仕事のパフォーマンスを向上させるためには、仕事に対するやりがいや働きやすい職場づくりが不可欠です。しかし、具体的にどのような対策を講じれば良いのか分からず悩む経営者、人事担当者も少なくありません。そこで覚えておきたいのが、「ワーク・エンゲイジメント」という考え方です。
今回の記事では、そもそもワーク・エンゲイジメントとはどのようなものなのか、なぜワーク・エンゲイジメントが重要なのかについて紹介するとともに、ワーク・エンゲイジメントを高めるために企業ができる具体的なプログラムも紹介します。
ワーク・エンゲイジメントは従業員の定着や生産性の向上にもつながるため、ぜひ最後までお読みいただき参考にしてください。
ワーク・エンゲイジメントとは
ワーク・エンゲイジメントは、オランダにあるユトレヒト大学のシャウフェリ教授らによって提唱された概念で、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りややりがいを感じている」 (熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3要素を満たした状態として定義されています。
ワーク・エンゲイジメントの測定方法にはさまざまなものがありますが、調査によって得られた結果は「ワーク・エンゲイジメントスコア」として数値データ化されます。
ワーク・エンゲイジメントに関連する概念として「ワーカホリズム」「職務満足感」「バーンアウト」などがありますが、ワーク・エンゲイジメントとこれらには以下のような違いがあります。
ワーカホリズム
仕事に熱心に取り組み活動水準は高いものの、仕事自体にネガティブな感覚を抱いている点がワーク・エンゲイジメントとは異なります。
職務満足感
仕事にやりがいは感じているものの、活動水準が低い点がワーク・エンゲイジメントとは異なります。
バーンアウト(燃え尽き症候群)
ワーク・エンゲイジメントの対局にある概念で、活動水準と仕事に対する態度のどちらも低い状態を指します。
ワーク・エンゲイジメントが重要な理由
なぜワーク・エンゲイジメントが注目されているのでしょうか。ワーク・エンゲイジメントを高めることが重要な理由を3つ紹介します。
生産性向上につながる
ワーク・エンゲイジメントは企業および個人の生産性にも影響を及ぼす傾向が見られます。
因果関係は断定できませんが、「労働生産性が向上している」と感じる頻度が多い労働者ほど、ワーク・エンゲイジメントスコアも高いことが分かっています。

離職率を抑制できる
ワーク・エンゲイジメントと新入社員の入社後3年の定着率は、比例する傾向があることも分かっています。ワーク・エンゲイジメントスコアが高いほど定着率も向上し、反対にワーク・エンゲイジメントスコアが低い企業は離職率が高まる傾向が見られました。
これは人手不足の企業においても同様で、ワーク・エンゲイジメントスコアが4以上の企業は定着率が高く、離職率を抑えられている傾向が確認されています。

顧客満足度を向上させる
ワーク・エンゲイジメントスコアが高いほど顧客満足度が上昇することも分かっています。
調査対象企業のうち、ワーク・エンゲイジメントスコアが「2以下」の企業では「(3年前と比較して)顧客満足度が上昇している」と回答した割合は29.3%であったのに対し、「6」の企業では38.6%と、9ポイント以上もの開きが見られました。

ワーク・エンゲイジメントの測定方法
ワーク・エンゲイジメントスコアを測るためにはいくつかの方法があります。今回はその中でも代表的な「UWES」という測定方法を中心にご紹介します。
UWES(Utrecht Work Engagement Scale)
ワーク・エンゲイジメントは一般的に「UWES(Utrecht Work Engagement Scale)」という方法で測定されます。これは、ワーク・エンゲイジメントを構成する「活力」「熱意」「没頭」の3要素に関連する質問を17項目に分けてヒアリングし測定する方法です。
一例として以下のような質問が用意されており、「0.(まったくない)~6.(毎日感じる)」の7段階で評価していきます。
「活力」の質問例
- 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
- 職場では、元気が出て精力的になるように感じる
- 朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる
「熱意」の質問例
- 仕事に熱心である
- 仕事は、私に活力を与えてくれる
- 自分の仕事に誇りを感じる
「没頭」の質問例
- 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
- 私は仕事にのめり込んでいる
- 仕事をしていると、つい夢中になってしまう
17項目版の他にも、9項目の質問で測定できる短縮版と、3項目の質問で測定できる超短縮版も存在します。
出典: 島津明人(2016)「ワーク・エンゲイジメント-ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を-
その他の測定方法
UWES以外にも、「MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)」や「OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)」などを使った測定方法もあります。これらは、どちらもワーク・エンゲイジメントそのものを測定する方法ではなく、バーンアウトを測定する方法です。
ワーク・エンゲイジメントと対極にあるバーンアウトを測定することで、ワーク・エンゲイジメントについて知ることができます。
日本におけるワーク・エンゲイジメントスコアの傾向
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2019年に行った調査を活用した厚生労働省の独自集計によると、日本における正社員のワーク・エンゲイジメントスコアは3.42となっています。内訳を見てみると、熱意が3.92、次いで没頭が3.55と高い数値であるのに対し、活力は2.78と大幅に低い傾向が見られます。
また、男性と女性を比較してみると、女性のほうがワーク・エンゲイジメントスコアがやや高い傾向にあります。

さらに、ワーク・エンゲイジメントスコアは年齢や職位が上がるにつれて高くなる傾向も見られています。この要因としては、職責が高まることで仕事を通じた成長実感も高まることに加え、やりがいも感じやすくなることなどが考えられます。
一方、正社員では年収の増加にともなってワーク・エンゲイジメントが高くなる傾向にあるのは39歳までで、それ以降の年代では年収とワーク・エンゲイジメントスコアには相関関係が見られないことも分かっています。
出典:第Ⅱ部 人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について|厚生労働省(P.176 )
海外と比較したワーク・エンゲイジメントスコアの傾向
UWESによってワーク・エンゲイジメントスコアを算出したとき、もっとも高いスコアを記録したのがフランス、次いでフィンランド、南アフリカと続いています。これらの国のワーク・エンゲイジメントスコアが4以上であるのに対して、日本は国際的に見てもスコアが低い傾向が見られます。
ただし、日本人は感情をあまり表に出さないともいわれており、特にポジティブな感情は抑制しがちです。そのため、ワーク・エンゲイジメントスコアにもそのような傾向が出ている可能性が指摘されています。
文化や国民性の違いなどを考慮すると、一概に「日本のワーク・エンゲイジメントは特段に低い」と断定することも難しいのです。
労使間で生じているワーク・エンゲイジメントのギャップ
企業と従業員それぞれに対して行ったワーク・エンゲイジメントの調査結果を見ると、企業側はワーク・エンゲイジメントスコアを「高い」と認識しているのに対し、従業員側の認識は大幅に低く、労使間でギャップが生じているケースも見られました。
人手不足企業の場合は労使間でのギャップはわずかですが、人手不足ではない企業においては、労使間で大きなギャップが生じています。
この調査結果からも、仕事に対してやりがいを感じられず、何らかの不満を抱えている従業員の割合は、企業側が感じている以上に多いということが分かります。
出典:第Ⅱ部 人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について|厚生労働省(P.189 )
ワーク・エンゲイジメントを高めるために企業ができること
ワーク・エンゲイジメントを高めるためには、「個人の資源」と「仕事の資源」の両方を充実させることが求められます。
「個人の資源」とは、自信やストレスへの対処力・粘り強さ、仕事への動機づけを高める能力など、従業員個人の持つ内的なスキルのことを指します。個人の資源を充実させるために企業ができることとしては、後述する「ジョブ・クラフティング」などが効果的といえるでしょう。
一方、「仕事の資源」とは、上司や同僚からの支援や仕事量のコントロールなど、従業員個人の動機づけやパフォーマンス向上のために組織が行えることを指します。
ここでは、「仕事の資源」を充実させるために、企業ができることを具体的に2つ紹介しましょう。
雇用管理と人材育成への取り組み
ワーク・エンゲイジメントスコアが高い企業では、有給休暇の取得促進やコミュニケーションの促進、労働時間の短縮や働き方の柔軟化などに取り組んでいる傾向があります。
ほかにも、社員の成長やキャリアアップにつながる人材育成の取り組みもワーク・エンゲイジメントとの関連性が高いことが分かっています。ワーク・エンゲイジメントスコアが高い従業員が勤める企業では、管理職や人事担当者との定期的な面談の機会や、メンター制度、キャリアコンサルティングなどに取り組んでいる割合が高くなっています。
人手不足の解消
人手不足に陥っている企業ほどワーク・エンゲイジメントスコアが低い傾向にあります。そのため、十分な人員を確保したうえで従業員の業務負担を減らすことが求められるでしょう。
人件費の問題を抱えている企業や人材確保そのものが難しい企業では、業務フローの見直しや業務効率化に役立つツールなどを導入し、適切な業務量に改善する取り組みを行う必要があります。
ワーク・エンゲイジメントを高める3つのプログラム
ワーク・エンゲイジメントを高めるために企業が取り組める具体的な施策として、今回は3つの方法を紹介します。
CREWプログラム
「仕事の資源」を充実させるための具体的な方策のひとつとして、CREWプログラムがあります。これは一定のテーマに沿った対話(CREWセッション)を繰り返し、お互いのことを知るという手法です。アメリカの研究では、CREWプログラムによって、従業員の職務満足度の向上や、定着率の向上、顧客満足度の向上などが確認されています。
CREWプログラムは、以下の流れに沿って進めるのが良いとされています。
- 1. キックオフ
- 2. お互いを知る
- 3. 敬意・尊敬について考える
- 4. 今後の職場を考える
- 5. クロージング
「2. お互いを知る」「3. 敬意・尊敬について考える」「4. 今後の職場を考える」のパートごとにCREWセッションを実施したうえで、最後にクロージングとして振り返りを行います。パートごとの具体的なセッションテーマとしては、以下のような例があります。
2. お互いを知る
- 仕事をするうえで大切にしていること
- ストレス解消法
- 自身のキャリア目標 など
3. 敬意・尊敬について考える
- 相手に敬意を伝える方法
- チームで仕事をするうえで大切にしていること
- 尊敬するとはどんなことか? など
4. 今後の職場を考える
- 理想の職場とは?
- ストレスのない職場環境を実現するためには?
- 働きやすい職場とは? など
CREWセッションは、週1回15分や2週間に1回30分などと定め、3ヶ月以上継続することが望ましいとされています。セッションではお互いの意見に耳を傾け、決して批判しないことが重要です。また、テーマから話題が逸脱しないように注意することも必要です。
参照:CREWプログラム実施マニュアル|慶應義塾大学総合政策学科部 島津明人研究室
ジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングは「個人の資源」を充実させるために有効な方法のひとつです。
ジョブ・クラフティングとは、従業員個人がやりがいを持って働けるように、働き方を工夫する方法です。ジョブ・クラフティングを行っている従業員のほうが、仕事への活力が高いことや、心理的なストレスが低く、健康やパフォーマンスにも良い影響があることが研究によって分かっています。
厚生労働省が提案している方法としては、仕事で行き詰まった事例を用いながら研修およびワークを行い、自身の業務を振り返ってジョブ・クラフティングの計画をつくります。
具体的には「仕事のやり方への工夫」「周りの人への工夫」「考え方への工夫」について、自分ができることを考え、グループワークでも意見を共有しながらアイデアを出していきます。そのうえで、「いつ、どこで、何をするか」を考え、ジョブ・クラフティングの計画を立てます。
その後、2回目の研修時にジョブ・クラフティングの計画に対して実行した内容を振り返り、改善した計画を作成します。
参照:ジョブ・クラフティング研修プログラム実施マニュアル|慶應義塾大学総合政策学部 島津明人研究室
思いやり行動向上プログラム
思いやり行動向上プログラムとは、職場における「思いやり行動」を増やし、組織の雰囲気の改善や生産性の向上、人間関係の改善、離職率の低下をはかるためのプログラムです。良好な人間関係や風通しの良い組織風土は、ワーク・エンゲイジメントにも良い影響を与えることが期待できます。
プログラムでは、「グループワーク」とその後の「実践」を2回ずつ繰り返します。
1回目のグループワークでは、仕事において他の人から援助してもらいたいことを考えます。「他の人から援助してもらいたいこと=思いやり行動」であり、グループワークを終えた後で日常業務に戻り、2週間にわたって思いやり行動を実践します。
2回目のグループワークでは、これまで実践してきた内容を発表するとともに、グループ内で改善すべき点をディスカッションします。その後再び日常業務に戻り、2週間の思いやり行動を実践するという流れでプログラムを進行します。
参照:思いやり行動向上プログラム実施マニュアル|慶應義塾大学総合政策学部 島津明人研究室
ワーク・エンゲイジメントの重要性を知り働きやすい職場環境をつくる
企業としては「働きがいのある環境だ」と認識していても、実際に働く従業員との間にギャップが生じていることも多いものです。ワーク・エンゲイジメントを測定して数値化することで、改善すべきポイントが明確になるでしょう。
「やりがいのある仕事」や「働きやすい職場」を実現するためにはいくつかの方法がありますが、企業ができることとして、今回ご紹介した施策を取り入れてみることも有効です。
ワーク・エンゲイジメントを高めることで従業員のパフォーマンスが向上し、生産性のアップにも直結します。結果的に離職率を抑えることにもつながるため、自社の競争力を維持していくためにもワーク・エンゲイジメントの向上に積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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