2022年11月29日、株式会社ビズリーチは「【第3回/全6回】基礎から学ぶ面接官養成講座 面接技術のトレーニング方法」と題したWebセミナーを開催しました。
株式会社人材研究所の曽和利光氏にご登壇いただき、面接技術を高めていくために日々実践すべきトレーニング方法について、具体的なメソッドを含めてお話しいただきました。

登壇者プロフィール曽和 利光氏
株式会社人材研究所 代表取締役社長
著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント」、「『ネットワーク採用』とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」
面接担当者が身に付けるべき能力やスキルは何か
面接技術の具体的なトレーニング方法を考える前に、そもそも面接担当者が身に付けるべき能力やスキルについて整理していきましょう。
まず覚えておきたいのは、「面接は相互評価の場である」ということです。
とくに売り手市場の今は、「欲しい」人材が自社に来てくれるかどうかはわかりません。そのため、相手を評価する「見極め」の力とともに、相手に評価される「動機づけ」の力が必要になります。
今回のセミナーでは、相手を評価する「見極め」の力にフォーカスしたトレーニング方法を考えていきます。

「見極め」の力を高めるために、面接を3つのステップで考えてみましょう。
まずは、候補者から事実情報を収集する「インタビュー」があり、聞いた情報から候補者がどんな性格・能力・価値観を持っているかを見立てていく「アセスメント」、見立てた人を採用するかどうかの「ジャッジ」があります。
面接の難しいのは、それぞれのステップに落とし穴があるところです。情報収集においては、コミュニケーション能力の高い人ほど陥りやすい穴があり、経験が豊富な人ほど無意識のバイアスを持ちやすくなります。
面接官の課題が、3つのどこにあるかでトレーニングの注力すべきところは変わります。まずは、課題を整理することが大切です。

面接担当者のトレーニングとしてどのような方法があるのか
では、面接担当者にどんなトレーニングをすればよいのでしょうか。
ここからは、選考時における
- インタビュースキル
- 採用基準のインプット
- 個々人にある心理的バイアスの認識(フィードバック、評価のすり合わせ)
の3つについて考えていきます。
インタビュー
前提として大切なのは、「事実を聞き出すのは意外に難しい」と改めて知ることです。
コミュニケーション能力の高い人は、相手が言っていないことでも、想像力や過去の経験、知識などから類推して情報を補って理解できます。日常的なビジネスでは「ものわかりのいい優秀な人」と見られがちですが、こうした類推からの情報補完は、面接では絶対にしてはいけません。
相手が言ってもいないことを、自分の知識で穴埋めして相手を評価すると、事実と全く異なる可能性があるからです。
つまり、コミュニケーション能力の高い面接担当者こそ、面接は難しいといえます。
さらに、情報の補完は無意識的に行われるため、情報が「聞けていない」ことを意識するのが難しいという課題があります。そのため、面接担当者は自分自身を客観視できなければいけません。
では、客観的に面接を行う方法には何があるのでしょうか。
おすすめなのは、実際の候補者と似た人物への模擬面接を振り返る方法です。
ほかにも、
- 自分の面接を他者に見てもらい、フィードバックを受ける
- 自分の面接を録画して、後で確認をしてみる
- 他者の面接を観察して、良しあしを検討する
などがあります。
このように、他者の視点を入れなければ「無意識的に情報を補完している」ということを客観的に知るのは難しいといえます。
企業のなかには、トレーニングとして「面接官同士で模擬面接をする」ところもあるでしょう。ただ、面接官が相手だとうまく話せてしまうので、インタビューの訓練にならない場合があります。シナリオ通りに役作りするのも難しく、なかなか実際の面接に近づけないのです。

そこで、私が企業に提案している方法の一つが、学生に面接対象者役になってもらうことです。例えば、自社の内定者に「うちの採用競合から内定をもらった友人に面接訓練への協力アルバイトをお願いできないか」と声をかけ、人脈をつたって模擬面接の「学生役」数人を集め、面接官と学生をいくつかのグループに分けて面接を行います。そうすることで、自分が行った面接を録画して後で確認をしたり、ほかの面接官の面接の様子を見たりすることが可能です。
新卒の面接は中途の面接とは違い、知識やスキル、経験について聞けることが少ないため、情報の乏しいなかで見極める必要があります。ベーシックな性格や能力について見極める点では新卒も中途も同じであり、学生への模擬面接は中途面接の訓練にもつながります。

客観視できるようなケースとして、面接のNG例・Good例の動画を作り、それを見て、議論するというやり方もあります。
動画を見たうえで「どの部分がNG/Goodなのか」「NGな部分については、どう質問をすればよいのか」などを話し合うことで、「人のふり見てわがふり直せ」につながっていきます。面接の質問では、しつこく聞かないと正確な情報収集につながりません。そうしたことを知るために、お互いの面接動画を見せるのは一つのいい方法だと思います。
なお、面接内容をすべて記憶しておくのは難しいので、文字起こしをしたものを使って検討していくのが現実的です。

アセスメントとジャッジ
見立てて評価する力を強化するためには、人を表現する言葉をそろえることが大事です。
「コミュニケーション力」「主体性」などの多義的な言葉を一義的にするために、その企業ではどういう意味でその言葉を使っているのかを確認していきます。
また、採用基準に使う言葉の意味を統一することも重要です。
例えば、「好奇心の強い人」の場合は、「『好奇心』という言葉には、自分にとって違和感(奇)のあるものに対して、やみくもに拒否するのではなく、いったん受け止めてみるという『受容』的意味もあるが、自社の定義は『なんでもやってみよう』という『拡散』的な意味に統一する」などです。
このように、採用基準の理解を深め、面接担当者の目線をそろえるうえでは、「自社ではこう使う!」と定義を明確にすることがとても大切です。
もう一つ欠かせないのが、言葉が指す意味を使い分けることです。
同じ能力でも、採用基準をレベルごとに書き分けていくことで、採用基準が浸透し評価の精度も高まっていくでしょう。

ただ、同じ情報、同じ言葉の定義を持ったうえでも、見立てや評価には違いが生じます。これは、心理的なバイアスによるものです。
例えば、「体育会野球部に所属していた」という情報だけで、性格特性を勝手にイメージしてしまうのは、バイアスがあるからです。人物評価の際は、バイアスの理屈を知ってもなかなかなくならないという難しい問題があります。

さらに、経験のある人ほどアンコンシャス・バイアス(無意識のバイアス)は強くなるといわれています。
面接経験が長くなればなるほど、優秀人材に関するステレオタイプが形成され強固になりがちであるため、経験を積むことにはネガティブな側面もあるのです。
心理学の知識を知りバイアス理論を学ぶだけでは効果はなく、何らかの事実情報によって、自分の中のバイアスを「思い知らされる」ことが必要です。
では、「思い知らされる」ためにはどんなアクションが必要なのでしょうか。
私が企業にお勧めしているのは、面接のすり合わせを丁寧に行うことです。同一人物について複数の面接官で評価結果をすり合わせることで、同じ人に対しても違う結果が出ることを知り、バイアスの影響を思い知るきっかけになります。研修などで同じ候補者の動画を見てすり合わせをするのもいいでしょう。

私自身、多くの企業研修で同じ人物の動画を見てすり合わせを行ってきましたが、ほぼ100%、面接官一人一人の評価は分かれます。
高く評価した人、低く評価した人それぞれから、「どんな事実からどうアセスメントしてどうジャッジしたのかを教えてください」と聞いていくと、さまざまな意見が出てきます。
そうして、同じ人を見ても評価が分かれるということを知ると、「ものの見方」にバイアスがあると認めざるを得なくなります。

候補者が自己アピールを語る動画に対して、どう評価するかディスカッションするのもいいでしょう。インタビューの訓練とアセスメント・ジャッジの訓練を分け、インタビューに集中する時間と、得られた情報からのジャッジだけに集中する時間を作ってトレーニングする方法も有効です。
その後、解説を共有すると、採用基準のさらなる明確化につながっていきます。

その他、面接担当者に伝えておくべき情報や要素
前提知識として、ほかにも面接担当者に伝えておくべき内容があります。
一つは、労働市場の状況です。一般のビジネスパーソンは、求人倍率などの市場動向を意外と知らないものです。現状の採用がどれだけ難しいのか、数字で示しておくことが大切です。
落としてしまいやすい人はどういう人かもあらかじめ伝えておきましょう。傾向を知ってもらい、「こんな人を落とさないでくださいね」とインプットをしておくことで、採用機会を逃さずにすみます。

コンプライアンスの観点から、聞いてはいけない質問の共有も大切です。面接担当者が知らずに聞いてしまったことで、「あの企業から、こんな失礼な質問をされた」などとSNSで発信されてしまう可能性もあり、炎上リスクがあるため注意が必要です。

「採用戦闘力」の高いチームの作り方
最後に、「採用戦闘力」の高いチーム作りについてご紹介します。
そもそも、採用力を高めるには何人ぐらいの採用メンバーが必要で、いくらかければいいのでしょうか。正解があるわけではありませんが、私の経験から、スカウト型などの「攻め」の採用を行うのであれば、採用目標が20人なら採用担当は最低限1人、可能ならば10人の採用に対して1人いるといいでしょう。
採用単価は「紹介手数料」が目安となり、
- 新卒:50万円〜100万円
- 中途:想定年収の35%
が相場だと考えています。
また、現場と人事がどういった割合で体制を作っていくかに関しては、それぞれの強みを理解し、何を重視するかが大事になります。

「リアリティーのある言葉づかいで、動機づけを強化したい」など、現場の強みを生かした面接をしたい場合は、現場に協力を仰いでいきましょう。
ただ、その際にはいくつかの注意点があります。
- 総時間数を推定して依頼する
- 面接の精度、トレーニングコストの観点から、可能な限り協力を仰ぐ人材は絞る
- ハイパフォーマーに依頼する
- インセンティブ、評価制度などのモチベーション向上施策を実施する
- 現場が選考に携わった候補者がその後どうなったのか、必ずフィードバックを行う
これらは、現場の採用へのモチベーションを維持するうえでとても重要です。「面接したのに、その後どうなったのか報告がない」といったことが重なると、協力体制が継続できなくなってしまいます。現場とのこまめなコミュニケーションを大切にしていきましょう。
Q&A
セミナーの最後には視聴者からの質問にお答えいただきました。
日頃のコミュニケーションと面接は違うものです。ただ、人を評価すること自体は、仕事を通じて皆さんやってきていることだと思うので、衆知を集めれば面接の基準を作ることはできるのではないでしょうか。
社内だけにこだわらず、人事コンサルタントやキャリアアドバイザーなど社外の採用経験者に面接に同席してもらうのもいいと思います。たくさんの候補者に会っている方は市場の相場観を知っています。人事のプロは面接をどう感じたのか、彼らにフィードバックをもらいながら、採用基準や目線を合わせていくことも検討してみてください。
最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

「面接のトレーニングでは、いかに自分を客観視するかが重要です。面接官同士の模擬面接をやっていても、『自分は客観的に聞けていない』という実態に気付けず、バイアスを消すことはできません。学生役の協力者との実践や動画を使ったトレーニングを行うことで、より実効性が高まり、インタビュー・アセスメント・ジャッジの精度が上がっていくと思います」
「ダメ面接官」にならないためにできること

「ダメ面接官」が陥りがちな「NG行為」「思い込み」とは――。ダメ面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウを、人事コンサルタントの曽和利光氏が解説します。