社内や取引先の打ち合わせで、聞き慣れない「アルファベット略語」を耳にした経験はありませんか?
その場で確認ができれば良いのですが、質問もできないまま「なんとなく、アレかな」と推測しながら聞いていては、大事なポイントを聞き逃してしまうかもしれません。また、同じ「アルファベット略語」でも、複数の意味があったり、業界や会社によって「定義」や「その範囲」が異なったりすることもしばしば――。
今回の記事では、人事・採用担当者が押さえておきたいアルファベット略語の基礎知識を紹介します。シリーズ2回目となる今回は、戦略人事に関連する用語として「CHRO」「HRBP」「VPoE」を解説します。
第1回の「HRテックに関連する用語」はこちら
第3回の「人材育成に関連する用語」はこちら
CHRO
CHRO(シー・エイチ・アール・オー)とは
CHROとは「Chief Human Resources Officer」の略で、「最高人事責任者」と訳されます。HR(人事)の最高責任者を務める経営陣の一人で、「CHO」と表記されることもあります。
CHROの役割は、経営資源の4大要素「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、最重要に挙げられることが多い「ヒト」の統括。近年は労働力人口が減少し、人材獲得競争が激化していることもあり、戦略人事の重要性は高まっています。それに伴って戦略人事分野全般を担当するCHROへの注目度も高まっており、設置する企業も増えています。
CEO、CFO、人事部長とはどう違う?
CHROと同様の「CxO」には、CEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)、CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)などもあります。CEOは「経営」を担う企業のトップで、CFOは「財務」を担います。3者はそれぞれ担当分野が異なりますが、CHROはCEO、CFOとともに経営中枢を担う経営上のキーパーソンです。
またHRを担当する幹部には、人事部長もいます。CHROも人事部長も人事労務のマネジメントを担っているという点は共通していますが、人事部長は現場責任者で、CHROは経営陣としてHRに取り組むというところが両者の違いです。

CHRO が担う役割や求められるスキル
CHROが担うべき主な職責に、採用、教育、人材配置、風土・組織づくりの4つが挙げられます。順にみていきましょう。
1. 採用
経営資源となる「ヒト」を集めるには、新卒採用・中途採用どちらにおいても、企業の長期的な展望や経営戦略を意識して進めることが大切です。
2. 教育
企業の競争力を最大限に高めるためには、人材育成が欠かせません。どのような人材が必要なのかという経営的な視点に基づき、制度設計することが重要です。
3. 人材配置
企業が継続的に発展していくためには、適切な人材配置もポイントです。担当者が代わっても事業成長できる仕組みづくりなどが求められます。
4. 風土・組織づくり
従業員とのエンゲージメントを向上させ、パフォーマンスを高めるためには風土・組織づくりが鍵になります。いい人材を集め、定着させるためにも重要です。
上記のことを戦略的に進めていくためには、経営的な視点、人事労務の専門知識、戦略の立案力、課題解決力といったスキルが求められます。企画や開発、営業など人事部以外の仕事で培った経験や知識、マネジメント経験なども役立つでしょう。
また、CHROは他の経営陣と現場との橋渡し役でもあるため、コミュニケーション能力も不可欠です。変化の激しい現代においては、新型コロナウイルス感染症対策などの外部環境の変化に対し、スピーディーに意思決定して対応できることも重要なポイントに挙げられます。

HRBP
HRBP(エイチ・アール・ビー・ピー)とは
HRBPは「Human Resources Business Partner」の略で、経営陣のパートナーとして戦略人事を担当する人材です。日本語では「HRビジネスパートナー」と呼ばれます。
HRBPは人事研究の第一人者であるデイブ・ウルリッチ氏が1997年に提唱した、比較的新しい役職です。ウルリッチ氏は戦略人事の重要性にいち早く着目し、人事とビジネスの双方の観点から事業成長を促す存在が必要だと考えました。
その後、欧米ではHRBPを設置する企業が増えていますが、日本ではまだそれほど多くないのが現状です。とはいえ「新たなプロフェッショナル」として注目を集めはじめています。
人事とはどう違う?
HRBPも人事も、HR領域の業務を担っている点では共通しています。ただし一般的な人事職は、採用や労務管理などの現場の実務が職務です。
一方でHRBPは、事業部門の責任者と連携し、経営を見据えた戦略人事施策の立案・展開や、経営陣へのアドバイスなどを行います。
そのためHRBPに適任なのは、人事部出身者だけではありません。ビジネスサイドにおける活躍人材も含めて選出し、HRBPとして任命するケースもあります。
HRBPが担う役割や求められるスキル
HRBPには、経営戦略と人材マネジメントを連動し、採用や人材教育の進め方、組織づくりなどを設計することが求められます。そのために必要なスキルや能力として、経営や人事の高度な知識、ビジネス感覚、課題分析力や戦略立案能力が挙げられます。また、経営陣や事業部門トップに対してコンサルタント的な役割を果たす必要もあり、コミュニケーションスキルも欠かせません。これらを具体的に見ていきましょう。
1. 経営や人事の高度な知識
適切な制度設計やアドバイスを行うためには、事業・経営戦略と人事戦略の双方を熟知していることが必要です。
2. ビジネス感覚
企業のパフォーマンスを最大化し、事業成長に寄与するためには、自社のビジネスはもちろん、世の中のビジネスに精通していることが必須です。また経営陣と同等のビジネス知識やビジネス感覚も求められます。
3. 課題分析力や戦略立案能力
意思決定する立場の人にアドバイスするためには、企業の現状を冷静に見極め、適切な経営戦略を持っているか、組織の改善点は何かをきちんと判断できなければなりません。また、効果的な施策を考え、制度設計する能力も不可欠です。
4. コミュニケーションスキル
経営陣や事業部門トップと対等に話し合い、時には厳しいことを言う必要もあるため、高いコミュニケーションスキルが求められます。また企業全体や事業部の新たな施策や問題点をきちんと検討するためには、幹部だけではなく、現場の声に耳を傾ける必要もあるでしょう。
VPoE
VPoE (ブイ・ピー・オー・イー)とは
VPoEとは「Vice President of Engineering」の略です。エンジニア・技術部門のトップで、技術部門全体のマネジメントを担う役職を意味します。
「Vice President」というと「副社長」を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、現代のビジネスシーンでは、VPは本部長や部長など部署のトップを指すことが一般的です。また「VPo」から始まる役職は他にも複数あるので、のちほど紹介します。
現代は、大半の業界でIT 化が加速して業種を問わずエンジニアの需要が高まっていることに加え、テレワークや副業などエンジニアの働き方が多様化していることもあり、VPoEの重要性やニーズは高まっています。そのため大企業、スタートアップを問わずVPoEを設置する企業が増えています。
CTO、VPoT、VPoPとはどう違う?
VPoEと同様にエンジニア・技術部門の幹部や管理職には、CTO、VPoT、VPoPなどもあります。これらの役職について説明していきましょう。
CTOは「Chief Technology Officer」の略で、最高技術責任者です。経営陣の一人であり、技術部門の方向性などを決定します。それに対し、VPoEは現場の実務責任者で、エンジニアたちをマネジメントする存在です。
またVPoTは「Vice President of Technology」の略で、システム責任者を指します。自らプロダクトの開発・運用を実践し、メンテナンス性に優れたシステム構造や運用フローまで手掛けます。
VPoPは「Vice President of Product」の略で、プロダクトやサービスの責任者です。ユーザーヒアリングをしながら顧客のニーズを満たす最小限のプロダクト(MVP)を決め、最適なタイミングでプロダクトの品質を向上させる役割を担います。

VPoEが担う役割や求められるスキル
VPoEは、エンジニアやデザイナーの生産性を高める環境づくりなど技術部全体のマネジメントを行うとともに、他部署や上層部と連携して事業目標や計画を策定する職責も担います。
そのため、開発・運用のスキルや実務経験はもちろんのこと、事業・施策の立案能力、経営の知識も不可欠です。また、エンジニアの採用・育成や配置なども担うため、リーダーシップやマネジメント能力も求められます。これらを具体的に見ていきましょう。
1. 開発・運用のスキルや実務経験
専門性が非常に高く、激しい変化に対応しなければならないため、スキルや現場での実務経験は必要不可欠です。
2. 事業・施策の立案能力
エンジニア・技術部門全体を見渡し、チームの戦略や方向性を決定する立場であるため、事業・施策の立案能力も重要です。
3. 経営の知識
経営陣ではないとはいえ、取締役会の役員に極めて近い役職です。事業として結果を出すためにも、経営の知識も欠かせません。
4. リーダーシップやマネジメント能力
エンジニアの配置や育成、パフォーマンスの発揮などの責任を負っており、部下を適切に率いて結果を出すことが求められます。

まとめ
いくつかの英単語が並んだ言葉を短縮させた「アルファベット略語」。耳なじみのある単語だったかもしれませんが、言葉の定義を曖昧にしていると、思わぬコミュニケーションロスにもつながりかねません。
市場や時代の変化に即し、経営戦略や人事戦略も変化し、次々と新たな考え方やキーワードが生まれています。テクノロジー領域だけでなく、人事・採用領域においても、アルファベット略語は増えているのです。自社にはまだ取り入れなくても、その略語が「なぜ注目されているのか」「どのようなメリットがあるのか」を知っておくことで、人事・採用市場の動向をいち早くとらえることができるでしょう。
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