2021年6月25日、株式会社ビズリーチは「個の成長を企業の成長につなげるニトリから学ぶ組織づくり」と題したWebセミナーを開催しました。
株式会社ニトリホールディングス 組織開発室 室長・永島寛之様にご登壇いただき、高い生産性を生み出すニトリの組織の特徴、採用広報の進め方、タレントマネジメントの考え方についてお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ 代表取締役社長の多田洋祐が務めました。
■登壇者プロフィール
永島 寛之 氏
株式会社ニトリホールディングス 組織開発室 室長
東レ株式会社勤務を経て2007年ソニー株式会社に入社。一貫してB2B、B2Cのマーケティングの業務に従事。米国マイアミに赴任時にダイバーシティ組織の運営を通じたグローバル組織構築に興味を持ち、2013年に米国出店を果たしたばかりの株式会社ニトリに入社。入社後は、店長、人材採用部長、採用教育部長を務め、2019年3月から現職。
マーケティングの経験を生かし、テクノロジーを活用した個人の成長と会社の成長をマッチングする教育システム構築に全力投入中。「個の成長が企業の成長。そして、社会を変えていく力になる」という考えのもと、従業員のやる気・能力を高める施策を次々と打ち出す。 厚生労働省「多様な働き方」普及・促進事業運営委員も務める。

モデレータープロフィール多田 洋祐氏
株式会社ビズリーチ代表取締役社長
高い生産性を生み出す「個の成長」ドリブン組織
ニトリでは、個人の付加価値を高めることが労働生産性につながるという考えのもと、個人の成長を起点にしたさまざまな取り組みを進めています。
人事は一人一人のエンプロイージャーニーを考える仕事
私自身、長くメーカーでマーケティングに従事してきた経験から、マーケティングの観点から事業や人事を考えてきました。
マーケティング領域では長い間、多くの人に同じ提案をする「マスマーケティング」が一般的でした。そこから、デジタルマーケティングが導入され、お客様は一人一人だという「One to Oneマーケティング」が主流になってきています。カスタマージャーニーという概念やナーチャリング(顧客の育成)手法の発見は、顧客接点のあり方を大きく変えています。
お客様を「個人」として見る観点は、人事においても重要です。人事にとってのお客様とは、ニトリで働く従業員であり、これからニトリで働きたいと考える求職者です。人事の仕事とは、一人一人のエンプロイージャーニーを考えていくことなのです。

昨今は、組織のあり方をジョブ型とメンバーシップ型の二項対立で考える風潮があります。
でも、重要なのは、組織の生産性を見るのか、個人の生産性を見るのかという観点ではないでしょうか。個人の生産性という考え方が入っているのなら、「ジョブ型orメンバーシップ型」ではなく、「ジョブandメンバーシップ型」でいいと考えています。
HRテックを活用することで、個人の生産性はどんどん上げられるようになっています。人事制度は「個人の生産性を高めるための施策になっているか」という観点が大事だと思います。

2032年にニトリが目指す未来とは
ここで改めて、ニトリとはどんな企業かをご紹介していきます。
家具店のイメージを持っている方が多いと思いますが、家具の販売売り上げは全体の35%。インテリア事業や新規事業が他を占めています。ニトリの最大の強みは、18.9%という営業利益率の高さです。一人当たりの労働生産性は、他の流通業平均が約800万円であるのに対し、ニトリは2,260万円。個人の付加価値を上げるために進めてきた工夫が、この数字を支えています。

事業成長を支える柱になっているのが、ロマンとビジョンです。
ロマン(志=ミッション)は「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」。住まいの豊かさという社会課題を主語に、30年ビジョンとして「2032年に売上高3兆円」を目指し、「世界の暮らし提案企業」になることを掲げています。

ニトリはこれまで、低価格高品質の強みなど他社がまねできないコアコンピタンスに強みを持ったうえで、グローバル化とデジタル化によって、事業を拡大してきました。
AIやIoTを使い、暮らし自体を変えることができないか、と挑戦を続けています。
非連続成長を支えるインソース主義
33期連続増収増益を続けてきましたが、2032年の3兆円企業を目指すには、非連続の成長が欠かせません。新業態展開を進めるうえで、人材開発は急務です。
そこでニトリでは、製造物流IT小売業として、あらゆる機能を内製化しています。

強化しているのは「インソース主義」による、組織のエコシステム化です。
コンサルティング会社に頼っている領域も一部ありますが、難しい仕事こそインソースで対応し、社内への技術・ノウハウ蓄積を進めています。基幹システム構築までも自社対応し、従業員が付加価値やナレッジを得る機会の損失を防止。人材教育を重視した「配転教育」やニトリ大学の設立、ミッション・ビジョンの行動転化を進めています。
エコシステム化により、顧客ニーズデータを組織内で活用し、全社員でマーケティングをしながら事業を推進できます。
配転教育では、全社員を対象に2~3年に1回の配置転換を繰り返します。37部署100職種以上の選択肢から本人の希望ベースで組織内越境が決まり、その人にしか持てない価値、専門性を育てます。
仕事の賞味期限は短くなるなか、働く期間は長くなっています。さまざまな領域で職務経験を積むことは、社会変化に対応できるキャリア育成につながると考えています。
また、組織を超えたタスクフォースが年間50以上つくられており、各部署からの選抜メンバーが数カ月かけて重要な社会課題に取り組みます。「海外出店準備タスクフォース」「店内アプリ開発タスクフォース」「都市型店舗標準タスクフォース」など扱う課題はさまざま。できるだけフラットな組織構造で自律分散型の組織をつくることを目標にしています。
「ニトリの未来の姿」に共感を得るための採用広報
では、ニトリの姿勢に共感をもっていただくために、採用広報では何に取り組んでいるのかをお話ししたいと思います。
非連続成長のためにもっとも大切なのは、未来の組織の姿を、経営陣がきちんと理解して言語化し、ミッション・ビジョンと照らし合わせて語れるかだと考えています。
人事は、従業員一人一人が何をしたいのかをヒアリングし、本人の好奇心や価値観をしっかりと見たうえで、組織とのつながりを考える仕事。社会課題の解決など、組織の目標とのマッチングを考える役割を担っています。
個人の価値観と組織のミッション・ビジョンがつながっていけば、企業文化が醸成されていきます。採用で人事が果たすべき重要な役割は、学生の価値観の発見と解決したい社会課題のマッチングを図ることなのです。
ニトリが目指す未来像を伝え、従来のニトリにはいない人材を採用する
新卒市場において、流通業は不人気業種の一つでした。
しかし今では、人気企業ランキングの一角に入ることも増え、学生の併願先もメーカーが40%、金融IT業界が33%と多様になっています。
採用広報で行っていたのは、従来の就職サイトや新卒採用サイトにとどまらないオウンドメディアでの情報発信や、企業側から学生にアプローチする採用手法です。
流通業という区分けをされている限り、不人気業界のレッテルを貼られがちなので、業界の枠を超えた事業展開とその広報が重要です。
今の延長線ではない非連続な成長を目指すのなら、今はまだ存在しない未来の自分たちの姿を想像し、これまで入ってこなかったような人材の採用が必要です。学生の皆さんに、ニトリの30年ビジョンとゴールを伝え、「10年後のニトリなら働いてみたい」と思っていただけるような情報発信が必要なのです。

採用ブランディングでは、企業が未来に作りたい価値を広報していくことが大切です。
- 自社の未来の形を意識したイメージ戦略
- 未来組織と提供価値をデザインして言語化する技術
の2点を伝えることで、企業が取り組む社会課題を明確にし、従業員が得られるスキルを発信していきます。
考えるきっかけを提供する3つの構成要素
目指すのは、「ひっかけ」ではなく考える「きっかけ」を提供することです。

表面的なフックを提供するのではなく、提供すべきなのは3つのきっかけです。
- 学生が自らの価値観や好奇心に気が付くきっかけ
- 働く意味(社会課題の解決)を理解するきっかけ
- キャリアをデザインするきっかけ
これらを提供するために、ニトリの採用ブランディングでは3つの構成要素を設計し、求職者の体験の最適化を進めています。
- 【媒体】採用広報ツール
- 【場】1万人インターンシップ
- 【人】専属50名リクルーター
採用広報ツールでは、毎日更新の「オウンドメディア」での情報発信を強化。実際に応募者からは、「最初だけ新卒採用サイトをチェックし、その後はオウンドメディアを見ていた」という声が寄せられました。

インターンシップでは、複数の部署の仕事を体験してもらい、世の中にある仕事の幅広さを理解してもらうことを大きなゴールに置いています。その後、ニトリの選考に進まなかったとしても、「ニトリのインターンのおかげで自分の道が決まった」と、学生が未来を考えるきっかけになればいい。就職に迷う学生をゼロにすることがニトリのインターンシップの目標であり、一つの社会貢献だと思って取り組んでいます。
インターンでは、直接採用につながるケースもありますが、それ以上に翌年の就活生への口コミの影響が大きいです。先輩から「ニトリのインターンに行くといいよ」と勧められてエントリーするという流れができており、母集団形成には一定の効果が出ています。
専任リクルーター採用制度は、入社3~5年目の若手社員教育の一環として行っています。

多数精鋭を目指すタレントマネジメント
優秀な人を採用できるようになると、組織をどうマネジメントするかが重要なテーマになります。
ニトリでは、タレントマネジメントプラットフォームを構築し、システムを活用したデータ集約により人材プールを作っています。個人人材プールは1,000通り以上あり、配置転換の際にどの人材とどの仕事を組み合わせるべきか、検討材料として活用しています。
データ分析の素材の一つが「キャリアデザインシート」です。
「30年後に何をやりたいか」を全社員に年に2回ヒアリングし、これをベースに配置転換を検討。今の仕事とやりたいこととの整合性や、やりたいことの実現のための社内コンテストへの参加など、一人一人が主体的に動けているかなども見ています。

eラーニングの学習履歴も、従業員理解を深める大切なデータです。誰がどんなことに興味があるのか、本人が気づいていない適性に気づかせる機会にもなります。
ほかにも、毎月20日に配信しているパルスサーベイ(簡易アンケート)の結果や、社内の人材発掘型コンテストへの参加状況なども、社員に関するデータとして貴重な材料になっています。
熱意や達成志向性などの定性的な情報をいかにデータ化するかは、タレントマネジメントのキーになります。
定量的な評価にはあらわれないデータを集約することで、好奇心や適性を社会課題の解決につなげられる、ニトリならではの人材プールができると考えています。

キャリアデザインのサポート活動の一環として、人事主催の社内番組(45分)を毎週放送し、未来の組織の形を伝えていっています。視聴率は15%ほどですが、地道な発信を続けることもまた、個人と組織をつなげる人事の大事な役割だと考えています。
質疑応答
セミナー終盤には視聴者の皆様からの質問にお答えしました。
中長期の「タレントプール」活用で、採用成功をつかむ

「スカウトへの返信がない」だけで、採用を諦めていませんか。
企業がアプローチしたタイミングが、候補者にとって「ベストな転職タイミング」であるとは限りません。タイミングを逃さないよう、「タレントプール」を活用しましょう。