人材育成の方法については、多くの企業が課題を抱えています。人事担当者としては、人材育成について学び、自社に必要な人材を効率的に育てたいと思われるのではないでしょうか。
この記事では、人材育成の必要性や課題解決のポイント、その取り組みが企業にもたらす恩恵を紹介します。また一歩進んだ人材育成の方法も見ていきましょう。
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人材育成とは?

企業の成長にとって、人材育成は重要度の高い課題です。しかし、そもそも「人材育成とは何か」について、明確に答えを持っている人は少ないのが実情。それは、人材育成を担うはずの人事担当者も例外ではありません。
人材育成について深く理解しないまま進めようとしても、解決すべき課題が見えることはなく、期待した成果も得られないでしょう。ここでは、人材育成の意味と定義、企業にとって人材育成が必要な理由を紹介します。
人材育成の意味と定義
人材育成とは、社員を「企業の経営戦略や業績向上の実現に貢献できる人材」として育てることです。そうはいっても、必ずしも経営幹部を育てること、〇億円を売るセールスパーソンを育てることが目的ではありません。自立した社員として責任ある行動をとることができ、的確な判断ができるスキルを身につけた人材に育てることが重要です。
最終目標は、育てた社員が経営やプロジェクト運営の責任者相当の役割を担う人材として活躍すること。人材育成を「業務をこなせる従業員を育成すること」だと認識している人も少なくありませんが、いわゆる「一人前」にすることとは異なるので、注意が必要です。
長期的な人材育成では、将来的に企業にとって必要となる人材が持つべき能力を磨いていきます。そのためには、日常業務における正確性や迅速性はさることながら、自社の掲げる目標を理解することも必要です。成長とともに、企業の業績向上にも意識を向けられるようになり、仕事へのモチベーションも高くなっていくことが望ましいでしょう。
現代企業における人材育成の必要性
現代企業において、人材育成は重要度を増す一方、取り組むべき必要性を理解していない人も少なくありません。従来の日本企業における人材の育て方と、現代の「人材育成」は性質が異なるためです。
高度経済成長期は、終身雇用と年功序列制度が企業の「当たり前」として認識されていました。社員は企業による管理の対象であり、守られる存在だったのです。そのため、個人の育成を積極的に行う企業は少なく、全体の足並みをそろえることが重要とされていました。
その後、ITの普及により事態は一変します。インターネットによる業務の効率化はビジネス環境を激変させ、突出した専門性やスキルが必要とされるようになったのです。現代の日本では、社員一人一人の能力を向上させることに力を入れる企業が増えています。
また、現代の日本では、社員一人一人に対して、高い能力が求められています。能力の高い優秀な人材によって、他社と差別化できる商品やサービスを生み出し、企業力をアップさせることができます。
しかし、優秀な人材は簡単に見つかるものではありません。見つかったとしても、社風とマッチしない場合もあるでしょう。そこで重要になってくるのが人材育成です。現代の日本企業において、人材育成は経営戦略の要となっています。
そうはいっても、人事部だけがこの役割を担うのは限界があります。「育てることで自分も育つ環境」をつくるためにも、組織全体で取り組むべき課題として認識することが望ましいでしょう。
人材育成が企業・組織にもたらす恩恵
現状、日本企業は深刻な人手不足に直面しており「2030年には約1,000万人の労働力が不足する」といわれています。多くの人材を集め、その「数」に頼っていては、いずれ限界がくるでしょう。このような状況を乗り越えるには、社員の能力を向上させ、生産性を高めることがもっとも現実的です。
そのためには、今後の自社のビジョンを踏まえたうえで、今後の社会において求められるスキルを社員自身が磨いていく必要があります。ひいてはそれが、企業の明るい未来をつくるでしょう。
人材育成の状況は、そのまま企業や組織の利益に結びつくといっても過言ではありません。人材が育たず、社員の早期退職となれば企業にとっては大きな損失です。たとえ大企業でも新卒入社から3年以内で退職するケースが珍しくありません。
採用活動には多くの費用がかかるうえ、たとえ短期間であっても育成にはコストが発生します。早期の退職とならないよう、企業として工夫する必要があるでしょう。
一方、人材育成が順調であれば、社員は仕事にやりがいを覚え、結果として人材を定着させることができます。育てる側のやりがいにもつながり、好循環を生みます。このような環境をつくるためには「なぜ辞めてしまうのか」という問題に目を向けることが大切です。
優秀な人材は「この会社では成長できない」と感じたら、他社に自身の成長を求めるようになります。こうなると、退職の決断をするまで時間はかかりません。成長できる環境があれば退職を防ぐこともできるので、学びの場を用意するなど、人材育成に力を入れることが企業に求められています。
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2. 企業が抱える人材育成の課題

経営戦略として人材育成を掲げる企業も増えています。一方、人材育成には課題も多く、難航してしまうことも少なくありません。
人材育成を実施するにあたり、自社のどこに課題があるのかを把握していないケースもあり、力を入れているはずなのに成果が出ないという現実に直面することもあります。ここでは、企業が抱える人材育成の課題を紹介します。
人材が育つための社風・企業風土が整っていない
企業風土は、その企業が長年にわたって築いてきたものであり、すぐに変えられるものではありません。それゆえに、個人がいくら能力を磨こうと思っても、企業風土がそれを許さない状況が生まれている場合があります。人材が育たないのは個人の問題ではなく、企業側に問題がある可能性もあるのです。
たとえば、組織や社内の一体感が減退している状況においては仕事が身勝手なものとなり、企業の業績向上などは人ごとになってしまいます。仕事に対するモチベーションが低い人材が多い組織は、意欲のある社員にとっては居心地の悪い環境となってしまうでしょう。
年功序列である、明確な昇給基準がないという企業では、社員が納得する人事評価が行われていないこともあります。成果を出しても評価されない環境は、社員のモチベーションが下がってしまいます。成長意欲を刺激されない風土では、優秀な人材が育たないばかりか、才能の芽を摘んでしまうことにもなりかねません。いま一度、企業風土を見つめ直してみることが大切です。
人材育成に明確な目標がない
人材育成でもっとも重要なのは明確な目標です。企業が求める人材のスキルや人材像が明確でない場合、企業と社員が目標を共有できません。人材育成の目標がないことは課題のひとつであり、早急に改善が必要です。
社員が自身の成長に対してポジティブに取り組むためには、具体化された人材像のイメージが必要不可欠です。言語化されていれば、さらにイメージを共有しやすいでしょう。部署や年代、職種、ポジションなどに応じて必要な知識やスキルのレベルを明確にしておけば、社員も目指すべき目標を定めることができ、成長が加速するでしょう。
ここで大切なのは「人材の成長=企業の成長」であることを認識することです。企業と社員が違う方向を向いていては成果を出すことはできません。「企業が求める人材像」と「社員の目標」をリンクさせることが大切です。
人材育成は、専門の外部講師の力を借りるのも有効な方法です。しかし、自社の課題を把握できていなければ、人材育成を丸投げすることになります。外部講師は基本的に、人事部や営業部などの要望に沿ったプランを提示しますが、要望すらないとなれば一般論しか教えられません。人材育成について具体的な要望がない場合、まずは自社の課題を把握することに目を向けましょう。
研修内容の充実度
研修は人材育成に欠かせない要素です。しかし「誰に、いつ、どのような」研修をするべきかわからず、充実度の低い内容となっているケースも少なくありません。
「現場ですぐ生かせる研修を受けさせたい」「社会人としての基本的なマナーをもっと学んでほしい」「研修にプログラムやコンテンツが少ない」など、研修について社内から要望が上がっている場合は、自社の研修内容を見直し、より現場の課題に即した研修を実施できないか、確認してみる必要があります。
人材育成において、研修は、新卒入社や中途入社の社員に対するものだけでなく、管理職の社員に対するマネジメント研修も非常に重要です。目標や課題を設定するといった指導者としての力は、現場の仕事をこなしているだけで身につくものではありません。
また、面談やコーチングおよびトレーニングをスムーズに行うためには、部下と良好な関係を築く力が必要になります。そのほかにも、部下に動機付けをし、積極的な姿勢に導くための力や、管理職の社員自身の自己啓発も、指導者として欠かすことのできない要素です。
もちろん、OJTやロールプレーイングといった、現場で必要なスキルを磨く必要もあるでしょう。マネジメント研修ではさまざまなプログラムがあり、研修を通して「育成力」を鍛え、育てるべき人を育てていきます。人材育成では、しばしば成長の度合いが問題になります。同じ研修を受けたからといってすべての社員が同じように成長するわけではありません。
また、育成方法がその人の個性に合わなければ、望ましい成長は見込めないでしょう。人材育成の流れを定着させるためには、人材の育成レベルや育成方法を、人事担当者と現場の育成担当者で共有することが大切です。
人材育成の成果が評価されていない
人材育成の成果が正当に評価されていない企業では、人材育成が進みにくい傾向があります。人事や採用業務は、企業の将来を左右する仕事でありながら、企業としての成果にすぐに直結するものではありません。しかし正当に評価されなければ「採用・人材育成業務はビジネスキャリアとして有効なのか」と疑問を持つ人事担当者も出てくるでしょう。
ここで重要なのは、人材育成とは時間がかかるものであるという認識です。採用した人材がその日からすぐに活躍するケースは極めてまれであり、基本的には中長期的な戦略と考える必要があります。
それにもかかわらず、人事担当者に対する評価基準が求人の応募者数や採用目標数の達成度、採用した人材の経歴や学歴、採用コストの最適化などであれば、高い評価は得にくいと考えられます。人事担当者が自身のキャリア形成に不安を感じたとしても不思議ではないでしょう。
管理職が部下の育成を行っている企業でも、人材育成の成果による評価が具体的に明記されていることは少ないのが実情です。どれだけ優秀な人材を育てても、成果が評価されなければ育てる意味さえ見いだせなくなってしまいます。「部下を育てるよりも自分で成果を出そう」となるのは当然の流れともいえるでしょう。
このような事態を防ぐには、人事担当者や教育担当者が「人材育成は社内での優先度が低い」「自身へのメリットが少ない」と感じることのないような評価基準を設けることが必要です。企業における人材育成の重要性を会社全体に周知しましょう。
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3. 人材育成の課題を解決するポイント

人材育成については多くの企業が課題を抱えており、解決の糸口を見つけるために試行錯誤している企業も少なくないでしょう。しかし、社員自身の人生に影響を与える問題でもあるため、いつまでも解決を先延ばしにしていては、事態が悪化する可能性もあります。今後の育成方針や将来的な企業ビジョンを明確化し、実現するためにも課題の解決は最優先事項といえます。ここでは、人材育成の課題を解決するポイントを紹介します。
組織内の役割ごとの課題を見直す
人材育成に求めるものは、組織内の役割や立場によって異なるのが一般的です。たとえば、経営者が考える人材育成とは、企業の成長を維持するためのものです。見つめているのは企業の将来であり、実際の業務ではありません。
そのため、人材にはリーダーシップを持ってほしいと願い、先見の明を養うことが重要だと考えるでしょう。また、上司や経営陣の指示に従うだけではなく変革意識を持つことも、優秀な人材の条件であると認識しています。
一方、部長・課長などのミドルマネージャーは業務における目標を達成することが最優先事項です。まずは部署の売り上げを伸ばせる人材を育てたいと思うでしょう。そのため、営業力の強化や提案力を磨くことに注力し、その結果をもって企業の業績向上に貢献できると考える傾向にあります。
現場で動く社員は、基本業務の習得が課題となります。先輩社員のサポートがなくてもクレーム対応ができる、時間を自分でスケジューリングできるなど、一人前の社員に育てることが目標です。また、プレゼンテーションスキルや効率性など、業務を滞りなく進めるための教育も現場で働く先輩社員の役割となるでしょう。
このように、同じ社内でも人材育成に対する認識は異なります。これらの認識を完全に統一することは難しいでしょう。しかし、組織内の役割や立場によって異なるニーズや課題を整理しなければ、適切な人材育成は実現せず、社内の一体感を欠くおそれもあります。ただやみくもに「優秀な人材を育てよう」と目標を掲げるのではなく、役割ごとに人材育成に求めるものをリストアップし、育成計画を立てることが重要です。
各部署・現場の声を把握する
人事担当者や、時には経営幹部が各部署に対してヒアリングを実施し、現場の実情を把握することも、人材育成における課題解決のポイントでしょう。体系化が進んだ企業では、業務ごとのセクション化が進んでいることが多く、現場の実情を経営幹部や人事担当者が知らないことも少なくありません。
現場との間にできた壁が、人材が育たない企業風土の発端にもなり得るのです。そのような事態を防ぐためにも、リーダーシップをとって人材育成の指針を定めていく人間が現場の実情を知ろうとする姿勢を持つことが求められます。
現場の実情を把握することで人材育成における課題が明確になり、組織全体の業務サイクルを見直すきっかけにもなります。特に「どんな仕事を誰がどのように担っているか」を把握することは非常に重要です。それぞれの部署・年次・階層に配置されている人数や業務内容、効率性なども、人材育成の計画を立てるにあたって確認しておくべきポイントといえるでしょう。
現場にいる社員に解決したい課題をヒアリングするのも効果的です。生の声には、もっとも重視すべき問題が潜んでいることもあります。現状の課題が判明したら、人材育成のための教育で解決できるかどうかを検討し、現場と連携をとって改善に努めましょう。
将来的な自社のビジョンや人員構成を想定する
人材育成の課題を解決するには、自社の未来予想図を描くことも有効です。「〇人の社員で売り上げ〇億円」というビジョンを立てたら、次は現在の人員構成を年齢別・スキル別・役職別に把握し、3~5年後にはどのような構成に変化しているかを想定します。
すると「管理職スキルを持つ人材を〇年後までに〇人育成する必要がある」といった具体的なビジョンが見えてくるでしょう。自社のビジョンの想定にあたっては、経営陣が将来的に行いたい事業などを確認することが重要です。
経営陣は、ミドル層や現場担当者とは異なった人材像を求めていることが多い一方、そのイメージに合う人材とのマッチングがうまくいかず、悩んでいるケースも少なくありません。
人事担当者は、人材育成によって事業の拡大や実現を支援するべきであり、それがもっとも重要な使命といえるでしょう。
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人材育成手法の種類と選び方

人材育成における課題を洗い出し、人材に求めるスキルが明確になったら、費用対効果や現場が負担するリソースなどを考慮して育成方法を決めていきます。また人材育成には複数の方法があり、自社の目的に合う方法を選ぶことが大切です。
集合研修による育成
まず、集合研修による人材育成です。ビジネスシーンにおける一般的な知識やスキルを習得できること、大人数で一度に同一内容の研修が受けられることは集合研修ならではのメリットです。一方、研修には講師が必要となるため、外部講師に依頼する場合は費用がかかります。
OJTによる育成
OJT(現場教育)は、現場ですぐに活躍できるような実務能力を身につけやすいことが特徴です。教育担当者による「手とり足とり」の指導が基本となるため、高コストになりやすい側面があります。通信教育やeラーニングなどは、時間や場所の拘束がなく好きな時間に学習できることから、急速に導入が増えています。しかし、成長度が社員の自主性に左右されやすく、急速に成長する人材と成長が伸び悩む人材との差が顕著に出るという問題もあります。
自己啓発による育成
3つ目は自己啓発によって、社員自身にスキルアップを促していく手法です。企業側は社員が自主的な能力開発に努めるように促し、情報提供や費用を負担するなどして、サポートをします。管理職は、社員一人一人の学びたい欲求をしっかりと認識し、それに合った課題に取り組めるよう導いていくことが大切となります。
育成方法にはそれぞれにメリットとデメリットがあり、一概にベストな方法を決めることはできません。職種や個人の特性によっても、効果が出やすい方法は異なります。コストなども踏まえたうえで効果的かつ負担が少ない方法を選ぶことが大切です。
長期的な視点で課題を捉え、人材育成を実践する

人材育成には課題がつきものです。それでも、長期的な視点で課題を解決して育てることで、社内の生産性を向上させることができます。人材育成担当者として最適な人物がいなければ、採用活動を通して優秀な人材を迎え入れるのもよいでしょう。
長期的な視点を持って育てた人材が、ゆくゆくは企業に大きな利益や成長をもたらすと考え、人材育成を実践していきましょう。
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