2023年4月20日、株式会社ビズリーチは「新規事業創出に向けた日東電工の人事戦略」と題したWebセミナーを開催しました。
日東電工株式会社執行役員の村上奈穗氏に日東電工の採用戦略の全体像や新規事業に必要な人財採用と社内育成について、具体的なメソッドを含めてお話しいただきました。

登壇者プロフィール村上 奈穗氏
日東電工株式会社 執行役員 全社技術部門新規事業本部長
その後、開発課長、開発部長を経て、2016年に新規事業創出を目指す部隊を立ち上げる。社内外の人財を巻き込んで、従来の日東電工では発想できなかったテーマを創出し、責任者として事業化を推進。2022年より現職。

モデレータープロフィール茂野 明彦氏
株式会社ビズリーチ ビジネスマーケティング部 プロデューサー
2016年、株式会社ビズリーチに入社後、インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在は各種イベントなどをプロデュースしている。著書に「インサイドセールス-訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド-(翔泳社)」がある。
テープの技術から、自動車、住宅、家電・電子機器など広範に事業を展開
日東電工は1918年に設立、グループ全体で約3万人の社員を抱える高機能材料メーカーです。2022年3月期(※)は、売上高8,534億円、営業利益1,322億円、当期利益972億円と、過去最高益を達成しました。大阪・梅田を本社とし、28の国と地域でグローバルに事業を展開しており、業績の8割が海外売り上げとなっています。
※2023年3月期は、売上高9,290億円、営業利益1,471億円、当期利益1,093億円

当初はテープメーカーとして、包装材料や保護フィルム、住宅用、自動車用など、さまざまな領域にテープを提供。その後は多軸経営を行い、現在の主軸はエレクトロニクス分野で、電子デバイス用フレキシブル基板回路やディスプレイ用光学フィルムが売り上げの約半分を占めます。そのほか、海水の淡水化膜を手がけたり、医療分野で核酸医薬に必要な核酸合成用ビーズ開発や製造受託にも進出しています。
このようにBtoBを中心とした高機能材メーカーとして、様々な業界に幅広く製品を提供するほか、消費財では商標登録している粘着クリーナー「コロコロ™」や、文具ブランド「STÁLOGY™」も展開しています。

2022年にはESG(Environment、Social、Governance)経営に向けた取り組みとして、2050年度までにグループのCO2排出量実質ゼロを目指す「Nittoグループカーボンニュートラル2050」を宣言。
また、サステナビリティー重要課題解決に向けて、地球環境や人類社会自体も顧客と捉え、それらに貢献する技術開発や製品サービスの提供を行う形に方針転換しました。環境貢献製品「PlanetFlags™」、人類貢献製品「HumanFlags™」という独自の認定システムを作り、この製品カテゴリー外のものには今後開発リソースを割かないことを決めています。
ソフトウエア開発やマーケティングなど、多様な人財確保が課題

新規事業創出は、2030年くらいの未来をイメージしてバックキャストで取り組んでいます。現在は「情報インターフェイス」「次世代モビリティ」「ヒューマンライフ」の領域で事業を行っていますが、新規事業は各領域を少しずつ広げていくのと同時に、半導体、通信5G/6G、光通信、脱炭素、デジタルヘルスなどの事業創出にも注力。そこで「新製品」「新用途」「新需要」の三新活動を、外部リソースを巻き込んで行い、ニッチトップ戦略をもって新規事業創出に取り組んでいます。

新規事業創出は3段階で進めています。
まず、「新規テーマの弾込め」で、自社から生まれた研究開発テーマを追うほか、スタートアップやベンチャーキャピタルとの連携にも注力し、出資やM&Aを通じた提携を含め、社外のパートナーとの共創を強化しています。また、2020年より新規事業創出大会も開催しています。
そうして出てきたテーマが市場に貢献するものだと判断できれば、「インキュベーション」のステージに進みます。事業化に向けて製品・ビジネスの精度を高めるため、ヒト・モノ・カネなどのリソースを投入していきます。
その後、継続的に収益を得られるような事業を創るべく、「事業化推進」を進め、新規事業創出を行っています。

新規事業創出大会「NIC(Nitto Innovation Challenge)」は、社員から集めた有力案件を社会実装につなげる取り組みで、チャレンジする人財の発掘・育成と企業風土の活性化を目的としています。
グループ社員全員を対象に新規事業アイデアを募り、複数の審査を経て最終的にプレゼンテーション審査を開催。毎年1,000件近くの質の高い提案が上がっています。
実際の流れとしては、書類審査を3段階で進め、外部のアドバイザーと社内のメンターをつけて約3カ月間のアクセラレートプログラムを組みながら、最終的にファイナリスト8名を残し審査を行います。事業執行のリーダーも審査に加わり、旗揚げ制で最優秀を選抜。最終審査通過案件には推進体制を立ち上げ、新規事業化に進みます。
事業化の推進には、いわゆる「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれるようなハードルがあります。当社でも、特に「0→1」のアイデア段階で良いものを選び抜き、残ったものがテーマ化に進み、さらに製品化の壁を乗り越えた核酸医薬などが今、事業化から規模拡大へとステップを進めています。

新規事業創出に向けた当社の課題は、必要な人財の確保です。既存事業では、技術開発・モノづくり・マーケティングの各機能のバランスを取りながら事業を推進していますが、新規事業創出ではチャレンジングなテーマを抱えるため、たとえば技術開発ではソフトウエア開発人財が不足していたり、モノづくりでも絶対数が不足していたりします。マーケティングでも市場の声を聞いて新しいビジネスモデルを創るような人財が不足しており、このバランスが取れていないのが大きな課題になっています。
そこで、モノづくり人財は社内人財の育成を中心に対応し、マーケティングやソフトウエア開発人財は社外からの経験者採用を強化しています。
当社のDNAとして、この規模の会社ながらスピード感ある意思決定ができ、チャレンジや具現化を行う力があります。社員も、新規事業の新たなフィールドにおいて外部からの信頼を得られるメンバーが多く、オープン・フェア・ベストなマインドを持ち合わせています。組織でも素直で勤勉なメンバーがいるので、「1+1=3」以上のチーム力を発揮してきました。
新規事業創出では、これらのDNAを大切にしつつ、新しい能力の獲得が必要不可欠です。会社としての観点では、先読み戦略に基づく将来への種まきや定量的な検証の能力が必要であり、社員には市場開拓や事業構築のスキルが求められます。組織としても、多様な人財が個性を発揮できる、柔軟性ある環境が必要だと考えています。
「育てる」「植える」「活かす」の観点で、人事戦略を推進
日東電工では社員を人材ではなく「人財」と呼び、人は材料ではなく財産だという考えのもと、人を非常に大事にしています。人事戦略では、社内人財を育成する「育てる」、社外から経験者を採用して「植える」、これら人財を融合させて事業活動の活性化を目指す「活かす」の3つの観点から施策を展開しています。
「育てる」新卒採用戦略と育成
まず、新卒採用に向けた採用ブランディングとして、テレビCMやスポーツイベントのスポンサー活動、また文具ブランド「STÁLOGY™」の直営店出店などを実施しています。

また、学生と当社双方のミスマッチを防ぐため、互いの理解度を高め合う施策を各種実行しています。社風や事業などについて先輩社員に直接聞ける「職種別座談会」を経理や法務、ロジスティックなど管理系部署まで網羅して行うほか、職種別に理解を深める「動画配信」も実施。「インターンシップ」では約1カ月間、新規事業創出を体験。内定式以降には職種別の「配属前面談」で業務イメージを具体化し、配属後のミスマッチ防止に役立てています。
入社後には、「職場先輩制度」を30年以上前より導入。新入社員1人に対し、先輩社員が1人教育係としてつき、仕事の内容や進め方、ビジネスマナー、社会人としての在り方、プライベートの相談まで、毎週交換日記でやり取りをしています。

そして2011年から行う育成戦略に、将来の役員を担える人財を創る早期選抜型教育プログラム「NGBA(Nitto Global Business Academy)」があります。次期役員候補育成の「NGBA-E」(約2年間)と、次期幹部候補育成の「NGBA-A」(約1年間)があり、グローバルのグループ社員全員から人選してプログラムを実施。事後フォローとして、パフォーマンスの継続モニタリングやリーダーシップスキル獲得に向けたジョブローテーションも行っています。
そのほか、若手社員が1年間海外で勤務できる「海外トレーニー制度」も実施。中堅以上の社員は海外経験が豊富な当社において、若手でも早期から海外経験を積めるよう、事業部推薦と自薦で募っています。現状で係長未満の駐在員は10%以下であり、この比率を上げるのと同時に、海外拠点から日本への派遣も行い、エリア間の交流を活性化させています。
「植える」社外からの経験者採用

2023年は入社する社員全体の6割がキャリア採用となるくらい、経験者採用を重視しています。特に今後の成長エンジンとなる研究開発部門において、当社にないスキルを持った人財を採用する方向です。
そもそも当社は化学メーカーやテープメーカーのイメージが強く、就職希望者も化学がバックグラウンドに持つ方が多いのが実情です。そこで転職セミナーなどを通じて、回路設計やソフトウエア開発、マーケティング、戦略立案など、幅広い活躍フィールドがあることを伝えています。

そうしたキャリア採用で求める人物像ですが、当社の人財が平均的に何でもできるタイプが多いことに対し、新規事業では各ステージのハードルを突破するために「尖った」人財を必要としています。質の高い実務経験や卓越した専門性、リーダーシップにたけ、ある領域で突出しているような人財を採用できるように、当社の魅力発信の強化や、そうした人財が能力を発揮できる環境、継続的な仲間作りに注力しています。
「活かす」活躍の場の提供

採用した人財に活躍の場を提供する施策に、職種やエリアを超えた公募型のジョブポスティング制度があります。
人財を求める部署が、求めるスキルやそこでどんなスキルを身につけられるかについて募集要項を作成し、社員は誰でもエントリーシートを提出できます。自身の経歴や強み、異動先部署での抱負などをアピールし、書類選考や面談を経て合否が決まります。
このジョブポスティング制度は開始2カ月で74ポジションが公開されています。

女性が働きやすい職場環境作りにも注力しており、女性リーダー育成プログラムや女性に対するメンター制度などの施策を進めています。産休・育休、育児介護フレックスや職場復帰などの支援制度も整備しており、産休・育休後の女性復帰比率は100%(2022年度実績)となっています。一方で、男性社員の育休取得率は58%であり、こちらも100%達成に向けての取り組みをさらに進めています。
また、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進活動で女性にスポットを当てながら、全社員が働きやすい製造ラインを目指す取り組みを始めています。たとえば、有機溶剤を使用するラインを、環境負荷や女性労働基準規則の観点から見直し、有機溶剤不使用のラインを新たに構築しています。重量物を扱う製造ラインにもさらなる安全対策を行い、女性も活躍できるよう整備。こうして多様な人財がいきいきとやりがいを持って働ける環境を整え、2023年度には全社で約20名の新卒女性社員を製造部署に配属しています。
そのほか、特例子会社の日東電工ひまわり株式会社は、DE&Iの先駆けとして2000年に設立しました。障がい者の自立支援として、製造支援や軽作業、ひまわりカフェの運営などを任せ、オリジナリティーを持って社内の経済活動に貢献しています。現在、国内6社200名が自己実現を果たし、多様性を認める組織風土作りを推進しています。
新規事業創出や既存事業拡大で、人財は財務へと変換
一般に人的資本は非財務資本と見なされますが、日東電工は人財を「非財務」ではなく、将来の経済価値創出につながる「未財務」と捉えています。

ESGやエンゲージメント、企業文化の取り組みをより強化し、知見を蓄えていくことで、人財への投資が将来的に企業成長の要になると考えています。具体的には新規事業の創出や既存事業の拡大をすることで、業績や株価にも影響を及ぼすような財務に変換できると考えており、このスキームを担うのが人財なのです。
日東電工は人財とともに成長していく企業であり続けたいと考えています。
最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

本日は、日東電工のことを知っていただけるよい機会になったと思っています。イノベーションを起こすためには、多様な人に活躍していただけることが非常に大事だと考えておりますので、そうした観点でも当社にご注目いただければ幸いです。
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