少子高齢化、労働力人口の減少、経営環境の変化などにより、人材獲得競争はますます激化しています。人事担当者に求められる能力はより高度に、活動領域はより広範囲になっていく今、企業が人材獲得競争を勝ち抜くための採用プロフェッショナル、「プロ・リクルーター」の存在が注目されています。
本連載では、ダイレクトリクルーティングを積極的に取り入れ、「プロ・リクルーター」として活躍、実績を挙げている企業の経営者や人事担当者を表彰させていただき、人事業務に対するポリシーや取り組みを伺います。
第3回は、毎日に驚きと感動のWow!体験をお届けするショッピングモール「Wowma!(ワウマ)」を運営するKDDIコマースフォワード株式会社で、同社の立ち上げから人事を務める笹内健吾様です。

取材対象者プロフィール笹内 健吾氏
KDDIコマースフォワード株式会社 経営管理部 人材開発グループ グループリーダー
※所属・役職等は制作時点のものとなります
【受賞理由】
ディー・エヌ・エーグループが運営していたDeNAショッピング/auショッピングモールの事業を2016年12月28日より承継し、2017年1月30日より新ショッピングモール「Wowma!」を運営するKDDIコマースフォワード株式会社。同社の立ち上げのタイミングで、笹内様は人事業務未経験ながら「年間100名採用」という大きな目標に挑まれました。
営業時代に養ったPDCAサイクルのスピード感を、人事業務にも活用。細かく数字を振り返ることにより、短期間で自社の採用パターンや課題を把握されました。また、各部門・社外パートナーを「採用チームの一員」として協力関係を育み、全員に「このプロジェクト(採用)を、チームとして絶対に成功させたい」という思いを持たせる「巻き込み力」も、採用を成功に導いた重要な要素といえます。
前例のないなか、周囲の意見や情報を取り入れ、「自社に合った採用方法」を追求し続けて出された圧倒的な実績は、ダイレクトリクルーティングの持つ可能性を証明されました。
100名採用の秘策。人事未経験だからこそ作れた「自分たちらしい採用活動」
新会社設立の話を聞き、「人事をやらせてください」と自ら手を挙げたものの、私には人事業務の経験はありませんでした。とにかく周囲から意見・情報を取り込んで、そのなかで自分たちに合いそうなやり方を見つけていきました。未経験だからこそ、過去のルールややり方にとらわれることなく、ゼロから「自分たちに合う採用手法」を追求し、実行に移せたことがよかったと思っています。
各部門、社外パートナーと一丸となって取り組み続けた「チームKCF」
転籍前には、DeNAの人事で約2カ月間、徹底的に採用の基礎を教えてもらいました。人事業務に関する知識も経験もゼロだったので全てが学びでしたが、特に印象的だったのは心構えの点です。各部門とエージェントの間に入る立場として「採用担当者が、その採用案件に対し、どれだけ強く当事者意識を持てるか」が重要だと感じました。また、やりとりする情報に少しの齟齬(そご)も出ることのないよう、交わす言葉の一つ一つに細心の注意が必要であることも学びました。
しかしながら、DeNAでのOJTを終え、実際自社で採用活動をしていくと、度々わからないことに直面します。そのようなとき、経験のない私たちにはエージェントなど社外パートナーの経験・知見が必要となります。私たちはまず社外パートナーの方々に対し「皆様はこの採用チームの一員です。人材の紹介だけではなく、私たちの悩みを相談させてもらえるような存在になってください」と伝え、協力関係を築いてきました。
また、社外パートナーの方から候補者へ伝えていただく情報がよりリアルなものとなり、興味や採用につながるよう、社外パートナーの方が当社の社長や部門担当者と直接会う機会を設けるなどして、私たちの会社がどのような会社であるかの理解を深めていただくことにつなげています。当社で採用決定することが社外パートナーの方々にとってもうれしいことであるよう、社内外を問わず採用に関わる人々を「チームKCF(KDDI Commerce Forward)」と呼び、一丸となって取り組んでおります。
営業経験を生かした「高速PDCA」
立ち上げの1年間は営業出身の私と、営業およびクリエーティブ出身の2名体制でした。人事業務経験がない2人でも、大きな成果を生み出すことができたのは、数字に対する意識の高さやPDCAサイクルなど、営業の業務で養ってきた感覚が大きいかもしれません。営業も採用も、目標達成のために逆算して何をいつまでにどれくらい行っていけばいいかを考え、素早く改善活動を重ねていくことが、成功につながるのではないでしょうか。
KPIは設定していませんが、数字は適宜振り返るようにしています。振り返りを常に意識しているうちに、数字そのものは肌感覚として感じられるようになってきたと思います。それによって状況の変化にいち早く気付けるようになり、素早く対策を打つことができるようになりました。
人事制度が会社の数だけあるように、採用もそれぞれのやり方があると考えています。正解がないのであれば、「自社に合ったやり方」は何かを追求するしかありません。自社の魅力は何か、それを伝えるにはどんな方法が最も効果的かを考え続け、行動につなげています。
人事だけではなく、会社全体が「採用にコミット」
弊社は、社長自ら「採用は最優先事項」と宣言しています。採用面接が入れば、部門側は当然のこと、社長のスケジュールも調整できます。そのため、人事は安心して攻めの日程調整が行えます。経営、部門側が採用に対してとても協力的であることに、本当に感謝しています。
また、先ほど「自社の魅力は何か」と話しましたが、弊社の場合、第一に出てくるのは「ヒト」です。面接のなかで社員の魅力を候補者の方にいかに感じてもらえるかがキーになるということを各部門の面接官にも伝え、思いを受け継いでもらっています。
そして、会社設立のタイミングで行われた社内表彰では個人としてMVPに選んでもらい、翌年の4月には採用チームとしても表彰してもらいました。その後も採用チームや私個人としても受賞するなど、全社のなかで人事がスポットライトを浴びるチャンスを会社が与えてくれました。このことは、モチベーションを上げる大きな要因となっていますし、ヒトを大切にする当社ならではと感じています。「会社が大切だと思っていることを、自分が体現する」という意識をさらに強く持って、採用活動に取り組んでいます。

人事の心構えは 「リスペクト」 「感謝」 「事業目線」
俯瞰(ふかん)すると見える「リスペクト」と「感謝」の相手
前職では銀行で営業をしていました。一件受注をすると、膨大な量の事務作業が発生するのですが、それを支えてくれていたのが、事務の方々です。逆に言うと、自分がどんなに一生懸命頑張って受注をしても、その方々が事務処理をしてくれないと、仕事を進めることができません。自分の仕事が自分一人だけで成り立つものではない、ということを強く感じていました。この経験が、他者に対して「リスペクト」と「感謝」をするきっかけになったのかもしれません。
人事の仕事は営業時代以上に、社内外のさまざまな人々が関わると感じています。加えて、立場的に自分で意思決定できないことも多々ありますし、調整に苦しむことも少なくありません。人事の仕事は自分一人だけでは何もできないからこそ、人事が部門側にとって何か特別な存在にはならないよう注意しています。
また、各部門、候補者、紹介してくれる社外パートナーの方々、全員で一つのプロジェクトをやっている感覚を持っています。協力してくれる全ての方に対し「リスペクト」と「感謝」は欠かせないですし、そのことがストレートに結果に返ってくるように思います。
意識することを心掛けているのが「事業目線」
「リスペクト」と「感謝」に加えて、特に意識するように心掛けているのが「事業目線」です。採用を通じ、さまざまな人と関わりを持つことで得た情報を、「人事目線」と「事業目線」の双方から整理し、優先すべき事項は何かを考えるようにしています。
弊社の社長と私とは、年齢が約20歳違いますが、会話のなかでは、常に「笹内はどう思うか」と、対等に意見を求めてくれます。だからこそ、「社長に言われたこと」「事業部が求めていること」をただ進めるのではなく、それぞれのその言葉の真意を自分のなかでかみ砕き、人事の立場から「事業を進めるために最善な策は何か」を考えるようになりました。
そのような動きができるのも、社長が採用の部分について一任してくれたからですし、各部門も事業を進めるにおいて「ヒト」が非常に重要であると理解してくれているからだと思います。

部門側が「最高の意思決定」をできるよう、人事として最善を尽くす
人事業務未経験の2人が1年間で100人以上採用できたというのは、周囲の協力があったことと、そして、新会社設立のタイミングならではの経験でしょう。100名以上というと、大量採用のように聞こえるかもしれませんが、もちろん妥協はありません。
そして今は、急速にメンバーが増え、課題の難度がさらに上がっていく各部門、各チームに対し、それぞれに適切な提案・解決方法が求められています。人事も担当人数を増やしながら、採用だけではなく制度開発や育成など、取り組む領域を拡大しています。
目まぐるしい変化のなかで、今、何を優先すべきなのか。正解がないからこそ、日々のさまざまな人とのコミュニケーション一つ一つが糧になっています。個人の判断は、常に正しいとは限りません。だからこそ自分一人で決めないようにしています。「会社として決める」という意識を持ちながら、仕事をしています。先ほども「チームKCFとして一丸となって取り組む」という話をしましたが、「人事はどの部門とも近い、対等な存在でいたい」と考えています。
人事とは、部門側が会社にとって最高の意思決定をするために、必要なヒト・情報・場を準備する、そんな立場だと思います。今はまだ立ち上がったばかりで日々の変化について行くことに精いっぱいですが、今後は人事が先回りをして部門側が意思決定に必要としているものを提供していき、事業の成長に貢献していきたいです。

右から、KDDIコマースフォワード株式会社 経営管理部 人材開発グループ グループリーダー 笹内 健吾様、株式会社ビズリーチ 執行役員 ビズリーチ事業本部長 酒井哲也
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