海外へ事業展開する日本企業が増加するにつれ、海外事業を任せられる「グローバル人材」や「グローバルリーダー」のニーズが高まっています。政府もグローバル人材の不足を強く意識しており、その育成は待ったなしの国家規模での課題です。
こうした状況のなか、企業はどのようにグローバル人材を確保すればよいのでしょうか。今回は、グローバル人材の定義とともに、その採用と育成に向けた環境整備の基本についてご説明します。
1. 企業の将来を担うグローバル人材とは
「グローバル人材」について具体的にどのような人材か、政府が公的な見解を示しています。どのような人材がグローバル人材に当たるのか、まずはその要素を見てみましょう。
1-1. グローバル人材が持つ要素
グローバル人材とは、一般には「日本国内のみならず海外での活躍が期待される人材」と考えられています。英語に翻訳することは難しいのですが、「global human resources」や「global person」「global talent」とされることが多いです。
政府の設けた「グローバル人材育成推進会議」では、グローバル人材はおおむね次の要素を満たすと考えられています。
上記の3要件に加えて、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークとリーダーシップ、公共性・倫理観、メディアリテラシーなどが挙げられています。国がグローバル人材に求める能力は、極めて広範囲に及ぶのです。
政府がわざわざグローバル人材を定義する背景には、グローバル化が進む現代社会において、日本のプレゼンスを高めたいという意向があると考えられます。
グローバル化の進展に伴って、国内外問わず外国人とともに仕事をする機会が増えています。文部科学省や総務省、経済産業省などでは、日本人としての強みを生かしグローバルで活躍できる人材の育成や確保を視野に入れ、各種セミナーや推進プログラム、海外研修などさまざまな政策を打ち出しています。
1−2. グローバルリーダーとは
グローバル人材の中でも特に「国をまたいでリーダーとして活躍できる人材」は、グローバールリーダーと呼ばれます。
グローバルリーダーは「海外でも通用する語学力がある」「海外での就労経験を持つ」などのハードスキル・経験を持つだけでなく、グローバルで活躍するためのコミュニケーション力やマインドセットなどのソフトスキルも持ち合わせていることが求められます。
単に海外で通用する語学力などのスキルを持つだけでなく、上記のような能力(ソフトスキル)を持つ人が、グローバルリーダーといえる人材でしょう。
1-3. グローバル人材が必要とされる主な背景
海外との接点が多い中央省庁等のみならず、一般企業のビジネスレベルでも、グローバル人材に対する需要は増しています。
その背景には、海外へ進出する企業の増加、人口減少や少子高齢化に伴う国際競争力低下への懸念、語学力の優れた日本人が少ない状況などがあります。
特に海外市場の開拓に向けて、多くの企業がグローバル人材の確保へ躍起になっているのが現状。特に海外現地法人のマネジメント職や市場開拓のための営業担当など、長期にわたって現地に駐在し成果を上げられる人材が求められています。
2.グローバル人材を採用・育成するときに重視したい能力
先ほどご紹介したグローバル人材育成推進会議の見解等に基づいて、グローバル人材に必要な能力について、より詳しく説明していきます。
2-1. 語学力、コミュニケーション能力
英語はもちろん、進出する地域の言語を使いこなせることが理想です。少なくとも、ビジネスで不自由なく読み書き・会話ができる程度の英語力は、グローバル人材として活躍するために必須といえるでしょう。
加えて、言葉が理解できるだけではグローバルレベルのビジネスで、十分なコミュニケーションが図れるわけではありません。現地での採用者やクライアントなど、多様な人材と関係を構築できるコミュニケーション能力が求められます。
この「コミュニケーション能力」のなかには、異なる文化を理解できる感受性と知性、異なる価値観を持つ相手に柔軟に対応できる力など、異文化コミュニケーションに関わるスキルが含まれます。
2-2. 主体性・積極性
海外で発生する問題の解決にあたっては、前例がない対応が必要となることも少なくありません。他人に解決法を尋ねて実行するのではなく、自ら考えて積極的に行動を起こせる人でなければ、グローバルに活躍するのは難しいでしょう。失敗を恐れず、その失敗を糧にして成長する精神的な強さが求められます。
こうした人材を育成するためには、主体的な行動を推奨し、多少の失敗は許容できる組織の寛容さも必要となります。「主体的に行動してほしい」と伝えるだけでは、失敗を恐れて従業員は受動的になってしまいがちです。組織文化として主体性や行動力を求めていることを、企業理念やリーダーからのメッセージ、トラブルに対応する際の姿勢などを通じて発信する必要があるでしょう。
2-3. リーダーシップ
チームやプロジェクトをまとめるリーダーシップも求められます。海外では、年齢が若くキャリアが浅くても大きなプロジェクトを任される可能性があります。そのため、「自分が会社を引っ張る」という意識で仕事に取り組める人材でなければなりません。
リーダーシップは、チームのリーダーだけに求められる能力ではありません。メンバー一人ひとりにとっては、チームないしプロジェクトの目標を理解し、それに向かって努力することもリーダーシップといえます。リーダーシップは、海外事業に携わる全員が備えているべき資質です。
2-4. チャレンジ精神
未知の業務にも果敢に取り組むチャレンジ精神も必要です。また業務だけでなく、ビジネス習慣や文化の違いなどに直面し、思うように仕事を進められない局面も出てきます。このような状況に前向きに立ち向かえないと、ストレスで心身をすり減らしてしまう可能性が高いです。
逆境に立ち向かい、努力し続けられる能力を「セルフエンパワーメント」と呼ぶこともあります。
2-5. メディアリテラシー
グローバル人材育成推進会議の見解では、グローバル人材に限らずこれからの社会の中核を支える人材に求められる要素として、メディアリテラシーも挙げられています。情報収集や発信に際して、的確なメディア選択やメッセージの考案などを行えることが重要です。日本語だけでなく英語で自在に情報の検索や発信ができる必要があるでしょう。
3. グローバルリーダーに必要とされる能力
グローバル人材の中でも特に「グローバルリーダー」を求める企業は、上記の能力に加えてより重視したいポイントがあります。グローバルリーダーを採用・育成したい企業がチェックすべき、3つの能力を確認しましょう。
3-1. 自ら主体的に学ぶ学習能力
変化が激しいグローバル市場。これまでの経験や知識に固執することなく、次々と新しい知識を吸収する必要があります。吸収した多様な知識をもとに、さらに今後の展開を予想しながら業務を進める必要があることも多く、必須の能力といえるでしょう。
3-2. 多彩な人材の考えを理解し、自らの主張も正しく伝えるコミュニケーション能力
グローバルリーダーを求める企業は、評価基準を語学力に限定することなく、総合的な人間力の高さを確認することが重要になってくるでしょう。グローバルリーダーには、相手の話の意図や背景を深く理解し、自身の考えを正しく伝える能力が求められます。
3-3. 大規模なプロジェクトを牽引する統率力
グローバルに展開するプロジェクトでは、複雑で不確実な要素もあるでしょう。グローバルリーダーは、自分の力だけではなくチームメンバーの資質を把握しながら、個々のメンバーが能力を発揮する後押しをしなければなりません。
高い水準の計画性や業務遂行能力などを持って、大規模なプロジェクトに取り組み、推進させる能力が求められます。
4. グローバル人材・グローバルリーダーを育成・採用するには?
ここまでご紹介してきた通り、グローバル人材・グローバルリーダーに求められる要件は多く、採用するのも育成するのも容易ではありません。ここからは、グローバル人材・グローバルリーダーを確保するためのポイントについて整理をします。
4-1. グローバル人材を採用するポイント
はじめからグローバル人材として、申し分ない人材の採用を実現できるのは理想でしょう。しかし現実には、なかなか難しい面もあるかもしれません。そのため、グローバル人材になりえる「原石」の採用をファーストステージとし、その後自社で育成するという戦略が現実的だと考えられます。
また事業の海外展開や海外企業との業務提携など、自社の方向性を把握することが重要です。自社の事業特性やフェーズをふまえて、求める人材要件を確定させましょう。
政府の定義するグローバル人材はあくまで一般的な定義。自社のビジネスを発展させるための、具体的なグローバル人材像は、自ら検討する必要があります。
もちろん、政府が挙げる語学力や異文化理解力、チャレンジ精神などは採用基準として考慮してもよいでしょう。特にどういったスキルや能力を優先するのかを明確にし、それを備える人材の採用を目指します。不足している点があれば、採用後に育成すればよいと考えるわけです。
また、選考段階でグローバルなスケールで仕事をしたいか否かのモチベーションを問うようにしましょう。
4-2. グローバル人材を育成するポイント
グローバル人材の育成方法を考える前に、その必要性や人材要件を組織全体に浸透させることが大切です。
異文化に対する先入観や固定観念を排除するとともに、ダイバーシティ(人材の多様性)を意識した組織作りが求められるでしょう将来的に事業のグローバル展開を任せられるように、社員を育成する環境を整えることが効果的です。
世界で通用するコミュニケーション能力やマネジメント能力を育てるためには、文化の異なる相手のライフスタイルや価値観に配慮しつつ、自分の意見を主張するという高度なコミュニケーション術が必要。育成のためには、特定の「グローバル人材候補」向けにセミナーを実施したり、書籍で学ばせたりすることに加え、実体験を積ませることを意識するべきでしょう。
4-3. グローバルリーダーを育成するポイト
グローバル人材候補として採用した人材を、さらに「グローバル人材」として育成したい場合、さらなる教育環境の充実が求められるでしょう。採用した人材が能力を向上させられる環境を用意し、育成する教育プログラムの導入検討が一つの手です。
ここではグローバルリーダーを育成するための、2つの教育方法をご紹介します。
4-3-1.選抜型教育を実施
社員に英語力向上を求める企業は増えつつありますが、グローバルリーダーに求められるビジネスレベル以上の語学力、加えて国際的な教養を身に付けてもらうには、より高い水準の研修や経験が必要。その場合、全社員一律に提供する研修などでは限界があるでしょう。
「リーダーとなりうる人材」を見極めて、国内での特別な研修プログラムを実施することに加え、「ビジネススクールに通う費用を負担する」「若いうちから海外での会議などイベントに参加させる」など、集中的に育成することが大切です。
しかし全社員のなかから少数を選抜するということは、選抜が不適切であれば、選ばれなかった社員のモチベーションを損なう危険性もあります。選抜は慎重に行う必要があります。
4-3-2.海外MBA留学をさせる
MBAとは「Master of Business Administration」の略で、「経営学修士」と訳され、ビジネスの専門家であることを示す「証明書」のようなものです。会計士、弁護士のように法律で定められた、業務独占資格ではありません。
日本から、海外のビジネススクールに留学する場合、語学力を判定する試験を受けて、基準以上であることが入学の条件になります。MBAには、入学試験はなく、出願時に提出する資料から総合的に評価し、入学者を選ぶ方法が採用されています。書類審査の際に提出が求められる主な書類には、願書や卒業証明書に加え、英語のスコア(TOEFLやGMAT)エッセイ(志望動機書)、推薦状、レジュメ(職務経歴書)などが挙げられます。
海外MBA留学の価値は経営学を学べるだけではなく、そこでの人脈形成や、海外で暮らすことによる意識向上にあります。
社内の優秀な人材をグローバル人材に育成する機会として期待できる一方、企業としては留学費用と不在期間の人員配置などの負担もあることを忘れてはなりません。双方を考慮したうえでの判断が必要でしょう。
5. グローバル人材の育成に欠かせない「尊重」と「主張」
グローバル人材・グローバルリーダーに求められる要件はいくつもありますが、何より相手の立場を尊重しつつ、自分の意見を主張できることが最も重要です。日本国内のビジネスでもこうしたコミュニケーションは必要ですが、海外展開を意識するのであればその重要性はさらに増すと考えられます。
グローバル人材を自社に確保するのであれば、戦略的な採用・研修体制が欠かせません。まずはどんな人材を自社が必要としているのか、経営層や人事(HR)担当、そして現場が一丸となって検討するべきでしょう。
6. 「グローバル企業」への第一歩として
グローバル人材・グローバルリーダーを、採用・育成するのが初めての企業は、候補者の採用要件の定義はもちろん、スカウトや面談・面接時において不安な点も多いのではないでしょうか。
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