テレワークやリモートワークを導入する企業が増えていますが、さらにそこから一歩進んだ「ワーケーション」という働き方が注目されています。そもそもワーケーションとはどのような働き方なのか。また、どんなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、ワーケーションを導入することで企業が得られるメリットと、導入の際にありがちな課題とその解決策について解説します。
ワーケーションとは
そもそも、ワーケーションとは何なのでしょうか。定義を紹介するとともに、テレワークやリモートワークとの違いについても解説します。
ワーケーションの定義
ワーケーションとは「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた言葉です。
従来はオフィスに出社して働くワークスタイルが一般的でしたが、昨今では働き方改革を推進する施策の1つとして、観光地で仕事をしつつ休暇もとれる新たな働き方として注目されています。
ワーケーションとテレワーク・リモートワークの違い
ワーケーションと似た働き方として、テレワークやリモートワークなどが挙げられることがあります。テレワークやリモートワークは、自宅またはコワーキングスペースなど、会社のオフィス以外の場所で仕事をする働き方です。これに対してワーケーションは、リゾート地や観光地において仕事と休暇を両立することを目的とした、新たなスタイルの働き方といえます。
株式会社クロス・マーケティングが2020年8月に調査した結果によると、テレワークやリモートワークという言葉の意味を理解している労働者は約90%以上、ワーケーションも約70%以上の認知度に達していることが分かりました。しかし、実際に導入している企業の割合はテレワークが約36%、ワーケーションに至っては約10%となっており、一般的に定着しているとはいえない状況です。
参考:ワーケーションに関する調査|株式会社クロス・マーケティング
ワーケーションの歴史
ワーケーションの歴史は、2000年代のアメリカが発祥とされています。当時、インターネットとノートPCが登場したことにより、オフィスでなければ仕事ができないという物理的な制約がなくなったことが大きな要因といえるでしょう。
近年、日本では働き方改革に取り組む企業が増え、ワークライフバランスの向上と有給休暇の取得が促進されています。また、テレワークやリモートワークも多くの企業で行われるようになり、オフィス以外の場所で仕事をすることが珍しいものではなくなりました。
日本では2017年頃から大手民間企業がワーケーションを取り入れ始め、全国の自治体においてもワーケーションを受け入れようとする動きが加速しています。
参考:JALのワーケーション導入事例|観光産業ニュース「トラベルボイス」
新型コロナウイルス感染症の影響で注目度が高まっている
新型コロナウイルス感染症の流行にともない、観光業は大打撃を受けることとなりました。これを受け、政府は2020年7月の観光戦略実行推進会議で、ワーケーションを「新しい旅行や働き方のスタイルとして支援していく」と宣言し、観光業における新型コロナウイルス感染症からの経済的復興を狙いとして、ワーケーションを重要な施策と位置づけたのです。
働き方改革を推進する目的以外にも、新型コロナウイルス感染症からの経済的な復興の一環としてワーケーションに注目が高まっていることが分かります。
ワーケーションのメリット
従来のワークスタイルと比較すると革新的ともいえるワーケーションですが、企業から見たときにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
1. 社員の生産性向上
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所と株式会社JTB、日本航空株式会社が共同で実施した「ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験」によると、ワーケーションの実施によって仕事のパフォーマンスが20.7%上昇したほか、ワーケーション終了後も5日間は効果が持続することが分かっています。これらのことからも、ワーケーションは生産性の向上に効果的な働き方であるといえるでしょう。
参考:ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与するワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施(株式会社 JTB)
また、ワーケーションを積極的に支援している観光地や施設では、業務に必要なデスクやチェア、Wi-Fiといった環境も整備されていることが多いため、効率的に仕事を進められることも大きなポイントです。
2. 社員の満足度向上
普段とは異なる場所で仕事ができれば、社員は心身ともにリフレッシュできて満足度向上につながります。先ほど紹介した「ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験」においても、ワーケーションによって心身のストレスが37%程度軽減することが判明しています。
参考:ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施|株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所
また、社員本人だけではなく、家族と一緒にワーケーションを利用することでワークライフバランスは向上し、社員の仕事に対する意欲も向上します。
3. 有給休暇の取得促進
日本の多くの企業は有給休暇の取得率が低い傾向にあります。2019年10月~11月にエクスペディアが調査した結果によると、日本の有給休暇取得率は約50%となっており、これは世界12カ国中最下位にあたります。
参考:有給休暇取得率4年連続最下位に!有給休暇国際比較調査2019|エクスペディア
ワーケーションを導入することにより、たとえば「7日間の休暇期間中、2日間のみを滞在先で仕事日に充てる」など、柔軟なスケジュールを組むことができます。従来は1日でも外せない仕事が入ってしまうと、長期の有給休暇を取りづらい仕組みになっていましたが、連続した期間のなかにも、仕事と休暇を柔軟に組み合わせられるワーケーションによって、有給休暇の取得促進にもつながっていきます。
4. 革新的なアイデアの創出
毎日同じ環境で仕事をしていると、新たなアイデアが浮かばなくなることもあります。ワーケーションは普段とは異なる環境やリズムのなかで仕事を進められるため、それまでにないアイデアが浮かぶ可能性も高まります。特にクリエイティブな仕事をするうえでは最適な環境といえるでしょう。
ワーケーションのデメリット・課題
ワーケーションの実施にあたっては、必ずしもメリットばかりとは限らず、デメリットや解決すべき課題もあります。
1. 労務管理
ワーケーションでは、たとえば1日のうち数時間を業務に充て、それ以外を休暇にするといった働き方も可能です。しかし、現在誰がどのような仕事をしていて、誰が休暇を取得しているのかが分かりづらいといった側面もあります。
すでにテレワークなど柔軟な勤務制度に対応できる労務管理システムを導入している場合は、ワーケーションの労務管理のハードルも低いかもしれません。しかし、そうでない場合は、まずどのように労務管理をしていくか、その制度や仕組み化を構築することがそもそも大きな壁となり、ワーケーションの導入を諦めてしまうケースもあるようです。
2. セキュリティ対策
社外で仕事をするうえで、PCの紛失による情報漏えいや不正アクセスなどのセキュリティ面での課題が残ります。株式会社クロス・マーケティングが実施した「ワーケーションに関する調査」においても、組織へ導入する場合には約21%が「情報漏えいが不安」と回答しています。
また、不特定多数の観光客が訪れる場所では、打ち合わせの会話が社外の人間に聞こえてしまい、機密情報が漏れる心配もあります。
3. 費用の負担範囲
たとえばワーケーションを利用して家族旅行を計画する場合、どこからどこまでの範囲で会社が旅費を負担するのか、または社員が支払うのかについて明確なルールがないと、問題につながるケースもあります。ワーケーションにともなう交通費や宿泊費の支給ルールが曖昧だったがために、トラブルに発展する可能性もあります。
4. ワーケーションに対応できない業務もある
全ての業務が必ずしもワーケーションに対応できるとは限りません。たとえば個人情報を扱う業務では、企業のセキュリティポリシーによって社内の限られた場所でしか業務ができないケースも多いものです。ワーケーションに対応できる社員と、そうでない社員の間で不公平感が生じることも考えられます。
ワーケーションの課題を解決するための対策
ワーケーションのデメリットや課題を解決するためには、どのような対策が効果的なのでしょうか。それぞれの課題に対応した解決策の一例を紹介します。
1. 勤怠管理システムの活用
労務管理の課題解決に向けては、テレワークやリモートワークでも活用できるクラウド勤怠管理システムを導入する方法があります。勤怠管理システムを選ぶ際には、中抜けや午前・午後半休など臨機応変に勤怠の打刻が可能なシステムを選ぶことがおすすめです。
また、誰が何の業務を行っているのかが分かるように、スケジュール管理ツールを活用し、社員同士がお互いに状況を把握できる仕組みも構築しましょう。
2. 各種セキュリティツールの活用と社員への周知
VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)やセキュリティ対策ソフトなど複数のツールを活用し、セキュリティ対策を万全に行っておきましょう。さらに、PCやスマートフォン、タブレット端末などを紛失するリスクもあるため、万が一の事態に備え遠隔でのリセットが可能なMDM(モバイル・デバイス・マネージメント)の導入も検討する必要があります。
万が一、情報漏えいや端末の紛失があった際の対処法をマニュアル化し、社員に周知徹底しておくことも重要です。
3. 費用に関する明確なルールの設定
費用の負担範囲の問題を解消するためには、交通費や宿泊費、出張手当などの支給ルールを明確化しておくことが重要です。たとえば交通費は社員本人分のみの往復分、宿泊費は会社が指定した宿泊先に限り支給対象とするなど、ワーケーションを導入する前にあらかじめルール化しておくことで、費用面でのトラブルを避けることにつながります。
4. 業務割り当ての工夫
ワーケーションが利用できる社員とそうでない社員の不公平感をなくすために、業務の担当をローテーションするなどして、希望者はワーケーションを利用できるような工夫が求められます。
ワーケーションへの取組事例
日本ではまだまだ事例の少ないワーケーションですが、そのようななかでも積極的に取り組んでいる企業や自治体が存在します。ワーケーションを導入するうえでヒントになる事例をいくつか紹介しましょう。
自治体との連携
ワーケーションの実現には観光地の選定が重要ですが、特に仕事と休暇を両立するためには、業務に専念できるスペースの確保が求められます。ワーケーションに積極的な企業のなかには、自治体と連携してワーケーション専用のコワーキングスペースやサテライトオフィスを開設する動きもあります。
部署やチーム単位で仕事ができるようなミーティングスペースを確保することはもちろん、ワーケーション専用のツアーやプランを自治体と共同で企画している企業も存在します。
ワーケーション体験ツアーの実施
社内でワーケーションを制度化しても、社員がなかなか利用してくれないケースもあります。なかには「自分自身は積極的に活用したいものの、上司や先輩社員が利用していないため気が引けてしまう」「そもそも仕事と休暇を本当に両立できるのか疑問」と考える社員も少なくありません。
そこで、できるだけ多くの社員にワーケーションという働き方を体験してもらうために、会社や部署単位でワーケーション体験ツアーを実施している事例もあります。魅力的でメリットの多い働き方であることを知ってもらうためには、実際に身をもってワーケーションを体験してもらうことが何よりも重要といえるでしょう。
長期休暇中の一部も勤務時間として認める
長期休暇をとりたいものの、どうしても外せない打ち合わせがあるなどの理由で断念するケースもあります。そこで、社員の休暇中であってもリモートでのミーティング参加を可能にし、たとえば業務を行った数時間のみを休日出勤として認める、などの対応をする企業もあります。
部署やチーム単位でワーケーションに参加するだけではなく、社員の予定に合わせてフレキシブルに勤務時間を調整できるようにすることで、有給休暇の取得促進につながっていきます。
ワーケーションにおすすめのスポット
ワーケーションに最適な観光スポットとして、具体的にどのような場所があるのでしょうか。今回はワーケーションに特に力を入れて取り組んでいる3つの自治体をピックアップして紹介します。
和歌山県
和歌山県は県を挙げてワーケーションを推進しており、県の情報政策課では「WAKAYAMA WORKATION PROJECT」を立ち上げ、これまで多くの企業のワーケーションを支援してきました。
古民家を改修したワークスペースやコワーキングスペース、ゲストハウスなどを設置し、格安で宿泊できるプランも用意しています。一般的なホテルや旅館の場合、長時間にわたって効率的に作業ができるスペースが確保されていないところも少なくありません。また、地方ではコワーキングスペースなども数が少なく、仕事に集中できるスペースを探すのに苦労することもあります。
和歌山県では、あくまでもワーケーションがしやすい環境に力を入れており、仕事のしやすさにこだわった施設が多数整備されています。同時に、地域の観光資源を活用し、和菓子作りの体験や農作業を体験できるツアーなども用意しており、仕事も観光も満喫できる魅力的なスポットとして注目されています。
参考:Wakayama Workation Networks(ワカヤマ ワーケーション ネットワークス)
長野県 白馬村
長野県白馬村では「ふるさとテレワーク推進事業」を実施しています。白馬ノルウェービレッジをワーケーションの拠点として整備し、コワーキングスペースやミーティングルームも完備し業務に集中できる環境が構築されています。
個人での利用以外にも、部署やチーム単位で訪れ、普段とは異なる環境でディスカッションやミーティングをすることにより、新たな事業アイデアが生まれることも期待できます。
周辺には多くのスキー場があるため、ウィンタースポーツを楽しみながらワーケーションに参加し、社内の親睦を深めたい方には最適な拠点といえるでしょう。
新潟県 糸魚川市
新潟県糸魚川市では、「日本海シーサイドテレワーク」というプロジェクトを立ち上げ、ワーケーションの環境を整備しています。「おためしワーケーション」として、無料で利用できるワークスペースを確保し、海に面した「レストラン漁火」は日本海を一望できる絶景が広がります。また、古民家を改修した移住体験施設では7日間まで無料で宿泊が可能です。
ワーケーションを検討しているものの、本当に効果があるのか不安に感じている社員や、できるだけコストをかけずにワーケーションを体験できる場所を探している企業にとっては最適なスポットといえるのではないでしょうか。
ワーケーションで働き方改革を促進
ワーケーションは、テレワークやリモートワークからさらに一歩進んだ新たな働き方といえます。新規事業のアイデア創出や生産性の向上、業務効率化を実現するためには、普段働いている場所から環境を変えてみるのも1つの方法です。
ワーケーションが当たり前に利用できるようになると、社員のエンゲージメントも向上し企業にとって多くのメリットがもたらされると期待されます。ワーケーションの実現と定着に向けてはさまざまな課題があることも確かですが、今回紹介した内容を参考に、ワーケーションの実現に向けて前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
※記事の内容は記事公開時点での情報です。
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