【イベントレポート】人事・採用の基本をマスター 面接評価基準の作り方編(第5回/全6回)

【イベントレポート】人事・採用の基本をマスター 面接評価基準の作り方編(第5回/全6回)


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  • つい自分に似た人を評価してしまう
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2022年6月7日、株式会社ビズリーチは「人事・採用の基本をマスター」と題したWebセミナーを開催しました。

株式会社人材研究所 代表取締役社長・曽和利光氏にご登壇いただき、採用活動の基礎・基本となるテーマを、全6回のWebセミナーで伝えていきます。第5回は「面接評価基準の作り方」編として、評価基準の考え方や面接評定表への落とし込み方などを解説します。

この連続セミナーのレポート記事一覧は下記のリンクからどうぞ。

曽和 利光氏

登壇者プロフィール曽和 利光氏

株式会社人材研究所 代表取締役社長

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。
著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?人事のプロによる逆説のマネジメント」、「「ネットワーク採用」とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」

面接の評価基準とは

面接評価基準を考えるにあたり大事なポイントは、求める人物像とイコールではないということです。

入社後に育成できる要件や身についていく能力は、入り口の採用段階(面接時)になくても問題はありません。面接評価基準は求める人物像から育成目標を引いたものと考えるといいと思います。

採用基準になるものは、入社してから変化することが予測しにくいような「育成できない要件」です。育成できるものであっても、育成できる「機会」や「時間」がないものも採用基準になります。例えば、「事業が伸びている今のタイミングに、すぐに営業できる人がほしい」というケースは、育成する時間がない要件となるでしょう。

採用基準は絞れば絞るほど採用しやすくなります。要件を増やしすぎず、できるだけ育成目標にすることをおすすめします。

面接評価基準(採用基準)は「求める人物像」ー「育成目標」

では、育成できるものとできないものとを、どう分類するといいのでしょう。

参考にご紹介するのは、「結晶性知能」と「流動性知能」という考え方。ホーンとキャッテルによる心理学のフレームワークからきています。

結晶性知能とは、年を取るにつれ積み重なるように、あとからでも伸びていくことを期待できる知能(能力)のこと。一方、流動性知能とは新しい環境に適応するときに必要な能力のことで、後天的には獲得しにくいものを指します。

こうした研究を参考に、求める人物像に対してどの能力を採用基準にし、どの能力を育成目標にするか決めていくといいでしょう。

育成できるもの、できないもの

採用基準における言葉の使い方

採用基準を考える際、使う言葉は一義的であることがとても重要です。

経団連が2019年まで発表してきた「選考時に重視する要素」では、上位5項目はずっと変わらず、多義的な言葉が使われています。

多くの会社が求めている
「能力」「性格」

「コミュニケーション能力が高い人材」といっても、面接官によって解釈が異なるためきちんとした評価ができません。実際に、「コミュニケーション能力」には大きく6つの分類があり、それぞれ全く異なる能力であることが分かります。

(例)コミュニケーション能力

「求める人物像」で使われる多義的な言葉を、一義的にする(一つの意味にしか受け取れないようにする)ことは、人事の重要な役割だといえます。

経営や現場から「求める人材像」を聞いた際に、「よく出る言葉」が出てきたときには、きちんと「こういう意味ですか」と確かめましょう。

似たような概念、対立概念などを選択肢として提示して、「どちらですか」と尋ねるとより具体的になると思います。また、その能力が強みになるのか弱みになるのかは会社や仕事次第ですので、「悪く言うとどうなるか」と整理していくのもいいでしょう。

それが強みになるのか弱みになるのかは会社や仕事次第

仕事と適した特徴、ハイパフォーマーの特性を抽出するときには、職務適性理論の研究者ホランドによる仕事の分類「RIASEC」を参考に作ることもできます。

仕事を適した特徴の例:RIASEC

レベルの定義

面接では評定をするため、どのようなタイプがいいかという話のレイヤーから、レベルを分類し、各レベルを定義していく必要があります。

レベルの定義では、パフォーマンスの発揮のされ方を1から5まで分類して整理しました
※これは、コンピテンシー面接を提唱した川上真史氏(「コンピテンシー面接マニュアル」著者)による、コンピテンシーのレベル1~5の定義を参考にしています。

環境を前提と捉えるか、スタートラインとして自分で変えていけると思うかによってレベルは異なります。

レベル1:「言われたからやる」他律行動

レベル2:「みんながやっているやり方に従って動く」規定行動

レベル3:「自分で考え、意思を持って動く」選択行動

レベル4:「今までにない方法を考えて動く」新規行動

レベル5:「周りに働きかけながら、環境やルール自体を変えていく」変革行動

と、動き方を分類していくのです。

「能力」「性格」の5つのレベル

レベルの表現を検討する際は、次のように言語化していきます。

例:好奇心が強い

5点 関心事に対する行動や関心の深さ・広さについて、自らの枠を超えることが習慣化できている

4点 関心事に対する行動や関心の深さ・広さについて、自らの枠を超えることができる

3点 関心の深さ・広さがあり、自分の実力以上の行動ができる

2点 関心の深さ・広さはあるが、行動が不足している

1点 関心の深さ・広さが十分ではない

例:やりきる力

課題遂行の際の障害があったことに対して

5点 自責的に捉えられ、素早く行動に反映し、目標以上の結果を得られる

4点 自責的に捉えられ、素早く行動に反映し、目標の結果を得られる

3点 自責的に捉えられ、素早く行動に反映できる

2点 物事を省みて、行動に反映できる

1点 物事を省みることがない。行動に反映できていない

面接の際に、とてもよい・まあまあ・ふつうなどの分類にすると、面接官によって「何をよいとするか」の捉え方が異なります。レベル感の違いをできるだけ具体的に書き分け、5点をつけるときはどんな場合か、判断基準を明確にしていきましょう。

面接評定表を作る

採用基準を作るうえで、面接評定表はとても大切です。

構造化面接を行う際、ターゲットの明確化、質問の明確化まできちんとできているのに、面接評価の構造化をしていない企業は少なくありません。

たとえ面接官が大事な情報をたくさん集めても、それを記録するフォームがきちんと作り込まれていなければ、得た情報は記録されません。せっかくの構造化面接が意味を成さなくなってしまうのです。

つまり、評価の構造化は面接の構造化とほぼ同じだというのが、私の考えです。

面接評定表が評価基準を規定してしまうことに注意

面接評定表の例をもとに、どんな点を工夫すべきかを説明していきたいと思います。

面接評定表の例

ポイント(1)「総合評価」は「詳細評価」の和ではない

ポイント(1)「総合評価」は「詳細評価」の和ではない

よく見られるのは、詳細評価の平均(合計)から機械的に総合評価を導くやり方です。

しかしこれは、次の4つのポイントからおすすめしません。

  1. 各評価要素が無意識に平等に扱われてしまう
    求める人物像に5つの要素があるとき、それらは平等に数値化できるものではありません。大事な要素には優先度がありますが、総合評価には反映されなくなってしまいます。
  2. 似たような評価要素は無意識に重要視されてしまう
    「面倒見の良さ」と「受容性」など、特徴が重なっている要素は、ダブル評価のように捉え、無意識に重要視されてしまいます。
  3. 各評価要素の「突出者」を評価できない
    要素によっては、マイナス評価にしたい人もいれば、「これだけの力があるなら10点あげたい!」と思う人もいるでしょう。突出した評価がしたくても、つけられる点数に限度があるため、正しく評価に残すことができません。
  4. 明確化された評価要素外の異能を評価できない
    書かれた要素以外の、明確化されていない評価要素があったとしても、それをプラスに評価できません。

こうした点から、詳細評価は、総合評価の「参考」としてのみ用いるのがいいと思います。

ポイント(2)「評価点」「評語」は意味あるものに

面接担当者には、各評価点をつけたら、その後、その候補者はどうなるのかを把握してもらうといいでしょう。評価点ごとに、次の採用プロセス上のアクションに接続するのが理想です。

具体的には、次のような例があります。

S:急ぎで面接設定・1つステップを飛ばして最終面接へ

A:通常通り進める

B:合格だが、面接スケジュールは遅め(ゆっくり)設定

C:再度、同じレイヤーの面接を受け直し(ペンディング)

D:不合格だが、人数調整の必要があれば合格にする可能性あり

E:不合格

※「非常に良い」「とても良い」「まずまず良い」などの比較級表現はありがちですが、面接官の解釈が異なり、正しい評価につながりにくくなります。

ほかに検討すべきポイントとしては、偶数にするか(中間選択肢を置かない)・奇数にするか(中間選択肢を置く)があります。合格か不合格かをはっきりと決めたい場合や、採用枠上、絞っていかないといけない場合は、偶数がいいと思いますし、そうでなければ奇数でもいいでしょう。

また、あまり評価選択肢の数が多いと、中心化傾向や寛大化傾向、厳格化傾向の影響が強まるので、5つ前後がいいでしょう。

ポイント(3) 取得してほしい情報を分類し配置

面接における最終的な「解釈」や「評価」はとても重要ですが、それをどんな事実」や「意見」から導き出したのかについて記録しておくことも重要です。評価のすり合わせのためにも、事実を書く欄をきちんと作りましょう。

ただし、「評価要素」と「事実」「意見」は1対1の関係とはならないので、別枠で記述するようにします。

「解釈」や「評価」を書く領域はチェックするぐらいでよく、「事実」や「意見」の欄を大きく取ります。面接官はそこを埋めようとするため、事実に即した情報収集を行ってもらえます。

事実情報のほうが評価的には信頼性が高いので、「事実」と「意見」は別枠に分けるといいでしょう。

大きな空欄を用意するだけではなく、そこに何を書いたらよいのか、括弧内に例を明記します。動機付けに必要な、就職活動の状況や自社への志望度なども、欄を作ることで聞いてくれます。そこから、候補者フォローをどれほどするべきかが見えてくるでしょう。

面接では、根拠のない「印象」も重要な情報ではあります。印象だけで採用を決めるべきではありませんが、面接におけるリアルな場面での事実情報ともいえます。「あくまで印象ですが、こんなことを感じ取りました」などと書く欄を作っておくといいと思います。

ほかに何かある場合に備えて「その他、申し送り事項」はつけておきます。

このように面接評定表を作ることで、面接自体が規定されていきます。

いい人材を落とさないようにするためのポイント

評価基準も大事ですが、「こういう人は簡単に落とさないほうがいい」というポイントを明確にしておくことも大切です。

ふつうの面接(非構造化面接)の精度は、ほかの能力テストなどと比較しても低いとされており、候補者に対して見るべき点を整理していく必要があります。

ふつうの面接の精度は低い

ただ、評価基準の精度が高いと、面接担当者は候補者を落とす傾向が強まります。

例えば、「評価基準にある△△能力について、この人は高いと判断できるだろうか」と迷ったとき、面接担当者は、「落としたら、その後の説明責任は問われないだろう」と考えます。必要な要素について言えば言うほど、「その要素があるとは言い切れない」という自信のなさから落としていってしまうのです。そのため、裏の面接評価基準を作っておくのもおすすめです。

面接の精度が低い背景には、さまざまなアンコンシャス(無意識の)バイアスがあります。

人物評価の際の心理的なバイアスには、

  • 人間は固定観念に陥りやすい(確証バイアス)
  • 直観や、面接を始めて早々に人物の評価を決めてしまう(初頭効果)
  • 良いところや、悪いところに過剰に重点を置いてしまう(ハロー効果)
  • 自分に似た人を好む傾向にある(類似性効果)
  • 採用しないといけないというプレッシャーで、評価を上げてしまう
  • 相対的に候補者をランク付けすることしかできない(いい人のなかで相対的にランク付けしようとしてしまう)

といったものがあります。こうしたバイアスがあると理解しておくこともまた、採用基準づくりにおいては重要です。

また、採用したい「求める人物像」「採用基準」が面接担当者間で異なっていたり、同じ情報に対して違う解釈をしたりすることもあり、一義的な言葉での基準の明確化が必要になるのです。

面接で落とされがちなタイプ

「面接で落とされがちなタイプ」には、4つのタイプがあります。

面接では、情緒安定性を過度に評価すると研究でも明らかにされており、そのバイアスにはまっていないか注意しておくといいでしょう。

■面接で落とされがちな4つのタイプ

  • 緊張度が高い

真面目な性格と志望度の高さが相まって緊張している、あるいは面接者の威圧感や変な質問のせいで緊張しているかもしれません。

  • 率直な人

マイナスが多い人に見えますが、本当の意味で自信があり、弱さをさらけ出すことができる人とも捉えられます。「言葉より行動」と思っている人かもしれません。

  • 特徴がない

バランスのとれた人は「丸く」見えて特徴のない人に見えることがあります。基礎能力が高ければ、パフォーマンスを発揮する可能性は大きいでしょう。

  • 夢のない人

意欲の低い人に見えがちですが、「幸せのハードルが低い」と捉えることも可能です。小さなことで喜べるのは、意味付け力があり、ハイパフォーマーの特性の一つといえます。

面接を構造化するか、しないか

面接の構造化とは、「どんな要素を確認するために、どんな質問をして、どう評価するか」を明確化(マニュアル化)することです。

面接の構造化はオンラインにも向いています。

オンライン面接には多くのメリットがありますが、一つのデメリットはフリートークがしにくいところです。そのため、ある程度は面接を構造化する(マニュアル化する)必要があるでしょう。

オフライン面接では、「聞きたい情報を取りに行く」ための構造化面接は、やや形式的で冷たい印象になるなどの可能性があります。オンライン面接では逆に「ちゃんと聞いてくれた」と印象を上げることもあるので、構造化と非構造化の特徴を知っておくといいでしょう。

構造化するか、しないか

Q&A

セミナー終盤には視聴者からの質問にお答えいただきました。

Q
採用基準はタイミングによって変化するものでしょうか。一度設定した基準を振り返るタイミングとは?
A

中途採用は募集ごとに採用基準が変わると思います。

同じ職種でも、3人採用するときと30人採用するときとでは、タイプは同じでもレベル感は大きく異なるでしょう。少人数採用ならレベル感は上がりますので、毎回の振り返りが必要だと思います。

Q
総合評価と詳細評価は分けて考えるべきだということでしたが、面接官によって恣意性が出ないようにどう教育をしていくべきでしょうか。
A

詳細評価の内容について、ほかの面接官と比較し、「この項目についてはやたら厳しいね」など事実ベースで分析していってはいかがでしょうか。

「こういう点のつけ方に偏りが見える」などを数字で示すと、面接官への気づきになると思います。

最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏
曽和利光氏

採用基準をちゃんと作っているのに、評価表に落とし込まずに無駄になっている企業は少なくないと思います。

私も、皆さんからの意見をいただきながら、面接評定表の作り方にもどんどん改善を加えていきたいと思っていますので、一緒に考えていければ幸いです。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。