2022年11月1日、株式会社ビズリーチは「【第2回/全6回】基礎から学ぶ面接官養成講座 候補者とのコミュニケーション術」と題したWebセミナーを開催しました。
株式会社人材研究所の曽和利光氏にご登壇いただき、適切な見極めと意向醸成を実現するための、候補者との円滑なコミュニケーションの取り方について、具体的なメソッドを含めてお話しいただきました。

登壇者プロフィール曽和 利光氏
株式会社人材研究所 代表取締役社長
著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント」、「『ネットワーク採用』とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」
候補者とのコミュニケーションの前に知っておくべきこと
本セミナーでは、面接で候補者とコミュニケーションを取る際に知っておくべきことや、事前に準備しておくべきこと、コミュニケーション全般のコツなどについて総ざらいしていきます。
面接は相互評価の場~ジャッジだけでなく、フォローも必要~
面接において、まず覚えておきたいのは、「面接は相互評価の場である」ということです。
企業側が候補者を評価するものだと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、売り手市場の今、面接では候補者の見極めとフォローの両方が必要となります。
相互評価のためには、面接官側の自己開示が欠かせません。候補者からすれば、よく知らない相手(面接官)に対して、どんなコミュニケーションを取ればよいのかわかりません。例えば、業界知識に精通しているのか、していないのかによって、専門用語をどれだけ使って話すべきかが変わってくるでしょう。
「候補者に本音で、深い話をしてほしい」と思うならば、面接官もまた同じように本音で語ることが大事です。転職の悩みを語ってもらうときに、「私も、この会社に入るときにこんな悩みがあったのです」などと自己開示をすれば、相手も安心して話せます。
また、面接時に面接官ばかり話すのではなく、会話量のバランスとして「候補者:面接官=8:2」を目指すといいでしょう。相手が何を聞きたいのか理解したうえで情報提供をすることが大切です。
面接では、キャリアカウンセリングと同じくらいフラットに対応するのがいいと思います。
面接官を心から信じている候補者はいません。フォローするときも100%信じてもらうのは難しいものです。ただ、相手の立場になり、「あなたが自社に合っているかどうかを一緒に考えましょう」というスタンスが伝われば、本音を出して話してくれるかもしれません。傾聴していることが候補者に伝わるような仕草を心がけ、自社と他社で悩んでいるのなら親身になって答えてあげることも大事でしょう。

面接では時間の配分も大切です。ヒアリングの前にあいさつやアイスブレークでリラックスできる雰囲気を作り、ヒアリング後には質疑応答の時間を設けます。面接時間が60分あるのなら、最初に10分のアイスブレーク、40分のヒアリング、その後の質疑応答に10分と設定しておきましょう。
60分をすべて候補者への質問に使うと、候補者は「(企業側から)聞きたいことだけ聞かれて、私が聞きたいことを全然聞けなかった」と思うかもしれません。フェアに「相互評価」ができたという感覚のないまま面接が終わってしまい、企業へのマイナスイメージにつながる可能性があります。

落としすぎに注意! 面接合格率を知っておこう
面接合格率は企業によって異なりますが、これまで数多くの企業の採用に携わってきた経験から、30%が面接1回あたりの合格率の目安だと考えています。
大企業における新卒採用の合格率は約1%といわれています。これを先ほどの合格率の目安に当てはめて考えてみると、1回の面接で30%の合格率×4回の面接を行った結果が約1%という計算になります。
また、中途採用では約10%が合格率の相場です。これも先ほどの合格率の目安に当てはめて考えてみると、1回の面接で30%の合格率×2回の面接を行った結果が約10%という計算になります。

もし、「応募はたくさん来ているのに、面接に残っている人数が少ない」という場合は、1次、2次選考の段階から面接官が落としすぎている可能性があります。面接官としては、合格にした場合はなぜその人を選んだのかという理由を問われるために、「迷った場合は落としたほうが楽」と考えてしまいがちだからです。
では、どんな人を落としてしまうものなのでしょう。そのタイプや特徴を見ていきましょう。
「緊張度が高い人」は、対人力が弱いのではと思われてしまいがちですが、実際は志望度が高いことに加え、真面目な性格ゆえに過度に緊張しているのかもしれません。
「素直な人」は、弱みを素直にさらけ出してしまうために「マイナスポイントが多い」「積極的にアピールをしてこない」と捉えられる傾向があります。
全体的にバランスが良いがゆえに「特徴がない人」や「意欲が低い人」に見えてしまいがちな「夢がなく、語らない人」も、実際は能力が高いのに落としてしまいがちなタイプといえます。

面接1回あたりの合格率は平均30%ですが、初期面接では合格率が5割ほどと高く、最終面接に進むにつれてだんだんと落ちていくのが普通です。最初から「30%の合格率で(次の面接に)挙げてください」と伝えていると、本来は落とすべきではない人を初期段階で落としすぎる可能性があるため、注意が必要です。
聞いてはいけない質問とは
面接前には、「聞いてはいけない質問」についてもきちんと確認しておきましょう。
- 本籍に関すること
- 家族の状況に関すること
- 家庭環境に関すること
- 思想、信教に関すること
上記のような個人の思想信条にかかわることは基本的に聞いてはいけません。
質問を受けた候補者の中には、上記のような質問を聞かれると疑念を抱く人もいるでしょう。会社のリスク管理としても、面接官には必ず周知しておくべきポイントです。
よくしがちな「愛読書」「尊敬する人物」の質問も、実はNGです。また、アイスブレークで自然に話題になりがちな、名字に関する質問も本籍に関わるためNGとなる可能性があります。
私もよく、「曽和さんって珍しいですね、どこ出身ですか」と聞かれることがありますが、面接では注意が必要です。面接官の中には、長く働いてほしいという思いから、同居家族や結婚予定について質問をして「間接的に探ろう」とする人もいます。しかし、これらの質問もNGです。もし聞きたいことがあるのでしたら、「長く働いてほしいので、あえてお伺いしますが、当社の収入や条件面で安定して続けられそうでしょうか」などと、ダイレクトに質問をするといいでしょう。

採用基準の確認
面接の前に準備すべき大切な点は「採用基準を一義的にする」ことです。なぜかといえば、「求める人物像」で使われる言葉の多くは多義的だからです。
経団連が2019年まで調査を続けていた「選考時に重視する要素」では、上位5項目は20年間ずっと変わらず、どの言葉もとても曖昧なものです。

経営や現場から「コミュニケーション力の高い人を採りたい」と言われても、「コミュニケーション力」の解釈は多様にあり、求めるタイプとまったく異なる人を採用するリスクがあります。
そこで、「求める人材像の『コミュニケーション力』とは、具体的にこういう意味ですか」と経営や現場の人物に確かめましょう。明確な答えが出ない場合には、似たような概念・対立概念などを選択肢として提示し「どちらですか」と尋ねるとより良いと思います。
なお、私が多くの企業に「コミュニケーション力はどういうものか」とヒアリングを重ねた結果、意味として多かったものは下記でした。
- 「感受性(相手を理解し、空気を読む力)」
- 「論理的思考能力(筋道立てて話す力)」
- 「表現力(適切な語彙で相手にイメージさせる力)」
これを見ると、言葉を一義的に捉えなければ、求める力は大きく異なってしまうことが分かります。
ほかにも「主体性」であれば、
- 「自発性(自分から動く、自分の意見を重視する力)」
- 「適応力(素直、従順、言うことを聞く力)」
とそれぞれ捉えているケースがありました。
「チャレンジ精神」であれば、
- 「新奇性(新しいことに臨む力)」
- 「達成意欲(高い目標を掲げてチャレンジする力)」
- 「冒険心(リスクテイクできるかどうか)」
とそれぞれあります。
言葉が何を指しているのかを、誰が聞いても同じ解釈になるところまで分解していくことが大切なのです。
候補者とのコミュニケーションに関する心理法則
候補者とコミュケーションを取るうえで、いくつかの心理法則を知っておくことも重要です。
好意の返報性

人は、何かをしてもらうと「お返しをしなくてはならない」と思う傾向(好意の返報性)があります。相手から何か高い要望を受けて断ったときには、「(断りを受け入れてもらったので)何か譲歩しなくてはならない」と思うため、「これならできます」と伝えようと考えるのです。
例えば、候補者に選考先企業を絞ってもらいたいとき、「内定を出すので、ほかの企業は受けないでほしい」という高い要望を提示し、候補者にそれは難しいと断られたとします。その後に、「では、何社程度の会社を今後も受ける予定ですか」と聞くと、候補者から「〇社は受けたいので、そちらとの検討はさせてほしい」と譲歩してもらえるケースもあります。
一貫性・慣性

私たちは一度選択したことに対して、「困難を乗り越えてでも続ける責任がある」と考える傾向があります。
これは、比較的承諾してもらいやすいことを先に提案すると、その後の提案も受け入れやすくなるというものです。選考を辞退しようとする候補者がいた場合、「分かりました。辞退は仕方ないのですが、まだ情報提供がきちんとできていないので、最後にこの人と会って話してから決めてくれませんか」と提案するのも、一つのやり方です。しかし、辞退の理由が明確で、決意が固い場合は難しいので、見極めも大切です。
希少性

機会が限定されているものに対して、人は魅力を感じます。採用においても「自社の合格率は1%しかない」「20人候補者がいるけれど、残り3枠しかない。あなたにはぜひ来てほしいから早めに決めてほしい」と伝えることで、志望度に影響を及ぼす可能性があります。
第一印象力

面接官が候補者に対してどんな第一印象を残せるかは、面接官全体のイメージにつながります。候補者との共通の関心領域を見つけて、アイスブレークで話題を振るのも一つの方法です。
一方で、面接官が候補者の第一印象で評価を決めるのは、誤った採用につながる危険性が高いので注意が必要です。
同質/補完

候補者と相性のいい面接官で面接を実施すると、候補者は好意を持ちやすくなります。パーソナリティーテストを用いて似ている人を分類し、面接官と候補者のマッチングを考えるのも一つのやり方です。「自分と感性が似ている人が多い会社だな」と思ってもらえる可能性があるからです。
また、人間関係においてお互いに異質である(補完関係)からこそ、かえって好意を抱くこともあります。しかし、面接という短期間で関係を構築しなければならない場合については、候補者に対し異質な感性を持つ面接官をつけるよりも、同質性のある面接官をつけるほうが望ましいでしょう。
近接性

接する機会が多ければ多いほど相手に好意を持つ「単純接触効果(ザイアンス効果)」も、面接で生かすことができます。面接を複数回設けたり、内定と最終合格を分離したりして、接触の機会を増やす工夫を考えましょう。
統制性

人は、興味(好意)をあまりに強く持たれるとかえって離れてしまう傾向があります。興味加減の法則によると、相手への興味が小さいほうが人間関係の主導権を握るといわれているため、加減が大事です。
採用においても「こんないい会社だから、ぜひうちに来て!」と前のめりになりすぎるより、フラットな関係性で、自社のマイナス面も正直に伝えながら「一緒に課題を乗り越えていこう」と伝えるほうが、関心を持ってもらえる可能性があります。
集団心理

社内の人間が「うちはこんなにいい会社」と言うよりも、第三者が書いた記事やクチコミなどの情報のほうが、信ぴょう性が高まるという心理もあります。
例えば、同じ会社に入ろうと思っている候補者同士、内定者同士でグルーピングして会話してもらうのも良い手です。インターンシップやワークショップでもタイプの合う人同士を組ませることで、「(自分に似た感性の)この人が、この会社のことを評価しているんだ」「この人が入社しようとしているのなら、私も行こうかな」という集団心理・同調意識が働きます。
Q&A
セミナー後半では、視聴者から寄せられた質問にお答えしました。
ハイパフォーマーが自分自身をよく理解できているとは限りません。ヒアリングだけでは、具体的な行動が見えてこないこともあるので、ハイパフォーマーが実際に行っていること、彼らのパーソナリティーテストの特徴を客観的に見るなど、「事実から類推」してみるのが大事だと思います。
最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

「今日は基礎講座として『事前準備』について話してきました。さまざまな観点の混ざった内容となりましたが、今後は、テーマごとに細かく掘り下げていきます。次回以降のセミナーも引き続き楽しみにしていただければと思います」
「ダメ面接官」にならないためにできること

「ダメ面接官」が陥りがちな「NG行為」「思い込み」とは――。ダメ面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウを、人事コンサルタントの曽和利光氏が解説します。