アデコが行った調査(※)によると、勤務先の人事評価に不満を持っている人は62.8%もいるそう。それでも会社が人事評価を行うのはなぜでしょうか?
この記事では、人事評価制度の目的や評価基準、手法、導入手順、失敗例などを紹介します。
※参考:「人事評価制度」に関する意識調査
人事評価を行う目的
もしも会社が「仕事をやってもやらなくても同じ待遇」であれば、社内に悪平等が生まれ、経営目標の達成は困難になるでしょう。そうならないために必要なのが人事評価制度です。人事評価の最終目的は「経営目標の達成」や「企業の成長」。そしてその手前に3つの目的があります。
公平感のある処遇の分配
処遇の分配とは「宝の山分け」のこと。宝(利益)は有限なので、できるだけ公平感が出るように分ける必要があります。厳密には賃金だけでなく、ポジションや仕事のアサインなど、社員への処遇すべてが含まれます。ここでの公平感は「分配の公平感(他の人と比べて分け前が公平である)」と「手続きの公平感(評価の内容とプロセスが透明である)」の2つが必要です。
社員の活用と育成
人事評価では、個々の社員の活用と育成を促します。現状の評価を基に、一人ひとりについてこれからどうすれば活躍できるか、もっと成長するかを、本人と上司(会社)が一緒に考える機会です。
企業文化の醸成
「何を評価するか」は企業が重視する価値観を表すもの。人事評価でのフィードバックの積み重ねが企業文化を作っていきます。中長期的に見るとこれが最も大事な目的といえるでしょう。
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人事評価の基準
人事評価は、あらかじめ定められた期間の従業員の成果について行います。一般的に、評価項目は4つの区分で作成されます。
業績評価
売上や粗利益など、目標に対する達成度や成果を客観的な数値で見ます。数値化しにくい業務については、上司や同僚などにヒアリングして数値化する方法もあります。
能力評価
業務に必要なスキルや知識のレベルを評価します。企業や部署、役職などによって必要な能力は異なるので独自で作成するものですが、「スケジュール管理」「報告・連絡・相談」などは多くの企業で能力評価の項目に入っているでしょう。
行動評価
業績向上につながる行動を評価します。業績評価は「その期の成果」を見ますが、行動評価は「プロセス」を見るもの。例えば「売上目標達成のために毎月◯件の訪問を行う」など具体的なプロセスを設定しておき、その実施レベルを見ます。
情意評価
仕事への意欲や姿勢を評価します。業務への積極性、責任感、勤務態度、チームへの貢献などが対象です。
人事評価の手法
日本で一般的なのは、前述の4区分の評価項目ごとに、5段階(または3や7段階など)で数値化する方法です。数値化は「自己評価+上司からの評定」で行う企業が多いでしょう。目標管理制度(MBO)や360度評価、コンピテンシー評価などの手法を取り入れている企業もあります。
目標管理制度(MBO)
マネジメントで有名な経営思想家ピーター・ドラッカーが提唱。経営目標や部門目標と、一人ひとりの個人目標を連動させることによって、業績向上を目指します。あらかじめ「組織貢献」と「自己成長」を両立する個人目標を設定し、具体的な行動を定め、目標の達成度で評価を行います。ただし、自己成長への強い動機づけがないと、ただの「ノルマ管理」になってしまいます。
360度評価
上司に加え、同僚や部下からも対象者の評価材料を集めて人事評価を行う方法。例えば厳しすぎる上司によって低評価がつけられても、周囲からの適切な評価で適正値に近づくので、社員の納得感が高まります。一方で、仲良し同士で高評価をつけ合う、嫌いな人の評価を下げるといった不適切なケースも起こり得ます。そのため360度評価の結果は参考とし、給与などの処遇には反映しないことが多いでしょう。
コンピテンシー評価
「コンピテンシー」とはハイパフォーマー(高業績者)に共通した行動特性のこと。コンピテンシー評価とは、ハイパフォーマーに共通する行動特性を基準として、他の社員の評価基準を作成する手法です。コンピテンシー評価では会社として求める人物像を明確に示し、そこに向かう成長過程を評価で確認することができます。米国を中心に人事評価のひとつの手法として用いられ、日本でも2000年頃から大企業を中心に導入されています。
人事評価の作成・実施ステップ
評価制度は、運用しながら地道な改善を重ねていくことが大切です。企業の状況が変われば求める人材像も変わり、評価手法や評価項目も変わっていくもの。一度作って終わりではありません。これまで評価制度がなかった企業では、導入時はできるだけシンプルな制度にして、評価制度自体の定着を図ることから始めるといいでしょう。人事評価の作成から実施までのステップを紹介します。
【ステップ1】評価の目的を明確にする
まず、何のために評価を行うのかを明確にします。前述した「公平感のある処遇の分配・社員の活用と育成・企業文化の醸成」という3つの目的をよりかみ砕いて、自社の評価制度がどんな機能を持つべきかを考えましょう。
【ステップ2】評価の仕組みを決める
一般的な5段階評価にするのか、他の方法も取り入れるのか。売上目標の達成のためであればMBO、社員のポジティブな行動を促すにはコンピテンシー評価など、目的に合わせて組み合わせることも検討しましょう。
【ステップ3】評価項目を規定する
部門や等級ごとに求める職務やレベルを明確にし、各等級で評価項目を検討します。業績、能力、行動、情意の4区分で考えると規定しやすいでしょう。
【ステップ4】評価と処遇の連携を決める
評価と処遇を連携させるか否か、連携する場合はどの項目が何に結びつくのかルールを決めます。詳しくは後述します。
【ステップ5】評価者研修を行う
評価を行う人を集め、評価方法について研修を行います。評価者によって厳しい・甘いという傾向があると不公平になり、社員の不満に直結します。評価者によるブレをできるだけ小さくするために重要なプロセスです。
【ステップ6】社員に説明する
社員に評価の目的や評価方法を説明します。処遇と連動する場合には、その説明もきちんとしましょう。評価される側の納得感を高めることが大切です。
【ステップ7】評価を実施する
一般的には、自己評価+上司評価で実施します。評価が出そろったら、評価者によって極端な差がでていないか確認するといいでしょう。
【ステップ8】フィードバックする
上長や人事担当者から評価結果を本人に面談でフィードバックします。このとき大切なのはこの面談を「成長支援の場」にすること。結果を伝えるだけではいけません。次期の課題や目標を明確にすることに主眼を置きましょう。
評価と処遇を結び付ける場合には、社員がある程度納得できるようにルールをあらかじめ決めておく必要があります。以下はひとつの考え方です。
仕事の結果 | 業績、成果、MBO | 賞与 |
行動 | 能力、行動、情意、意欲 | 昇進・昇格、月給の昇給 |
個人の特性 | 知識、スキル、基礎能力、性格特性 | 異動、役員登用 |
評価項目と処遇は、必ずしも結びつける必要はありません。例えば「評価は育成を目的として行い、利益は全社員で分配する」という会社もあります。
参考:『図解 人材マネジメント入門』(坪谷邦生著)

人事評価でありがちな失敗
制度を作っても、実際に運用してみるとうまくいかないこともあります。以下の失敗は起こりやすいのであらかじめ回避できるように気をつけましょう。
評価制度が「目的化」してしまう
評価を行うこと自体が目的になってしまい、評価をしたらそれで終わり。「育成につながるフィードバックをしていない」というのは起こりがちな失敗です。
納得感がなく、やる気を低下させる
全員が「満足」する評価制度を作るのは無理なことです。ただしある程度「納得」できるものを目指すことは重要です。評価制度に納得感がないと、その不満から仕事へのやる気が下がってしまうことは十分あり得ます。社員に人事評価制度について「納得度アンケート」を実施して改善していくのもよい方法です。
評価範囲外の業務が停滞する
社員が高評価を得ようとして評価項目にあることを優先するばかりに、項目に入っていない業務が停滞してしまうケースもあります。会社の成長にとって必要な行動や情意は評価項目などで網羅するとよいでしょう。
テレワークでの人事評価の方法
テレワークをしている人への評価については、「正味の勤務時間が把握しづらい」「勤務態度の判断が難しい」「評価方法がブレやすい」「評価プロセスが遅延しやすい」などの課題があります。そのため、テレワークでは業績評価に重きを置くのもひとつの方法です。MBOを導入する、成果に至るプロセスは面談で確認するなど、自社に適した方法を検討しましょう。どのような評価にするにしても、評価方法や評価基準を明確化し、全社で共有しておくことが大切です。
先進企業が注目する「ノーレイティング」
レイティングは「S」「A」などと社員をランク付けすること。日本では一般的な方法ですが、主に米国の有名企業では評価を数値化しない「ノーレイティング」も増加しています。
一般的にレイティングやMBOは半年〜1年に1回のペースで行われますが、ノーレイティングはリアルタイム。上司と部下の1on1の密接なコミュニケーションによって評価を行います。環境の変化に対応しやすく、目標設定もリアルタイムになるなどのメリットがある一方、上司の負担が増す、上司に高いマネジメント力が必要といった難しさもあります。
大手グローバル企業が既に年次評価を廃止したこともあり、ノーレイティングに関心を示している日本企業もあります。
参考:『図解 人材マネジメント入門』(坪谷邦生著)、『人事評価制度のつくり方』(山元浩二著)
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