【第3回】押し付けの「働き方改革」ではなく、個人が選べる「働き方改革」へ (人事・広報インタビュー 前編)

【第3回】押し付けの「働き方改革」ではなく、個人が選べる「働き方改革」へ (人事・広報インタビュー 前編)

さくらインターネット株式会社様が社員の働き方に関係する人事施策をパッケージ化した
「さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)」が生まれた背景や考え方、また運
用後の社員の変化などについて、さくらインターネット社長の田中様と人事矢部様、広報
渋谷様へのインタビューを実施しました。

第3回は、人事・広報インタビュー(前編)です。
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第1回:田中社長インタビュー(前編)

第2回:田中社長インタビュー(後編)

第4回:人事・広報インタビュー(後編)

社員と一緒につくり、ネーミングも公募で決めた「さぶりこ」

――「さぶりこ」の導入にあたり、社員に正しく理解・浸透・活用してもらえるよう、説明会の開催など何か施策を打ちましたか。

矢部様:実は、「さぶりこ」という制度をつくった後の導入説明会のようなものは開催していないんです。社長の田中のインタビューでも話がありましたが、「使うことができる」のと「使うことが前提」の制度では大違いですよね。「使うことが前提」の制度にするためには、風土をつくっていくことが大切であると思い、あえて説明会は開催しませんでした。

活用してもらうためのポイントは2つありまして、1つめは、「社員と一緒につくること」です。導入前に、社長の田中も参加した社内イベントで「どんな制度があったら働きやすいか」「どんな制度があったらクリエイティビティが発揮できるか」など、社員から人事制度についてのアイデアや意見を出してもらい、一部の制度はその場で決定しました。これらのさまざまなアイデアや意見を、経営と人事でディスカッションし、パッケージ化したのが「さぶりこ」です。

ネーミングも社内公募をしました。「さぶりこ」以外には、「24 hours for you~24時間をあなたに~」という、自分の時間を自分の好きなように使ってほしいとの思いが込められたネーミングなど、全部で36件ほど面白い案が出ました。そのなかで、親しみやすく覚えやすいという理由で「さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)」に決めました。


2つめは、「さぶりこ」導入後に活用事例(「さぶりこ」を利用して取り組んだこと、「さぶりこ」があって助かったこと、業務に良い影響があったことなど)を社員から人事に投稿してもらい、シェアしていることです。

活用事例は、社内ブログやメディアで紹介しており、制度の理解や気付きにつながっているようです。特にパラレルキャリアというといわゆる「副業」というイメージが強く、これまで自分のこととして考えたことがない社員がほとんどだったのですが、社内ブログやメディアを通じて、パラレルキャリアについての理解を深めた社員も多いようです。

例えば、食好きが高じて「飲食店レビュアー」として活動していた社員が正式に仕事とすべく個人事業主としての届けを出したとか、身近な事例を紹介しています。また、「さぶりこ」のロゴもつくりました。事例を投稿してくれた社員には「さぶりこシール」を渡しています。うれしいことにパソコンに貼る社員も多く、「これ何?」「さぶりこシール」「どこでもらえるの?」「さぶりこの活用事例を投稿したらもらえたよ」といった会話が生まれているようです。

――社員と一緒につくっているので、制度そのものに対する「理解」に時間や労力をかけずに済むのですね。また、人事制度を社内にリリースするだけではなく、社外へPRの一環として発信しているのも貴社の特徴だと思いました。

渋谷様:広報は「コーポレート広報」と「プロダクトサービス広報」の2つに大別できると思いますが、弊社の場合、前者の「コーポレート広報」については、あまり注力できていませんでした。「さぶりこ」がつくられる前から、既に在宅勤務など、いい制度はありましたが、社内・社外にもうまくアピールできていなかったんですよね。そこで、社内にも社外にもうまく響くようなネーミングにして、広報と人事と経営が一緒になってコーポレート広報に生かしていこうとなりました。

社内ブログなどはありますが、インタビューの記事を通じて知ることができる社長の考えなど、社外メディアを通じたことによる新たな発見もあります。人事制度についても、メディア取材を通じ、社外・社内の両方に情報発信をすることは、双方に良い効果をもたらしていると思います。

入社直後から活用してもらえるよう、ワークショップを開催

――中途入社者は、入社直後からこの制度をフル活用していいのか、戸惑うことはないのでしょうか。

矢部様:当社では、毎月10名ほど中途入社者が入社するのですが、戸惑うことがないように、入社時のオリエンテーションのなかで、「さぶりこワークショップ」を実施しています。ワークショップの内容は、「さぶりこ」導入の背景や思い、活用事例を紹介し、各自が「さぶりこを活用して自分自身が取り組んでみたいこと」を付箋に書き出し、さらにシェアして、気に入ったら「いいね」のシールを貼り合っています。

前回の「さぶりこワークショップ」では、「温泉が大好きで、前半2日間は温泉宿でテレワークし、後半3日は連続有給手当(※1)を使って休み、温泉ざんまい」といった“ワーケーション(※2)”に活用したいという社員もいました。

※1 連続有給手当:有給休暇取得促進のため、2日以上連続で有給休暇を取得した場合に、1日につき5,000円を支給。5日連続で有給休暇を取得した場合は、25,000円を支給。

※2 ワーケーション:「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語。場所を特定せず、旅行先などでの勤務を認めるもの。

「さぶりこワークショップ」の様子

――制度の説明だけをする会社は多いですが、社員それぞれに考えてもらってから現場に送り出すというのはいいですね。

矢部様:「さぶりこ」は入社日から使えるので、入社日からパラレルキャリアでもいいですし、フレックス勤務でも構いません。「さぶりこワークショップ」では、人事から一方的に説明をするのではなく、入社者同士がお互いの使い方をシェアすることで、制度の理解と気付きを得る場になればいいなと思っています。

また、これはうれしい誤算なのですが、「さぶりこ」を活用するということはライフを充実させることにもつながりますので、「今日はさぶりこショート30を使ってホットヨガに行ってきます」「私もホットヨガやってるんです」と入社者同士に双方向のコミュニケーションが生まれ、お互いを知る場にもなっています。

「さぶりこ」導入前は5%だったリファラル採用(リファーラル採用)が44%に向上

――ただ、これだけ自由度が高い制度ですと、「適切に利用されているのか」「不正に利用する人はいないか」と不安になってしまう企業が少なくないと思います。管理やパトロールなどはされているのでしょうか。また問題は起きていないのでしょうか。

矢部様:管理やパトロールはしていません。人事ポリシーとして「性善説」、つまり社員を信じる前提で「さぶりこ」を運用しています。基本的には本人とチームのマネージャーに任せており、1on1でちゃんと話をするようにお願いしています。

一方で、全く問題がないということはありません。1つめの問題は、理解が不足していたゆえに間違った使い方をしてしまう社員が少なからずいること。2つめの問題としては、職種によってテレワークなどの一部の制度を使うことが難しい場合があること。

当社のデータセンターでは、三交代制で常に人がいる必要がある運用を行っているので、現時点ではデータセンターの社員は物理的にデータセンターで勤務をすることが必要です。ただ、今後は出社しなくても維持できるような体制を組んでいく必要があると感じています。

さくらインターネット株式会社 管理本部 人事部 マネージャー 矢部真理子様

――「さぶりこ」を導入してから(2016年10月以降)のリファラル採用はいかがですか。

矢部様:うまくいっています。中途採用に占める割合が、「さぶりこ」導入前の2015年度(6%)→2016年度(30%)→2017年度(44%)と順調に推移しています。リファラル採用を増やすために一番大事なことは「社員を大切にすること」だと思いますし、逆にこれ以外は考えられないと思っています。リファラルを生むにはどうしたらいいかというと、社員に会社を好きになってもらうこと、これしかありません。自分がいい会社だと思っていないと友達を紹介しようと思いませんよね。ですので、「さぶりこ」は社員の働き方改革でありながらも、結果的にはリファラル採用の推進にも大きく貢献しています。

【社員紹介制度(通称:さぶりこフレンズ)の内容】

  • カジュアル面談実施の際、ご友人との食事代を支給
  • ご友人が入社した際、紹介者とご友人の食事代を支給
  • 入社したご友人の試用期間終了後に、紹介者に対し10万円を支給

先ほど、入社のオリエンテーションで「さぶりこ」のワークショップをするとお話ししましたが、「さぶりこフレンズ」の説明もしますので、入社したばかりの社員にも積極的に紹介してもらっています。また、新卒のITエンジニア採用に関しては、約8割がリファラル採用です。新卒のITエンジニア採用は年々難度が上がっており、従来の一括採用や一括対応ではなく、学生ひとりひとりと丁寧にコミュニケーションをとっていくことが求められています。そんな激戦マーケットのなかで、採用を成功に導くことができているのは、社員が会社を好きで、会社を良くしたいと思ってくれていて、自ら一緒に働きたいと思う学生と接点をもってくれているからだと思います。

――新卒のITエンジニア採用もリファラルが多いんですね。

矢部様:新卒入社の社員が大学の後輩をOB/OGとして紹介してくれるケースもありますし、社員が勉強会やカンファレンスなどに参加して、アンテナ感度の高い学生に声をかけるケースもあります。社員が勉強会やカンファレンスで会った学生と大学1~2年生のうちから自主的にSNSなどでつながり、関係をあたためてくれています。

それを、「人事」がやってしまうと重いみたいなんですよね。以前に私が自ら学生に「応募を待っています」と連絡をしたら、学生から当社のエンジニア宛てに「人事から連絡がきたけど怖いです」と言われてしまったそうで。そういった失敗経験を経て、社員が積極的に動いてくれて、学生との関係をあたためてくれていることに感謝しています。

第4回は、人事・広報インタビュー(後編)につづく。

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