従業員の働く価値とは?日本マクドナルドの人材採用戦略【会える人事Premiumレポート】

2020年12月10日、株式会社ビズリーチ主催で会える人事Premium「従業員の働く価値とは? 日本マクドナルドの人材採用戦略」と題してWebセミナーを開催いたしました。

セミナーのテーマは、「従業員へ働く価値の提案」。企業が従業員にどのような価値を提供できるかという視点に立ち、人材採用戦略を考えていきます。

前半では、日本マクドナルド株式会社人事本部フィールドHR部シニアマネージャーの植村麦生氏に、マクドナルドの組織全体について、採用戦略の軸「EVP(企業が従業員に与える価値)」についてご講演いただきました。

後半では、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏をモデレーターに迎え、植村氏と楠田氏のトークセッションとセミナー参加者からの質問に答えていきました。

植村 麦生氏

登壇者プロフィール植村 麦生氏

日本マクドナルド株式会社 人事本部 フィールドHR部 シニアマネージャー

1996年、日本マクドナルド株式会社入社。店舗マネージャー、店長として店舗運営を経験した後に、直営店・フランチャイズ法人のコンサルタント・営業統括マネージャーとして従事。現在は人事本部でリクルーティングリーダーとして約2,900店舗のアルバイト採用の戦略と直営店舗社員の採用を担当。
楠田 祐氏

モデレータープロフィール楠田 祐氏

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表

日本電気株式会社(NEC)など、東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)客員教授を7年経験した後、2017年4月、HRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2009年から6年連続で年間500社の人事部門を訪問し、人事部門の役割と人事担当者のキャリアについて研究。

マクドナルドの歴史

はじめに植村氏からお話しいただいたのは、マクドナルドの成り立ち・歴史、価値観など。その後、今回のメインテーマである「マクドナルドのEVP(企業が従業員に与える価値)」についてお話しいただきました。

マクドナルドの創業は、1955年。米国イリノイ州デス・プレーンズに最初のフランチャイズ店舗を出店したのが始まりでした。現在は世界約100カ国以上、約39,000店舗まで拡大しています。 日本第1号店を銀座三越にオープンしたのは1971年。日本国内には現在約2,900店舗あり、年間でのべ15億人が利用しています。

これは、国民1人あたり年間10回程度利用している計算です。マクドナルドは創業以来「新しい食文化の創造と拡大」をビジョンに、日本の食文化にさまざまな変化をもたらしてきました。

新しい食文化の創造と拡大

マクドナルドは人のつながりを生み出すビジネス

マクドナルドの価値観の根幹にあるのは「ピープルビジネス」という考え方です。創業者は「マクドナルドはお客様にハンバーガーを提供するビジネスではなく、ハンバーガーの提供によるピープルビジネスだ」と話しました。

私たちのステークホルダーは、地域のお客様や従業員、フランチャイズオーナー、取引企業と多岐にわたります。そのような多くの人々におもてなしを提供したり、雇用を提供したりすることがマクドナルドの役割。マクドナルドは単にハンバーガーを提供する場所ではなく「人と人のつながりを生み出していく場所」、つまり「ピープルビジネス」だと、私自身実感しています。

people businessのメッセージ

グローバルでも「マクドナルドは、世界中どの街でも、ベストな雇用主となる」「マクドナルドは従業員の皆さんとその成長および貢献を、価値のあるものとして大切にします」ということを掲げています。

マクドナルドの人材とキャリアパス

マクドナルドの運営は、多くの店舗アルバイト(クルー)によって成り立っています。クルーの数は全国約16万人(2020年12月末時点)。そのうち学生・専門学生も多く勤務していただいており、クルー経験後にマクドナルドに新卒入社する方もいます。そしてクルーや新卒社員は、店舗からキャリアがはじまるのが特徴です。

また、機能として店舗をサポートする部署があります。マクドナルドの主体は現場です。そのため、店舗でのレストランビジネスをサポートするという意味で「本社」ではなく「レストランサポートオフィス」と呼んでいます。「レストランサポートオフィス」には、人事本部やマーケティング本部、サプライチェーン本部などが置かれ、各本部へ中途入社する人材もいます。

店舗側、オフィス側という入り口の違いはありますが、組織内では多様なキャリア選択が可能となっております。店舗で経験を積んだ後にオフィス側へ異動する、店舗・オフィスいずれも経験した後に再び店舗に戻るなど、キャリアの多様な積み方が実現できます。

マクドナルドの人材採用戦略「EVP」とは

マクドナルドが人材採用戦略の中心に据えているのはEVP(Employee Value Proposition)。直訳すると「企業が従業員に与える価値」という意味です。

現在日本のマクドナルドでは、高校生から90歳まで、年齢も国籍も経験もさまざまなクルーが働いています。親子2代で働いていることも珍しくありません。退職者を含むとこれまで300万人近い方がマクドナルドで働いた経験を持っています。マクドナルドにとってクルーは大切な財産です。「従業員がマクドナルドで働く価値」を提案し、雇用者としての評価を上げていくことを目指しています。

ここからは、クルーに対する具体的な価値提案(EVP)である「3つのF」をご紹介します。これは「Flexibility」「Family & Friends」「Future」という3つの分類によるEVP。たとえば、Flexibilityはそれぞれのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができることと定義しています。Family & Friendsはチームの一員としてポジティブな雰囲気のなかで働けること、Futureは個人が成長できるスキルを学べる機会があることと定義しています。

EVPは概念的な定義だけでなく、「毎週希望シフトを提出できる」や「週2時間から勤務できる」など、具体的な価値として整理しています。

クルーのEVPのイメージ

新卒採用ではライフロングスキルとしてリーダーシップを培ったり、店舗運営として経営を経験ができたりすることがEVPの具体例。中途採用では唯一無二のブランドとグローバルのナレッジを得ることができます。

次からご紹介するのは、クルー採用におけるEVPをマクドナルドがどのように考えて設計してきたかについて。以下4つのステップでご説明します。

  • 競合や外部マーケット環境について理解する
  • 従業員が満足して働ける環境整備
  • 第3者から評判を得る
  • EVPを伝えるコンテンツ

競合や外部マーケット環境について理解する

クルーのEVPを考えるにあたっては「求職者のニーズ」と「マクドナルドで働くことによる価値(マクドナルドが従業員に提供できる価値)」が重なる部分を探す必要がありました。そこでまず、「パートタイムで働くとはどういうことか」について調査いたしました。

調査の結果、パートタイムで働くことは「生活を阻害せずに生活の役に立つお金を稼ぐこと」であることが分かりました。これは非常に重要な求職者のニーズだと考えており、これを大前提に採用メッセージを考案しています。

同調査では、アルバイト先の決め手として最も優先度が高いのは「アクセシビリティ」という結果に。生活圏内にある職場で働けることが決め手になっていました。加えて「シフトの柔軟性」も重視されます。まずは物理的な側面から職場を決める傾向があることが分かりました。

アルバイト先を決める副次的な要素としては「良い雇用主であること」も必要だと分かりました。たとえば教育の制度や従業員の管理制度がしっかりしているところで働きたい、という要素です。加えてもう一つは「良い職場であること」。従業員同士がフォローし合って雰囲気よく働いている職場を選びたいというニーズです。

従業員が満足して働ける環境整備

一般的には、アルバイトの応募者の7割が応募前に店舗を下見(顧客として来店など)していることが分かっています。ここでまずは、自分にぴったりな職場だと認識してもらうことが大切です。そのため、応募者が来店された時に店舗において本当にEVPが提供されているのかを重要視しています。

お仕事をスタートしてからは、クルー自身に成長を実感してもらうことがポイント。マクドナルドにはハンバーガー大学という人材教育とシステム開発に取り組む機関があります。ここでのトレーニングやクルーコンテストによって、成長を実感してもらう仕組みがあります。

またマクドナルドでは、レコグニション文化を各店舗で醸成することを大切にしています。新人クルーのために悩みを聞いたり成果を認めたりするバディ制度を取り入れていたり、定期的な勤務評価や永年勤続表彰を行ったりして、成果を認めたたえる文化を大切にしています。

そうして長い間、店舗で働いたクルーが「成長できた」という実感を持って退職し、アンバサダーとして社会に出ていくことを大切にしています。そうすることでアンバサダーの周囲の人材にEVPが伝わり、次なるクルーの採用につながるのです。現状では、クルーの多くがリファラル採用。退職したクルーがライフイベントをきっかけに過去を思い出し、再び働き出すことも多くあります。

第3者から評判を得る

EVPの取り組みとしては、社内にとどまらず第3者からの評判を得ることも重視しています。マクドナルドでは長きにわたりクルーを対象に年2回、満足度調査(働く環境についての調査)を行っています。

数年前、クルーの満足度が84%だった際には「84%、まだまだです。」というメッセージで広告コミュニケーションを実施。働く環境をより良くしようとしていることを社会に伝え、社内外で良い反応をいただくことができました。

そのほかにも、クルーの雇用に対する新しい取り組みやトピックス、例えばユニフォームのリニューアルなど、クルーに対する取り組みの発信を社内外に向けて積極的に行っています。

EVPを伝えるコンテンツ

最後にご紹介するのは、EVPを伝えるコンテンツ。マクドナルドは学生層・主婦層・シニア層など属性ごとに訴求するEVPを変えたり、ダイバーシティを大切にする職場であることを訴求したりなど、店舗に掲載する求人ポスターなどでEVPを伝えてきました。
ここ数年の広告に共通していることは、実際にクルーの声を聞いたり、実際のクルーに出演したりしてもらうことです。

たとえば、2020年の「この経験は、一生もの。」という広告では、お笑い芸人の方をはじめ、現在さまざまな業界で活躍されている元クルーの方の声を掲載。実際のクルー経験で得られたことを聞き、将来につながる価値を訴求しました。さまざまな属性の方に出演していただくことを意識して制作しました。

従業員の働く価値向上が、新たな人材採用につながる

最後はモデレーターの楠田氏と植村氏に、マクドナルドのEVPやリファラル採用に関して対談していただきました。セミナーの途中でいただいた視聴者からの質問に対しても、植村様にお答えいただいています。

楠田:今回のセミナーをご視聴の皆さんのなかには、EVPの考え方を導入したい企業さんもいるかと思います。EVPを導入し、根付かせるために、どのようなことを行うと良いでしょうか。

植村:一つは、既存従業員の声をしっかり聞くことだと考えています。現状の仕事で「何を得られているのか」「何を欲しているのか」を聞く。それも建前ではない形で、すくい上げることが重要です。マクドナルドの場合は覆面調査などを行うことで、直接は拾いづらいクルーの声も聞けるような仕組みを取っていますね。

楠田:EVPの定義についても伺いましたが、その定義は変わっていくのでしょうか。また変わるとしたら、どれくらいの頻度で見直していますか。

植村:マクドナルドの場合、EVP自体は普遍的で変わらないものだと考えています。一方で「求職者のインサイト」は時代に合わせて変わっていきます。そのため、どのようなメッセージでEVPを訴求していくかが重要です。店舗に掲示するEVPを訴求した求人ポスターは、1年に1回更新するようにしていますね。

楠田:常に求職者のニーズをくみ取りながら、EVP訴求を行っているのですね。先ほど、クルーの採用は多くがリファラル採用と伺いましたが、候補者を紹介してくれたクルーへの報酬は用意していますか?

植村:紹介したクルーへの報酬は用意していますが、報酬が目的になっているわけではありません。クルーがマクドナルドで働く価値を実感することで、新しいクルーを自然と紹介していることが多いですね。働いている店舗の働きやすさや楽しさ、成長実感が価値となり、自然と友人や知人へ「うちのお店で働いてみない?」という声かけにつながっています。紹介したクルーへの報酬を、地域や期間によって上げる場合もありましたが、結果は変わりませんでした。このことからも、自然とリファラル採用が成り立っていることが分かります。

楠田:今のリファラルの話や調査の実施など、さまざまなことをこまめに棚卸しして施策に生かすのがマクドナルドの特徴ですね。

植村:そうですね。マクドナルドはピープルビジネスですので普遍的なポリシーや考え方はありますが、時代が変化していくなかで過去のやり方を踏襲しているだけではいけないと考えています。変化のある社会や店舗から情報を収集し、常に新しいやり方を模索していくことが重要だと考えています。

今回お話しいただいたEVPの考え方は、アルバイト採用のみならず、中途採用・新卒採用にも応用できるものではないでしょうか。最後にお2人からセミナー視聴者に向けてメッセージをいただきました。

楠田:今回はマクドナルドさんからクルーのEVPについてお話しいただきました。創業以来受け継がれてきた「ピープルビジネス」の考え方をもとに、細部まで採用戦略が練られていることを感じました。コロナ禍の状況下においてビジネスの明暗が分かれていることを実感する昨今ですが、採用した人材がどのようなビジネスを形作っているかがすべて。改めて採用チーム・人事全体で良い採用プロセスを作り、良い人材を採用していただきたいです。皆様の企業の飛躍を願っています。

植村クルーのEVPの考え方を応用して、今後マクドナルド自身も中途採用・新卒採用に展開していこうと考えています。これからも、従業員が自分らしく働き成長していける場を提供していきたいと考えています。本日はありがとうございました。

執筆:佐藤 由佳、編集:立野 公彦(HRreview編集部)

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