オンラインでのオンボーディング、3つの実践ポイント|人材採用のニューノーマル vol.4


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新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、働き方や採用活動が大きく変化した2020年上半期。オンラインでの採用活動に少し慣れたのもつかの間、次なる課題として人事・採用担当者を待ち受けるのが「オンラインでのオンボーディング(新人適応)」です。

株式会社ビズリーチでは2020年7月16日に、ビズリーチ導入企業を対象にオンライン勉強会「人材採用のニューノーマル オンライン採用の基本と実践 Vol.4」を開催。

株式会社人材研究所代表の曽和利光氏、オンラインコミュニケーションについてアカデミックな知見を持つ株式会社ビジネスリサーチラボの代表取締役で採用学研究所所長の伊達洋駆氏を講師にお迎えし、「オンラインでのオンボーディング」をテーマにお話しいただきました。

これまでの3回では、オンラインコミュニケーションの特徴や、オンライン面接、オンラインでのアトラクト(動機付け)などについてご教示いただいた本勉強会。最終回の今回は、オンラインの環境下で新たに入社した社員が組織に早期になじみ、活躍できるようになるために、人事・採用担当者はどのようなことをすべきか、議論が展開されました。

曽和 利光氏

講師プロフィール曽和 利光氏

株式会社人材研究所 代表取締役社長

2011年に株式会社人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。
伊達 洋駆氏

講師プロフィール伊達 洋駆氏

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役。採用学研究所所長。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、データ分析や組織サーベイのサービスを提供している。

オンボーディングは入社前から始まっている

新入社員の受け入れ、定着、即戦力化のプロセスを意味する「オンボーディング」。はじめに伊達氏から、オンボーディングを考えるにあたって「組織社会化」というアカデミックな概念の紹介がありました。組織社会化には3つのステップがあり、それはオンボーディングにおいても同じように適用して考えられます。

伊達:オンボーディングを考えるにあたって、まず「社会化」という概念を紹介しましょう。社会化は、社会に新しく入った参入者(例えば子供)が、そこの文化などにいかに慣れていくか、その過程を指します。社会化に関する研究が、経営学でも展開され、「組織社会化」として研究されるようになりました。

人事・採用における「オンボーディング」という概念には、「即戦力化(スピーディーに組織の戦力になってもらう)」という意味合いが含まれます。しかし、組織社会化の概念には特にそのような制約はありません。組織社会化という広い概念の一形態としてオンボーディングがあると認識していただくとよいと思います。

曽和:私自身、オンボーディングされた経験を振り返ってみると、リクルートに新入社員として入社した際に、垂れ幕で歓迎してもらったことが印象的ですね。今も行われているかはわかりませんが、当時「歓迎、○○さん」と書かれた垂れ幕を各該当社員の机に用意して、新人社員を歓迎するカルチャーがありました。

伊達:入社後の対応は、その人の職業人生に大きなインパクトを与えるといわれています。入社1年目の上司・部下の関係性は、特に重要だということが研究でもわかっています。

「採用と育成の連動」とよくいわれますが、これは単なるうたい文句ではありません。組織社会化あるいはオンボーディングは、ビジネスパーソンとしてのキャリア発達に大きな影響を及ぼすものなのです。

組織社会化には、以下3つのプロセスがあります。

(1)予期的社会化(会社に入る前の段階)
(2)組織適応(会社に慣れる段階)
(3)役割管理(他の職場や家庭などとの調整を行う段階)

組織社会化の階段

曽和:「入社前」から、組織社会化のステップは始まっているのですね。

伊達:そうですね。その点が「採用と育成の連動」が必要とされる由縁です。組織社会化にあたっては、入社前からサポートを行っていないと、入社後に「リアリティショック(入社前の期待と入社後の現実の乖離)」が生じ、早期離職につながってしまう可能性があります。

曽和:難しい問題ですよね。Vol.3の勉強会では、面接時、候補者に対して「当社はこんなところが良くて」というアトラクト(動機付け)をどのように行うかというテーマでお話ししました。しかし、そのうえで、実際に入社する際にはリアリティショックを起こさないようにしていく必要があると。

伊達:うまくアクセル(魅力の呈示)とブレーキ(現実の呈示)を利かせる必要があるのですよね。

早期離職につながる

候補者・新入社員へ「リアル」を「いつ」「どう」伝えていくか?

オンボーディングの入り口である「予期的社会化」を行うための施策として挙げられるのが「Realistic Job Preview(以下、RJP)」。日本語に訳すと「現実的な仕事情報の事前開示」。
入社前にできるだけリアルな仕事情報を提供することで、リアリティショックが生じづらくなり、その結果、入社後の離職が抑制されるという研究結果があるといいます。

曽和:研究結果では、具体的にどのような情報開示を「RJP」というのか、気になりますね。どのような定義がされているのでしょうか。

伊達:さまざまな研究がありますが、しばしば挙げられるのは「求人情報」です。求人情報にリアルな情報を入れているかという観点です。ただし、最近の研究ではこの点について批判的な意見も出ています。

RJPとは本来、求人広告などに出すテキストや写真の情報だけでなく、働いている様子の見学や実際に現場で働いてみるなどの情報提供も含まれる考え方です。けれども、後者のような情報提供は、少なくとも研究の世界ではRJPとして積極的に取り上げてこなかったのです。

また、実践的なレベルで「RJPが離職抑制に『大きな』効果があるか」といえば、そこまで強い影響があるわけではありません。「RJPは行っておいたほうがいい。しかし、RJPだけ行えば十分というわけではない」と認識する必要があります。

採用とRJPの関係性

曽和:研究のレベルでいうと有意差は出るけれど、実践的にものすごく大きな効果があるというわけではない、ということですね。

明確な結論が出にくいものではありますが、少なくともオンライン上では言語情報としてRJPを行えると思います。実践的なポイントは、以下の通りです。

RJPの実践的なポイント

曽和:RJPは、入社意思が固まってから行うのが基本です。RJPを行うこと自体がアトラクト(動機付け)になる場合もあるため一概にはいえませんが、入社意思が固まっておらず、気持ちが揺れている候補者に対して「リアルすぎる」情報を伝えるとマイナスに受け止められてしまう可能性があります。

また、RJPを行うタイミングとしてもう一つ重要なのが「人間関係が構築されてから」行うことです。既存社員や内定者などとの仲間意識が醸成されてからの情報でないと、リアルな情報に対して「前向きな意味転換」がされないからです。

さらに、RJPの伝え方は「第三者」からの情報であることも重要です。常に一人称で自社の情報を伝えるのではなく、自社について言及されたメディア記事や書籍など、客観性のある情報を候補者に送るのも効果的でしょう。

伊達:「ネガティビティバイアス」といって、人はポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすく、判断にも活用しやすい性質があります。また、「第三者からの情報の有効性」という点に関しては、私が「BizHint」でお話しさせていただいた「オンライン採用と口コミ」に関する記事も参考にしてください。

【参考】オンラインでの採用活動、口コミを有効に活用するには?

曽和:最後に、そもそも人によって「何がリアリティショックにつながるか」が異なる点も、忘れてはいけないポイントです。人間関係なのか仕事内容なのか、その人にとってリアリティショックを起こしやすいことは何なのか、個別カスタマイズして考えることが大切です。

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オンライン研修のスタートは、丁寧な「仲間づくり」から

オンボーディングがオンライン化されて一層大事になってくるのは、「新入社員同士や既存社員との人間関係をいかに構築するか」です。オンラインでの新人研修は、どのようなことに注意するとよいでしょうか。

伊達:組織社会化の概念では、人は身近なところから少しずつ組織になじんでいくといわれています。「受容感(職場の仲間に受け入れられた感覚)」と「有能感(仕事ができるようになった感覚)」のどちらが先に得られるのかを調べた研究では、「受容感」を経て「有能感」を得ることが示されました。この結果からも、先に「職場の仲間と仲良くなる」ということが大切だといえるでしょう。

受容感→有能感

曽和:この結果は「受容感が得られなければ、有能感も得づらい」と解釈しても問題ないでしょうか。

伊達:そうとらえることもできるでしょう。例えば、中途採用においては、社内における人脈がないと社内の情報やルールを詳細に知ることが難しく、その結果「前職のやり方では上手くいかないが、かといって、どうすればいいかは分からない」と悩んでしまう人も少なくありません。

曽和:オンラインで新人研修や導入研修をする際の工夫としては、グルーピングがありますね。Vol.1の勉強会でも話題になりましたが、オンラインコミュニケーションは、「情報」は伝わりやすいが、「感情」は伝わりにくい。そのため、相手に親近感を持ちにくいといったハードルがあります。このような環境下では「親近感を持ちやすい人」で構成されたチームを作り、まずはそこから仲良くなってもらうといいでしょう。

パーソナリティーテストなどで同じような傾向を持つ人同士や、対人影響力の強い、いわゆる「リーダー気質」の人物を各チームに配置して、オフラインでの研修よりも丁寧にグルーピングを行うべきでしょう。

もう一つは、コンテンツに対する工夫です。非言語的な情報が伝わりにくいオンラインコミュニケーション。アイスブレークや相互理解を図るようなコンテンツは、オフラインで行うより時間を長めにとりましょう。オフラインでの研修では結果論としてできたコミュニティーも、オンラインの研修ではより意図的に場を作っていく必要があるのです。

オンボーディングのカギは「連続的」「ポジティブ」

オンボーディングでは、新入社員に対して具体的にどのように働きかけていくとよいのでしょうか。

伊達:組織社会化を促す会社からの働きかけのことを「組織社会化戦術」といいます。なかなか耳になじみにくい言葉ですよね。この組織社会化戦術が「連続的か、断絶的か」また「付与的か、剥奪的か」による新入社員の適応の違いについて見ていきましょう。

「連続的な組織社会化戦術」とは、入社前から入社後まで、メンターなどの支援を得られることを指します。反対に「断絶的な組織社会化戦術」は、そうした支援が得られない状態を指します。比較すると「連続的なほうが新入社員は適応しやすい」ことがわかっています。

オンラインでは、人間関係の構築にも時間がかかります。新入社員が「この人に相談すればいい」と感じられる関係を、会社側が設定・提供することは、非常に意義があります。

連続的/断絶的

伊達:もう一つは、新入社員へのフィードバックが「付与的か、剥奪的か」という比較です。当たり前の話ですが、たとえ社会人経験が豊富な中途入社の社員であっても、新たな会社で最初からうまく振る舞えるわけではありません。したがって、周囲が新人に対してフィードバックを行う必要がありますが、付与的、つまりポジティブなフィードバックを行うことが、新入社員の適応には有効だと検証されています。

付与的/剥奪的

曽和:オンボーディングがまだできていないうちは、ネガティブなフィードバックはなるべく控えたほうがいいということなのでしょうか。

伊達:そうですね。入社後間もない段階ではネガティブなフィードバックは抑制しておいたほうがいいでしょう。フィードバックの効果を高めていくには「フィードバック『する人』と『される人』の関係性」が重要です。関係性が良好でない場合、ネガティブなフィードバックをしても、プラスに働かないどころか、逆にマイナスに作用する恐れがあるのです。

一方で、ポジティブなフィードバックをもらえると自信がつき、行動にも移りやすくなります。Vol.3の勉強会でも、候補者に「自分はこの組織でやっていけそうだ」と感じてもらうことが重要であると話しましたが、そのような気持ちを高めるポジティブなフィードバックはオンボーディングにも有効です。

「面従腹背社員」はネガティブ・フィードバックから生まれる?

ポジティブなフィードバックがオンボーディングに有効とされる研究結果がある一方、実際には「例えば新卒の新人研修では現場から『学生気分を抜いてください』というようなオーダーがくる場合もありますよね」と、曽和氏。
「ネガティブなフィードバックを意識的にするべき」と考える人もいるなか、ネガティブなフィードバックをするリスクについて、伊達氏から解説がありました。

伊達:ネガティブなフィードバックがなぜだめなのかを説明するために「心理的リアクタンス」という概念をご紹介したいと思います。心理的リアクタンスとは「人は行動の選択の自由を脅かされると、その自由を回復しようとする」という作用のことです。

例えば新入社員研修で「あなたのやり方は間違っている。こうすべきだ」と何かネガティブな指摘をされたとします。本人がやろうとしていたやり方とは違う場合、「本人の自由が抑圧された」状態になります。新入社員が教育によって自由を脅かされたとき、以下4つの行動パターンのいずれかをとると考えられています。

自由の回復方法

伊達:「(3)仮の同調」は、自由が制約された事実に対して表面上は受け入れているのですが、内心では自由を保持している「面従腹背」の状態です。実際に、新人育成に関するインタビューを行うと、結構このタイプの方が多いことに驚かされます。

「オンボーディングがうまく行われず、会社や組織に対してネガティブな印象を持ちながら」「仮の同調」がされると、表面的には組織にしたがっているようでも、「この組織には本当に失望した」という気持ちを抱え続けることになり、やがては離職につながってしまいます。もちろん、表面上でも受け入れていくうちに、内心に変化が起こる人もいるかもしれませんが、ケースとして多くはないでしょう。

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オンラインでのオンボーディング、3つの実践ポイント

最後に、オンラインでオンボーディングを行う際に意識すべきポイントについて、曽和氏が3つご紹介します。

曽和:まず1つ目は新入社員自身が「自己認知」を高めることに対して、なんらかの形でサポートしていくことが重要です。オンラインでのオンボーディングでは、ポジティブ・ネガティブにかかわらずフィードバック自体の量が少なくなります。そのため、自己認知を高める機会が少ない。そこをパーソナリティーテストや1on1のミーティングなどを実施することで補いましょう。

繰り返しになりますが、人間関係が構築されていない状態で行う強いネガティブ・フィードバックは逆効果となる可能性が大きくなります。ポジティブなフィードバックによって、その人自身の自己認知を高めるサポートをすることがポイントです。

自己認知

2つ目は「意味づけ力」です。オフラインでは、もし新入社員が暗い顔で仕事をしていたら「この仕事にはこんな意味がある」などと自然に声をかけることができました。しかしオンラインでは「自然と気づく」ことが難しく、意識的にサポートしていかなくてはなりません。

ロールモデルとなりうる人をメンターとしてつけたり、「仕事の意味」を説明する力をマネージャーや人事担当者が鍛えたりする必要があるでしょう。伊達さんが紹介した「受容感」や「有能感」を得られるタイミングを参考に、振り返ってみるのもよいと思います。

意味づけ力

最後の3つ目は「アサーティブネス」。直訳すると「主張する」という意味になりますが、ここでは「相手も自分も尊重したうえで要望や意見を相手に伝えるコミュニケーション」を指します。Vol.1の勉強会では、テキストチャットはアイデア出しなどに向くとお話ししましたが、アサーティブネスを発揮しやすいようなオンラインのコミュニケーションの場があるとよいでしょう。

オンラインの性質や時代背景上、どうしても「効率的に行わなければ」と考えがちですが、新入社員との関係性づくりのためにも日々のコミュニケーションを改めていくことで、アサーティブネスを高めていくことが重要なのではないでしょうか。

アサーティブネス
◆        ◆        ◆

Vol.3「オンライン面接での動機づけ(アトラクト)」に続き、今回の勉強会においても、「ポジティブなフィードバック」が入社前・入社後、一貫して重要であることがわかりました。

これまで、自然発生的・自然成長していたコミュニティーを「当たり前」と思わず、マネージャーや人事が戦略的に「コミュニティーが生まれる場」をつくり、オンライン上で新入社員に「歓迎の気持ち」を行動で示す努力が必要でしょう。

本シリーズでご紹介したオンラインコミュニケーションの特性を、「人材採用のニューノーマル」として、採用活動にご活用いただけると幸いです。

▼ 本勉強会の内容を、動画でご覧いただくことができます ▼
(記事にはない資料・解説も視聴いただけます)

執筆:佐藤 由佳、編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)

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