2年間の「労働環境改革」を経て、全社員のさらなる成長へ/株式会社電通 |FUTURE of WORK

2年間の「労働環境改革」を経て、全社員のさらなる成長へ/株式会社電通 |FUTURE of WORK

コミュニケーションを軸に統合的なソリューションを提供し続ける株式会社電通。国に関わるプロジェクトなど、スケールの大きい仕事を多数抱えているため、社員が非常に多忙である印象を持つ人も多いと思います。しかし、実は近年、社員が働きやすい会社へと急激に生まれ変わりつつあります。電通は今、どのように変化しているのでしょうか。株式会社ビズリーチの代表取締役社長である南壮一郎が、電通のコーポレート・ブランディング・オフィサーである大内智重子氏に話を伺いました。

大内 智重子氏

取材対象者プロフィール大内 智重子氏

株式会社電通
執行役員 コーポレート・ブランディング・オフィサー

東京都出身。株式会社電通に入社。以降、マーケティング、ブランディング、統合コミュニケーション、クリエーティブ部門を経験。2018年より、電通初の女性執行役員として、「労働環境改革」担当を務める。2019年、電通の企業価値を高めることをミッションとした「コーポレート・ブランディング・オフィサー」に就任。加えて、採用ならびに社員の成長支援を行う育成の責任者となる。日本マーケティング協会 マーケティング・マイスター。

本記事は、株式会社ビズリーチの創業10年を記念して運営していたWebメディア「FUTURE of WORK」(2019年5月~2020年3月)に掲載された記事を転載したものです。所属・役職等は取材時点のものとなります。

「労働環境改革」で社員の成長を後押しする企業にチェンジ

「労働環境改革」で社員の成長を後押しする企業にチェンジ

─まず、この10年を振り返ってみて、社会や電通を取り巻く環境の変化をどのように捉えていらっしゃいますか。

大内様(以下、大内):この10年で、私たち、そしてクライアント様を取り巻く環境は大きく変化したと思います。特に顕著なのは、デジタル化やグローバル化です。この変化のスピードはますます速くなる、と感じています。電通も「コミュニケーション会社」から、「マーケティング活動全体にコミットできる企業」へと領域を拡大していこうとしており、今も変化の途上にあります。

企業として、大きな転機は2つありました。1つ目は、2001年に東証1部に上場したことです。1部上場企業としての社会的責任が増し、コンプライアンスやガバナンスの強化が求められるようになり、あわせて社員の意識も変わりました。

2つ目は、2016年からスタートした「労働環境改革」です。電通にとって、「人」は財産です。しかし、現実的には社員個人の意識の高さや努力に依存してきたところがありました。それを、会社としてきちんと社員をサポートしていく方針に、つまり社員の成長があってこその企業としての成長、という考え方に大きく変わりましたね。

南さんにとってこの10年はどんな時間でしたか。

南:この10年間は、われわれにとってはサバイバルのような毎日であり、創業期に描いたビジョンをかなえるために、仲間たちと必死になって会社の礎を創ってきた時間でした。またビズリーチを創業した10年前はリーマンショックの直後で、経済は疲弊しており、ベンチャー企業もほとんど生まれていなかった時代でした。そんな状況のなか、未来の新しい働き方を想像しながら、インターネットを活用した企業と求職者を直接つなぐ新しい採用プラットフォームを創ろうとみんなで前進してきました。

「ダイレクトリクルーティング」という新しい採用手法を企業の皆様に唱え、どうすればお客様に価値を感じていただき、利用していただけるのか。さらには、どうやって志をともにしてくれる仲間を集め、そして事業の成長を支える組織をつくれるのか。日々悩みながら、もがき続けた10年間でした。

たくさんの壁にぶつかりながら、反省が必要なことも多々ありました。お客様にもたくさんのご迷惑をおかけして、厳しいお言葉を頂戴したこともありました。ただ10年前、マンションを改造した雑居ビルの一室で数名の仲間とスタートしてから、多くの仲間たちが集うチームへと成長できたことは、素直にうれしく思っています。また感謝の気持ちでいっぱいです。

大内:ビズリーチさんは、成長のスピードといい、世の中に与えている影響力といい、本当にすごいなと思います。ビズリーチさんは、働き方というより生き方そのものを変革されてきましたね。

南:世の中が急速に変化するなかで、転職も含め、個人が主体的にキャリアを形成していくことが価値観として一般的になってきたことは、弊社の大きな成長の支えにも、追い風にもなりました。しかし、われわれはまだ発展途上の会社であり、社会にインパクトを与えることができていません。それゆえ、これからも世の中の流れをきっちりと捉えながら、未来に向けて自らも変わり続けたいと思っています。

大内:キャリアの選択肢が増えることは良いことですね。私も、多様な経験は人を成長させる、と思いますので、「自分の成長のために違うところで働きたい」という社員がいたら応援したいです。また、電通に「戻りたい」と言う元社員を温かく受け入れられるような企業になっていく必要もあると思います。電通なら他ではできない面白い仕事ができる」と社員や世の中のビジネスパーソンには感じていてもらいたいですし、そういう会社にしていくことが私たちの使命です。

─2019年1月に新設された、大内さんが担当されている「キャリア・デザイン局」とはどういう組織ですか。

大内:コーポレート部門にできた新しい局で、採用と育成、そして組織開発を網羅しています。

これまでは、採用、育成、組織開発はそれぞれ縦割りで行われていました。それを、採用から育成、そして組織開発まで一貫性を持たせることで、社員が成長し個々のパフォーマンスを高めるところまで引き上げる、組織全体のドライブをかけていくのがミッションです。

これだけ変化のスピードが速く、事業もグローバルになってくると、OJTだけでは成長のスピード、幅に限界があります。短期のみならず中長期視点で社員や組織の成長に投資をして、必要な学びを習得してもらう仕組みを作っていこうと考えています。

南:ちなみに、そのなかで特に注力しているのはどのようなことですか。

大内:課題はたくさんありますが、やはり「どのようにして社員に自ら学ぶ意欲を持ってもらうか」ですね。社員に学ぶ意欲が生まれないと、いくら良い制度やコンテンツがあっても後回しにされてしまいますから。また、個々人の成長に寄与する学びを提供できているか見定める必要があります。

南:人の意識を変えること、特に学ぶ習慣をつくることなどは、本当に難しそうですね。

大内:人間の脳は、変わることを嫌がるようにできているらしいです。ビズリーチさんでは、学ぶことについて何か意識して行っていらっしゃることはありますか。

南:仕事で学ぶ時間と、仕事以外で学ぶ時間の重要性について、日々社員に伝えるよう心がけています。これからの時代は、仕事は仕事の時間で成果を出しながら、「仕事以外の時間を自分に投資する」姿勢が大切になっていくと考えています。

勉強会に参加したり、読書をしたりすること。ジムで身体を鍛えたり、家族やパートナーと時間を過ごして精神を安らげたりすること。個人が、仕事以外の自分自身の時間をどう主体的に投資していくかが、個人の未来やキャリアを決めていくことになるのではないでしょうか。ですので、逆説的になってしまいますが、会社が一番やってはいけないことは、社員が自分に投資する時間を奪うことであり、そのため、会社として目指したい働き方の姿も大きく変えていきました。

電通ならではの施策、そして時間外労働の大幅な削減へ

電通ならではの施策、そして時間外労働の大幅な削減へ

─電通らしいユニークな施策について教えてください。

大内:「労働環境改革」の真の狙いは「時短」ではありません。生み出した時間を使って、改めて「自分は何者でありたいか」「これから何をやりたいか」「そのためにどうするのか」を自ら考えてほしい。そして、個々人が新たなチャレンジを面白がりながら熱中することが、会社の成長にもつながると思っています。

この2年間で250もの施策を実施いたしました。社としての大きな変化に最初は社内で抵抗や戸惑いがありました。どうすれば真の目的が伝わるのか、今も苦労をしています。

南:お話を伺っていると、まさに今皆さんは電通の文化や新たな歴史を新しくつくっているわけですね。

大内:そうですね。意識改革であり、企業カルチャーの再生です。改革というより生まれ変わりです。

南:皆さんの挑戦は、日本の大企業で働く、多くの方々にとっての大切なロールモデルになる可能性があります。ワクワクしますね。

大内:飛躍のための再生だと思います。社員にはみな、会社のためでなく、自分のために「労働環境改革」に取り組んでほしいです。自主的に、楽しく変わってほしいと思っています。

南:改革を組織で浸透させていくために、何か電通らしい象徴的な施策はございますか。

大内:施策のひとつとして「インプットホリデー」という制度があります。これは月に一度、インプットのために休暇を付与する制度です。例えば、平日の昼間、街中を歩き回って世間を観察してもいいし、家族との会話の時間に充ててもいい。身体を鍛えるのもOKです。どんなインプットかは個人に任せています。面白いインプットをした人は、電通の社内サイトで紹介しています。「労働環境改革」によって、有給休暇の取得や年間の休日も飛躍的に増えました。この2年間でいえば、1人当たりの時間外労働(月間平均)は、2016年は26.9時間だったのが、2018年は9.8時間まで大幅に削減されました。

また、有給休暇取得率(年次)は、2016年は56%だったのが、2018年は66%に改善しました。1人当たりの休暇取得日数も、2016年は12.4日だったのに対し、2018年は21.4日へと増加しました。

南:地道な取り組みの連続だと思いますが、社員の生産性向上につながる制度や文化は、企業としての礎、企業の競争優位性そのものになると思います。

特に業務面では、企業がきちんと目標設定と評価を含めた業務の要件定義をして、その業務に対して適材適所で人を配置していくことが重要になっていきます。経営課題解決のスピードや精度を上げ、より生産的にお客様の課題解決を提供し続けられる会社が、時代のスピードについていける成長を生み出していくでしょう。

このような生意気な話をしていますが、われわれ自身まだできていないことだらけですので、真摯にお客様と向き合いながら、効率的かつ効果的な事業運営を展開できるよう、社員一丸となって地道に取り組んでいきたいと思います。

─働き方改革の中で、特に今後の「女性活躍推進」という観点については、どのようなお考えでしょうか。

大内:女性とひとくくりにするのは個人的には抵抗があります。女性にもさまざまな人がいますし、男性もそうです。今後はますますジェンダーにとらわれない社会になってゆくでしょう。南さんがおっしゃるような「適材適所」への配置、アサインが重要です。ただ、電通は過去、男性中心の組織であったとはいえるでしょう。私が入社した当時は女性がとても少なかったですが、それが今は、女性社員の比率が30%にまで増えてきました。2019年4月に入社した新入社員は、男女がほぼ半数です。

確かに、今の日本社会ではまだ十分に女性が働きやすいとはいえず、女性を活用する側も女性に対して思い込みを持っている場合があります。相互のコミュニケーション量を増やすこと、チャレンジの機会を提供すること。働きやすさと同時に働きがいがあることが重要です。女性が働きやすい会社というのは、誰にとっても働きやすいはずです。

南:これからは雇用の流動化が加速し、人材獲得競争はさらに激化します。そのような状況のなか、優秀な女性に企業として魅力を感じてもらい、その能力を生かせる企業は、それができない企業に対して、人材採用における圧倒的な競争優位性をもつことになります。また、この点は外国人やシニア層の活用についても、同じようなことがいえるかもしれません。

これからは「どうすればより多くの優秀な人材を採用でき、活躍してもらえるのか」、またそのために「魅力的な職場環境を整えることができるのか」ということも経営の重要な要素になっていと思っています。

そういう観点では、まずは女性にとって働きがいのある企業や職場環境を目指すことは、全ての企業にとって新しい時代の働き方を自ら創っていくうえでの、一つのよい出発点となるのではないでしょうか。

キャリア採用の社員に期待することは、「同化しないこと」

キャリア採用の社員に期待することは、「同化しないこと」

─今後のキャリア採用に関しては、どのようにお考えでしょう。

大内:この3年間でかなりキャリア採用の数を増やしてきました。昔は「新卒採用主義」のような風潮がありましたが、ずいぶんと社内も変わってきています。

これまではキャリア採用というと「人員不足の補完」という意味合いが強かったです。しかし今は、電通に欠けているスキルや経験など、時代に必要な専門性を会社全体として強化していくために採用するという視点へと変わってきています。そのため、社内ではなかなか育てられなかったスペシャリストを採用する、ということが増えてきました。

また、そのような方々に特に期待することは「電通に同化しないこと」です。今の電通にないものを持っていることを期待して、その「違い」を重要視しながら採用しているので、電通のカルチャーに完全に染まるのでは意味がありません。専門性を発揮して、社内に影響を与えていただくことを期待しています。

南:新卒で入社して定年まで勤めあげるのも素晴らしい働き方ですし、キャリア採用で入社してから活躍することも素晴らしい働き方だと思います。今後は、さまざまな背景の人材が相互に尊重し合い、双方のよさを生かしながら成果をあげていく組織づくりが理想ですね。

大内:「多様性をどれだけ認め合い、尊重し合えるか」ということだと思うんです。多様性のなかからしかイノベーションは生まれない。企業の成長のために多様性は不可欠だと思います。

南:「電通で働いてみたい」と思っている優秀な人材は、皆さんが想像されている以上にたくさんいるのではないでしょうか。ちなみに、僕もその一人です(笑)。なぜなら、電通さんの歴史は、近代日本の歴史そのものですから。世界を相手にするプロジェクト、国を支えるプロジェクト、業界や会社、また商品の歴史そのものを創ってきたプロジェクト。多様な人材を自ら受け入れることができれば、優秀な人材は自然とやってくるはずです。

大内: 電通には多種多様なプロジェクト、そして人がいます。電通、そして電通グループ全体として、面白いことをやっている会社がもっともっと増えればいいと考えています。面白いことができて、達成感があり、成長できる。そして喜んでくださる人がいる。こんなに楽しいことはありません。そして、その中心は「人」です。電通で働く「人」がより輝ける機会と環境を作ってゆくとともに、私自身も面白く仕事をしてゆきたいと思います。

電通大内様×ビズリーチ南

取材・文:大橋 博之
カメラマン:矢野 寿明
記事掲載:2019/6/6

他の転職サービスとの「違い」が3分でわかる

2009年の創業から、日本の転職市場に新たな選択肢と可能性を創り出してきたビズリーチ。企業規模を問わず多くの企業に選ばれてきた「ビズリーチ」の特長を紹介いたします。

無料 資料をダウンロードする

著者プロフィールBizReach withHR編集部

先進企業の人事担当者へのインタビューや登壇イベントなどを中心に執筆。企業成長に役立つ「先進企業の人事・採用関連の事例」や、 事業を加速させる「採用などの現場ですぐに活用できる具体策」など、価値ある多様なコンテンツをお届けしていきます。