【第2回】押し付けの「働き方改革」ではなく、個人が選べる「働き方改革」へ(田中社長インタビュー 後編)

【第2回】押し付けの「働き方改革」ではなく、個人が選べる「働き方改革」へ(田中社長インタビュー 後編)

さくらインターネット株式会社様が社員の働き方に関係する人事施策をパッケージ化した「さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)」が生まれた背景や考え方、また運用後の社員の変化などについて、さくらインターネット社長の田中様と人事矢部様・広報渋谷様へのインタビューを実施しました。
第2回は、田中社長インタビュー(後編)です。

一番よくないのは「“全員が不満な状態”で平等になる」こと

――働き方改革に関する施策を行うことで、メリットを受ける人もいれば、逆にそのしわ寄せを受けるような人もいて、社内で不公平感が生まれてしまうという話を聞くこともあります。この点は、どのように対処されているのでしょうか。

田中社長:「こうしたら、あの人がこういう不平を言うんじゃないかな」など、やる前から気にする人が多い印象です。施策によって生まれる「問題」にフォーカスしがちですが、それによる「便益」、「社員にどんなメリットがあるか」ということを考え抜き、伝える方が重要ではないでしょうか。

まずはポジティブな部分にフォーカスして施策を打つ。それでも発生するような課題に対してはしっかり対策をしていく。そのセットだと思うんですね。例えば「みんなで早く帰る方がいいから」と施策を打っても、長く残って仕事をしたい人もいるかもしれません。そういった人は、早く帰ることに不満を持つ可能性がありますので、個別でしっかり対策を考えていくことが必要でしょう。ただ、不満が生じた場合の対策を考えるのは重要ですが、最初から問題が起きないようにあれこれ制約をつけて施策を練り、「結局実行できなかった」で終わると、みんな不満で終わるんですよね。一番よくないのは「“全員が不満な状態”で平等になる」ことだと思います。

人はみな状況や考え方が異なるわけですから、どれだけ平等を考えても、不平等にはなるわけです。例えば、子育て世代、介護世代だけをやたら優遇すると、それ以外の人は不満を持つこともあるでしょう。「多様性」と言って、マイノリティーばかりにフォーカスしてマジョリティーが働きにくくなってはいけません。ただし、マイノリティーの人が損をするような世の中であってもいけません。つまりは、施策により働きやすくなる人がいても、代わりに他の人が働きにくくなったら意味がないわけです。「誰もが働きやすくなる」ということが、働き方改革の施策を考えるうえで大切だと思います。

【図1】さくらインターネット 2017年3月31日プレスリリース(一部)

さくらインターネット 2017年3月31日プレスリリース(一部)

柔軟な働き方や多様性を尊重する施策を推進するなかで、2017年4月1日より、テレワークの拡大と多様な価値観を尊重するための人事規定を改定。これにより、勤務地や勤務時間がより自由に選択できるようになったことに加え、事実婚をしている社員や同性パートナーのいる社員に対しても、婚姻関係にある社員と同様の規定を適用した。

社内の情報共有・公開の変化により、上司の役割が変わってきている

田中社長:日々の業務についてはメンバーであっても自立して取り組んでほしい、つまり上司から指示されるものではないと考えています。しかしながら、上司も部下に対し、「コミット」よりも「従属」を求めるケースが多いのではないでしょうか。上司は部下に対し「自分のやらせたいこと」をブレークダウンして作業ベースで伝えるのではなく、上司自身がやりたいこと・ビジョンを明確に伝えたうえで、「何のために今この業務をやっているのか」を部下に理解させる必要があると思います。

最近は「労働時間のシェア」についてよく考えるのですが、「社員の副業」について言えば、「余った時間」で副業を行うのではなく、「個人が所有する24時間365日のなかで、コミットした目標のための時間は会社にもシェアする」という、シェア前提の社会だといいと思うのです。

上司は本来、「部下の時間をシェアされている」と考えるべきなのですが、つい「自分のリソース」と考えてしまうんですよね。これからは、「いかに部下を自分の思うように動かすか」ではなく、「その人の能力をいかに発揮させるか」といった本質的なマネジメントが求められます。

弊社では、毎月、リーダーやマネージャーなど役職者向けにスピーチをする場を設けているのですが、そこで私が話した内容を文字に起こして、Slackや社内イントラなどから全社員が閲覧できるようにしています。そうすると、私が役職者に話をして、役職者が社員に話をする、という必要がなくなるわけですね。以前は、「社長はこう言っているのに、上司は違うことを言う」といったことが全くないとは言えませんでした。社内の情報伝達フローのなかでうやむやにされてきたものも、今は全社員が直接取得できるようになったことで、上司の役割が変わってきていると感じます。

――今までの古い考えだと、上司は情報をコントロールすることで、その地位や権限を維持できていた部分がありました。あらゆる社員が欲しい情報をすぐ取得できる、という組織になっていくなかで、上司に求められるものは変わっていきますね。

田中社長:弊社は経費も公開情報ですので、社長が使った交際接待費も旅費も全て、全社員が見ることができます。

――情報がオープンになっていることによって、信頼が形成されているように感じています。

田中社長:しかしながら、オープンであることは、人によっては居心地が悪い場合もあります。「隅っこ」や「壁」がある方が、居心地がよくて、人によっては生産性が上がるという話もあります。ただ、そのようにして個人の生産性が上がるとしても、チームとしての生産性や会社の生産性向上を考えると、やはりオープンな方がいいのです。そういった意味で、「壁」を作らないというのはメッセージとして明確に伝えています。

安心感を担保しながら、責任を果たせる組織へ

――この先、どのような会社を目指されますか。

田中社長:まず一つめは、「信頼」を重視しようと思います。信頼感があって、安心できる職場であることは非常に重要だと思います。そして二つめは「責任」。責任を持って任せる、そして、責任をきちんと果たすことです。

「安心できる職場で、大きな責任を持つ」というのは、非常に大きな成果を出せる会社だと思いますが、「安心できる職場だけど、責任は持たない」というのは単にぬるい会社です。一人一人は努力していてもど、結局のところ雰囲気としてはぬるくなってしまうことがあります。だからといって、「責任だけ押し付けて、安心できない職場」というのも違うと思います。安心感をきちんと担保しながら、責任を果たせる組織になると、会社はすごく変わると思いますね。

弊社は社員全員に対し、「責任を果たす」ということと、そして「安心感はしっかりと追求する」、この二つのポイントを明確なメッセージとして伝えていますし、おそらく10年後、20年後はそうなっていると思います。正しく広がっていけば、1,000人だろうが1万人だろうが、社員の人数は関係ないと思いますし、逆に責任を持っていない人がいる組織は100人だろうが50人だろうが、問題です。会社は成果を出すところです。業績が下がってくれば、働きやすさも削らざるを得ません。「ぬるい雰囲気」から、実際に「会社が崩壊する」まで、数年のギャップがありますから、そこは非常に危機感を持って見ています。

「風土」を作るためには、経営者や上司が変わるのが一番

――読者のみなさんへのメッセージをいただけますでしょうか。

田中社長:「働き方改革」と言いながら、「とはいえ、うちは〇〇だから」「昔は〇〇したものだ」と言っている経営者や上司がまだいたら、考えを改める努力をしないといけないと思います。制度ができても、上司や経営者がそれを活用していなかったら絶対に浸透するわけがないからです。先ほども申し上げましたが、「使うことができる」のと「使うことが前提」の制度では大違いです。

例えば「早く帰らなかった人にはペナルティーを加えるような制度を作ったら、みんな残業せずに帰るようになった」としても、実は社員のモチベーションが下がっていれば、おそらくそのうち業績も下がりますね。「制度」を作っただけではうまくいきません。そこで「風土」を作るためには、経営者や上司が変わるのが一番だと思います。「さくらインターネットだからできるんだ」と言われるかもしれませんが、どの会社でもやろうと思えばできることです。また、一社員が頑張ってもなかなかできるものではありません。経営者や上司が自ら働きかけをしていかないと変わらないものだと思います。

そして、社員にとって重要なことは「いつでも転職できるような状態に、自分を高めておくこと」だと思いますね。いつでも転職できるようにしたうえで、今いる会社が良ければ、その会社で働き続ければいいだけです。会社にとって怖いのは先ほどの「ぬるい職場」で「会社は気にくわないが、居心地がいいからい続けよう」という社員が増えることです。先ほど「ぬるい雰囲気」から、実際に「会社が崩壊する」まで、数年のギャップがあると話しましたが、恐ろしいのは、そのような状況になると会社はなりふり構わずリストラすることです。ですから、「その会社でしか働けない状態」に慣らされないよう、転職できる人材に自分自身を鍛えておく必要があると思います。

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