「就職氷河期世代(以下、氷河期世代)」という言葉は、人事・採用担当者ならある程度ご存じでしょう。しかし改めて氷河期世代を知ることで人事戦略の幅が広がるかもしれません。氷河期世代が新卒であった頃の時代背景や現在の年齢、課題について紹介します。
株式会社ビズリーチ創業者の南壮一郎が「月刊人事マネジメント」誌に寄稿した「人材獲得競争の勝ち方」という記事をダウンロードしていただけます。
人事戦略は経営戦略である、という考え方のもと、母集団形成、決定率の向上、面接官の目線合わせの方法など、攻めの採用戦略に不可欠な考え方・手法・先進事例をご紹介しています。
氷河期世代とは
まずは、氷河期世代といわれる人々の年齢層と当時の時代背景を紹介します。
氷河期世代の対象
内閣府の「就職氷河期世代支援に関する行動計画 2020」によると平成のバブル景気崩壊以降、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った人々が「(就職)氷河期世代」であるとされています。同資料によると、氷河期世代の中心層は2020年時において30 代半ばから 40 代半ばの人々です。逆算すると、氷河期世代とは新卒時の就職活動時期が1990年代半ばから2000年代前半だった人々を指すといえます。
就職活動が厳しくなったのは、1991年にバブルがはじけたことが要因です。景気のよかったバブル時は積極的に人を採用した企業も、バブル崩壊後は一転して新卒採用を絞ったのです。
さらに、国内では1997年に山一證券などの大手金融機関の経営破綻による金融危機、2000年には国外でアジア通貨危機・アメリカのITバブル崩壊なども発生し、1990年代後半から2000年頭は世界的に経済が減速しました。氷河期世代の人々は、本来なら就職し社会人経験を積むであろう20代の時期に、長く不況の影響を受けたのです。
参考:就職氷河期世代支援に関する行動計画 2020(PDF)|内閣官房

氷河期世代の就職状況
ここからは文部科学省「学校基本調査」から、氷河期世代の就職状況を見ていきます。1955年から2010年までの大学卒業後の進路について、一番割合が多いのは「就職」となっています。しかし同時に、1990年以降は「進学者」「一時期的な仕事に就いた者」の割合も上昇しており、「就職者」の割合はそれ以前と比較すると低下しています。
また同調査によると、2000年前後は4年制大学を「4年」で卒業した人の割合が減っています。つまり4年を超えて在学した学生が増えたということです。これは就職できない、もしくは就職が難しいと判断した学生が、留年して大学にとどまることで雇用回復を待ち、就職の可能性を高めようとしたためと考えられます。
さらに大学卒業者のうち「就職も進学もしない者」の割合は、2000年には32.4%と、過去最高に達しました。これは大学卒業者のおよそ3人に1人の割合です。
総じて、氷河期世代はそれ以前と比較して就職が困難となったことが見えてきます。就職が厳しい時期は長期化したため、留年して大学にとどまった学生も、結果的に事態が好転しなかったケースが多いと推測します。
「一時期的な仕事に就いた者」の割合が増えたことに関しては、正社員以外の就職状況も厳しかったことにも注目すべきです。
厚生労働省によるとパートタイマー等を含む社会全体の有効求人倍率は1988年から1992年までの間は1%を超えていますが、バブル崩壊以後の1993年~2005年は13年連続で1%を切っています。特に99年は0.5%を下回っており、特に就職が厳しかったことが分かります。
なお、就職氷河期後の、2008年から2013年までは再び1%を切っていますが、これはリーマン・ショックの影響と推測できます。
参考:学校基本調査│文部科学省
参考:有効求人倍率と完全失業率の推移│厚生労働省

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氷河期世代の抱える問題
氷河期世代の抱える問題は、大きく「雇用形態」と「賃金」といえます。両者は関連している問題ですが、ここでは別々に課題を見ていきます。
正社員になれない人が一定数存在する
内閣府の「就職氷河期世代支援プログラム関連参考資料」によると、氷河期世代のうち、非正規の職員・従業員の数は約371万人です。そのうち、正社員としての雇用を希望している人の数は約50万人です。非正規雇用として働いている人の数は約371万人なので、1割以上の人が正社員の希望をかなえられずにいます。
非正規雇用の問題は次のとおりです。
1:社会保障が手薄
非正規雇用は、病気やケガで会社を休んだ場合に一定の金額が受け取れる「傷病手当金」がありません。また雇用先で社会保障に加入できる要件を満たしていない場合は自ら国民年金・国民医療保険に加入しなければならないなど、社会保障においても差が生じます。
年金については老後の生活にも影響を与えます。厚生年金の加入者は国民基礎年金と厚生年金を受け取ることができますが、国民年金加入者は原則として国民基礎年金しか受給できません。
さらに、厚生年金保険料は給料から天引きされるため未納の可能性は少ないですが、国民年金は自分で納付する分、生活が苦しいと保険料を支払うのが難しくなるリスクがあります。
2:雇用が不安定
非正規雇用の場合、雇用期間が決まっているケースが多いです。景気が悪くなると雇用の調整弁として契約が更新されない可能性があります。新卒一括採用・終身雇用を前提とした雇用制度のもとでは、非正規社員は新卒で正社員に採用されないと就職の難度が上がります。また、契約が更新されず、職を転々としなくてはならない場合、主体的なキャリア形成が難しくなります。
低賃金の傾向がある
「就職氷河期世代支援プログラム関連参考資料」によると、氷河期世代でも半数以上は正社員になるなど、改善されている事実もあります。
しかし、正社員になったとしても、賃金は低下の傾向にあります。厚生年金による社会保障費を差し引いた、実質的な給与所得の推移を見ると、1996年頃から徐々に下降傾向にあるようです。給与から社会保障費や税金等を差し引いた「所得」の水準が低くなっているので、社会保障費の負担が重くなっていることも関係していると考えられます。
なお、これらは氷河期世代以降にも見られる問題です。1996年頃から下がり始めた給与所得は2008年以降、低下が顕著です。そのためこの課題は氷河期世代に限ったものではなく、厳密には社会構造の問題であるといえるでしょう。

氷河期世代への支援策
ここでは、国の支援内容を紹介します。また、企業が氷河期世代に対して行えるサポートについても見ていきます。
国が行っている支援策
国や地方公共団体で行っている支援策は複数あります。
幅広い層への支援
狭義の就業支援だけではなく、「就職の準備段階にいる人」「就業中だけれどもスキルアップしたい人」など、幅広い層を支援しています。
- 就職の準備段階にいる人への支援 個別相談や職場体験のほか、ビジネスマナー講習などにより自立を支援しています。
- 就職活動の支援 面接・履歴書指導、就職後のフォローアップなどが受けられます。きめ細かな支援を目的としてハローワークにおける専用相談窓口の拡充、オンライン対応促進の取り組みなどを行っています。
- スキルアップ・正社員への転職を支援 資格取得や職業訓練の場を提供しています。就業中でも受講しやすい夜間・土日やeラーニングなどの講座・訓練があります。
雇用促進支援
雇用促進のため、氷河期世代を雇用することで企業側が助成金を受け取れる取り組みもあります。
代表的なのが「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」です。雇用者の年齢要件や正規雇用労働者として雇用する、といった規定を満たすと1年間の助成を受けられるものです。また、それまで正社員として働いていなかった人材を原則3カ月、試験的に雇用すると企業に助成金が支払われる「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」もあります。
「特定求職者雇用開発助成金」の場合、中小企業への総支給額は60万円(令和2年2月14日以降の雇用)。「トライアル雇用助成金」の場合、対象者1人あたり月額最大4万円の助成金を最長3カ月受け取ることができます。
参考:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)│厚生労働省
参考:特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)│厚生労働省
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企業が行えるサポート
企業が行えるサポートも紹介します。
それまでの経験値を評価する
氷河期世代のなかには、正社員経験がない人や、就業に関してブランクがある人も少なくありません。そのような場合でも働いてきた実績を正当に評価していきましょう。
例えば非正規雇用の場合、昇給やキャリアアップが必ずしもあるわけではありません。そのような環境でも自らモチベーションを保って仕事をしてきた経験は評価できるでしょう。
採用時は、個々人が積み上げてきた経験値を聞いて過不足を見極めることが重要です。それによって、不足分を補うような育成を行えるからです。人材に合った育成が行えれば、自社にとって有益な人材になるでしょう。
キャリア形成をサポートする
入社後、後輩が入ってくれば指導する立場になり、実績を積めばキャリアアップもあるはずです。また管理職になればプレーヤーとしてのスキルだけではなくマネジメント能力が必要になるなど、立場に応じたスキルが求められるようになります。
社会人経験が不足している場合、ステージが変わったときの意識変化が難しいかもしれません。そのため、入社時にその後のキャリア形成も描けるように指導することで、モチベーションの向上を促すだけでなく、その後のキャリアアップがスムーズになると考えられます。

氷河期世代の人材を活用して組織力を高めよう
卒業とともに厳しい社会を生きてきた氷河期世代の人々。国の支援もあり、状況は改善している面もありますが、依然として正社員を希望する人は数多くいます。人事戦略・人材採用の選択肢として氷河期世代の人材活用も検討してはいかがでしょうか。多彩な人材を得ることは組織の活性化にもつながります。
氷河期世代の多くは、変化が激しく厳しい社会を乗り越えてきています。たとえ職歴がなくとも、仕事に対する前向きでまじめな労働観や、慎重で客観的な思考といった行動特性を持っている場合もあるため、企業側はそれらを見極める採用手法の開発と、適材適所の配置を実現していくといいでしょう。
採用の間口を広げることで優秀な人材を確保し、自社の競争力を高めていきましょう。
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