2021年3月25日、株式会社ビズリーチ主催で会える人事Premium「人間らしさを大切にし、成長し続ける スターバックスの人材戦略」と題してWebセミナーを開催いたしました。
前半では、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部採用部 部長の鈴木賢治氏に、スターバックスのエンゲージメントや採用戦略、人材マネジメントについてご講演いただき、後半では、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏にモデレートしていただき、セミナー参加者からの質問に答えていきました。
この記事では、当日のセミナーの模様をレポートしていきながら、スターバックス コーヒー ジャパン様の人材戦略について詳しく見ていきます。

登壇者プロフィール鈴木 賢治氏
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部採用部 部長

モデレータープロフィール楠田 祐氏
HRエグゼクティブコンソーシアム 代表
スターバックスの歴史とポリシー
1971年にアメリカ・シアトルで誕生したスターバックスは、2021年で創業50年を迎え、およそ90の国と地域で32,660店舗を展開しています。1995年に出店した日本第1号店「銀座松屋通り店」は、北米以外の初出店であり、以来25年でパートナー(従業員)は4,423名、店舗は1,628店に広がっています(2020年12月末時点)。
スターバックスでは、各店舗で約8割を占めるアルバイトを含め、全従業員のことをパートナーと呼んでいます。また、広告宣伝を一切しないポリシーがあり、店舗での体験や、体験を届けるパートナー自身が広告塔となります。
直営ビジネスで1,000店舗を超える飲食チェーンは国内では他になく、店舗数が増えて、従業員が増えれば、当然さまざまな考え方を持つ人が働くようになります。スターバックスのブランド力は、現場の人員の多くを占めるアルバイトに左右されることになり、アルバイトが高いモチベーションで働くことも、ビジネスそのものを左右することだと考えています。
スターバックスのビジネス
スターバックスの競争優位性は、コーヒー(モノ)を提供するだけでなく、スターバックス体験(コト)を付加価値として提供することにあります。
スターバックスでは、各店舗をサードプレイス(第3の場所)ととらえています。お客様が一日の大半を過ごす、ファーストプレイス(家)とセカンドプレイス(学校や職場、そして移動中)の間に存在する、少し特別で快適な、外にある自分の居場所。コロナ禍においては場所の境目が曖昧になっているので、スターバックスの店舗を“My Place”と考える方もいるかもしれません。
スターバックス体験を構成する要素は、下記の3つとなります。
- スターバックスの最高の商品
- くつろげる空間
- パートナーによる魅力的なサービス
パートナーの最良の判断を信頼し、お客様ひとり一人と感動体験を作っていく。その体験をビジネスにしていることが、スターバックスがお客様に支持され、成長してきた最も大きな要因といえます。
スターバックスのミッション、バリュー、ブランドプロミス
お客様に「スターバックス体験(コト)を付加価値として提供する」ために、スターバックスでは、企業としての指針(ミッション)と、行動指針(バリュー)を下記の画像のように定めています。
そして、自分たちのブランドはどうあるべきかを定義したものが、「Uplift the everyday(あなたの一日に、心あたたまるひとときを)」というブランドプロミスです。
ブランドプロミスは、ミッション&バリューズよりわかりやすく、かつこだわりを持った表現にしており、「私たちはどのような存在で、大切なものは何なのか」を次のように詳しく定義しています。
- ただの『美味しいコーヒー』ではなく — 素晴らしいコーヒー体験
- 毎日の『決まりきった行動』ではなく — 一日にとって大切な時間
- いわゆる『カフェ』ではなく — まるでオアシスのような場所
- 単なる『トランザクション』ではなく — 人やコミュニティとのつながり
- 働いているのは『従業員』ではなく — 思いやりに溢れたパートナー
- 売り上げを上げるだけの『会社』ではなく — 多様性を受け入れるコミュニティ
- ひたすら『規模』を求めるのではなく — 規模を社会のために生かす
パートナーが日々「スターバックスとは何であるか」を意識することが重要だと考え、スターバックスでは、人事を含めた店舗以外の機能を、サポートセンターと呼んでいます。
スターバックスのエンゲージメント(オーナーシップの源泉)
スターバックスの店舗には、メニューづくりのレシピはありますが、サービスに関するマニュアルはありません。基本的な行動はパートナー一人一人に任せています。マネジメントにおいて、「マニュアルがないのに、よく主体的なサービスができますね」と言われることが多いのですが、ここに大きく関係してくるのが、パートナーのエンゲージメント(※)の高さだと思います。
※エンゲージメントは、「企業や商品、ブランドに対して、ユーザーが愛着を持っている状態」のこと、従業員エンゲージメントとは「従業員が自社に愛着を持っている状態」のことを指します。
スターバックスでは、エンゲージメントの高い社員の特徴を次の5つにまとめており、これらがハイパフォーマンスを実現するための重要な要素だと考えています。
- 能動的、自律的な行動をとる
- 仕事や組織に対する強いオーナーシップを持つ
- 同僚やチームに対する信頼感と敬意を持つ
- 目的を達成するための努力を惜しまない
- 自己成長の欲求が強い
2020年12月に実施した、全パートナーへのエンゲージメント調査結果では、貢献意欲や、ミッション&バリューズへの共感において、非常に高いスコアとなりました。
エンゲージメントを高めるために大事にしているものは、「スターバックスが大切にしたい価値観とパートナー一人一人の価値観が重なった部分に生まれる共感」です。その言語化のために、スターバックスでは「Why you‘re here?(あなたが“ここにいる理由”を教えてください)」という問いが自然発生的に起こります。
お客様に提供するスターバックス体験は、パートナー一人一人が目の前のお客様に対して何ができるかを自ら考え、判断し、行動することから生まれます。
そのために、ストアマネージャーはパートナーの持つ能力を最大限に引き出す人材育成に力を注ぎます。業務に追われるなかでも、「大切なものは何か」「譲れないものは何か」を常に考え、会社と個人が大切にしている価値観に立ち返るために、「Why you‘re here?(あなたが“ここにいる理由”を教えてください)」という問いをとても大切にしています。
スターバックスの採用
「会社と個人の価値観の共感」は採用においても重視しています。
たとえばすべての入社面談では、業務形態に関わらず、個人が大切にしている価値観を一人一人聞き、スターバックスの価値観と重なる部分を探ります。一つでも重なりがあれば、それがエンゲージメントにつながると考えているからです。
アルバイトの入社面談では、「スターバックスに憧れていた」「雰囲気が良さそう」といった表面的な志望動機も少なくありませんが、なぜそう思ったのかを繰り返し聞いていくと、「人とのコミュニケーションが苦手なので克服したい」など、自分の弱みとのつながりが見えてくることもあります。小さな目的意識でもいいので、スターバックスで働くことで自分を変えたい、ここで何かを成し遂げたい、と思うような人材を積極的に採用しています。
スターバックスの大きな特徴は、「仕事・業務自体が好き・喜び」というパートナーが多数存在するという点です。
成果に対して、結果やゴール到達に評価するのではなく、仕事自体が好きということが組織に浸透している。これが、勤続意向や職場でのアルバイトを他者に推奨する行動などに現れているのです。
人を軸に行っているスターバックスのビジネスモデルは、非常にコストがかかり、ある意味非効率でしょう。しかしだからこそ、ほかの飲食チェーン店舗と一線を画した競合優位性を担保できていると思います。
また店舗のレイアウトやデザインは、各店舗で変えていますが、この取り組みも効率面でいえばマイナスです。ただ、訪れるお客様やパートナーにとっての愛着や特別感につながるという価値を常に重視しているのが、スターバックスの考え方なのです。
スターバックスの人材マネジメント
スターバックスにおける人材の成長のステージは3段階あると考えています。
フェーズ1は、この職場にいていいと思える「自己存在の証明」。フェーズ2は、自分への期待が高まると自ら動き出す「自分に対する期待感」。そしてフェーズ3は、自分だけでなく他者に影響を及ぼしたくなる「他者への影響」です。
スターバックスでは、学生のアルバイトは2年ほど経つと、その多くがバリスタトレーナーというポジションになり、人に教える立場となって新人の成長を手助けしていきます。他者信頼、他者貢献、自己受容の3つが相互的に作用することが、エンゲージメントのベースであり、こういった共同体的感覚が店舗全体に広がっていくと考えています。
また、エンゲージメントを高める人材育成メカニズムには4段階があり、そのなかにミッションと個人のとった行動を意味づけするプロセスが埋め込まれています。
第一段階は「ミッションへの共鳴」。ミッションに共感し強いつながりを感じる環境に身を置くことで、“こうなりたい”という目標ができます。
第二段階は「ビジョニング&ロールモデル」。同じ目標を目指している仲間がロールモデル(お手本)となり、目指す姿が明らかになります。
第三段階は「コーチング&フィードバック」。目標を達成するために、自らの努力とともに、周りのパートナーからのコーチング(サポート)やフィードバック(アドバイス)をもらいます。
そして第四段階は「内発的動機の醸成」。次はもっとこうしたい、こうなりたい、と自分の中から成長の意欲が湧いてきて、自身を動かす原動力となります。これを内発的動機と呼びます。
他者からの賞賛や報酬を外発的動機と呼びますが、これはいずれ慣れてしまい、もっともらえないとやる気がなくなったり、不満に思ったりします。しかし、内発的動機が達成できれば、なりたい自分の姿に近づくことができるので、意欲は失われにくく、成長が継続します。
スターバックスでは、エンゲージメントを高める取り組みの一つに、「グリーン・エプロン・カード」という制度があります。
これは、パートナーがミッション&バリューズに沿った行動を見つけたら、カードに感謝の気持ちを書いて渡す、というものです。上司が部下に渡すだけでなく、部下が上司に渡すこともあります。これにより、パートナー同士で行動を認め合う文化が育っています。
スターバックスのカンバセーションアプローチ
スターバックスでは、ハイパフォーマンスを発揮する状態を目指すために、会話を用いてパフォーマンスマネジメントを行っています。
スターバックスにおける素晴らしいパフォーマンスの重要な要素は下記の3つに集約されます。
- 「Achieving Results」:自身が取り組む、成長のためにチャレンジングでストレッチした業務と成果
- 「Living with Mission&Values」:仕事を通じて、ミッション・バリューをどのように体現するか、仕事への取り組み姿勢や行動が常にミッション・バリューに即しているかを意識すること
- 「Helping Others Succeed」:自分の役割や領域を超えて、より大きな成功に貢献すること
自分の役割の範囲内だけで仕事をするのではなく、より広い視野をもち、他のパートナーとの関わり合いを意識して、役割や領域を超えた行動をすることが求められます。これらの行動が強化されることで、主語が「I(私)」ではなく、「We(私たち)」となり、より大きな成功や、価値を生み出すことができ、より強い組織になると考えています。
こうしたハイパフォーマンス発揮に向けた取り組みの一つが「Performance & Development Approach」です。
1年を四半期にわけて、Qごとに目標(パフォーマンスゴール)と、本人のキャリア志向に基づいた能力育成計画(パートナーデベロップメントプラン)を設定します。これをベースに、四半期に1回の頻度で、マネージャーからのコーチングやフィードバックをもらい、立てた目標に対してどの程度達成できたのかをお互いに認識をすり合わせます。この対話のことを、パフォーマンス&デベロップメントカンバセーションと呼んでいます。
人事考課という形で点数をつけるわけではなく、レイティングは行わないので、「失敗したら評価が下がってしまう」といった不安を取り除くことができ、よりチャレンジングでストレッチした目標にトライできるようになるのです。
質疑応答
本セミナーでは、視聴者からの質問が多く寄せられました。モデレーターの楠田氏が抜粋したものを、鈴木様にお答えいただきました。
Q1. 新人パートナーへの教育・育成について、ミッション&バリューズを浸透するためのプログラムなどはあるのでしょうか?
A. 特別なプログラムはありません。ただ、先ほど紹介した「グリーン・エプロン・カード」など、社内で活用しているツールがミッション&バリューズに紐づけたものになっているので、常に立ち戻る仕組みができています。
パートナーの育成計画の確認は年に4回行っており、日常的にミッション&バリューズに触れて考える機会をどう作るか、現場でどんな対話をすべきかをマネージャーとも共有しています。
Q2. エンゲージメントの高さは先天的(入社時点のもの)なものでしょうか、後天的(入社後の施策によるもの)なものでしょうか?
A. 個人的には、後天的なものだと考えています。入社前はブランドイメージに引かれて入社する方が多く、最初は企業に対する忠誠心が高いことが多いです。ただ、働くなかで組織や店舗に対する愛着に変わっていきます。先輩やマネージャーから、お客様にどんな体験価値を提供したか、という話を聞いていくなかで、「自分もこんな風になりたい」と後天的に醸成されていくのではないかと思っています。
Q3. エンゲージメントの調査では、どのような分析・改善をされているでしょうか?
A. エンゲージメントが高いことで具体的にどんな成果が得られているのかは、これから分析していこうとしている最中です。モデルとしている企業はあまりなく、リーディングカンパニーとして、スターバックスでの調査自体のモデル化に着手していくつもりです。
Q4. 意欲をもって入社したメンバーが、仕事がうまくいかず能力的な限界を感じてしまうケースでは、貢献意欲が失われてしまうこともあるかと思います。その際はどのように継続的にエンゲージメントを高め続けられるでしょうか?
A. 能力的な限界を感じて貢献意欲が下がったのでしたら、一人一人の能力に合わせた配置ができていなかったということなので、能力に合った配置転換を考えます。また、接客したくて入社したパートナーにトレーナーの役割を与えると、「私は現場で接客がしたかったのに!」と貢献意欲が下がることもあります。採用時に、個人の意向をよくヒアリングすることと、各店舗のマネージャーにその情報を共有し、パートナーの状況をよく見て役割を与えることが大切だと思います。
Q5. 評価・報酬の考え方として「曖昧な評価指標」と書いてありましたが、どのような評価をするのか詳しくお聞かせください。
A. 目標達成に対する評価レイティングをやめたことが上げられます。パートナーによっては、評価指標がわかりにくいと不安に思う方もいるでしょう。期待値のすりあわせが大切だと思っているので、カンバセーションをしっかり行うことを重要視しています。
当日はほかにも多くの質問が寄せられましたが、時間の関係でお答えできる数が限られてしまいました。最後にお2人からセミナーの感想とメッセージをいただきました。
楠田:今後、リテイル企業の人材獲得競争はますます大変になっていくでしょう。労務管理だけやっているのでは、働いてくれる人はいなくなってしまう。本日鈴木さんにお話しいただいたとおり、お客様に何を提供すべきかという視点で、人材育成を考えていかなければいけないと改めて学ばせていただきました。
鈴木:こちらこそ、ありがとうございました。多くのご質問をいただき、スターバックスへの関心の高さにとても感激しています。今日、セミナーを聞いてくださった皆様と今後も意見交流をしたりしながら、ご縁を大事にしていきたいと思っています。
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執筆:田中 瑠子、編集:立野 公彦(HRreview編集部)
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