2021年4月20日、株式会社ビズリーチ主催で「未来を⾒据え変化し続ける、ヤフーの採⽤戦略」と題してWebセミナーを開催いたしました。
前半では、ヤフー株式会社・⾦⾕俊樹氏に、人事戦略の変遷と人財採用戦略についてお話しいただき、後半ではセミナー参加者からの質問に答えていきました。

登壇者プロフィール⾦⾕ 俊樹氏
ヤフー株式会社 コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部 本部長
2007年、ヤフー株式会社に入社。人事部門にて採用・育成を中心に人事企画・組織開発・グループ会社人事を担当。2012年よりGYAOへ出向し人事責任者を務め、並行してヤフーの新評価制度設計およびバリュー浸透など各種施策の企画・実行を担当。2014年にヤフーへ帰任し、新卒採用責任者、中途採用責任者を経て、年間1,000名程度の採用全般を統括。
2018年より所属人員約2,500名のメディアカンパニーを担当するHRBP部門責任者に就任。2019年4月からは主にHRBP部門および人事企画部門を管掌し、2019年10月より現職。労務・給与や採用等業務を管掌。

モデレータープロフィール多田 洋祐氏
株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
※株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 多田 洋祐は、2022年7月2日に逝去し、同日をもって代表取締役社長を退任いたしました。生前のご厚誼に深く感謝いたしますとともに、謹んでお知らせいたします。
2012年以降、100を超える人事施策に取り組んでいる
ヤフーでは2012年以降、100を超える人事施策を実施しています。組織活性をキーワードに、表彰制度の充実、オフィスのレイアウト変更、職場環境の改善など従業員の満足度につながるあらゆる施策を導入しました。
経営方針が変われば、人事戦略は経営戦略を実現できる形に柔軟に変えていく。その姿勢を全社で体現したのが2012年以降だったといえます。
2012年10月には評価制度の大幅な見直しに着手しました。それまでToDo管理だったところから、全社員で大きな目標を追いかけ、業績への貢献につなげようと「プロフィット評価」「バリュー評価」を設計。360度評価により、社員の成⻑が将来の会社の成⻑につながるよう、評価項目を設定しました。

2019年4月にも評価制度改革を行っています。各部門の業績を分析し、組織特性とのマッチングを検討した結果、「パフォーマンス評価」ではカスケード型(※)の⽬標設計と⽬標到達までの⾏動にフォーカスすることになりました。業績への貢献と⾏動を総合的に評価し、給与+賞与に反映する形になっています。
また、それまで取り入れていた「バリュー評価」に代わり、「ピアフィードバック」を導入。周囲からの信頼が得られているかを評価に関連づけています。
(※)連なった小さな滝。さらにその派生として連続したもの、数珠つなぎになったものを意味する
オンラインをベースとした働き方への切り替えで意識したことは
2020年10月からは、ニューノーマルの時代を見据えた新しい働き方へ、大きくかじをきりました。具体的な制度変更内容は、下記の4点です。
- リモートワークの回数制限を解除
- フレックスタイム勤務のコアタイムを廃止
- 最大月7,000円の補助(どこでもオフィス手当4,000円+通信費補助3,000円)
- 通勤定期券代の支給停止(通勤交通費は実費支給)
ヤフーでは、コロナ禍以前から「どこでもオフィス」というリモートワーク制度がありました。月に5回まで会社以外のどんな場所からでも勤務できましたが、制度変更ではその回数制限を撤廃。オンラインをベースとした働き方へ移行しました。
また、フレックスタイムのコアタイムをなくして中抜け可・深夜非推奨とし、働き方の自由度を大幅に広げました。
他にも、ヤフーを副業先とした「ギグパートナー」の受け入れも積極的に取り組み始めました。ヤフー社員の副業は以前から推奨してきましたが、今後は受け入れる側にも拡大し、さまざまなスキル・経験を持った人材との交流を進めていきます。2020年7月に副業人材の第一弾を募集したところ、4,500名を超える応募があり、うち104名の受け入れを決めています。

2020年は、出社が当たり前の世界からリモートワークが当たり前の世界へ、段階的ではなく一気に振り切りました。環境変化を受け入れるうえで、ドラスティックに変革したほうがいいとの判断でしたが、振り子が大きく動くときは、必ず揺り戻しがきます。どんな課題が表出してくるかを事前に想定したうえで、制度設計をしていく必要があると感じました。
リモートワークに振り切ったことで、まず目指したのは従業員の「安全の欲求」を満たすことです。「会社の制度はここまで変わりました。感染のリスクを極力抑えているので、安心して仕事に集中してください」と、安全にフォーカスしたメッセージを経営者から発信することが大事だと考えました。

「安全の欲求」の次に人事が着手すべきは「社会的欲求」です。
これまでは、同僚と物理的に同じ空間にいることで雑談ができていました。しかし、リモートワークになると、コミュニケーションはすべて「計画されたミーティング」だけになります。業務に関連したコミュニケーションだけでは人は孤独を感じやすくなります。社会、仲間とのつながりを、会社側から導くことが大切です。
そこで導入した施策の一つが、オンラインでの懇親会飲食代の補助です。仕事に関係のない雑談でつながれる場を作れるよう、チーム単位でのオンライン懇親会の開催を後押ししました。コミュニケーションに関する調査も複数回実施し、雑談の頻度や、情報交換を求めているときにコミュニケーションがとれているかなどの実態把握も、積極的に進めました。
ヤフーの採⽤コンセプト・求める人物像
続いて、「いかに優秀な人材を獲得するか」というヤフーの採用戦略についてお話ししたいと思います。
ヤフーの求める人物像は、次の3点に集約されます。

事業環境の目まぐるしい変化に応じて、社内の組織変化も激しいのがヤフーの特徴です。変化を楽しめる柔軟性と、失敗しても最後までやり抜く力、やり抜こうという意志を持っていることが大切です。
知識を常にアップデートさせる必要があり、学び続ける姿勢も欠かせません。エンジニアにおいては、とくに重視して見ています。
採⽤基準の明確化とデータを使った採⽤成功の再現性
これまでの採用は、求人メディアで告知すれば応募があり、受け身の姿勢でも進められていました。しかし、いまや市況は大きく変化し、データ活用による攻めの採用が不可欠です。
そこで、まず取り組んだのが、採用基準の再定義です。
具体的に行ったのは、過去の採用で高い評価を受けた人の職務経歴書や採用の評価表を集め、どの点が優秀だったのか、当時の面接で書かれた評価コメントは何だったのかなど採用時のやりとりを分析したことです。
例えば、面接時のやりとりがかみ合わなかった候補者に対して、「コミュニケーション能力に懸念がある」とコメントがあったとしたら、そもそもコミュニケーション能力とは何を指しているのかを言語化していきました。入社後に習得できるものであればどれくらいの期間を見ておくべきかなどを落とし込むことで、面接時の表面的なやりとりに引っ張られることなく、優秀な人材として採用対象になります。
こうして、ヤフーにとっての「優秀さ」のパラメーターを作っていきました。また、エンジニア採用においては、コーディング試験の実施も進め、実力をスコア化できるようにしました。
そのうえで、面接担当者ごとの評価点と通過率、評価コメントもすべてログをとりスコア化していきましたが、面接担当者の評価コメントを分析すると、社風に合うか合わないかが、評価を決める大きな要素になっていることがわかりました。そこで、社風とのマッチは実際にどれくらい大事なのか、職種や部門によって変わるのかを整理し、面接担当者へのフィードバックを行っています。

ただ、データを使った分析だけでは、採用成功の再現性につながりません。そこで、ヤフーでは毎朝30分ほど、前日の面接内容の振り返りを行い、評価ポイントの目線合わせを行っています。どのポイントにおいて合格・不合格だったのか、どこに懸念点や魅力があったのかを、面接担当者か同席した人事担当者が説明します。
それに対して、「このスキル・経験で採用するなら、この部分に懸念点がある。次の面接で必ず確認しよう」といったフィードバックも行われ、全員のナレッジにつながっています。
また、実際に入社した方の現場の評価と、面接時の評価にどれくらい整合性があるのか、きちんとチューニングもしています。
採用成功の再現性を高めるには、各面接担当者の「暗黙知」を言語化することも、とても大切です。面接経験の豊富な担当者の中には「優秀さは1分話を聞けばわかる」「入室した瞬間にはわかる」などと言う人もいますが、それらをすべて、再現性につながるナレッジにしなければいけません。具体的に何が評価につながっているかの言語化にもパワーをかけています。

第⼀想起される採⽤ブランディング
採用ブランディングを高めるためには、あらゆる手段で発信を増やすことが重要だと考えています。
新たな制度や働き方の導入、イベントの実施レポートなど、伝えたいことを作り出し、さまざまなメディア活用を進めています。自社の採用ホームページはもちろん、オウンドメディアやSNSでの発信、Web広告への出稿、イベント実施など、複数チャネルでの発信を続けています。社内人脈もフル活用させていただき、広報のメンバーには、「こんな人事制度の導入を始めたので、プレスリリースできないか」と提案し、取材してくれる媒体があれば迅速に対応しています。

現在、候補者の多くが、われわれからは見えない潜在層へと潜ってしまっています。転職意向の低い層に対してもリーチできるよう、オウンドメディアなどの発信を地道に続けることが、今できることだと考えています。数年後に転職意欲が高まった際、「そういえばヤフーは採用しているかな」とアクセスしてもらえるような、中長期的なアプローチを続けています。
質疑応答
本セミナーでは、視聴者からの質問が多く寄せられました。モデレーターの多田が抜粋したものを、金谷様にお答えいただきました。
Q1. 2012年に人事制度を変えることになったのは、どんな背景がありましたか。どう変革の流れを作ったのでしょう。
A. 社長が交代となったタイミングで、経営戦略に沿った人事・評価制度刷新のリクエストがあったことが背景ですが、変革の流れを作るには、人事側から提案するしかありません。一方で評価制度をコロコロ変えるのはよくないという声もあるので、変えたいものと変えるべきではないものを整理し、「この部分は変えるべきでは?」と提案するようにしています。
Q2. 2019年に評価制度を切り替えた理由とは? 評価制度変更の浸透をどう進めましたか。
A. 経営戦略を社員一人一人が頑張って実現する世界観、一人の頑張りが集合知となって会社の成長につながるという世界観を作りたかったからです。「自分がこの目標を達成しないと、全社の達成につながらない」という理解が浸透するようにカスケード型の評価制度にしました。また、制度変更に際して、役員からの発話の機会を多く設けました。役職者への研修も何十回と行い、評価者全員の考えのすり合わせを進めています。
Q3. 目標到達までのプロセスをどう評価していますか。
A. リモートワークが中心となり、働いている状態が見えにくくなったので、アウトプットをメインで評価するようにしています。失敗があったとしても、それを含めてどのようなアウトプットを出せたのかを重視しています。
Q4. コアタイム廃止での不具合は出なかったのでしょうか。何かルール設計はしましたか。
A. 強制ではありませんが、11時~14時の間はできるかぎり勤務し、その時間でミーティングを設定できるよう推奨しています。その時間帯で勤務しない際は、チームメンバーとスケジュールを共有することも推奨しています。
Q5. リモートワークのなかで、うまく機能した制度はありましたか。
A. 第1回の緊急事態宣言での学校休校のときに、特別有給休暇の付与制度を設計しました。
「子どもが自宅にいるので仕事がしにくい」「有給以外で休む制度を作ってほしい」と声が寄せられたので、子どもがいる社員を集めてSlack上で議論しました。
どんな制度なら気兼ねなく休みを取得できるか意見を集め、賞与に反映する勤務日数換算のバランスを考えて施行。悩みを抱える当事者の声を聞いたから、できた制度でした。
Q6. 中途採用体制について、どんなチームでどう運用しているのでしょうか。
A. 中途採用担当メンバーは10人で、ATS(採用管理システム)はHRMOS採用を活用しています。
面接は毎日数十件行っており、同席する人事担当者はできる限りすべての発言を記録しています。その際、いいと思った点と懸念点、総合的に見た合否理由の3つを必ず書いてもらいます。
毎朝の振り返りミーティングでは、面接での会話記録や採用基準に落とし込んだときのスコアを全員で見ながら話し合います。前日の面接が30件だとミーティング時間は30分ほど。ポイントを押さえながら、効率的に進めています。
Q7. 人事の求められる力とは何だとお考えですか。
A. 採用はマーケティング要素が強くなっており、必要な知識・スキルは多岐にわたります。
足りないスキルは他部署のメンバーに協力を仰ぎ、サポートしてもらったり教えてもらったり、部署の垣根を越えて動くことが大切だと思います。
Q8. 転職潜在層などリーチできない人への具体的なアプローチ方法やSNSの活用法を教えてください。
A. SNS担当者はマーケティング部門からジョインしてもらっています。「ほしい人材はこういう層だから、この情報は不要では?」「ここは丁寧に伝えたほうがいいのでは?」と議論しながら伝え方を考えています。リファーラル採用を進めるうえでは、人事担当者が「社員紹介よろず相談」の窓口になり、社員からの「こんな人を紹介したいのですが…」などの問い合わせに答える、という取り組みも行っています。
セミナーの最後に金谷様よりメッセージをいただきました。
コロナ対策をどうするのか、働き方はどう変化していくのか…。採用においても転職顕在層が減少するなど社会変動が激しく、人事の勝ちパターンは通用しなくなっており、組織にとって人事の力はとても大事になってきています。いい組織を作り、社員が幸せに働ける環境の整備のために、さまざまな業界の人事担当者の皆さまと一緒に苦楽を共にしていければいいなと思っています。本日はご視聴ありがとうございました。
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執筆:田中 瑠子、編集:立野 公彦(HRreview編集部)
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