2022年7月12日、株式会社ビズリーチは「人事・採用の基本をマスター」と題したWebセミナーを開催しました。
株式会社人材研究所代表取締役社長・曽和利光氏にご登壇いただき、採用活動の基礎・基本となるテーマを、全6回のWebセミナーで伝えていきます。最終回となる今回は「優秀な人材の見極め・口説き方編」として、自社に合った活躍する人材を見極め、「口説く」方法について解説します。

登壇者プロフィール曽和 利光氏
株式会社人材研究所 代表取締役社長
著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント」、「『ネットワーク採用』とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」
動機形成のステップ
優秀な人材の見極めにおいて、キーとなるのは動機形成です。
動機形成には、信頼関係構築・情報収集・説得勧誘の3つのステップがあります。

ステップ1は、「信頼関係構築期」です。
候補者から見れば、採用担当者は「得体の知れない人」。関係構築ができていない段階から「口説かれ」ても、どこまで信じていいか分からないのが本音でしょう。担当者から自己開示をすることで、話をしてもらえる雰囲気をつくっていきましょう。
ステップ2は、「情報収集期」です。聞いた内容をすべて取り込むことを目指します。
候補者が、業界や自社、仕事内容についてどんな誤解をしているかが分からなければ、その誤解を解く情報を伝えられません。本音で話してくれる関係を構築できれば、不安や疑問などネガティブなことも話してもらえるようになり、候補者について理解が深まります。
キャリアカウンセリングをしているかのように、決して言いくるめようとせず、フラットに対話することを心がけましょう。
ステップ3は、「説得勧誘期」です。関係を構築し、情報を集めてからようやく、説得のフェーズに入ります。
人によって情報の捉え方は異なります。同じ内容でも、いいなと思う人もいれば、そう思わない人もいます。候補者の意思決定スタイルやモチベーションリソース、キャリア観(※)などに応じて会社の情報を伝えることが大切です。
人には、追えば追うほど逃げていくという心理法則があります。3つのステップを一つ飛ばしに進むことなく、焦らず、きちんと手順を踏んでいきましょう。
※「モチベーションリソース」とは組織・仕事・職場・生活のどこにモチベーションを感じているのかということ、「キャリア観」は志向性を指します。


信頼関係構築期のポイント~「非合理な選択」が起こるプロセスを知る~
採用では、「非合理な選択」がたびたび起こります。
圧倒的な人気企業よりも、名も知られていない企業を選んだり、条件面で劣る企業を選んだりと、一般的な評価とは違う選択をする。これを私は「非合理な選択」と呼んでいます。
動機形成のベースは「論理的説得」にありますが、「いかに非合理な選択をさせるか」が採用活動の肝です。企業力がそのまま採用力となるのなら、採用担当者の介在価値はないからです。
では、「非合理な選択」はどこから生まれるのか。私は「愛着(アタッチメント)」だと考えています。愛着とは、受容的理解を示してくれた人への共感から生まれるものです。
人は受容的理解をされると、「一番自分をよく理解してくれた」「相手が受け入れてくれた」と考えます。入社動機の多くを占めるのは、この点であり、実際に私がリクルートで人事をしていたときも、入社の決め手として「自分を一番よく理解してくれたから」という本音を多く聞きました。
そもそも「一番よく理解してくれた」と候補者が感じるには、どんなプロセスがあるのでしょう。

候補者のことを深く理解しようとするならば、候補者に自分のことをたくさん話してもらわなくてはいけません。
話してもらうためには、「この人(採用担当者)なら受け止めてくれる」という信頼感は欠かせません。だからこそ、採用担当者自らが、ネガティブな部分も含めてオープンに話すことが必要になります。
仲良くなることにフォーカス
「一番よく理解してくれた」と思ってもらうためには、まずは「仲良くなる」ことが大切です。候補者と接点を持ち、距離を縮めることから始めましょう。
会い方は、セミナーや懇親会、面談、お客様としてなど、形は問いません。最初から説明会や面接などで、がつがつと採用意欲を出さないこと。信頼関係づくりのためと捉え、「仲良くなる」ことに注力します。
会話のなかで、「そういえば、〇〇さんの会社ってどんな感じですか」と質問されればチャンスです。採用の「土俵」に上がったと捉え、その後はフォーマルな選考に切り替えていきましょう。
採用担当者自身が自己開示をする
候補者に「一番よく理解してくれた」と思ってもらうために、採用担当者の自己開示は欠かせません。
自分が何者かを相手に伝えなければ信頼されず、本音や深い話をすることなどできないからです。
信頼関係構築期では、自分が聞きたい話は自分から言うのが鉄則です。深い話を聞きたければ、自ら同じ深さまで降りていかなければいけません。
「私も、自社のこんな点が不安で、転職するときにすごく迷ったんだ」などと話すと、相手も転職活動での悩みや自社に対する不安な点を吐露してくれるかもしれません。
自己開示をするときは、候補者との共通点に着目するといいでしょう。
候補者に会うときは、選考上の情報から、共通点を探します。共通点があったときは、「転職でこういう点を考えていたのは私も同じですよ」などエピソードを語ってみるのも効果的です。秘密や悩み、コンプレックス、希少性のある内容で共通点があると、信頼関係はより深まりやすくなります。
自己開示のベストタイミングは入社動機に話が及んだときです。
「採用担当者さんはなぜこの会社に入社したのですか」と聞かれたらチャンス。「入社動機」は自分の過去の経歴を語りやすいテーマだからです。
入社動機は、ドラマチックに語るのが鉄則です。
やりがちなのは、「何が好きなのか」だけ言って終わってしまうこと。会社の特徴を抽象的に話しても、採用担当者の人となりは伝わりません。自分のことを語れるチャンスなのに、会社説明に終始してはもったいないです。
入社動機では、「なぜ好きなのか」を語り、どうして自分がそう感じるのかライフストーリーを語りましょう。
「事業内容に共感した」ではなく、「子どもの頃にこんな原体験があり、こんな社会になればと思って過ごしてきたので、当社の事業内容に意義を感じた」というように伝えると、採用担当者がどんな価値観を持ち、どんな生き方をしてきたのかがより伝わります。

「相性」のよい人に会わせる
採用の難しさは、限られた時間で信頼関係構築から情報収集、説得勧誘までの3ステップを踏まなくてはいけない点にあります。
そこで、信頼関係構築期では、候補者と相性のよい人(採用担当者や社員)を会わせるのも大事です。

仕事の人間関係においては、異質で補完関係にある人同士のほうが、生産性向上の観点からもよいといわれています。ただ、分かり合うまでに時間がかかるため、採用シーンにおいては同質な人がいいでしょう。
採用担当者は、社員にどんなタイプの人がいるのか、誰がどんな話をできるのか、あらかじめ知っておく必要があります。
「この候補者は社員の〇〇さんと合いそう」と組み合わせが浮かぶくらい、普段から社内コミュニケーションをとっておくといいでしょう。
情報収集期のポイント~候補者から聞き出すべき情報とは~
情報収集期において候補者から聞き出すべき情報について、考えていきましょう。
面接の評価では、事実がとにかく重要です。思っていることではなく事実から評価すべきで、定量的なエビデンスがあればなおいいでしょう。
しかし、選考前のフォロー(動機付け)では「その人がどう思っているか」という心理的事実が大事になります。どんな誤解があるかが分からなければ、誤解を解くことはできません。主観や妄想、思い込み、誤解、偏見を引き出すことが重要です。
会話のなかで難なく聞き出せる内容には、前述したモチベーションリソースやキャリア観、選社基準や、自社に対する志望動機があります。
一方、聞きにくい内容には、
- 自社に対する不安要因(ネック)
- 意思決定スタイル
- その人の意思決定に強い影響を与えている人
があり、これらをどう引き出していくかは、採用担当者の情報収集力によるでしょう。
情報収集の段階では、候補者が間違っていることや誤解を話したとしても、ひとまず「なるほど、そう思っているのですね」と聞く姿勢が大事です。
この時期は、相手が思っていることをとにかくたくさん聞いて取り込むべきだからです。
「不安要因」を解消するために
情報を引き出したうえで不安要因を解消していかなければ動機付けにつながりません。
重要なのは、「よく言われがちな自社への不安要因をリストアップする」ことです。
自社への不安要因には、次のようなものがあります。
- 「長時間労働でとても激務なのではないか」
- 「『若くてもできる』とはつまり、簡単な仕事で、成長がどこかで止まるのではないか」
- 「退職者が多く、社内の空気がよくないのではないか」
- 「報酬水準が類似業種よりも低いのではないか」
- 「退職後の再就職先はあまりないのではないか」
どのような企業でも、不安要因のバリエーションはそう多くありません。パターンを分類できれば、それに対するカウンタートークを考えられるでしょう。

不安要因が事実であれば、「認識×対策」「トレードオフ」の説明の仕方が考えられます。
【認識×対策の例】
「労働時間に関するご懸念は確かにそうです。当社としても問題を認識しているので、このような対策・制度をつくり、改善に向けてこのような動きがあります」
【トレードオフの例】
「業界内の給与水準と比べると確かに弊社は低いほうです。でも、人材を多く採用し、1人あたりの労働時間管理は徹底しています」
「給与面以外で、福利厚生では教育に投資しており、このような学びの制度が充実しています」
トレードオフの情報を提供することで、「それがあるならいいな」と思う人がいるかもしれません。そのため採用担当者は、社内の考えや制度についても詳細に知っておく必要があります。
不安要因が誤解だった場合は、できるだけ具体的な事実を定量的に示しましょう。
「前年度の育児休暇取得率は99.5%でした」「残業時間の平均は〇時間です」など、すぐに回答を示せれば説得力が増します。こうした数字はアドリブで対応するのが難しいため、事前準備がとても大切です。
説得勧誘期のポイント
説得勧誘の段階では、候補者の「意思決定スタイル」を知っておくことが重要です。

多くの情報から考えるのか、少ない情報からパッと決めるのか。1つに決めるのか、選択肢を残しておくのか。2つの軸をかけ合わせることで、意思決定の4パターンが見えてきます。
パターンによって「口説き方」のスタイルを変えていかないと、よかれと思った情報提供がマイナスに働くこともあり、注意が必要です。
例えば、「決断型」の人には「ぜひ、うちに来ませんか」と押しの一手が効果的です。
採用活動においては、候補者の入社後の納得度を高めるために「ほかの企業も見たうえでご検討ください」と伝えることがあります。しかし、決断型の人はそれを「どうしても来てほしいと言われないということは、自分の評価は低いのだろう」と考える傾向にあるため、せっかくのチャンスを逃すことにつながってしまうかもしれないのです。
「事業・仕事」「組織文化」の説明
事業や仕事内容を説明する際は、「知的好奇心」や「社会的意義」に関わる内容を伝えていきましょう。
○知的好奇心
-その仕事の面白さはそのようなところにあるのか
-成長できるのか。できる場合、どのようにできるのか、なぜできるのか
○社会的意義
-その事業や仕事は、社会に何を提供しているのか。なくなるとどうなるのか
「成長実感があるかどうか」「社会にどう貢献しているのか」は、若手人材がより重視する傾向にあります。
組織文化を説明する際は、具体的な事例を伝えることがポイントです。
「風通しのよい社風」「新しいことに挑戦させてもらえる」というような、抽象的な話にしないこと。
「あのビッグプロジェクトのプロジェクトマネージャーは入社〇年目の20代です」などと年次まで具体的に伝えることで、候補者に「若いうちから任せてもらえる社風」と捉えてもらうことが大事です。
ほかに、社内で交わされる言葉や会話を伝えることも効果的です。
タイプによって「刺さる」コンテンツは変わるので、相手をきちんと見ながら何を伝えるかを決めていきましょう。

説得勧誘の段階では、入社後の「リアリティーショック」も想定しておく必要があります。
2019年に行われたパーソル総合研究所調査によると、約8割の人が、早期退職につながるリアリティーショック(入社前の期待と入社後の現実の乖離)を感じています。
オンボーディングは入社前から始まっていると捉え、期待調整を進める必要があるでしょう。

入社後の離職の抑制に効果的とされているのがRJP(Realistic Job Preview)です。
RJPとは、入社前によいことも悪いことも含めてリアルな情報を提供すること。ただ、選考辞退につながるとの指摘もありますので、伝え方に工夫する必要があるでしょう。
私は、入社意思が固まり、人間関係ができ上がってから行うこと、事実だとしてもポジティブな表現を心がけることなどをおすすめしています。

説得勧誘の最後の段階はクロージングになりますが、内定を軽々しく出さないのも大切なポイントです。
「最終面接合格」と「内定」を区別し、「選考は合格なので、あとはあなたの意思次第です。意思確認の面談後に正式に内定をお出しします」と伝えることをおすすめします。「意思決定できるように情報提供をさせてください」というスタンスで、コミュケーションをとりましょう。
内定を出す際は、1対1での丁寧な対応で、重要感を演出しましょう。
内定を伝えるのは、内定者とすでにやりとりのある採用担当者か、内定を出す権限を持つ責任者クラスの方とし、メールや電話ではなく、直接入社意思を確認しましょう。
今はオンラインも多いと思いますが、オフラインで会える場合はお祝いの食事をしたり、書面を出したりして、歓迎の気持ちをきちんと伝えましょう。
動機形成で欠かせない「自分で決めた」感覚
動機形成の3つのステップを通じて重要なのは、「自分で決めた」感覚をいかに醸成するかということです。
ヒアリングの際は、議論や意見をすることなく、候補者が思っていることをとにかく引き出します。
そして、メッセージよりも具体的事実を伝えましょう。「若いうちから活躍できる」といったこちら側の解釈ではなく「20代のプロジェクトマネージャーがいる」と事実を示せば、候補者自身が「チャンスの多い会社なんだ」と解釈できます。
最後の「口説き」では、「あなたにとってこの点が大事なんですね。だとしたら当社がいいのではないでしょうか」と、候補者の言葉を用いて伝えられるといいでしょう。
採用競合と迷っている場合には、自社と競合を比較せずに、競合同士を比較検討することで、候補者の選社軸を整理できます。

Q&A
セミナー終盤には視聴者からの質問にお答えいただきました。
軸がないのではなく意識できていないだけかもしれません。それまでのキャリアや、さまざまな判断・選択の経験から、「あなたのこんな経験のお話から、こういう価値観をお持ちだと類推されるのですが、いかがですか」と整理していってはいかがでしょう。
根拠なく言うのではなく、候補者が話した内容・事実をベースに、決めつけにならないように伝えるといいと思います。
人は、決めつけられると抵抗したくなるので、あくまでも本人に決めてもらうことが大事です。
もしかしたら、突然問われて頭が真っ白になっているだけかもしれません。考える時間を用意してもいいと思います。
会社に関する質問は、知り尽くしているため出てこないというケースはよくあります。そこで採用担当者や面接官が「私個人について聞いてもらってもいいですよ」と言ってみるのも一つの方法です。個人的な質問をしてもいいのだろうかと遠慮している候補者は多いと思われるので、こちらから話を振ってみると、意外に質問が出てくるかもしれません。
質問をもらうことは、知りたいことに対して情報を伝えられる、動機付けの貴重なチャンスです。できるだけ質問をしてもらえるように、いろいろなボールを投げてみてください。
最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

全6回シリーズをご視聴いただき、ありがとうございました。
今後、日本は確実に少子化が進んでいきます。採用難度が高まっていくなか、動機形成力は採用担当者のコアスキルになると思います。
言葉を磨くことがすごく大事なのに、準備をしていない方が多いのが非常にもったいないです。「フォロートーク」を紙に書いてチーム内でブラッシュアップし、動機形成力を組織全体で高めていってほしいと思います
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