【イベントレポート】メルカリCHROが語る 急成長企業を支える文化づくり

【イベントレポート】メルカリCHROが語る 急成長企業を支える文化づくり

2021年7月29日、株式会社ビズリーチは「メルカリCHROが語る 急成長企業を支える文化づくり」と題したWebセミナーを開催しました。

株式会社メルカリ執行役員CHROの木下達夫様にご登壇いただき、メルカリの企業文化の考え方、浸透に向けた取り組みについてお話しいただきました。

モデレーターは、株式会社ビズリーチ取締役副社長で、ビズリーチ事業部事業部長の酒井哲也が務めました。

木下 達夫氏

登壇者プロフィール木下 達夫氏

株式会社メルカリ 執行役員CHRO

P&Gジャパン人事部に入社し採用・HRBPを経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト・HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者を務めた。2011年に8ヶ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。
酒井 哲也氏

モデレータープロフィール酒井 哲也氏

株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 ビズリーチ事業部 事業部長

2003年、慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社日本スポーツビジョンに入社。その後、株式会社リクルートキャリアで営業、事業開発を経て、中途採用領域の営業部門長などを務める。2015年11月、株式会社ビズリーチに入社し、ビズリーチ事業本部長、リクルーティングプラットフォーム統括本部長などを歴任。2020年2月、現職に就任。

※所属・役職等は制作時点のものとなります

第1部:企業戦略と企業文化の関係性

企業文化を考えるうえで重要なのは、「出発点は企業戦略にある」ということです。

組織として達成したいことがあり、その実現のために必要となるのが組織能力です。その組織能力の一つとして企業文化があると考えています。

企業文化は、自然発生で起きるものではなく、経営陣が意図的に仕掛け、構築するものです。構築できれば、企業戦略の実現にかなり近づけることができる。それが企業文化だととらえています。

メルカリでは、創業間もない2014年にミッション・バリューを策定。企業文化もここから構築されています。

  • ミッション:

新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る

  • バリュー:

Go Bold(大胆にやろう)
All for One(全ては成功のために)
Be a Pro(プロフェッショナルであれ)

事業戦略を考える際の土台となったのが、この3つのバリューであり、さまざまな事業立ち上げやマーケット投資も「Go Bold」に基づいています。

企業戦略と企業文化の関係性

企業文化の浸透への取り組み

企業文化の浸透は、今も試行錯誤しながら取り組んでいるテーマです。

従業員数が数百人のときは、事業上の意思決定をどんな価値観や考えですべきか、経営陣にすぐに聞くことができました。しかし、1,000人を超えてからは、経営陣との物理的な距離も生まれ、創業から大事にしてきた価値観の自然な浸透は難しくなっています。

現在の従業員数は1,700人以上。人材の多様化も進み、エンジニア職種においては外国籍社員が半数以上です。日本語圏での文化、価値観の伝承はさらに難度が高くなっており、英語でどう表現するときちんと意図が伝わるか、ディスカッションを重ねています。

例えば、メルカリでは性善説に基づき社員を信頼しており、ルールを極端に作らないことを大切にしてきました。ルールで縛るカルチャーにはしない、という経営陣の思いをどう伝えるか。検証を重ねた結果、「Trust & Openness(トラスト&オープンネス)」と言い換えています。組織規模がどんなに大きくなっても、情報共有度を高め、お互いを信頼してオープンにすべての情報を開示し合う。そのカルチャーを説明したフレーズとして、グローバルなメンバーからも理解が得られています。

新しく入ったメンバーには、ミッション・バリューを伝えるオリエンテーションを組んでいます。伝えているのは、「3カ月後にはメルカリのバリューを自分の言葉で語れるようになってください」ということ。HR領域や法務部門など、Go Boldを体現しにくいような部門においても、自分にとってGo Boldとはどういうことなのかを自分の頭で考えてもらいます。

例えば法務部で、新規事業立ち上げにより新たな法整備や解釈が必要になるのなら、先回りしてリスクを回避し、新規事業の成功に向けて動く。その取り組みも、組織規模が大きくなるなかでの重要なGo Boldの姿勢ともいえます。バリューの解釈をディテールまで落とし込むことが重要だと考えています。

バリュー浸透において大事なのは「対話」です。「自分にとって、これがGo Boldだと思うけれど、どうだろう?」と周りとディスカッションを重ね、チームでオープンに話せる環境が大切です。

第2部:企業文化は「誰」のために存在し、どのような役割を持つのか

企業文化は「誰」のために存在し、どのような役割を持つのか

カルチャーのオーナーはメンバー全員であり、カルチャーは一人一人の行動の集合体です。誰もがカルチャーを作る担い手として、主体性を持って取り組む姿勢が、メルカリの出発点にあります。

そして、企業文化はミッション達成のためにあります。

なぜメルカリにいるのかといえば、「循環型社会をつくる」という社会的インパクトを生み出す事業に携わり、同じ価値観を共有して一緒にやっていくため。

ミッション・バリューはどのステークホルダーにも大事な価値観として伝えていますが、メルカリで働くメンバーは文化を作る主体であり、受け身ではありません。

HRをはじめ経営陣は、そのナビゲーターの役割を担い、組織にとっていい方向に進めるよう、議論の機会を大切にしています。

カルチャー浸透が進んでいる背景には、3つのバリューのわかりやすさがあるでしょう。入社者へのオンボーディング、入社後のエンプロイーエクスペリエンスでもバリューに基づいた期待値を伝えています。評価面談は半年に1回、バリューの発揮度に関するフィードバックの機会は3カ月に1回あります。

社内表彰制度でも「Go Bold賞」などのようにバリューが反映されており、日々の行動から3つのバリューを意識する仕組みができています。メンバー間の会話のなかにも、「あの仕事はGo Boldだったね」などのように頻繁に登場しており、浸透度は非常に高いと思います。

評価軸にバリューをどう入れるかは、この1年で整理を続けてきました。具体的には、グレードごとに、バリューの行動を言語化し、1つのバリューにつき2つの要素に落とし込んでいます。共通言語ができたことで、メンバー自身もどこまで発揮できているか振り返ることができますし、マネージャーも判断しやすくなっています。

第3部:メルカリが取り組んだ企業文化を浸透させるためのステップ

メルカリが取り組んだ企業文化を浸透させるためのステップ

これまでの話にもあったように、企業文化の浸透には「言語化」が欠かせません。

大事なのは、いかに暗黙知から形式知に移行できるか、ハイコンテクストからローコンテクストに移行できるか。グローバルコンテクストでロジカルに言語化し、日本語話者以外のメンバーにも理解できることが重要です。

なぜ言語化するのか

暗黙知が重要ではないということではありません。コロナ禍以前のメルカリでは、原則出社にしてチームランチや夜ご飯の時間でコミュニケーションをとるなど、チームビルディングも大事にしてきました。ただ、暗黙知だけではスケールしないというのも事実であり、とくに人材の多様化が進むなかでは具体的な共通言語が必要です。

そこで、「形式知」化の取り組みの一環として作ったのが「カルチャードック」(※)です。

※「ドキュメンテーション/Documentation」の省略表現「Doc」を、ここでは日本語で「ドック」と表現。

Mercari Culture Docとは

これは、メルカリが大事にしている価値観をドキュメンテーション化したもの。採用、入社後のオンボーディング、育成、職場環境の改善などさまざまなフェーズで、バリューに基づいて組織運営に落とし込むために、2019年に作成しました。

カルチャードックを作る過程で、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」に対するメルカリとしての方針を社内外に提示できたのは大きな収穫でした。D&Iについては、当時経営陣のなかでも意見がまとまっておらず、経営陣が議論を重ねる機会になりました。

英語を話す社員が増えていき、言語に対してどう向き合うのかについても、「メルカリにとって英語はツールである」とステートメントのなかで明確にしました。ミッション達成のためには、国内外の優秀なエンジニアを採用し続けることが必要であり、そのために英語力は求められます。英語を必要とする業務は拡大していくので、英語に積極的に取り組めば仕事の機会は増えていく。その方針も、明確に示すことができました。

質疑応答

セミナー後半には、視聴者から寄せられた質問にお答えいただきました。

セミナー参加者からの質問

Q1. トップのコミットメントと、それを地道に進めることは大切だと思いますが、重厚長大系の企業における組織文化変革において大切なことは何だと思いますか。

A. トップダウンとボトムアップの両立です。歴史ある企業だからこそ、トップがコミットを示していくことと、現場の考えを巻き込みながら「こうありたいよね」としっかり話し合っていくことが大事だと思います。

メルカリでは、「カルチャードック」を都度更新しており、そのために、社員への英語・日本語での公開ヒアリング(オープンドア)を行っています。非常に多くの人が参加してくれて、オンラインでたくさんのコメントが寄せられます。現場のインプットが入ると、元の内容をどうブラッシュアップすべきかの解像度が上がります。メンバーの意見を踏まえて一緒に作っていく「オープンソース」の考え方が大事だと思います。

セミナー参加者からの質問

Q2. スタートアップ企業においては、ある意味で白紙の状態で目指したい企業文化の姿を設計し、実現のための施策を推進できると思います。過去からの蓄積がある企業において、新しい企業文化を設定、浸透させるためには、何が必要と考えられますか。

A. 大きく2点あります。

一つが、自分たちの強みをしっかり現状分析することです。SWOT分析などを活用し、組織の強み、弱み、機会、脅威の認識を深めましょう。

2つ目が、自分たちはどこに向かいたいのかを明確にすることです。実現したいことに対して必要な新しい企業文化とは何か。未来から逆算して考えるのが大切です。

今の強みを持ったうえで、新たに目指す先との差分はどこにあるのか、自社の見直しが大事だと思います。

セミナー参加者からの質問

Q3. 一度文化を定義してしまうと、事業フェーズに合わせて変わる社内文化と定義(概念)がずれていってしまい「絵に描いた餅」になってしまう可能性はないでしょうか。
企業文化の見直しはどのくらいの頻度で行われているのでしょうか。

A. メルカリは1年ごとに行っています。

おっしゃる通り、組織は生き物なので、変化に合わせて変えていかなければいけません。

メルカリは現在1,900万人のアクティブユーザーに使われています。プラットフォームが大きくなれば社会的責任も大きくなる。サステナビリティが大事だという価値観は大きく変化してきました。

また、コロナ禍の影響でリモートワークが進んだことで、一人一人の「ウェルビーイング(心身のコンディション)」を高めることがパフォーマンスアップには重要だと認識を新たにしました。そこで今は、「ウェルビーイング・フォー・パフォーマンス」を考えようという議論になっています。このように、変化に応じて「リビングドキュメント(生きた文書)」を作っていくことが大事だと思います。

セミナー参加者からの質問

Q4. すでに醸成された企業文化(縦割り・上意下達など)を変革したいとき、トップダウン(経営とマネジメント者)とボトムアップ(若手や一般職位者)のどちらの意識改革の優先順位が高いですか? また、その際に効果的な施策などがあればご教示いただきたいです。

A. トップダウンの優先順位が高いです。

経営を担う人間が「自分たちはこうありたい」とオーナーシップを発揮しなければ、ボトムアップは動きません。経営戦略、組織として実現したいことをしっかりひもづけることが大事です。

メルカリの経営層とマネジメント層が大切にしているのは「ディスアグリー&コミット」です。これはAmazonのリーダーシップ理念を参考にしているのですが、議論を尽くしたうえで決まったことに対しては、反対意見だったとしても全員がコミットする、という考え方です。議論ばかりでは意思決定のスピード感が遅くなってしまうので、オープンに意見を言い合ったら、あとは結論を出す。自分の意見と異なる決定だとしても、意見する場はあったのだから受け入れよう、というポリシーを共有しています。

セミナー参加者からの質問

Q5. 組織文化の浸透に向けて、設定している社内ルール・規定はどんなものでしょうか。

A. ルール規定はできるだけ作りたくないというのが、メルカリのスタンスです。

3つのバリューとD&Iの考え方は、人事評価プロセスに組み込まれており、評価者(マネージャー)が、メンバーに期待する行動を評価に反映できるよう仕組み化されています。

セミナー参加者からの質問

Q6. カルチャーの悪用が増えてきたとき、どのように対応しましたか。

A. 半年ごとに評価サイクルを回しており、マネージャーへのフィードバック研修も行っています。フィードバックはあくまでも行動変容に働きかけることが大事だと伝えています。

また、一緒に仕事をしているメンバーにフィードバックを依頼する「ピアレビュー」を大事にしています。いいところと改善すべきところを、バリューに基づいて書いてもらい、「こういうところはもっとGo Boldになれる」「もっと専門性を高めてBe A Proを意識してみたら」などとお互いにアドバイスし合う。間違った方向にフィードバックをしていたら、指摘をもらえる仕組みができています。

セミナー参加者からの質問

Q7. 経営陣は「組織文化の浸透」について何をもってうまくいっていると判断するのでしょうか。具体的に追っている定量指標があればあわせて教えていただきたいです。

A. エンゲージメントサーベイで「バリューに基づいた行動ができているか」という質問があります。今のところ8割以上からポジティブな回答が出ており、バリューを日々の行動に落とし込めている社員は一定数いるととらえています。

残り2割はどうしてできていないのか、ブロッカーは何で、どうしたらなくせるのかについては、マネージャーやオンボーディング担当のメンバーと会話しながら、1カ月ごとの数字を追っています。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。