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エンパワーメントとは? 意味や高める方法、導入のコツを解説

組織を活性化するためには多様なアプローチがありますが、従業員の能力を引き出し、一人一人がより自発的に動けるように促す「エンパワーメント」も有効な施策のひとつです。

今回はエンパワーメントの意味やメリット、高める方法のほか、効果的な導入・実践のコツを解説します。


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エンパワーメントとは

エンパワーメントとは

近年、人材育成や生産性向上の観点から、ビジネス領域でもエンパワーメントという言葉が注目を集めています。まずは、言葉の持つ意味や使われ方、その重要性から解説していきます。

エンパワーメントの意味

エンパワーメントとは英語の「empowerment」が由来で、「力を引き出すこと」や「自信を与えること」という意味を持ちます。「エンパワメント」とも表記し、ビジネスの現場では一般的に「権限委譲」と訳されるほか、「能力開花」「自律性促進」という旨趣で用いられるケースもあります。

管理職が持つ裁量や権限を部下に与え、スピーディーな意思決定や自発的な業務遂行を促す手法で、人材育成や組織マネジメントの一環として採用されています。

エンパワーメントの概念は、アメリカの公民権運動から始まったといわれています。1970年代に介護分野での重要性が指摘され、1980年代に女性の権利獲得運動のなかで、その考え方が広まりました。

基本的には名詞として使われます。主な使い方のイメージは以下のとおりです。

  • エンパワーメントを推進し、企業の成長につなげる
  • エンパワーメントを図り従業員の能力を開花させる
  • 従業員のエンパワーメントを高め、社内改革を進める

ただし、別の分野では少し異なるニュアンスで用いられる場合もあるため、異業種の人と話す場合などには注意が必要です。

看護・福祉におけるエンパワーメント

看護や看護・福祉の現場でのエンパワーメントは主に、「患者や障害のある方の自立に向けた支援」のことをさします。

従来の看護において、患者は治療を受けるという受け身の立場が多かったといえるでしょう。しかし、患者自らも健康上の問題を解決していく、患者も医療に参加することが大切という考え方が広まりつつあります。

そこで、患者が主体性を持って治療などのプロセスに関わるために、エンパワーメントが用いられるようになりました。患者が前向きに治療に臨める環境を目指して、看護師などは積極的にコミュニケーションを図って情報提供するなど、目標達成に向けた管理・サポートを行います。

福祉においては、その人の有するハンディキャップやマイナス面に着目して援助をするのではなく、長所、力、強さに着目して援助するという意味でエンパワーメントの理念が取り入れられています。

このような援助方法により、自分の能力や長所に気づいて自信が持てるようになり、ニーズを満たすため主体的に取り組めるようになることを目指しています。

また、国際開発では「生活の変革」、教育領域では「児童・生徒の主体的な学びを促進するための教育活動」のことを指すなど、各分野で幅広くエンパワーメントが活用されています。

参考:身体障害者ケアガイドライン|厚生労働省

エンパワーメントの重要性

近年、特にビジネス分野でエンパワーメントが注目されている理由には、「迅速な意思決定が求められている」「人材の早期戦力化の必要性がある」という2つのポイントが挙げられます。

IT技術の爆発的な進歩や自然災害の影響により、従来の価値観やビジネスモデルが通用せず、先行きが見えにくい現代は「VUCA(ブーカ)時代」とも呼ばれます。その時々の環境や状況の変化に応じ適切な対応をとるためには、意思決定のスピードが求められます。

また、転職の一般化などを理由に雇用の流動化が進んでおり、中途採用市場でも即戦力人材の需要が高まっています。戦力となる人材を早期に育成することは企業の課題ともいえ、さまざまな業務を経験させて人材の成長を促す必要があります。

従業員に権限を委譲させる、意思決定の場に参加させるなどして主体性や判断力を磨いてもらうことがこれらに対して有効とされ、エンパワーメントを重要視する企業が増えています。

▼社会全体が大きな変革の時期を迎えていますが、企業にとって「自社にあった人材を採用したい」「社員に生き生きと働いてもらいたい」といった思いは普遍的なものです。「多事業化を支える組織作り」については、こちらの資料でも詳しく解説していますので、参考にしてください

エンパワーメントを高める方法

エンパワーメントを高めるアプローチには2つの考え方があるとされています。それぞれについて以下で紹介します。

構造的アプローチ

構造的アプローチとは、相対的にパワーを持つ人が持たない人に対して「パワー」を与えることで、組織の活性化・パフォーマンスの最大化を目指す方法です。

経営層や管理者が現場に権限を委譲する、重要な意思決定の場に従業員を参加させるなどの方法で実践されます。部署や従業員にパワーを与えることで、自ら課題解決する力や主体性の向上を促し、エンパワーメントを高めます。

権限を受けた側が戸惑うことがないよう、事前に経営戦略や企業ビジョンをしっかり説明しておきましょう。

心理的アプローチ

従業員が持つ意欲やエネルギー、自己効力感を高めていくのが心理的アプローチです。人間の心理的な面に着目して、従業員のパフォーマンス向上を目指します。

自己効力感とは「自分が、ある行動についてうまく遂行できると思っている」こと。成功体験を得ることで高まる可能性があるため、プレゼンテーションの機会を設けるなどの施策が考えられるでしょう。

内面から湧き起こる仕事への興味・関心を従業員に持つよう促す「内発的動機付け」を行うのも有効です。たとえば、「責任感」が動機付け要因となる部下なら、「責任感を持って業務に取り組んでくれて、頼りになる」というアプローチをして、仕事への意欲を高めてもらいます。

上司は部下とのコミュニケーションのなかで、褒めることを意識し、モチベーションアップを図ることが大切です。

エンパワーメントのメリット

エンパワーメントで期待できるメリット

エンパワーメントにより、個々の従業員にも、組織としてもメリットを見込めます。以下具体的なメリットを紹介していきます。

主体性・責任感を持った人材を育成できる

エンパワーメントによって裁量や権限を与えられた従業員は、「いわれた仕事をこなせばいい」「いざというときは上司や先輩がいる」などというスタンスは通用しなくなり、自ら考えて仕事を進めなければなりません。それにより、これまで以上に能力を発揮できたり、成長のスピードが速まったりすることが期待できます。

任せてもらえる仕事の幅が広がった従業員は、やりがいや当事者意識も高まり、責任感も増すでしょう。それに伴ってモチベーションもアップし、より能動的に仕事に取り組むことが見込めます。指示を待つだけでなく、一人一人が取り組むべきことを考えるようになり、主体的に動ける組織の構築につながります。

生産性の向上につながる

会議や管理職の決裁などが必要だったことを、現場の従業員が判断できるようにすることで、組織の意思決定が迅速になります。それにより、管理職がより戦略的な仕事に時間や労力を割くことも可能になるでしょう。

現場の従業員の裁量や権限が増すと、これまでは取引先や顧客に「会社に持ち帰って検討します」「上司に確認します」といっていたことも担当者が判断できます。よりスピーディーに対応な対応が可能で、サービスが向上し、関係もより良好になることが見込めます。

それらの経験から個々の従業員のパフォーマンスが高まり、生産性の向上や業績アップにもつながるでしょう。

離職率の低下

エンパワーメントによって従業員が自立することで、管理職や上司の顔色を必要以上にうかがって仕事をするような環境は改善できるでしょう。また、より自由に意見交換をできる効果も期待できるため職場の活気が高まり、風通しがよくなります

令和4(2022)年10月に厚生労働厚生労働省が発表した「新規学卒者の離職状況」の調査によると、新規学卒者(大学卒)の3割程度が入社後3年以内に離職しています。従業員の3年以内離職率は30%前後で推移(下図参照)しており、人材不足の状況も伴って早期離職に頭を悩ませる企業も多いです。

【離職後3年以内離職率の推移】
厚生労働省「新規学卒者の離職状況」をもとに作成

エンパワーメントによってやりがいや自己肯定感を持って仕事を進め、さらに風通しのよい職場になれば、従業員にとって「居心地がいいうえに成長できる会社」になるはずです。それにより、離職率の低下も見込めるでしょう。


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エンパワーメントのデメリット

エンパワーメントで想定されるデメリット

ここまでエンパワーメントのメリットを紹介してきましたが、うまく実践できない場合、以下のようなデメリットが生じる可能性もあります。

これらのデメリットを防ぐためのコツは、この後の「エンパワーメントを導入するステップ」「エンパワーメントを円滑に進める3つのポイント」で紹介します。

個人のパフォーマンス、業績の差が拡大する

裁量や権限を与えられることでより仕事に身が入る従業員がいる一方、多大なプレッシャーやストレスを感じてしまう人もいます。そのため個人のパフォーマンスや業績の差が拡大してしまうかもしれません。

また、従業員に判断任せきりにしてしまうと、誤った判断を行ってしまう可能性も考えられます。それぞれのパフォーマンスを見極め、必要なスキルを習得させるなど、適切にフォローしていく必要があります。

従業員の管理が複雑化する

エンパワーメントにより、これまでは逐一「報・連・相」を求めていたことでも、個人の判断や責任で進めてもらう仕事が増えることになります。それによって従業員の動きや仕事の進ちょく状況が把握しづらくなり、管理が複雑化してしまう場合もあります。

従業員によっては、組織やチームの指針や方向性を十分に理解せず、身勝手な判断をしてしまう恐れもあります。そのため組織の統制が困難になるケースも生じます。


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エンパワーメントを導入するステップ

エンパワーメントを導入するステップ

ここまでに述べたようにエンパワーメントにはメリットを期待できる一方、デメリットが生じる恐れもあります。効果的に導入するためには、以下のようなステップを踏んで丁寧に進めることが大事です。

エンパワーメントを導入するステップ

会社全体の機運醸成

まずは、エンパワーメントを行うことを会社として意識共有することが重要です。経営陣が乗り気でも現場やチームによっては後ろ向きだったり、逆に現場は進めたくても経営陣が難色を示したりする場合、スムーズには進みません。

そのため、会社全体の機運醸成が第一ステップとなります。エンパワーメントの重要性について講習会を開いて説明するなど、従業員に理解してもらえる機会を設けると効果的でしょう。

目標の設定

次に、個人やチームに対して目標を設定します。目標を設けて進むべき方向性を明らかにすることで、業務への課題や解決策なども見えてくるでしょう。

ここでは少し努力しないと達成できない高めの目標である「ストレッチゴール」にするのがオススメです。それにより、従業員一人一人の奮起を促し、最大限に努力して成果を出してくれることが見込めます。

権限や裁量を徐々に委譲する

今まで指示に従っていた従業員に一度に多くの権限や裁量を与えてしまうと、萎縮や暴走をして仕事をうまく回せなくなる恐れもあります。そのため、「ここまでならできるはず」という範囲で少しずつエンパワーメントを進めることが大事です。

あわせて「意思決定できる範囲はどこまでなのか」「判断に迷った際に相談する基準」なども設定し、伝えておくことで、誤った判断を防げるでしょう。

評価・フィードバックして改善する

エンパワーメントでは本人に仕事を任せることが重要とはいえ、「任せるだけ」では軌道に乗らないこともあります。

上長は定期的に従業員とコミュニケーションをとり、評価やフィードバックを行い、必要に応じて施策を改善していくことが重要です。

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エンパワーメントを円滑に進める3つのポイント

エンパワーメントを円滑に進める3つのポイント

前述したデメリットを招かずにエンパワーメントを円滑に進めるためには、以下の3つのポイントを特に意識するといいでしょう。

やる気や自律性を高める働きかけをする

どんなに環境を整備して手順を踏んでエンパワーメントを進めても、裁量や権限が大きくなる分、最終的に結果が出るか出ないかは従業員次第になってしまいます。そのため、個人の内面的変化が成否のカギとなるでしょう。

周囲は、本人のやる気や自律性が高まるような働きかけを行うことが重要となります。具体的には、人事評価制度を見直し適切な評価を心がけるほか、目指すポジションに到達するための基準・条件を明確に示したキャリアパス制度、業績に応じた報奨金やボーナスを設けるインセンティブ制度の導入などが考えられます。

従業員を監視も放任もしない

前述したようにエンパワーメントを行ったら管理職は細かいことに口を出さないことが大事です。従来と同じように指示をしたり、報告を求めたりしてしまうと、「名ばかりのエンパワーメント」になりかねません。

とはいえ放任するのではなく、つかず離れずの距離で見守り、迷ったらいつでも相談やフォローをできるような人間関係を築いておくことが大事です。ささいなことでも相談できる窓口を設けたり、1on1ミーティングを設けたりするなどして、従業員が働きやすい環境づくりを心がけましょう。

失敗を容認する環境を整備する

エンパワーメントを受けた従業員は、これまで以上に高いレベルでチャレンジングな仕事をすることになります。そのため最初はうまくいかない場合もあるかもしれません。その際に叱責したり、ペナルティーを与えてしまったりすると、当人はもちろん、それを見ていた周囲も「無難な仕事」にとどめてしまう恐れがあります。

失敗を容認する環境を整備し、常にポジティブに仕事をしてもらうことが重要です。

女性のエンパワーメント原則(WEPs)

女性のエンパワーメント原則(Women’s Empowerment Principles)とは、2010年3月に国連グローバル・コンパクトと国連婦人開発基金が共同で作成した、女性のエンパワーメントに取り組む企業向けの7原則のことです。

女性の経済的エンパワーメントを推進するための国際的な原則として活用されています。

■女性のエンパワーメント原則

  1. トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進
  2. 機会の均等、インクルージョン、差別の撤廃
  3. 健康、安全、暴力の撤廃
  4. 教育と研修
  5. 事業開発、サプライチェーン、マーケティング活動
  6. 地域におけるリーダーシップと参画
  7. 透明性、成果の測定、報告

WEPs(ウェップス)に経営者が署名することにより、企業は女性が社会的にその力を発揮でいるような労働環境・社会環境を整備することへの意思を、国内外に示せます。

社員満足度や生産性の向上、企業のマーケティング戦略と結びつけた女性の経済的エンパワーメントの推進、新しいビジネス機会の獲得などのメリットがあるとされ、WEPsには、現在300以上の日本企業が署名をしています(2023年3月時点)。

日本では、男女共同参画基本計画において女性の活躍推進による経済社会の活性化の重要性が強調されており、WEPsにも注目が集まっています。今後、さらに活用が期待される原則のひとつといえるでしょう。

参考:女性のエンパワーメント原則(WEPs)」|内閣府男女共同参画局

エンパワーメントの実践事例

エンパワーメントの実践事例

最後に、エンパワーメントをうまく実践している企業を紹介します。

株式会社星野リゾート

高級リゾートホテルや温泉旅館を運営している「株式会社星野リゾート」。かつてはトップダウンで経営改革を行っていましたが、ベテラン社員の退職が続いたことからエンパワーメントを経営に取り入れました。

人事権は会社の専決事項ともいわれますが、星野リゾートでは総支配人などのポストは社員の立候補で募り、誰が役職につくのがふさわしいかを議論して選任する仕組みもあります。

ザ・リッツ・カールトン

世界的な高級ホテルとして知られる「リッツ・カールトン」。従業員にはエンパワーメントとして、宿泊客らへのサービスに「1日2,000ドルの決裁権」が与えられています。たとえばバースデーカード、食事中のワインのプレゼントなどを、上司の決裁を仰がずに宿泊客らに提供できます。

リッツ・カールトンといえば、会社の理念や従業員の行動指針をまとめた「クレド」が有名です。クレドの冒頭には「リッツ・カールトン・ホテルはお客様への心のこもったおもてなしと、快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています」とあり、これに基づいて従業員にエンパワーメントを行っています。

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社

人気コーヒーチェーンの「スターバックス」。チェーン展開する企業の場合、マニュアルに沿って運営することが一般的です。しかしスターバックスは、細かい接客マニュアルをあえて作成していません。会社の基本理念や使命の共有は徹底しますが、接客については「お客様が何をしてほしいかを考えてサービスしよう」という点のみで、あとは正社員もアルバイトも自ら考えて行動するように促しています。それがスタッフの働きがいも顧客満足度も高めている秘訣なのでしょう。

エンパワーメントの目的は「組織のパフォーマンスの最大化」

エンパワーメントの目的は、権限委譲を通じた「組織のパフォーマンスの最大化」

エンパワーメントを通じて人材育成や顧客満足度の向上などさまざまなメリットが期待できる一方、失敗やデメリットが生じる恐れもあります。また、業務や部下の性格などによっては、向き・不向きがあることにも留意する必要があります。

エンパワーメントの最終的な目的は組織のパフォーマンスを最大限に高めるというところにあり「部下へ権限を与えること」はあくまで手段のひとつに過ぎません。「権限を与えたら、任せっぱなし」で終わるのではなく、部下が自己成長し、さらに力を発揮できるような環境づくりやサポートがあってこそ成功するものと認識しましょう。

本記事のエンパワーメントを高める方法や、導入するステップを参考にして、従業員の能力を引き出し、一人一人がより自発的に動けるような組織作りを実現させてください。

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耳慣れた「フィードバック」ですが、方法を間違えると逆効果になってしまうほど、実は「取り扱い注意」な情報提供の方法でもあるのです。 フィードバックの効果を高めるための大切なポイントを徹底解説します。

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