【イベントレポート】個の多様性を事業成長に活かす ローソンの人材マネジメント

2022年9月15日、株式会社ビズリーチは「個の多様性を事業成長に活かす ローソンの人材マネジメント」と題したWebセミナーを開催しました。

株式会社ローソン執行役員人事本部長の日野武二様にご登壇いただき、個の多様性と事業成長の関係性や、持続可能な事業成長のための人材採用術についてお話しいただきました。モデレーターは、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐様に務めていただきました。

日野 武二氏

登壇者プロフィール日野 武二氏

株式会社ローソン執行役員人事本部長

1989年、株式会社ダイエーコンビニエンスシステムズ(現:株式会社ローソン)⼊社。スーパーバイザー(店舗指導員)を経て、⼈事部⾨に。⼈事部⾨では幅広く給与、制度企画、労政を担当し、4年間の秘書室勤務後、2014年4⽉に⼈事本部⻑就任。
楠田 祐氏

モデレータープロフィール楠田 祐氏

HRエグゼクティブコンソーシアム代表

日本電気株式会社(NEC)など、東証1部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)客員教授を7年経験した後、2017年4月、HRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2009年から6年連続で年間500社の人事部門を訪問し、人事部門の役割と人事担当者のキャリアについて研究。

複数の事業ドメインをもつ事業内容とは?

今日は、「七転び八起きしながらとにかく続けてきたこと」「ローソンにとって多様性がなぜ必要だったのか」「その要素って何だったろう」ということで、ベーシックな内容になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。

会社概要

株式会社ローソンは、1975年に設立、2025年には創立50周年を迎え、現在は国内で約1万5,000店舗のコンビニエンスストアをチェーン展開しています。首都圏においては「ナチュラルローソン」も展開しており、グループ会社に「成城石井」などもございます。また、チケットなどエンタメ領域でも事業展開しています。

2018年には「ローソン銀行」を開業しました。皆さんご存じの通り、ローソンの店舗にはATMがあります。そのATM事業を軸に、ATMネットワークを活用したキャッシュレス決済サービスの展開などを行っています。

海外展開もおこなっています。事業モデルそのものが海外に移植しやすいといわれていますが、一定の店舗数を超えると、ロジスティクスや発注システムが整備しやすくなります。集中的に出店(ドミナント)していくことで効率を上げ、多店舗展開していくビジネスモデルです。現在は、中国への展開に力をいれており、5,000店舗以上を展開しています。また、フィリピン、タイ、インドネシア、ハワイなどにも展開しています。

グループをまとめる理念とローソンWAYの必要性

グループ理念とローソンWAY

人事施策の面では、さまざまな取り組みをしています。そのなかで、「一番大切なものは一体何だろう」「さまざまな人がいろいろなことをただやっているだけだったら、バラバラになってしまう」と考えた結果、やはりわれわれが大切にしているのは「グループ理念」だとの結論に到達しました。

グループ理念は、「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」です。この理念を実現するために「ローソンWAY」という行動指針があります。そのなかで特に大事にしていることが3つほどあります。

1つ目は、「誠実であること」です。企業に所属する一員として、コンプライアンス遵守はもちろん、仕事に対する姿勢なども含めて、「何をするにしても、まず誠実であろう」ということを常に心に刻んでいます。

2つ目は「仲間」です。「仲間」と一言でいっても、弊社の場合多岐にわたります。ローソングループ企業の規模で言うと従業員1万人ですが、フランチャイズチェーンの加盟店のオーナーさんや従業員の皆さんを含めると約20万人におよびます。さらに、お取引先で商品を配送してくださる方、お弁当やサンドイッチを製造してくださる方など、本当に多くの仲間に支えられ成り立っています。数多くの仲間がひとつになってローソンを作り上げ、お客様にサービスをご提供していく。ひとりでも多くのお客様にご満足いただけるように、一丸となっていい仕事をしていこうと心がけています。

3つ目は、「チャレンジ」です。チャレンジしない前例主義は、停滞どころか、下降線をたどっていくことにもつながっていきます。失敗を恐れずにどんどんチャレンジ出来る環境づくりを心掛けています。

チャレンジにつながる一番のきっかけは「気づき」です。仕事をする上では些細な事象に対しても気づきが出てきます。その気づきを声に出すだけではなく、きちんと行動に移しチャレンジすることがとても大事です。このチャレンジが、最終的には一つ一つのローソンのお店の笑顔につながっていくのです。

グループ理念と行動指針に関しては今ご説明した通りです。現在では、「パーパス」とよくいわれていますが、これが一番大切なものだと思います。そこに熟達した仕事があっても、みんなが同じベクトルを持っていないとバラバラになってしまうので、日々気をつけています。

地域やマチを幸せにするための健康経営

健康経営

「健康経営」を目指していく上で、「健康」や「ダイバーシティ」を企業文化として根付かせ、土台したいと考えています。

働く環境、土台として「健康経営」がないと、フランチャイズビジネスも、われわれ従業員も立ちゆかなくなる。そのように考え、2015年から「健康経営宣言」を掲げました。まず従業員の健康に対する具体的な取り組みとして、全従業員への健康診断推奨を開始しました。当時、従業員の健康への意識が低く、年度締めギリギリまで督促を重ねて、やっと健康診断を受けるという方が多かった。日々業務は忙しく、さまざまな考えの方がいるのも重々承知しています。

ですが、地域やマチを幸せにするためには、まず自分自身や一緒に働く仲間が健康で元気でないとなりません。まずは、従業員が健康で、オーナーさん、クルーさんが健康で元気で明るく、笑顔である。その上で、販売する商品がおいしく、健康に資するものである。その結果としてお客様が健康的でマチが健康になっていく。こういう循環をしっかりと作り上げていこうと考えました。

90年代から2000年代初頭にかけてのコンビニにおいては、20代の独身男性が事業上のターゲットで、とにかくボリュームがあり、味が濃い商品が売れる時代でした。潮目が変わってきたのが2000年代初頭前後でした。というのも、売り上げが2000年を境にして、大きく伸びなくなったのです。お客様が求められているものとの乖離が出てきたことが考えられます。ここが大きな岐路となり、そこからダイバーシティや健康経営に踏み込んでいきました。

従業員・加盟店への取り組み

まず、従業員に対しての取り組みは、「健康診断」の受診の徹底です。これは法律でも定められており、当然のことではありますが、「そもそも健康診断って一体何のためにするのだろう」ということから考えました。悪いところが見つかった場合の治療や、日常生活のなかで体を気づかうきっかけにつながればという思いで、会社を上げて健康診断の受診、その後の再受診を呼び掛けています。

2013年度から、定期健康診断を受診しなかった場合に未受診の本人とその上司の賞与の一部をカット(本人15%、上司10%)する制度、および再検査、治療が必要な場合も本人の賞与の一部をカットする制度を導入しています。これにより、以降の定期健康診断の受診率は100%になりました。最近では、健康管理アプリを活用する施策もおこなっています。

健康管理の徹底は自社の従業員だけではなく、加盟店の皆さんに対しても働きかけています。そのなかで、がん検診の推進などを通して、健康に対する意識を加盟店の皆さんにも高めてもらうような施策を行っています。

やはり体が資本ですから、健康を損なうといい仕事もできないですし、いいアイデアも浮かばないので、健康であることに重きを置いています。

2000年代の売り上げの低下は、お客様のニーズとの乖離が問題であると申し上げましたが、モノカルチャーな組織が全国に散らばっていたことがその要因の一つになっていました。これからの時代はそういった組織形態を変えていかなければならないと考え、まずは採用から着手しました。

その一環として、2005年には新卒採用の男女比率50%ずつを目指しました。

その後、2008年から新卒採用の15%程度を目安に国際社員の採用をおこなっています。いまも2名が人事として勤務しており、各部署に1名程度配属しています。

自国の文化や母国語があり、その母国を飛び出して日本の文化、言語を新たに学んでおり、非常に優秀な方が多いです。このほか人事制度として、定期的な研修の実施や、男性の育休取得も進んでいます。従業員や加盟店の皆さんに対してこのような取り組みを進めてきました。

トークセッション

セミナー後半にはまず、日野氏、楠田氏によるトークセッションを行いました。

楠田:とてもわかりやすいストーリーで、「ローソンって何なのだろう」「ローソンの人材マネジメントはどこに向かっているのだろう」ということがわかりました。人的資本という文脈で、僕なりの質問をさせていただきます。まず、竹増さん(代表取締役社長)とどれぐらい会話しますか。

日野:人事と社長室が近いので、顔を合わせることは多いです。物理的な距離が近いほうがいいと思うので、人事部と社長室は近くに設置しています。

楠田:東証プライム市場上場企業の人事担当役員、部長にインタビューしたことがありますが、実際に、どれぐらいの頻度で社長と会っているかを質問したところ、ほとんどの方が社長に呼ばれたときしか会わないという回答でした。「最後に会ったのはいつですか」と質問したら、「3カ月前」という回答もありました。ローソンではあまりないことでしょうか。

日野:仮に会議がなくても2週間に1回、30分の社長定例ミーティングを設けるようにしているので、そこで必ず話します。

楠田:経営戦略と人事戦略の連動といいますが、社長と人事担当役員が対話できていないのはありえないと私は思います。社長が株主から決算などの説明を求められることがあると思います。そういう時のために、人事担当役員が対話のなかで日々、説明してインプットしていくことが大切です。女性活躍推進、健康経営などを日野さん自身が担当の社員から話をしっかり聞き、全体をまとめているのですね。

Q&A

セミナー終盤には視聴者からの質問に答えていただきました。

Q
各種ユニークな施策を積極的に行われていますが、どのようにアイデアを集めているのでしょうか。
A

みんなでブレーンストーミングし、議論しています。上司、部下の垣根を越えて、言いたいことは遠慮なく伝えあいます。文化、言語、考え方などの背景が違う人が多く、中国、韓国など国籍もさまざまです。議論のなかで多様な意見を聞くことができ、それが施策のアイデアのヒントにつながっています。

また、新たな取り組みは、実験的に「スモールスタート」という名目で、限定的な店舗だけでおこないます。成果が出たら正式に「広げましょう」と提案していく。人事の施策はそのような形で進めています。

Q
多様性と事業運営といっても、頭では理解しながらも完全に共感できていない社員もいるのではないかと思います。社内に説明するうえで苦労されているポイントや工夫点はありますか。
A

最終的には、納得してもらったほうがいいです。しかし、方針、事業計画のなかに組み込まれていることなので、会社で決まったこととして最終的にはやってもらわないといけないと考えております。従業員のパフォーマンスを最大化するためには丁寧に説明していくことが必要だと考えております。できる限り丁寧に説明しようとしていますが、人を介していくにつれ、半減法といわれるような、趣旨が伝わっていかないことがよくあります。最近はそれを回避するために、動画を配信したりしています。そうやって、伝え方を変えていくことが大切だと思います。

Q
女性社員のキャリア形成について対話の機会を設けておられるようですが、管理職を望まない女性社員の意識を前向きなものに変えることに有効なポイントは何だとお考えですか。
A

「志向」というものが大きく左右すると思います。バイアスを持つことなく、やれるか、やれないか、やりたいか、やりたくないかなどの対話をします。そのうえで、こちらから管理職になってほしいと思う人にはそれに応じたアプローチをします。ロールモデルとの接点を増やしたり、話を聞いてもらったり、メンターをつけたりなどが必要です。以前、営業拠点のトップである支店長に女性が就任した際には、メンターを配しました。

先にお伝えした「定期研修」では、「キャリア開発研修」と「管理職への選抜研修」という2種類を行っています。「キャリア開発研修」ですと、ライフプランというような内容があって、入社後数年の従業員を対象に、研修を行います。一方の「管理職への選抜研修」は、管理職候補の人に集まっていただく。両方の研修ともに、誰かが話をする、コミュニケーションをするというよりも、同年代やキャリア上で近い属性の人が集まって議論することで化学反応が起こると思っています。

頑張っている人たちや子育てしながら、営業の第一線で活躍している人たちに話してもらうと、「こんな人が社内にいるのですね」という感想をよく聞きます。

われわれは、そういう気づきをまず提供して、みんなで盛り上げていこうとしています。

Q
同じ店舗ビジネスの人事を務めています。弊社でも現場での経験を重視し、入社後は、店舗での経験を積んでいただいているのですが、離職率が高く、その後のキャリア形成につながっていません。御社の場合、同じような課題はありませんか。もしあれば、どういった対応策をされているのか、お伺いできますと幸いです。
A

弊社も同じ悩みを抱えています。だからといって、店舗での経験なくして、他の職種に配属することはおそらくありません。新卒で入社した人のなかには、1年目でこんなはずじゃなかったという人もいます。そういった状況を回避するために、弊社では育成に適した店舗を全国の直営店から選んでいます。その店舗では、前年に入社した先輩が店長をしているなど、育成カリキュラムが整っています。入社時研修をおこなった従業員が、店舗巡回をしています。エリアごとに担当人事がいますので、人事も巡回しています。こうやって人事と研修を受けた従業員、両方の立場からサポートをしています。

あとは、直属の育成店舗の指導員、そのエリアを管轄する支店長に対して、新入社員の様子を伝えたりして、サポートの要請もしていきます。このあたりを機能的に動かしていくことで離職率を下げる努力をしています。ローソンを好きになって、スーパーバイザーを目指したいと思っている人が、業務や人間関係でつまずかないように、みんなで見守っています。

最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました 。

楠田祐氏
楠田 祐 氏

学びの一つは、「対話」をおこなっているということです。在宅勤務を3年間続けていると、一言もしゃべらないでもできる仕事が増えていると思います。でも、答えが見えない時代だからこそ、人間は対話を通じて、自分の意見を口にすることで答えにたどり着くことがあります。従って、文字コミュニケーションのみならず、口頭のコミュニケーションを続けていくことによって先が見えるのではないかと思います。そして、自分もそこに向かって、いろいろなひらめきがあり、それを会社も承認していき、自分の価値が会社に認められていくというのが、いまの、またこれからの時代なのかなと思います。それを積極的に取り組んでいるのが、ローソン様だったのではないかなと思います。

ぜひ、日野さん、さらにいい会社にしていっていただければと思います。今日は、どうもありがとうございました。

日野武二氏
日野 武二氏

結果として、まだまだ胸を張っていえるようなものではないことばかりですが、あえてお話をさせていただきました。ダイバーシティにしても健康経営にしても、今後も悩みながら、「もっと良くならないか」ということを進めていきます。

一方、一生懸命やっているなかで、法律や社会が変わり、越えていかなければならない壁の難度がさらに高いものになってきております。だからこそ、これまで以上にみんなのギアを上げいかないといけない、それが多くの会社の状況だと思っています。

3年後に迎える50周年、その後の70周年、はたまた、100周年になるのかはわかりませんが、ローソンの次の世代にしっかりとした土台を残していきたいなと思い、工夫を凝らしながら人事本部メンバーと頑張っています。

苦しいことも多いですが、仕事はやっぱり明るく、楽しく、元気にやらないともったいないと思います。そういった考え方を持っていますので、これからもとにかく楽しく元気にやっていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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著者プロフィールBizReach withHR編集部

先進企業の人事担当者へのインタビューや登壇イベントなどを中心に執筆。企業成長に役立つ「先進企業の人事・採用関連の事例」や、 事業を加速させる「採用などの現場ですぐに活用できる具体策」など、価値ある多様なコンテンツをお届けしていきます。