JAXA採用責任者が語る、採用オンライン化への挑戦【会える人事Premiumレポート】

ロケット・衛星の打ち上げをはじめ、宇宙航空分野の研究開発をリードする、JAXA(宇宙航空研究開発機構)。昨今の採用活動では、宇宙航空分野のさらなる発展を目指し、より多様な人材採用に向けて動き出しています。

そんななか、株式会社ビズリーチでは、2020年10月22日に「JAXAの採用責任者が語る、外部人材採用とDX秘話」と題したWebセミナーを開催しました。

今回のセミナーでは、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏をモデレーターにお迎えし、JAXAで人事部人事課課長を務める松村祐介氏に、「JAXAの人材採用戦略」についてお話をお聞きしました。

松村 祐介氏

登壇者プロフィール松村 祐介氏

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 人事部 人事課 課長

航空宇宙工学修士修了後、1993年、宇宙開発事業団(当時)に入社。以降、人工衛星の設計、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の開発・運用等に従事。2017年から現職。
楠田 祐氏

モデレータープロフィール楠田 祐氏

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表

日本電気株式会社(NEC)など、東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)客員教授を7年経験した後、2017年4月、HRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2009年から6年連続で年間500社の人事部門を訪問し、人事部門の役割と人事担当者のキャリアについて研究。

JAXAの成り立ちと歴史、現在のフェーズ

前半は松村氏に「JAXAという組織の成り立ちや事業、目指していること、宇宙開発・利用における世界の動向など」についてお話をいただいています。中盤からは採用戦略や採用オンライン化の実践についても教えていただきました。

JAXAの設立は2003年。宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)の3機関を統合して誕生しました。

JAXAの発足当時は、事業の苦戦が続いており、プロジェクトの失敗が立て続けに起きていました。

そのためJAXA発足当初は「とにかくプロジェクトを成功させること」が大きな目標であり、当初の想定通りにミッションを成功させる、ロケットを安全に打ち上げて軌道上に乗せて正常に動くようにする、というようなプロジェクトの成功が何よりも優先されました。

この10年ほどでようやく、打ち上げ成功や安定的な運用が継続できるようになり、2018年には、H-IIAロケットが42回連続打ち上げに成功し(現在はさらに継続)、2019年には、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の運用が、事故なく10周年を迎えることができました。

そして現在JAXAは、次のフェーズにきています。

人工衛星やロケットは単に打ち上げることが目的ではありません。「何のためにロケットや人工衛星を打ち上げ、いかに社会に対して貢献できるのか」という、プロジェクト自体の社会的価値が非常に強く問われるフェーズにきています。こういったことを踏まえてJAXAは、以下の2つを主に目指しています。

(1)既存事業は可能な限り早く、適切な事業主体に移管していくこと
(2)社会に新たな価値を提供するという意味で「社会インフラ」の提案をしていく

(2)に関しても、最終的には事業移管することが念頭にあります。そのため立ち上げ初期から、民間企業等の事業主体と共同でプロジェクトを進めることが非常に重要だと考えています。

JAXAの事業の歴史

世界の宇宙開発ビジネスの動向

世界における宇宙開発ビジネスは、アメリカの例でいえばAmazonのジェフ・ベゾス氏やテスラのイーロン・マスク氏など、いわゆるビリオネアによる資金投入によって、宇宙開発・利用が加速しています。

輸送コストは大幅なコストダウンが実現し、ロケットの打ち上げビジネスが現実的な時代になっているのです。

民間が、地球低軌道だけでなく月や火星圏に対しても手を伸ばそうとしていたり、大規模な衛星ネットワークを構築しようとしていたり。一昔前は考えにくかったものが、ビジネスベースで進んでいる。それが世界の宇宙開発の動向です。

ただ、輸送コストが低減したとはいえ、初期投資のコストが高いチャレンジングな研究開発は引き続き、公的機関が担うべきだろうと考えています。一方で現代の宇宙開発は、技術を実証するだけでは意味がありません。「技術が何に役立つのか」「新しい価値をいかに社会に提供できるか」が重要になってきています。

日本では2018年に「宇宙活動法」が施行され、ロケットの打ち上げ許可制などが定められました。それを契機に、民間の宇宙ビジネスがますます進むと同時に、JAXAは「1人のプレーヤー」として事業を行う位置付けになりました。

これからはクリエーターやプロデューサーが必要になる

ここからはJAXAという組織や採用についてご紹介したいと思います。JAXAには、国立研究開発法人格の組織としては最大規模の約1,500名が所属しています。約8割は技術系職員で占められ、2割が事務系の職員です。

JAXAの事業分野

主な事業は、「宇宙輸送」「人工衛星利用」「宇宙環境利用」「宇宙科学・惑星探査」「航空技術研究」「基盤技術研究」の6つ。

部門(部署)は事業分野ごとに分かれ、航空宇宙系や工学系の知見を持った人材のみならず、幅広い分野に専門性を持った人材が宇宙に携わっています。

事業推進やさまざまなプロジェクト成功のためには、多様な人材の活躍が必要です。これからJAXAが必要とする人材(能力)を大きく4つのカテゴリーに分類すると以下のようになります。

(1)プロジェクトマネージャー(プロジェクトを確実に遂行する能力)
(2)研究者(民間では取り組めないチャレンジングな先端研究を行う技術力・専門能力)
(3)クリエーター(新たな事業・システムを構築する能力)
(4)プロデューサー(外部組織を巻き込み、協働する能力)

JAXAには多くのプロジェクトが存在するため、それらを確実に遂行するプロジェクトマネージャーが必要不可欠。先端研究を担う研究者も引き続き必要です。

新しい社会インフラを提供するにあたって事業・システムを構想するクリエーターや、エンドユーザーや民間の事業主体を巻き込んで協働するプロデューサー的な存在は、これからのJAXAにとって重要になってくる人材なんです。

JAXA人材ポートフォリオ

採用計画を立てるにあたっては、各専門能力別・年代別の需給ギャップを数値化したデータを参考にしています。上のグラフは、どの専門能力を持った人材が20代・30代・40代・50代のそれぞれの年代でどのくらい必要なのか(需要)を表したものです。

専門能力を持った人材が何人ずついるのか(供給)と差し引きし、需給ギャップなども割り出すことで採用計画に役立てています。

上のグラフは現時点での人材ポートフォリオ。5年後に需要がどうなるか、どのくらい採用して育成すべきなのか、ということを考えながら計画を立てています。

採用は全てオンラインで完結、現場選考でキャリア採用を強化

採用プロセスは、数年前からオンライン化を進めてきました。従来は、キャリア採用は年1回の公募。締め切りまでに書類を郵送してもらって選考、その後に対面で面接選考をするという、非常にオーソドックスなものでした。

採用のオンライン化にあたって、まずはWebエントリーを導入。2018年からは1次選考で書類選考に加え「動画選考」を導入しました。現在は面接もオンラインで実施し、1次・2次・最終の選考まですべてオンラインで完結しています。

幅広い専門スキルを対象に、キャリア採用を進めるために「現場選考」に切り替えたのも大きな変化です。従来JAXAでは、人事部が一元的に採用・選考を行っていましたが、幅広い専門能力を正確に評価する必要があるため、現場の人間に選考をお願いしています。

選考では「専門能力」と「社会人基礎力」の2つの評価軸を設けていますが、JAXAの採用は特に「専門能力」の比重が高くなります。募集するジョブポジションに近い現場の人間が選考を行うほうが、高い精度で評価できると考えています。

採用情報は、現在は主に公式サイトへの掲載のみですが、その情報の書き方も工夫しています。

たとえば、求める能力・経験の項目に「人工衛星開発経験がある方」と書いても応募できる人はかなり限られます。宇宙業界以外の人が理解できるよう、求める能力・経験として分かりやすいキーワードを文言に盛り込むようにしています。

そもそも宇宙分野の経験がある人自体が限られているため、「宇宙分野の経験を問いません」という文言をあえて盛り込むことで、できるだけ幅広い層にご応募いただけるように心がけています。

JAXAの採用に対する誤解として、大学で宇宙航空分野を学んでいなければならないのではないか、ヘッドハンティングでないと入れないのではないか、などがあります。そのような意味でJAXAは、本来非常に高い貢献をしていただけるはずの「潜在層」に対してまだリーチできていないと考えています。

今回、「ビズリーチ」上でスカウトや公募サービスなどを利用して、潜在層に対して能動的なアプローチを行うことを考えています。

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採用オンライン化のリアル

イベントの後半では、モデレーターの楠田氏を交えて、採用オンライン化のリアルや苦労した点、所感などに関するお話へ。セミナー視聴者からの質問に対しても、お答えいただきました。

楠田:今年はコロナ禍の影響もあり、動画選考を導入する企業も増えたと聞いています。JAXAでは動画選考をどのように行っていますか?

松村:用意している3〜4つの質問に対して回答する姿を応募者ご自身が撮影し、システム上で投稿をしていただくものです。

1次選考では「動画選考」と「書類選考」を行っています。1次選考から全て面接にすると現場の選考担当者のリソースがかなりかかりますし、かといって書類だけでは分からないこともある。面接と書類のいいとこ取りのような形だと考えています。

楠田:動画選考を導入した当初、何か懸念はありませんでしたか?

松村:動画選考を導入する際には、まず自分自身でテストとして撮影・投稿をしてみましたが、感触として非常にスムーズであり、不安や懸念はあまりありませんでした。まずはやってみようという感じでしたね。

動画選考のメリットは、応募者・選考担当者双方が都合の良い時間に取り組める点にもあります。動画選考はどのような観点で応募者を見たいのかによって、一度しか録画できない設定にしたり、質問を提示してからじっくり考えてもらう時間を取れたりなど、設定ができます。

楠田:Web面接の導入にあたって、苦労された点はありますか?

松村:社内には不安を感じている人もいましたね。「本当にWeb面接なんて大丈夫なのか」「ノックして入室するところから見るのが面接ではないか」といった声もありました。しかしやってみると、比較的短期間で慣れていったように感じます。

元々JAXAには国際プロジェクトが多く、以前から外国の人とテレカンファレンスをするなど、ある程度オンラインコミュニケーションの経験があったことも、比較的スムーズに導入が進んだ一因だと考えています。

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楠田:では最後にセミナー視聴者の方々から質問がきているので、お答えいただきたいと思います。中途採用も今後強化されていくかと思いますが、新卒と中途の採用方針の違いがあれば教えてください。

松村:専門能力を軸にした採用であることは共通していますが、専門分野によってキャリア採用にするべきか、新卒採用にするべきかを判断しています。

たとえば通信やネットワーク系の分野であれば、JAXA以外にも経験を磨く場が豊富にあります。一方でロケットエンジンの分野や一部の国際プロジェクトのマネジメントなど、JAXAだからこそ豊富な経験機会がある分野もあります。そのため前者に関してはキャリア採用、後者は新卒採用で育成をしていく、といった方法をとっています。

昨今では民間からもさまざまな宇宙ベンチャーが生まれています。しかしベンチャーには、新卒を採用して育成する余力がなかなかないのも実情。JAXAは宇宙航空業界全体の発展に寄与することを目指しているため、研究開発の技術だけではなく、人材の育成・供給の役割も持っていると考えています。そのためJAXA内では、宇宙航空業界内への転職はむしろ推奨しており、温かく送り出すカルチャーがあります。

JAXAの外に経験機会が豊富にある分野で、JAXAにおいて活躍頂ける分野も多く、キャリア採用で、スキル・経験を積んでいる方のなかから「子供の頃から宇宙航空分野に携わってみたかったが自分には縁がないものと思っていた。機会があれば人生で一度はトライしてみたい」という人材を積極的に採用していきたいと考えています。

執筆:佐藤 由佳、編集:立野 公彦(HRreview編集部)

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