【イベントレポート】基礎から学ぶ面接官養成講座 面接の「常識」論と心得編(第1回/全6回)

2022年10月25日、株式会社ビズリーチは、「基礎から学ぶ面接官養成講座」と題したWebセミナーを開催しました。

株式会社人材研究所代表取締役社長の曽和利光氏にご登壇いただき、採用活動の基礎・基本となるテーマを、全6回のWebセミナーで伝えていきます。第1回となる今回は「面接の『常識』論と心得編」として、面接官を務める方々が大前提として理解しておくべき常識論と心得について解説します。

曽和 利光氏

登壇者プロフィール曽和 利光氏

株式会社人材研究所 代表取締役社長

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント」、「『ネットワーク採用』とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」

「面接は最も妥当性の高い選考手法である」

面接は実は難しい選考手法

採用では、面接が必ずといえるほど行われており、妥当性が高いと思われています。しかし実は、「採用学」(服部泰宏著・新潮選書によると、さまざまな手法の中でも一般的な面接「非構造化面接」は妥当性係数0.31と、最も妥当性が低いのです。妥当性が高いのは、実際の業務を行わせてみる「ワークサンプル」や「認知的能力テスト」、いわゆる筆記試験です。

実際に採用時と入社5年目の人事評価を比較してみたところ、面接の評価にはあまり相関が見られませんでした。一方、「SPI」の数学や活動意欲には高い相関があったことがあり、私自身もこの妥当性の順番には納得感があります。

また、面接も構造化面接として、厳密にマニュアル化して実施すれば、妥当性は高くなります。ですが、それを実施している会社は多くありません。(以上、出典は「採用学」服部泰宏著・新潮選書)

面接の妥当性が低くなる主な原因が「心理的バイアス(アンコンシャスバイアス)」です。その一つが、先入観、偏見、思い込みといった「確証バイアス」です。たとえば体育会のキャプテンを務めていたというだけでも、一定のイメージができてしまいます。そのほかに、直感で評価してしまう「初頭評価」、突出して良い/悪いところに全体の評価が引きずられてしまう「ハロー(halo=後光)効果」、自分に似た人を高く評価する「類似性効果」などがあります。

また、採用目標を達成しなければならないというプレッシャーによって、目の前の候補者が良く見えてしまう、なども起こりえます。加えて、「相対的なランク付け」として、多くの人間は相対的にしかモノを見られないため、一対一の面接を行ってもその評価を判断できないということもあります。

これらが面接の精度を下げている原因です。しかも、この理屈を知ってもバイアスはなくなりません。同じ人を見ても面接官同士で全く評価が異なるなど、誰の目にも明らかな結果を突きつけられでもしないと、人は自身のバイアスを認められないのです。

また、面接の評価でプラスに働きやすいのは「外交性」「情緒安定性」であり、特にこの2つを重視していない会社でも、プラスに働きやすいです。一方、「誠実性」「知能」は面接ではあまり測れませんが、実はこの2つのほうが、「外交性」「情緒安定性」よりも、仕事のパフォーマンスとの相関性が高いのです。これも、面接の妥当性を下げる要因となっています。 (以上、出典は「採用面接評価の科学」今城志保著・白桃書房)

「仕事のできる社員が面接官に向いている」

面接官を依頼されやすいのは経営者や事業リーダー、現場のハイパフォーマーなど、優秀な人、業績を上げている人です。また、採用基準を考えるのに、ハイパフォーマーや経営者、リーダーにインタビューして決めている例も多いでしょう。しかし、これには「プロは自分がなぜプロであるかを説明する力が低い」という落とし穴があります。

プロは自分がなぜプロであるかを説明する力が低い

プロ=熟練者は、あることを無意識に行えますがそれを説明・指導するのはまた別の能力です。たとえば、日本語ネーティブであれば「~は」と「~が」の使い分けは無意識に行えますが、その理由まではなかなか説明できません。

同様に、優秀な営業パーソンに秘訣を聞いても具体的なポイントは必ずしも出てきません。実際に行動を見てみると、傾聴や万全の準備、即行動などのノウハウがあるのですが、本人は無意識な場合が多いです。本人に意見を聞くよりも行動観察をしたり、パーソナリティテストを用いたりして客観情報を得る必要があります。

こうした理由から、仕事ができる人が必ずしもいい面接官というわけではないといえます。

また、面接官の経験がある人ほどアンコンシャスバイアスが強いという研究結果もあります。経験が長いほど、優秀人材に関するステレオタイプが形成され、強固になっているので、初心者向けの「面接トレーニング」を、逆に経験者に受けてもらうべき側面もあるのです。

「コミュニケーション能力の高い人が面接官に向いている」

求める人物像の設定や教育体系の育成目標作りにおいて、「コミュニケーション能力」は頻出語ですが、使い方はまちまちなので確認が必要です。なかには「論理的思考能力」や「表現力」を指すこともありますが、圧倒的に多いのは「感受性」、相手に全てを言わなくても経験や知識で補って理解ができる、空気が読める、以心伝心、あうんの呼吸、打てば響くといった言葉で象徴される能力です。

ですが面接で「相手を想像で穴埋めして理解する」ことはしてはいけません。上記で説明した意味での「感受性」が高い人は、実は面接官には向かないのです。

「物分かりの悪さ」「しつこさ」が必要

むしろ面接官に必要なのは、「物分かりの悪さ」や「しつこさ」です。相手が全部を言わなかったら全部を言わせる、具体的でなければ追加で質問をしていく必要があります。

「大きな店」という抽象的な表現に対しては、何席ある店なのか。「お客様の声に耳を傾けてニーズに寄り添った提案を心がけていました」といわれたら、具体的にどういう行為だったのかを聞き出し、「私はこの経験を通じて、人を動かすとはどういうことなのかが分かりました」といわれたら、「どう」の中身を聞くべきです。面接官が優秀な人であるほど、自身の経験が頭にあるため、候補者もそのレベルだと勝手に思ってしまいがちで、突っ込んで聞くことをしない傾向にあります。

このように、感受性の高い、コミュニケーション能力のある人ほど、面接官に適しているとは必ずしもいえないのです。

「面接はできるだけ多くの人に頼むほうがよい」

この常識は、目的によっては正しいといえます。たとえば、面接に参加することで組織へのコミットメントは高まるでしょう。ここで言いたいのは、たくさんの目で評価すればそれだけ精度が高まる、と考えるのは違うということです。

たとえば、100人の候補者がいる場合に、面接は「A:20名の面接官で5名ずつ」「B:5名の面接官で20名ずつ」行うかを考えれば、Bのほうが評価の精度は高くなります。人は絶対評価よりも相対評価のほうが実施しやすいので、Aのように候補者を小分けにすると、「全て合格にすべき」場合でも誰かを落としてしまい、「全て不合格にすべき」場合も誰かを上げてしまいます。面接官を増やせば増やすほど、精度は落ちてしまうのです。

さらに、相対評価をしやすいことの問題点はもう一つあります。

面接合格率の想定値が平均30%だとして、それが3カ月間で10人の中途採用であれば、3カ月間の合格率平均が30%ということですが、現実には採用面接の初期には合格率が高く、後期には下がります。ですから、実際の合格率は、最初のうちは高くて徐々に下がっていくはずです。

しかし、30%が平均だからといって面接ガイダンスで、3分の1くらいは上げてくださいと言っていたらどうでしょうか。最初から3分の1しか上げないのですが、本当は良い人材が60%いて、3分の2を上げるべきだったかもしれません。つまり、面接のガイダンスで一律に「○%上げてください」という言い方は変えるべきです。

「志望度が高いかどうかで評価すべきである」

候補者が自社を志望してくれているとうれしいものですが、ここでは「すっぱいブドウ」の理論に学びましょう。

フロイトがイソップ童話「きつねとブドウ」を引用して、防衛機制・合理化の例としています。きつねがおいしそうなブドウを見つけて飛び上がるが届かず、「どうせこんなブドウはすっぱくてまずいだろう」といって取るのを諦める話で、自分の意のままにならなかったことに対して否定的になることで自己正当化するという理論です。これを採用に当てはめると、「呼んでも来ない人、辞退した人なんて、うちには適さない人だ」という心理を示します。

「ファン」採用は採用力を下げる→「非ファン」率の向上は質の向上

しかし、「非ファン」や辞退者、見向きもしない人のほうが優秀である場合もあります。実際に辞退者に聞いてみると、企業ブランド的に良い他社に決まっていたり、「SPI」の数学や国語の点数も高かったりすることがあります。

したがって、ファンばかりを採用して「非ファン」を排除すると、優秀層を除くことになりやすいといえます。志望度の高さでジャッジしたり、志望度が高くないと選考を受けにくいよう持参物をたくさん課したりするのは、得策ではありません。むしろ、志望度は評価するものではなく、採用担当者が上げるものだと考えましょう。

「最初に自己PRをさせるとよい」

面接ではアイスブレークとして、候補者の多くが用意している自己PRを最初に促すことが多いですが、自己PRはなるべく後のほうが適切です。

「主観」は「後」で聞く

その理由は、自己PRは主観であるからです。

たとえば、「私の強みは、やり切る力です」と聞いても、まだ面接官のなかに人物仮説ができ上がっていない状態では、言葉どおりに受け取るしかありません。ですが、あらかじめエピソードなどを聞き、そこから能力や性格、価値観を類推したうえで、改めて候補者自身がどのように自己を認知しているかとして自己PRを聞けば、そのギャップや自己認知の度合いが測れます。

自己認知とはさまざまな能力のベースにあるものです。自分の弱みが分かっているから、そこを改善する努力をしようと思い、自分の特徴が分かっているから、チームプレーもできるわけで、それを知るためには、自己PRを後で聞くべきです。

そもそも面接では、事実から類推して価値観を調べていくのが基本で、主観情報は参考でしかありません。最初に自己PRを聞いてしまうと確証バイアスにはまり、その思い込みでずっと見てしまうことになりかねません。

「一緒に働きたい人を採ればよい」

これもよく常識としていわれることですが、実は求める人物像は一つではありません。

求める人物像は一つではない

会社にはいろいろなタイプの人材が必要ですが、もし面接官がプロフェッショナルタイプで、候補者がスペシャリストタイプだった場合、一緒に働きたいと思えるでしょうか。

面接官に「一緒に働きたい人を採ってよい」と言ってしまうと、心理的バイアスに拍車をかける可能性があります。一つは類似性効果で、自分と同じタイプの人と一緒に働きたいと思うものです。また、対比効果といって、数学が苦手だと得意な人が良く見える、あるいは、自分が学生時代にあるスポーツに熱中していたことから、相手も同じスポーツをしていると知ると、自分と比較してどの程度真剣に取り組んでいるのかを気にしてしまう、といったこともあります。

また、「優秀な人材は優秀な人材と働きたいが、そうではない人材は自分より優秀ではないと思う人材と働きたい」という、面接の格言があります。優秀な人は優秀な人同士で働きたいのですが、そうではない人は自分を脅かさない人材を選ぶことがあるのです。

よって、面接ガイダンスでは、むしろ「自分が苦手な人でも、会社が必要とする人は採る」という姿勢を徹底するべきです。

「面接はキャッチボールである」

面接では、テンポ良くやり取りができればよいですが、面接がキャッチボールであることを目的化したり、キャッチボールできているかによって候補者のコミュニケーション能力を測ったりするのは面接時のキャッチボールを重視しすぎています。

なぜなら、後に起業、上場したような優秀層の面接を振り返ると、面接官から質問をあまりしていないケースが多いからです。たとえば最初に、学生時代に何をしていたかを尋ねると、すらすらと話が始まり、合いの手を入れはしますが追加の質問をしなくても、こちらが知りたい情報をまとめて整理してプレゼンテーションしてくれるのです。

彼らが、しゃべりすぎてしまう人と異なるのは、聞きたいことを的確に伝えてくれる点です。ですから、面接のような特殊な場面において、キャッチボールをする必要は必ずしもないといえるでしょう。

面談の構造化

これに関連して、面接ではフリートークよりも、構造化が大事だという話があります。

つまり、キャッチボール的なやり取りは心地よいですが、情報量を求めるならば、構造化してヒアリングすべきです。相手の頭の中から直接欲しい情報を取りに行くくらいの気持ちでないと、短時間で必要な情報を引き出すことはできません。面接では質問を構造化しておき、必要な項目をつぶしていく感覚が必要なのです。

また、最近ではオンライン面接を行う企業も多いですが、オンライン面接は、構造化面接に適しています。オンラインではアイコンタクトができず話者交換がしにくい、すなわち面接時のキャッチボールがしにくいので、質問を構造化していくほうが、候補者が言いたいことを言いやすく、印象よく終われます。ですからオンラインでは特に、面接での質問はキャッチボール型よりプレゼンテーション型がお勧めです。

さらに、最初に欲しい情報についての質問をまとめて投げかける「リッチな質問」型にすると良いでしょう。たとえば「これまでに、想定外の困難な出来事が起こって、それに対して何らかの対処をして乗り越えようとしたお話があれば、お聞かせください。できるだけ、難易度などがイメージできるように、具体的に、定量的にお話しください。できるだけ長期間にわたって行ったことについて述べていただけますと幸いです。なお、失敗に終わった経験でも構いません」などと、長い質問をしてみましょう。これが構造化面接の、最も簡単なやり方ですので、ぜひ試してみてください。

Q&A

セミナー終盤には視聴者からの質問にお答えいただきました。

Q
志望度だけでは採用しないということですが、志望度の低い人には結局辞退されそうです。志望度を上げるためのアプローチはありますか。
A

志望度を見ないというのは初期選考においてであり、もちろん最終段階では強く志望していただかないと入社には至りません。そのために有用なのが「根っこを探る」ことです。面接の過程を通して、その人の根本となる価値観を探ることで、自社のアピールポイントのなかで、何がその人に響くのかが分かります。

価値観を確認する方法は、なぜその価値観が形成されたかという「きっかけ」、その価値観を基にした「意見」、そしてその価値観を体現するような「行動」を聞き出すことが大切です。これらについては、今後の回で詳しく取り上げます。

Q
面接官のなかには面接経験が浅い者もいるため、面接官研修を行いたいと思っています。そこで最初に伝えるべき内容を教えてください。
A

全6回のシリーズの初回である今回のセミナーで伝えたかったのは、面接官に最初に伝えるべきことは、面接は特殊なものであり、普通のコミュニケーションとは異なる、むしろ正反対なこともあるということです。自信満々な面接官ほどバイアスがかかっていたりしますので、まず面接がいかに難しいものかを伝えましょう。危機意識を持ってもらわないと変化は起きません。

Q
基本に立ち返り、面接はなぜ行うのかを改めてお聞かせください。
A

まず、他の選考手法にはない、「入社の動機付け」の機能が面接にはあります。「SPI」や書類提出だけでは動機付けはできず、会話をすることで動機付けをしないと入社はしてもらいにくいでしょう。

また、社員が面接に参加することで、採用や組織へのコミットが醸成される点も重要です。候補者の入社後を考えても、自身が選考に関わっていれば社員が積極的にサポートしたくなるなど、社員が関わることで組織開発の面でもメリットがあります。

さらに、面接以外の手法が科学的には精度が高いとしても、採用を決めるという大きな決断の際に、自分たちの目で見ずに決めるのは難しいものです。ただ、面接は1回のみにして他の手法を多数絡めるなど、面接を最小限にすることを目標にしている会社は出てきています。

最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

曽和 利光氏
曽和 利光氏

今後AI採用なども進んでいくなかで、精度に関しては面接だけでは不安かもしれず、面接が必要かというのは究極の問いだと思います。しかし現実に、今すぐ面接をやめることはないでしょう。であれば、構造化面接などを取り入れて精度の向上を目指すのが現実的です。

面接は特殊スキルであるということです。日常会話ではなく、雑談でもフリートークでもありません。独自の特殊スキルがたくさんありますので、それを残り5回の「基礎から学ぶ面接官養成講座」で皆様と探求していければと思います。

「ダメ面接官」にならないために

ダメ面接官の10の習慣

「ダメ面接官」が陥りがちな「NG行為」「思い込み」とは――。ダメ面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウを、人事コンサルタントの曽和利光氏が解説します。

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著者プロフィール久保田かおる(くぼた・かおる)

横浜市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。株式会社リクルートで12年、旅行・学び領域での編集/クライアントワーク経験を積み、当時の社是である「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」を実践。現在はフリーランスで、経営者やVC/CVC、コンサルタント、エンジニア、HR担当者、医師に対する取材・執筆を中心に活動。6年間のインタビュー実績はのべ1,618名。