【イベントレポート】伝統を受け継ぎ、革新を続ける Hondaの人事戦略

2022年8月25日、株式会社ビズリーチは「伝統を受け継ぎ、革新を続ける Hondaの人事戦略」と題したWebセミナーを開催しました。
本田技研工業株式会社 人事・コーポレートガバナンス統括部 人事部長の大野慎一様にご登壇いただき、「Hondaらしさ」を実現する人事の役割と社内浸透のメソッドをお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ代表取締役社長の酒井哲也が務めました。

大野 慎一氏

登壇者プロフィール大野 慎一氏

本田技研工業株式会社
人事・コーポレートガバナンス統括部 人事部長

1998年、新卒で京セラ株式会社に入社。人事として人事労務業務全般に従事する。2003年、本田技研工業株式会社に中途入社。労務政策など人事業務全般に携わる。その後、カナダ工場におけるHRアドバイザー業務、本社人事部 企画課長、人材開発課長を経て2021年4月、現職に就任。
酒井 哲也氏

モデレータープロフィール酒井 哲也氏

株式会社ビズリーチ
代表取締役社長 ビズリーチ事業部 事業部長

2003年、慶應義塾大学商学部卒業後、スポーツライセンス関連企業に入社。その後、株式会社リクルートエイブリック(現:株式会社リクルート)で営業、事業開発を経て、中途採用領域の営業部門長などを務める。2015年11月、株式会社ビズリーチに入社し、ビズリーチ事業本部長、リクルーティングプラットフォーム統括本部長、取締役副社長などを歴任。2022年7月、現職に就任。

「Hondaらしさ」を実現する人事の役割

Hondaは、移動と暮らしの領域で、モビリティーを通じて「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」ことを目指し、第2の創業期を迎えています。

2021年4月には、2040年に世界での新車販売のすべてをEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)とする計画を公表。あえてこのタイミングで電動化に向けた発表を行ったのは、社内の意識改革という意味合いが強くありました。

公表時には、トップ自ら「社内でずっと議論してきた内容でしたが、一部の従業員が急激な変化にうまく追従できていないように思えたので、社内に向けた発信という意味も込めて数値目標を掲げました」と話しています。Hondaでは非常に画期的な出来事でした。

では、Hondaが第2の創業期を迎えるにあたって、人事部門としてどうあるべきか。

この難しい問いに向き合わない限り、これからのHondaはありません。そんな危機感のもと、組織として目指すこと・仕事の仕方・モチベーション・学び方の観点で、変革の方向性を考えていくと、「勝ち技」はHonda Philosophyそのものだというところに行き着きました。

逆に、過去数年間においてそうしたPhilosophyといったものが、ヒト・組織といった観点で徐々に薄れてしまっていたのではないか。

捉え方によっては、人事部門がその役責を果たしきれていなかったのではないか。注力すべきことに対峙しきれていなかったのではないか、とも考えました。

Hondaの変革方向性に照らして

人事部門は「管理する人事」から「支援する人事」への進化が求められ、変革に向けた“揺らぎ”の主体者でなくてはいけません。「管理エキスパート」「従業員チャンピオン」に寄りすぎていたこれまでと違い、チェンジエージェントであることが必要だと考えています。

Hondaの人事部門としてどうあるべきか

チェンジエージェントとして、ヒトに関する取り組みを「言行一致」「一貫した」ものとすることで変革を促進し、部分的な対応ではなく、「Hondaの組織風土・文化を掘り起こす」ことに主眼を置くべきだと捉えています。

Hondaの人事部門としてどうあるべきか

Hondaの組織風土・文化を掘り起こす取り組みは、人事部門だけではなく、全社的に進めていくことが欠かせません。メディアを通じた発信強化や、創立100年に向けた施策展開も進めています。

企業文化・風土を掘り起こす取組み

いつの時代も、原動力は、「自分はこうしたい」という強烈な思いや情熱そのものです。そんな人材が集い、夢を実現し、輝く舞台としてHondaがあり続けるための変革を図るべく、会社はチャレンジ・イノベーションと共感を生み、従業員は自律的な働き方が実現できるよう、組織と個の両方の視点を持ちながら取り組んでいきたいと考えています。

Hondaの人事部門としてどうあるべきか

人事制度の仕組みでは、採用、育成、活用、退職にいたるまでエンプロイー・エクスペリエンスを面で打っていこうと考えています。面での取り組みは、人事部門、事業部門ともにパワーが必要ですが、避けて通れないものとして推進しています。

人事制度・仕組み改定=「変革のカルチャー」掘り起こし

働く人の魅力を伝える、部門と一体の採用

Hondaの「変革のカルチャー」の掘り起こしにつなげるために、採用活動は非常に重要です。

まず行っているのは求める人物像の見直しです。

Philosophyをベースに部門マネジメントから若手まで幅広くヒアリングし、人材要件にどういった内容を盛り込むべきかを議論し、応募者に響くだけでなく、面談官にも面談を通して常に立ち返ってもらうものとしています。

また、部門と一体となった採用展開を進め、「自分たちの組織風土・仲間づくりは自分たちで行っていくもの」という意識のもとで取り組んでいます。

「Hondaで働く喜びや誇りを再認識してもらいたい」と、2020年には採用オウンドメディアを立ち上げ、毎週記事を発信。以来100名以上の従業員のキャリアストーリーを公開しています。

採用活動を通じて目指すこと/取組み

部門と一体の採用において、対社外の観点では、Honda従業員のリアルを鮮度高く伝えることで、働く場・カルチャーへの共感を喚起したいと考えています。

リアルを伝えるには、これまで発信してこなかった「Hondaで働く人の魅力」を届けることが重要です。プレスリリース発表時などの注目が集まるタイミングでは、広報部門と連携して、立役者となったメンバーをすぐに取り上げ、オウンドメディアで記事を発信しています。これからも、全従業員を取材するくらいの熱意で取り組んでいきます。

働く人の魅力を伝える部門と一体の採用<キャリア採用>

キャリア採用イベントでは「はずれ値人材 Meet Up!」を行い、一般的な結論を導かないユニークな人材を求めようと実施しています。

働く人の魅力を伝える部門と一体の採用<キャリア採用>

対社内では、Hondaで働くことの喜びや誇り・原点を再認識してもらうための取り組みを続けています。

具体的には、採用を通じ、応募者と対するなかで自分が大事にしてきたことに向き合った従業員について社内向けに記事を発信。従業員向けポータルサイトでは、ロイヤルティーを高めるための社内公募制度や、キャリア形成を考えるための情報発信をしています。 部門からは「うちの部門の業務を紹介したい/取材してほしい」という声が増えてきています。

働く人の魅力を伝える部門と一体の採用<キャリア採用>

新卒採用では、現場を巻き込む体制づくりを強化しています。技術系の定期採用では、約500名のOB・OGチームと一体となったスクラム採用を実施。母集団形成から内定フォローまできめ細かく対応してもらっています。

職種別インターンシップや職種別採用の導入で、年間約2,500名の従業員を巻き込みながらの採用を展開しています。

ここまでの内容をまとめると、採用は「Connect(つなげる・つながる)」という言葉に集約されます。部門とのつながりが生まれることで、マインドセット・エンゲージメントが高まり、候補者に関わる従業員や部門が、「Hondaへの共感」「働くことの意味」といった価値観へ原点回帰できる仕掛けになっているのです。

働く人の魅力を伝える部門と一体の採用

伝統と革新を両立させるためのHRDXの取り組み

Hondaが取り組むべき変革は、従業員のキャリア、エクスペリエンスをいかに向上させるかに他なりません。HRDXで実現させたいのは、Hondaの人、組織をイノベーティブにすること。HRDXを推し進める以上、会社視点と従業員視点の双方を持ち、従業員にとっても成果・実感を示していくことが大切です。

Hondaが大切にしているPhilosophyのなかに

  • 人間のあいだには差はなく、ただ、違いがあるだけ
  • 具体的な実現可能な夢
  • より人間らしく仕事をしていくためにロボットを使いこなす

といったものがあります。

これをHRDXに置き換えると、

  • 選別ではなく、可能性が拡がる支援につなげたい
  • 自前で考える、現場発ボトムアップ思想
  • 新しいアプローチの探索

となります。HRDXの活用スタンスも、「ヒトへの向き合い方」そのものだとも考えており、これを尊重するような「HondaとしてのHRDXディシプリン」があってしかるべきだと考えています。

HondaにおけるHRDXの考え方

HRDXのこれまでの施策には、社員の声による組織傾向分析や、エンゲージメント結果からAIによるコメント分析、デジタルによる従業員の顔色チェックを勤退データと連動させるなど、さまざまな取り組みがあります。

これらも「このようにデータが出ています」と導くというよりも、「このような傾向がありませんか?」「こんな見方はできませんか?」といった間いかけが重要であって、組織支援という形でマネジメントと一緒に考えていくことが重要だと思います。

これまでの取り組み-HRDXの各施策例-

エンゲージメント向上の事例では、Honda社内の組織支援から得られた学びを「赤本(導入編)」「青本(実践編)」として展開。Hondaの強み(ワイガヤ)・対話の仕掛けを通じて、大切に紡いできた価値観や考え方を改めて共通言語としています。

大切なことは、Hondaの現場・現物・ 現実に即したときに、どのような手が現場にフィットするのかといったことかと思います。

一般論ではなく、世代を超えてHondaのなかで自分事化できること、こうしたことも変革の一部として今後より深めていきたいと考えています。

“Hondaならではの”HRDXをどのように展開するか(事例:エンゲージメント)

HRDXで導きたいのは、Hondaにおいて「どのような経験や仕掛けがストレッチにつながるか」ということ。現在、企業の枠を超え、大学連携によるデータ分析を進めています。

“Hondaならではの”HRDXをどう展開するか:ヒト・組織のパフォーマンスを引き出すために

人事に長く携わってきたものとして、今ほど人事が注目される時代はなかったと感じています。

メディアでも、パーパス経営・人的資本経営・戦略人事・CHRO・キャリア自律・エンゲージメントなどの言葉が頻繁に取り上げられています。これらの取り組みに、Hondaも真剣に向き合っていますが、あまりにも目にするため、「キレイな施策・メッセージになっていないか」という危機感もあります。同じように感じる人事担当者も多いのではないでしょうか。

泥くさい試行錯誤のなかで何かを生み出したときの喜びや、経済小説で知られる城山三郎氏が描いていたような熱量や葛藤など、「古くさい、時代に合わない」と片づけられてしまうことのなかに、感動や真の成長があるのではないか。もっと向き合わないといけないのではないかと感じることもあります。

一過性のブームにするのではなく、どんな会社・組織でありたいのか、どんな組織・文化を目指すのかを行き来しながら考えていかないといけません。

変革にはいつも賛否両論があります。しかし、変えることでの喜びを自ら増やしていきたいですし、人事部門こそが、変化を楽しみ応援する人の集団でありたいと思っています。

ブームに踊らされることなく、何を目指すか

Q&A

セミナー後半は、視聴者からの質問にお答えしました。

Q
企業変革において人事採用の役割はどのようなものだと思いますか。
A

人事がチェンジエージェントになりたいと思っています。ここ10年は守りといいますか、運用することに終始していたのかなという反省があります。私たちこそがトライアル・アンド・エラーを繰り返さないといけませんし、失敗してはいけないと二の足を踏んでいてはいけないと思っています。

人事業務のなかでも、採用や育成は前向きな発信をしていける仕事ですから、どんどんメッセージを出していきたいですね。

Q
人事部門こそ“揺らぎ”を与えられる存在になりたいとは、どういう意味でしょう。
A

Hondaは歴史と伝統を大事にしている会社です。それゆえに、今までのやり方が是であるとどうしてもなりがちで、育成や採用においてもしかりです。

でも私たちは、「今の時代はこういうやり方がある」と提案をしていかないといけません。価値観を揺さぶることになりますが、それはすべきですし、できるはずです。人事関係者の間では会社の枠を超えて議論する機会が増えており、「Hondaでもその取り組みをやっていこうかな」と他社事例を取り入れやすくなっている。いい流れだと思っています。

Q
Hondaのような大企業ではさまざまな役割、ポジション、パーソナリティーの従業員がいるのでは。彼らに大きな変革の必要性をどう認識してもらったのでしょうか。
A

「変革の時代だから、変わらなくては」というのは、トップのメッセージとして口酸っぱく発信を続けていますし、他の部門もさまざまな新たな取り組みをしています。社内全体で大きなムーブメントになっています。

ただ、「人事制度を変えることが変革につながるの?」という指摘はありますので、まだまだ力不足、道半ばです。施策単発で並べていっても変革にはつながらないので、面でやっていかないと変わらないと思っています。

浸透のためには、従業員にとって本当にメリットになると感じてもらうことが大事です。 「学びの仕組みやキャリア自律もちゃんとサポートします」「健康は自分主体で管理、加えて会社もサポートします」という考え方はどんな施策にも共通させており、一貫性を持たせることが肝だと思います。

Q
変革を推し進めるには障壁が多かったのでは? どう越えていきましたか。
A

障壁は正直たくさんありましたし、ときには上層部からの理解が得られないこともありましたね。

いろいろな施策を進めるなかで、部門の人、役員にその都度入ってもらい、やってみたら「やってよかったね」と実感してもらいました。一度反対されても、多少は思い切って導入し、巻き込んで効果を認識してもらって、応援してくれる人を増やす。そのサイクルを回していきました。

人事施策で理論を説明しても現場は動きません。人事が「お願いしてやってもらう」のでなく、「やるとお互いにメリットがありますよね」と対等な関係を築くためにも、「効果を見せる」のが一番近道だと思っています。

Q
Hondaらしさの原点回帰のために「原則出社」を発表されましたが、それに対してのメリットについて社員へはどう説明されましたか。説明に際して留意すべき点とは?
A

思いを相互にぶつける「相互主観性の構築」が大事だという思いがトップにあり、「基本出社」としています。それがHondaの「ワイガヤ」カルチャーを支えているという考えに基づいていますが、原則出社を始めて時間がたった今、どんな実感が得られているかは社内調査などで見ていきたいと思っています。

Q
出社前提の働き方に切り替えたことで、採用に影響はありますか。エンジニアの応募数など減ることもあったのでしょうか。
A

減少まではいきませんが、「応募を控えました」という声はありましたね。ただ、働き方においては幅を持たせていますし、会社が大切にしたい想い、カルチャーを重視するうえで致し方ないところもあるのかなと思っています。

Q
中途採用のオンボーディングに関する苦労はありますか。「Hondaらしさ」「Hondaならでは」という言葉により、変革が進まないリスクがあるのではと感じました。
A

とてもいいご質問、ご指摘ですね。まさに、Hondaらしさというカルチャーが強いからこそ、すり合わせが大変なところはあります。

とくに、これまでの製造業にはいなかったデジタル人材が入ることでカルチャーギャップは大きくなっています。変革をより進化させないといけないと思っています。

オンボーディング施策としては、募集要項の時点で、オウンドメディアの従業員インタビュー記事のURLを貼り付け、よりリアルな声を伝えようとしています。「こういう職場なら働きたいな」という思いを喚起できるのではと思っています。

Q
生き残りをかけた組織風土や意識改革ということですが、とくにテコ入れしたポイントはありますか。
A

従業員には「自分の自由と自己責任を両立させることが大事」と言い続けています。

自分の能力開発、キャリア形成、健康管理は自分で行い、会社はそのサポートのためにある。自分から変革しなければいけないというメッセージは、一貫して発信しています。

Q
働き方の多様性が一層求められる今、会社としての人事戦略と、社員が求める働き方の間にギャップを感じる部分はありますか。どう捉えて対応していますか。
A

ギャップはもちろんあります。Hondaでは、一つの専門性のなかで歩んでいく人が多く、チャレンジ公募(社内チャレンジ公募制度)はまだ限定的です。会社の施策として、もっとチャレンジできるよう拡大したり、キャリア自律のための選択肢を増やしたりと、ギャップは徐々に解消されているのではと感じています。何を実現したいかという個人の思いをくみ取り、部門のなかで消化することも大事なのかなと思います。

Q
今後人事が変革を牽引するために、重要なことは何だとお考えでしょうか。
A

人事メンバーが変化を楽しむ姿勢です。メンバーに対しては「どんどん変えていいんだよ」と常に言っています。私がこうしたセミナーの場で話をするのも、今まであまりなかったことでした。私自身が積極的に出ていくことで、「もっとやっていいんだ」と背中を押すことになったらいいなと思っています。最近では、「大野が部門長である今のうちに、積極的に改革を進めたい」という声が出てきていて、とてもうれしいですね。

最後に、視聴者の皆さんへメッセージをいただきました。

大野慎一氏
大野 慎一氏

変革の時代に生きる今、答えのない未来を想像し考え続けることは私たちにできること。トライアル・アンド・エラーを人事がやり続けるのが大事だと思っています。人事は会社の枠を超えて意見交換する機会が広がっているので、また皆さんと議論の場で出会えたらいいなと思っています。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。