【イベントレポート】サイバーエージェント流 女性活躍推進の取り組み

【イベントレポート】サイバーエージェント流 女性活躍推進の取り組み

2022年2月10日、株式会社ビズリーチは「サイバーエージェント流 女性活躍推進の取り組み」と題したWebセミナーを開催しました。

株式会社サイバーエージェント 専務執行役員の石田裕子氏にご登壇いただき、具体的な改革内容や社内浸透のメソッドをお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ取締役副社長の酒井哲也が務めました。

石田 裕子氏

登壇者プロフィール石田 裕子氏

株式会社サイバーエージェント
専務執行役員

2004年、新卒でサイバーエージェントに入社。広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、Amebaプロデューサーを経て、2013年及び2014年に完全子会社2社の代表取締役社長に就任。2016年より執行役員、2020年10月より専務執行役員に就任。人事管轄採用戦略本部長兼任。
酒井 哲也氏

モデレータープロフィール酒井 哲也氏

株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 ビズリーチ事業部 事業部長

2003年、慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社日本スポーツビジョンに入社。その後、株式会社リクルートキャリアで営業、事業開発を経て、中途採用領域の営業部門長などを務める。2015年11月、株式会社ビズリーチに入社し、ビズリーチ事業本部長、リクルーティングプラットフォーム統括本部長などを歴任。2020年2月、現職に就任。

※所属・役職等は制作時点のものとなります

第1部:企業成長と女性活躍推進の関係性

企業成長と女性活躍推進の関係性

ビズリーチ・酒井(以下、酒井):本日のセミナーでは本題に入る前に、近年の「女性活躍推進」におけるトピックスからお話ししたいと思います。まず大きな出来事としては、2016年4月に「女性活躍推進法」が全面施行されました。当初は301人以上の企業などが対象でしたが、2022年4月からは101人以上の中小企業まで範囲が広がりました。

女性活躍推進法

また、育児・介護と仕事の両立など多様な働き方への対応がうたわれて久しいですが、いまだに日本の管理職就業従事者の割合は各国に比べて約20%以上低い状況が続いているという現状があります。

就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合

こういった状況を踏まえたうえで、まずはサイバーエージェント様ではダイバーシティ&インクルージョンをどのように捉えていらっしゃるのかお伺いしてもよいでしょうか。

サイバーエージェント・石田氏(以下、石田):ダイバーシティは会社としても非常に重要だと考えています。私が役員に入り経営の意思決定にかかわっていることが、会社の姿勢の一つの表れかなと思います。

ただ、まだ施策が十分にあるわけではなく、ようやく取り組み始めた段階。ダイバーシティは本来、性別にかかわらず、職歴や経験、知識、年齢などさまざまな広いくくりで議論するものだと思っているので、今はその一歩目としての女性活躍推進なのだと思っています。

では、なぜ女性登用が大切なのかといえば、「企業の持続的成長」のためでしょう。

経営の意思決定のなかに、多様なバックグラウンドを持った人がかかわることで、経営の意思決定の幅が広がったり、判断を間違えないことにつながったりするのかなと思います。

酒井:多様な立場の人の意見を入れていく大切さには、非常に共感します。ダイバーシティの推進によって、企業にとってどんな変化が起こると思いますか。

石田:ダイバーシティが進めば、組織活性につながり、性別にかかわらずいきいきと働ける組織になると思います。また、社員のエンゲージメントが高まることで採用力や生産性の向上、ひいては事業成長につながっていく。いいサイクルが生まれますよね。

酒井:サイバーエージェント様ではどんなダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを進めているのでしょう?

石田:当社では、女性の管理職比率を数値ノルマのように掲げているわけではありません。私が裏目標を持って進めている、というのが実態で、取り組みとしてはまだまだなんです。

人事というフラットな立場だからこそ、社員との面談を多く設定してコミュニケーションを取り、各事業の担当役員への提案をしています。「こんな人が活躍していますよ」「この方はこういう考えを持っているので、抜てきしたら活躍するのでは」など、現場ではなかなか把握しきれない新たな才能やスキルを情報として届け、現場に橋渡しできるようにしています。

弊社には外国籍の方など多様なバックグラウンドを持った人も多く、事業の多角化によりさまざまな専門職人材も在籍しています。そうした人材を経営の意思決定にかかわるようにしていくことが大事だと思っています。

サイバーエージェント流 女性活躍推進の取り組み1

第2部:活躍推進を阻む壁、乗り越えるためのポイント

活躍推進を阻む壁、乗り越えるためのポイント

酒井:社会全体に「ダイバーシティが広がれば組織によい影響がある」という共通認識はだいぶ広がっているように感じます。

官民問わず、さまざまな組織で変革も進んでいると思いますが、ダイバーシティの重要性を理解しながら現場の課題が多いこともある。「どう乗り越えるか」という大きな壁を前に、立ち止まってしまう現状もあると思いますが、サイバーエージェント様ではどんな壁がありますか?

石田:女性活躍推進を阻む壁として下記の資料でも6つ挙げましたが、課題はどの会社でも同じなのではないかと感じています。

サイバーエージェント流 女性活躍推進の取り組み2

活躍事例(ロールモデル)の少なさにより「自分はこのままやっていけるのだろうか」と不安になるケースもあると思いますし、同僚や家族の理解不足が壁になる方もいます。

 

日本はまだまだ男性社会である、というのは事実だと思うので、女性だからこそ見えてくる視点、感じるポイントをもっと経営に届けていって意思表示をしていくのがいいのではと感じています。その機会が少ないと、いつまでも女性が活躍できない会社なんだと社員に思われてしまうし、意見が反映されないと思われて、組織は活性化していきません。

酒井:まさに、どの企業にも通じる要素ですね。

この6つの前提をクリアするために、サイバーエージェント様では「チャレンジを応援する仕組み」と「登用後のフォローアップ」が必要だとおっしゃっています。

石田:女性の「活躍」を推進するためには、活躍しようとするチャレンジをフォローすることが大事だと思います。弊社ではこういった取り組みが進んでいる過程で、「ライフスタイルの変化にかかわらず就業を続ける」ではなく「チャレンジし続けられる」という視点に変わってきています。

以前は、ライフイベントがあっても「働き続けられる」ことがゴールでしたが、大切なのはチャレンジし続けられる環境。ただ仕事と両立できるだけではなく、異動の機会や抜てきの仕組みの制度を整えることが、女性活躍に合致していくと思っています。

酒井:なるほど。各社がこれまで取り組んできたのは、ライフイベントがあっても戻ってきやすい環境であり、「雇用継続推進」だったんですね。

「活躍」の定義を捉え直したことで、取り組みが変わってきた。ポジティブな機会創出が大事なんだなと改めて思いました。

石田:雇用継続推進だと、女性優遇制度が盾になりがちです。でもそうではなくて、活躍をちゃんと推進していくことが大切です。

私には子どもが2人いますが、産後2カ月で復帰したときに一番怖かったのが、「母親になったことで、チャンスがなくなること」でした。私自身が当事者として、今までと変わらずチャレンジできる機会や仕組みを求めていたんです。

ただ、当然ながら、母親といっても一くくりにはできません。一人一人に異なる個別事情があり、家族の理解度や子どもの個性、保育園や幼稚園へ入れるのか、ベビーシッターさんや祖父母などサポートしてくれる方との距離など周りの協力体制も異なるので、カスタマイズしたフォローが大事だと考えています。

酒井:女性活躍推進では、1人目、2人目の最初のケース作りに大きなパワーがかかると思っています。サイバーエージェント様ではどう突破していったのか、工夫したことはありましたか?

石田:最初から「成功事例を出さなくちゃ」と気負わなくていいと思っています。

キャリアのバリエーションはさまざまですし、「この社員に、違う分野でチャンスを作ってみよう」と任せてみたら予想以上のパフォーマンスを上げることもあります。逆に、「この人こそ、活躍成功事例の第一号だ!」などと過度な期待を寄せても、フォローがうまくいかなくて成果につながらないこともあるでしょう。

慎重になりすぎず、複数のケースを試しながら、そのなかで「何かいい事例が生まれたらいいな」と動き出せばいいのではないかと思っています。

第3部:理想の姿を実現するための、具体的な人事施策

理想の姿を実現するための、具体的な人事施策

酒井:人事施策として新たに取り組んでいることはありますか。

石田:施策は、下記の5つの考えに基づいて作っています。

意欲のある人に対しては、「狙えるポジションの提示」が大事です。「ここに、こんな空きがある」と伝えることで、チャレンジしてみようと思う人が出てくるからです。

サイバーエージェントでは、役員の新陳代謝を促す制度が以前からあり、今は「次世代枠」として、本体役員室8人のなかにも若手と女性がそれぞれ入っています。「自分にもこんなキャリアがあるのかも」と意識できるだけでも、キャリアの考え方が違ってくると思います。

サイバーエージェント流 女性活躍推進の取り組み3

具体的な取り組みとしては、下記のような施策も用意しています。

  • 経営課題解決のために何週間もかけてアウトプットし、意思決定にかかわる経験ができる「あした会議」
  • 社員主導で理想の働き方を自ら考え、自分たちで必要な実行策を推進する、部署横断のプロジェクト「CAramel(カラメル)」

サイバーエージェントは、トップダウンで施策を考えたり研修参加を促したりすることがなく、「自分たちで気づいたら自分たちで解決してください」というカルチャーが浸透しています。機会を提供することで本人への気づきも生まれると思います。

「挑戦と安心はセット」という考え方

酒井:人材発掘の仕組みも充実していますが、工夫ポイントはありますか。

石田:人を多面的に見ることですかね。社内アンケートで「身近で活躍している人を教えてください」と聞くものもあり、活躍している人を漏れなく発掘するための施策も取り入れています。組織を横串で見られる人事が、現場に意見する「サシコミ会議」など、多面性を重視して人材発掘する仕組みもあります。

酒井:人材育成については、どんな考えを大切にしていますか。

石田:
人が育つ一番のきっかけは「修羅場経験」だと思います。修羅場というと印象が硬くなってしまいますが、つまりは「意思決定の経験をいかに積むか」に尽きる。それは、代表の藤田ともよく話していることです。

女性向け研修などを充実させて、会社が受けさせるという取り組みもありますが、より重要なのは、挑戦できる環境を整え、自分で決めて自分で物事を動かしていく経験をいかに積んでもらうか企業がそれを意識的にやることで、人材が育っていくのだと考えています。

Q&Aセッション

セミナー後半には、視聴者の皆様から多くの質問が寄せられました。抜粋してお答えします。

Q
出産、育児でキャリアの断絶や遅れが出ることについて、できるだけ会社の昇進制度や評価制度で是正したいのですが、どのくらいまで是正していくべきでしょうか。男女平等の制度のなかでどの程度まで女性を優遇すべきでしょうか。
A

女性活躍推進では「キャリアの早巻き」という議論がたびたび起こります。ただ、女性のみ優遇する、つまり特定の属性の人に対する特別優遇は、それ以外の人のしらけにつながり、全体のパフォーマンスダウンにつながってしまうと考えています。

さまざまなライフイベントの前段階で、いかに「仕事が楽しいから早く戻ってきたい」「戻ってきたらこういうキャリアに挑戦しよう」と想像させられるか。そのための制度を整えていくことが大事だと思います。個別対応が必要な場合、できることはして、事例がうまれたら全体に共有するのがいいのかなと、個人的には思っています。

Q
女性活躍を社内で推進する際に、管理職へ協力を求める必要がありますが、どのように本人たちにメリットがあるように伝えたらよいですか。
A

最終的に会社にリターンが返ってくるということを、伝え続けるしかないのかなと思います。あるいは、評価制度のなかに、女性登用を定性目標として入れてもらうなど、「自分事」として考えてもらう工夫が大事では。女性の活躍が自分のミッションとなり、それを達成すると自分も評価されるという工夫をしていくのはどうでしょうか。

多様性はいまや世界のスタンダードなので、「推進するものだ」と言い切ってもいいと思うのですが、それで納得しない方もいます。本人にとっても、推進がプラスになるような仕組みを考えることが一つの解決策になるのかもしれません。

Q
女性活躍には、企業風土の変革も必要だと感じますが、どのように変革を推進していますか。
A

事例を作り続けるしかないと思います。まず1人のケースを作ってみて、1年続けてみてどうだったかという時間軸でもいいでしょうし、3人一気にポジションを与えてみてキャリアのバリエーションを増やすのもいい。各社に合った抜てき、活躍推進の仕方で事例を作っていくことで、それがカルチャーになっていきます。事例がないまま風土だけ作りましょうというのはかなり難しいと思います。

私の場合は、役員に「勝手にやります」と宣言して人材抜てきし、「やってみたら、こうだったので次はこう変えてみます」と自ら動いていきました。

Q
業界・業種・業態によって、採用の段階から男女比が生まれてしまうことに対する対策をどのように取っていますか。
A

サイバーエージェントの新卒採用は、総合職のビジネスコース、エンジニアコース、クリエイターコースの3職種にわかれています。

エンジニアは男性比率がどうしても多くなる傾向があるので、ビジネスコースで少し調整するなどを、意図して設計しています。

Q
女性登用のポジティブ・アクション(優遇)は、実施されていますか。男性からの不満は生じていないでしょうか。
A

2021年から評価と連動するような目標設定の仕組みを入れており、その定量・定性目標のなかで「自分で設定した目標を達成したら評価にも反映させる」としています。定性目標の中には、人材育成の目標を設定する人や女性登用の目標を設定する人もいます。

仕組みを導入してまだ半年ですが、「組織全体のために人の育成が大事」という認識が改めて広がっています。女性登用を目標にするかどうかは自分で決めてもらうので、自発的に目標設定してもらうようになれば不満は生じないと思っています。

Q
自社では、女性社員の多くが業務に対して積極的に参加しません。石田様が女性社員の主体性を引き出そうとすることで、工夫していることはありますか。また、採用における人の見極めで心掛けていることを伺いたいです。
A

私自身ももともとは全然、積極的ではなく、入社時は「結婚したら辞めよう」くらいに考えていました。しかし、仕事を任されていくなかで、「自分はこんな業務に向いているかもしれない」「自分にもこんな仕事ができるんだ」という楽しさや発見につながっていきました。

そもそも、最初から意欲的で主体性のある方はほとんどいない、という前提に立ち、主体性を引き出すような機会をミッションとして渡してみてはいかがでしょう。すると眠っていた主体性が出てくることもあると思います。

大切なのは、トップダウンでこうしろああしろと機会を与えすぎないこと。「考えてみたら?」と本人に考える機会を提供すると、主体性が引き出されていくと思います。マネジメント側の能力によるところもありますが、まずはできそうな人に任せてみることが大事だと思います。

Q
40名規模の会社に勤めていますが、母として働いているのは自分だけ。産休育休の取得は会社で初めてとなります。制度も法定ギリギリで、自分が産休育休から戻る場所がなくなるのではという不安が大きいです。こういった場合に、会社に何を訴えかけておけば安心につながるでしょうか。相談先がない(産業医もいない)なかで、私が何を会社に要望しておくことが組織にとってプラスになっていくのか教えてください。
A

会社側に事例がないのであれば、会社側も戸惑っていると思います。難しいかと思いますが、この質問者の方がパイオニアとして、自分が切り開くんだという気持ちでやるしかないのかなと思います。

私の場合も、出産を経て管理職として戻ってくる事例はほとんどありませんでした。そのときは、権利主張という意図ではなく、「こういう制度があったほうが、あとに続く社員にとってプラスでは」と定期的に会社に伝えていました。意見として伝える場があったことに救われたので、理解者を1人、2人と少しずつ作っていくことも大事かなと思います。

セミナーの最後に、視聴者に向けて石田氏からメッセージをいただきました。

石田 裕子氏
石田 裕子氏

本日は女性活躍推進についてお話ししてきましたが、制度や仕組み、人材の育成プランなど、何を考えるにしても、女性のことだけを考えすぎなくていいと思っています。

女性、男性、LGBTQ、若手、ベテラン、誰もが活躍できる環境はどういう環境なのだろうと考えていく先に、自然と、働きやすい、人材が定着してくれる環境になっていくと思います。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。