意識・仕事観

    「働くこと」に対して期待すること(年収帯別)

    年収帯別に1位をみると、1,250万円未満は「収入を増やすこと」、1,250万円以上では「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」となりました。

    年収帯が上がるほど「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」「社会へ貢献すること」をはじめ「周囲へ与える」ことが高い傾向がみられます。

    図3. 「働くこと」に対して期待すること(年収帯別)

    「働くこと」に対して期待すること(年収帯別)

    Q20 あなたが「働くこと」に対して期待することは何でしょうか。あてはまるものを2つまでお選びください。(複数選択)

    「働くこと」に対して期待すること(転職軸別)

    転職を希望する理由や、転職先企業を選ぶ際の判断基準となる「転職軸」。この転職軸別にみると、【人軸】【仕事軸】【待遇軸】の3つの軸は「収入を増やすこと」が1位になりました。特に、待遇面や就労条件を重視する【待遇軸】は約7割と顕著に高く、2位の「達成感や生きがいを得ること」と40ポイント以上の差をつけました。

    【会社軸】の1位は「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」となり、他の3軸とは異なる結果となりました。また、他の軸に比べて「社会へ貢献すること」も高く、周囲への還元・貢献を重視する傾向が強くみられます。

    また、【仕事軸】では「キャリアアップや昇進すること」が2位と高かった点も特徴的といえるでしょう。他の軸に比べて「自分のスキルや経験を周囲に還元すること」が低いことからも、自分自身の成長に対し、貪欲な姿勢がうかがえます。

    図4. 「働くこと」に対して期待すること(転職軸別)

    「働くこと」に対して期待すること(転職軸別)

    Q20 あなたが「働くこと」に対して期待することは何でしょうか。あてはまるものを2つまでお選びください。(複数選択)

    ▼「4つの転職軸」に関する解説は、こちらの記事をお読みください▼

    自社における「働きがいとは何か」具体的に語れますか?

    「転職」や「働くこと」には、人それぞれの目的や期待があり、また年代や年収帯など属性によって特徴があることが、調査結果からわかりました。しかしながら、多様化する価値観のなかで「働きがいのある職場」をひと言で定義するのは簡単なことではありません。

    そこで、「自社における働きがい」を考えるうえで、参考にしていただきたい概念として、「ワーク・エンゲイジメント」についてご紹介します。

    ワーク・エンゲイジメントに注目すべき理由

    ワーク・エンゲイジメントとは

    厚生労働省が発行した「令和元年版 労働経済白書」によると、ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、

  • 仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)
  • 仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)
  • 仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)
  • の3つがそろった状態として定義されています。

    つまり、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしている状態にあるといえます。

    さらに、社員のワーク・エンゲイジメントを高めることで、個人の働きがい向上だけでなく、「パフォーマンスの最大化による生産性向上や業績アップ」「意欲的な人材の育ちやすい組織風土」「メンタルヘルス対策」など、組織としても多方面でメリットを享受できるため、注目されています。

    図5. ワーク・エンゲイジメントの概念について

    ワーク・エンゲイジメントの概念について

    出典:厚生労働省「労働経済白書 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での『働き方』をめぐる課題について-」

    40代になると、「年収」と「ワーク・エンゲイジメント」の間に相関がなくなる?

    ビズリーチ会員へのアンケート結果からは、「働くことへの期待」は、年代や年収帯によって異なることがわかりました。「ワーク・エンゲイジメント」にはどのような違いがあるでしょうか。

    厚生労働省の労働経済白書によると、図6の上段のグラフ「(1)39歳以下の正社員」では、年収の増加に伴い、「ワーク・エンゲイジメント・スコア(※)」が上昇する傾向がみられました。しかし、中段・下段の(2)40代、(3)50代以上の正社員ではこうした傾向はみられません。

    労働経済白書では、「年収とワーク・エンゲイジメントとの関係を判断する際は、慎重なスタンスが必要であると思われる」と記述したうえで、

    近年では、収入などの外発的動機付けが、ワーク・エンゲイジメント・スコアに大きな影響を与えない可能性を示唆する研究もあり、これを前提として、今回の分析結果をみると、39歳以下の正社員では、年収の増加を通じて、仕事の中での成長実感や自己効力感の高まりによる効果を捉えている可能性も考えられるだろう。年収とワーク・エンゲイジメントとの間に相関がみられないことは、人件費の増大といった費用負担が難しい企業であっても、仕事の在り方や職場環境を改善させる様々な工夫を重ねることによって、ワーク・エンゲイジメントを改善させることができる可能性があることを示唆している。

    という考察がなされています。

    図6. 年代別にみたワーク・エンゲイジメント・スコアの概況

    年代別にみたワーク・エンゲイジメント・スコアの概況_39歳以下
    年代別にみたワーク・エンゲイジメント・スコアの概況_40代
    年代別にみたワーク・エンゲイジメント・スコアの概況_50代以上

    出典:厚生労働省「労働経済白書 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での『働き方』をめぐる課題について-」内、「第II部 第3章 第1節:ワーク・エンゲイジメントに着目した『働きがい』をめぐる現状について」

    ※ワーク・エンゲイジメント・スコアとは

    参照元の独立行政法人労働政策研究・研修機構が2019年に実施した「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」において、企業調査および正社員調査を実施。

    例えば、正社員調査では、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」(活力)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(熱意)、「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」(没頭)といった質問項目に対して、

  • いつも感じる(=6点)
  • よく感じる(=4.5点)
  • 時々感じる(=3点)
  • めったに感じない(=1.5点)
  • 全く感じない(=0点)
  • とスコアを付したうえで、「活力」「熱意」「没頭」の3項目に関する1項目当たりの平均値を算出し、ワーク・エンゲイジメント・スコアとしている。

    人手不足の企業こそ、ワーク・エンゲイジメントを重視した組織運営を

    さらに、ワーク・エンゲイジメントと定着率・離職率の関係についてみてみましょう。

    図7の左側のグラフ「(1)新入社員の定着率(入社3年後)に関するD.I.(全企業)」と「(3)従業員の離職率に関するD.I.(全企業)」をみると、新入社員の定着率(入社3年後)や従業員の定着率の低下は、ワーク・エンゲイジメント・スコアと正の相関があることがうかがえます。逆方向の因果関係(例:離職率が低下したことで、ワーク・エンゲイジメントが高まった)の可能性もありえますが、ワーク・エンゲイジメントにポジティブな影響力があることが示唆される結果といえるでしょう。

    また、右側のグラフ「新入社員の定着率(入社3年後)に関するD.I.(人手不足企業)」と「従業員の離職率に関するD.I.(人手不足企業)」をみると、人手不足企業においても同様の傾向がみられ、ワーク・エンゲイジメント・スコアが4以上の場合、人手不足企業であっても、定着率が上昇している企業や離職率が低下している企業が多くみられました。

    図7. ワーク・エンゲイジメントと定着率・離職率について

    ワーク・エンゲイジメントと定着率・離職率について

    出典:厚生労働省「労働経済白書 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での『働き方』をめぐる課題について-」内、「第Ⅱ部 第3章 第2節:『働きがい』と様々なアウトカムとの関係性について」

    自社のワーク・エンゲイジメントを測るには?

    ワーク・エンゲイジメントを測定する方法は、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale:UWES)が最も広く活用されているといわれています。

    UWESはワーク・エンゲイジメントを構成する「活力」「熱意」「没頭」の3要素に関する17問の質問に答えるだけで簡単にワーク・エンゲイジメントを測定できます。
    日本語版は、17項目版、9項目版、3項目版の3種類があります。個人ごとに全項目の平均値を出して、ワーク・エンゲイジメントの点数とすることが多いです。

    尺度は、慶應義塾大学総合政策学部島津明人研究室Webサイト(https://hp3.jp/tool/uwes)からダウンロードできます。

    ワーク・エンゲイジメントが高いか低いかだけが、採用成功のカギではない

    ワーク・エンゲイジメントが低い場合、そこに新たな人材を採用しようとしても「入社する魅力が伝わらない」「入社しても離職につながる」など、うまくいかないことは想像しやすいのではないでしょうか。しかし、実態を把握せずにやみくもに、人事部門や役員層だけで「社員のワーク・エンゲイジメントを高めよう」としても、効果的ではありません。むしろ、理想と現実の乖離が進行してしまう恐れすらあります。
    まずは既存の現場社員との対話を行って、「現状とあるべき姿を具体化し、そのギャップを把握すること」が重要でしょう。

    そして、「ワーク・エンゲイジメントが低い」からといって、「新たな人材が採用できない」というわけではないことも、理解しておきましょう。さまざまな「働きがい」「転職目的」があるように、ワーク・エンゲイジメントが低い企業・組織に「変革をもたらしたい」という志を持っている即戦力人材もいるのです。人によっては、ワーク・エンゲイジメントが「低いこと」が、その企業を選ぶ理由になり得るのです。

    つまり、こと中途採用市場においては、ワーク・エンゲイジメントが高いか低いか以上に、まず「自社・自組織の課題・実態を把握できているか否か」が重要であるといえるでしょう。

    アンケート概要
    ■調査方法:インターネットによるアンケート(会員向けメールマガジンで回答を依頼)
    ■調査期間:2020年7月15日~2020年7月21日
    ■調査対象:「ビズリーチ」(https://www.bizreach.jp/)の会員
    ■有効回答数:7,654名
    ※小数点以下第2位を四捨五入して処理しています。そのため、各数値を足した際に、合計が100%にならない場合や、小計が合致しない場合があります。

    執筆・編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)

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