さくらインターネット株式会社様が社員の働き方に関係する人事施策をパッケージ化した「さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)」を行い始めて、約2年がたちました。このパッケージは、会社に縛られず広いキャリアを形成(Business)しながら、プライベートも充実させ(Life)、その両方で得た知識や経験をもって共創(Co-Creation)へつなげることを目指すものです。
「さぶりこ」が生まれた背景や考え方、また運用後の社員の変化などについて、さくらインターネット社長の田中様と人事矢部様・広報渋谷様へのインタビューを実施しました。第1回は、社長インタビュー(前編)です。
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働き方改革は「手段」であり、それが「目的化」してはならない
――「働き方改革」が世の中で叫ばれており、さまざまな企業で制度やルールの見直しなどが行われております。田中社長のTwitterのコメントが多くの賛同を得ましたが(図1)、田中社長は現在の「働き方改革ブーム」について、どのように感じられますか。
田中社長:そうですね。「働き方改革疲れ」という言葉も耳にしますし、「早く帰れる」ではなく「早く帰らなくてはならない」といった状況になっているのが気にかかります。
本来は働く側にとってもメリットのある取り組みのはずが、「こうしなくてはならない」といった強制や押し付けになっているのは、あまりよいことではないと思います。単に早く帰ることだけにフォーカスするのはあまり意味がないのではないでしょうか。
【図1】田中社長のツイート(2018年4月22日投稿)
「若い時の長時間労働で自分は成長した」と信じて疑わなかった私ですが、昨年1ヶ月丸々休み、日々余白時間を作り、日7時間以上寝た結果、長時間労働に利点など無く、むしろ判断力を低下させ周囲に悪影響を与えると実感した。長時間働きハイになり周囲にも肯定的に強いる訳だから、正常な判断力な訳ない
— 田中邦裕 (@kunihirotanaka) April 21, 2018
私のツイートが多く引用されましたが、重要なのは「社長が1カ月休んだ」ということではなく、「経営者の考え方が変わった」という点です。「若いころは24時間働いていた」という経験の持ち主が、ひそかに「長時間働くことが大事だ」というマインドを持ち続けているにも関わらず、世間が働き方改革と騒いでいるから「早く帰れ」と形式的に言っても、社員のモチベーションは上がらないわけです。
働き方改革は手段であり、それが目的化してはならない。今のこの風潮は、あまりよいものではないと思いますね。
ただ、「長く働いているとハイになる」ということは事実としてあります。長時間労働がモチベーションを上げる方法のひとつとして、日本にはまだまだ根強く存在しています。そして、このことは「モチベーションが上がる」という個人の動機と、「長時間働かせたい」と思う会社の思惑とがマッチしてしまうんですよね。
「長時間働く」こと自体がおかしいのだけれども、「長時間働くことをおかしいと思わなくなる」という状態になってしまう。「24時間働いて終電でも帰れない。でもアットホームな雰囲気で、チームでワイワイやっている」なんて言うといかにもいわゆるブラック企業みたいですけど、それが楽しいという事実もあります。
でも、睡眠をとらなければ発想も狭くなってしまいます。やはり「長時間働く」ことはよくない。基本的には、働く時間が短くても、働きがいを感じられるようにする必要があります。
「使うことができる」のと「使うことが前提」の制度では大違い
――先日(2018年6月18日)大阪で発生した地震の際に、さくらインターネットの大阪本社では出社された社員が1割程度だったとうかがいました。
田中社長:個人の判断で出社しなかった社員と、交通機関がまひして出社できなかった社員がいて、後者が多かったと考えています。とはいえ、「さぶりこ」を行うことによって、家でも作業ができるように日ごろからテレワークの準備をしていたことが、出社しなくても大きな問題が起きないという結果につながったと考えています。
大阪の地震の際は、人々が災害時でも出社しようとする姿を報道などで見て、否定的な意見も一部にありました。しかし、必ず出社しなければいけない方や、責任感を持って出社する方もいます。この方々の努力を否定してはいけません。われわれのデータセンターも三交代制で常に人がいる必要がある運用を行っています。夜間であってもサーバーは落ちたら困りますし、災害時こそサーバーが命となります。
つまり、みんなが出社しなくてもいいような環境を維持しているのは、インフラを支えてくれる人が頑張ってくれているから、という事実も認識すべきです。
ただし今後は、出社しなくても維持できるような体制を組まなくてはならないと今回の地震でより強く感じました。
――とはいえ、自主的に出社するか否かを判断できた社員がいるというのは「さぶりこ」の効果ではないでしょうか。
田中社長:よく働き方改革推進に必要なこととして制度・風土・テクノロジーが挙げられますが、制度だけ制定してもそれを使えるかどうかは別問題です。「使うことができる」のと「使うことが前提」というのは大違いですよね。
いまどき、テレワークできる会社は多いはずですが、テレワークが前提になっている会社はまだ多くありません。他にも、「男性でも育休を取れますよ」という会社もよく聞きますが、当社は男性も育休を取得するのを前提に考えています。制度を使うことが前提となるよう、人も現場も風土を変えていかなくてはならない。「出社はできるけれども在宅もできる」「在宅が前提」という考え方が必要なご時世なんだなと思いますね。
【図2】さくらインターネットの育休取得率および育休後の復帰率
会社も社員も「中長期目線」で利害を考えるべき
――ここまでは「働きやすさ」の制度・環境を整えてこられたというお話でしたが、社員の「働きがい」についてなにか取り組まれていることはありますか。
田中社長:基本的にはみなさん非常にモチベーション高く働いてもらっています。しかし、世の中で「働き方改革」と騒がれていろいろ施策をされていますけども、当社はそのようなことをしているわけではありません。
どういうことかというと、社員を一律で早く帰らせるような施策もしていませんし、有給休暇を無理やり取得するように推奨もしていません。どちらかと言うと、「社員を信頼している」という前提で、社員の自立性に任せています。
ただ、この弊害として、頑張る人は他の人の分をついフォローして結果長く働いているというのはありますね。最近では、全経営陣挙げて、特定の人に仕事が集中している状況を解消していこうという運用を始めています。経営課題として率先して解決していくことが望まれていると感じますね。
さくらインターネット株式会社 田中邦裕社長
――できる人に仕事が集中する。また、その仕事が属人化してしまうという話はよく聞きますね。
田中社長:仕事が集中してしまう人も頼られていることにやりがいを持っているでしょうし、会社としてもその人に任せておいた方が楽です。つまり互いの利害が一致してしまっているんでしょうね。
でも、中長期的な利害を考えると、仕事が集中してしまっている人が休めなくなるというのはよくないことですし、会社としてもさまざまな社員に仕事を経験してもらった方が成長につながります。つまり、目の前の利害ではなく、中長期の利害で一致させないと、会社は長くは続かないわけですよね。そういった社員に対しては、経営層がきちんと対話し、状況の改善に努めています。
――貴社では、普段はエンジニアとして東京で勤務をする傍ら、農繁期には実家のある田舎に帰りテレワークを行うなど「ワーク・ライフ・バランス」の「ライフ」も大切にしている社員がいらっしゃるとうかがいました。
採用において、「ワーク」を優先に考えている人が有利、逆に言うと「ライフ」を重視する人は敬遠されることもありますが、その点についてはどのように考えていらっしゃいますか。
田中社長:個人が「ライフ」を重視するかしないかは、会社にとって関係ないことです。「ライフ」を重視するがあまりに仕事をさぼる人はよくないと思いますが、「ライフ」を重視しながらきちんと「ワーク」にも向き合っている人は問題ないですよね。
つまり、「ライフ」が充実したから「ワーク」がおろそかになるかと言えば、それは関係ないのですよね。強いて言うならば、「ライフ」においてなにか問題を抱えていると、「ワーク」のパフォーマンスが下がる可能性は高いでしょう。ですから、「ライフ」は健全でいてほしいなと思いますね。
【図3】2018年7月2日にリリースした「さぶりこ Xターン(クロスターン)」
さくらインターネットでは、社員がより働きやすい環境で勤務できるよう、新たに「さぶりこ Xターン(クロスターン)」を開始した。本制度では東京勤務の社員(※1)を対象に、東京から他拠点へ自由な転勤(※2)を認め、単身者は100万円、家族帯同者は130万円の転居などのための費用を支給する制度である。東京への一極集中の流れが問題視され地方産業の活発化が求められている昨今の情勢をうけ、Uターン、Iターン、Vターンなど、さまざまな「ターン」を支援したいという思いを込めて「Xターン」と名付けられた。
※1 転勤日時点で勤続6カ月以上の正社員・嘱託社員が対象
※2 大阪・石狩・福岡間の転勤や、各拠点から東京への転勤は対象外
経営者自身が変わり、リーダーシップを発揮しなければうまくいかない
――従来の働き方に慣れてしまったわれわれの「一般的な働き方」という思い込みを、田中社長はあっさりと切り捨て、シンプルなお考えを「さぶりこ」などの施策に生かされているように思いました。
田中社長:「自分のやり方はこうだ」「昔はこうだった」と主張する経営者も多いのではないでしょうか。また、同じような考えの人たちといつも一緒にいると、思考は偏ってしまいます。その一方で、経営者がやりたいようにやっていない企業もたくさんあるでしょう。
大企業の経営者も自分の考えはすごくお持ちなのに、会社のなかでその考えを通すのは難しいものです。でも経営者が会社を変えなくて誰が変えるのでしょうか。経営者自身が変わらないと、働き方改革はうまくいかないだろうと思いますね。
――田中社長の働き方に対する考え方は、どのように生み出されたのでしょうか。
田中社長:この4、5年でさまざまな方と会い、価値観が変わってきました。HR関係で有名な社長さんたちにお会いし、お互いに影響を与えながらアイデアを取り入れてきました。あとは、これは人事側からの働きかけなのですが、人事といろいろな話をするようになりました。役員を集めてワークショップをするなかで、経営陣も人事施策が重要だと理解しましたね。
自分たちの働き方が改善できないことについて、「“人が採れないこと”を言い訳にしてはいけない」と、現場に押し付ける経営者も多いと思います。その一方で、新規事業ができないことや事業拡大ができないことに対して、その理由を“人が採れないこと”と言っている経営者も多いんですよね。
経営者が目標を立てて「リソース不足でできません」というのはどの会社でも聞くんですが、そうなるともはや“人が採れないこと”というのは経営課題ですよね。そこで「人材の採用を最優先の経営課題にしよう」という取り組みをここ数年でしてきました。
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